「人種への先入観をなくしていきたい」イギリスを拠点に活動する女優・森尚子さんの目標
登場人物の“story”を理解したい
ヒマラヤ山脈の世界最高峰、エベレスト。1996年の春、標高8848メートルの山頂を目指す登頂ツアーに参加すべく世界各国から集まった登山家の中にただ一人、女性登山家がいた。実話をもとにした映画『エベレスト3D』で、その難波康子さんの役を演じたのが、女優・森尚子さんだ。
森さんは、12歳のときに父親の仕事の関係でロンドンへ。歌や演劇の面白さに目覚め、イギリスで役者になることを決意した彼女は、家族が帰国した後もロンドンに留まり、14歳から一人暮らしを始めた。現在は念願の役者として、イギリスを拠点に活動している。
役者の仕事は「登場人物の言動の背景にあるものを考え、理解していく過程が最も面白い」と森さんは話す。
「幼いころから引っ越しをするたびに、人間観察をしていました。相手と自分の共通点や違いを見つけ、その理由を考えることが好きだったんです。人には歴史があると言いますが、Historyという言葉は、His storyとも読めますよね。私は、そのstoryを理解したいという興味が人一倍強いのだと思います」
本物の登山家と同じ困難を味わって見えたこと
本作の撮影について「これ以上チャレンジングな仕事はなかった」と語る森さん。ネパールで2週間半、イタリア、アルプスで6週間、マイナス30度近い中で行われた撮影は過酷を極めた。森さんは「登山家が直面する困難と、ほとんど同じ経験を味わうことだった」と振り返る。
「標高4000m台まで行きました。自分の荷物を背負って何時間も歩き、撮影が終わったら、また数キロ先の現場まで歩く。最初は、紅一点だから女性らしくしなくっちゃ、なんて思っていたのですが、そんな余裕はすぐに吹き飛びました。トイレもないし、メイクも意味がない。乾燥と低温の中、肌質も変わってしまいました(笑)」
高地で低酸素状態の中で眠り、呼吸ができなくなって飛び起きたり、雪崩でセットが埋もれてしまったりしたこともあったという。
「エベレスト登頂ツアーの中に、女性は難波康子さん1人だけ。ツアーに参加するには700万円ものお金が必要で、しかも20年前の話ですから、登頂は今よりももっと困難だったはずです。そんなたくましい女性登山家のことを理解し、多くの人に伝えたい。山で生活をする中で、改めてその思いは強くなりました」
次のページ
仕事を選ぶときの大きなこだわり『Another Action Starter』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/work/anotheraction/をクリック