「続けなければ分からなかった」女優という仕事からもらった“ギフト”【今月のAnother Action Starter vol.8 女優・中嶋朋子さん】

another action starter
中嶋朋子

子どもが教えてくれた
人間関係の大切なこと

自分は大人としてふさわしい存在だと自認している人は世の中にどれくらいいるだろうか? 小さいころ見てきた大人たちと比べると、「まだ一人前ではない」「こんな自分が大人でいいの?」と思ってはいないだろうか?

幼いころから子役として大人たちの世界で活躍していた中嶋さんも、それなりの年齢になったとき、自分はまだまだ大人になれていないという思いを常に抱いていた。そんなときに子どもを授かり、「大人はおろか、親になるにはどうしたらいいんだろう?」と、これまで同様に「石橋を叩き始めた」という。

「でも実際に出産してみると、悩むことなんてなかったくらいシンプルでびっくりしました。生まれてきた子どもは、お腹が空いたら泣いてくれるし、疲れたら寝てくれる(笑)。つまり、意志を持って行動してくれるんですよね。小さくても家族の一員である個人として、意志や意見をきちんと表現するんです。それを見て、わたしはこの人に教えられることの方が多いんだと感じ、肩の力が抜けました。逆に、今までどれだけ自分を買いかぶっていたんだろうと反省したんです。自分が責任を負わなきゃと思うのって、ちょっとおごってますよね? 周囲の人を信用してないということなんですから。お互いに信頼し、託しあい、時には失敗しながら成長すればいい。子どもとの関係性もお仕事も、夫婦関係だって親子関係だって、『7~8割できてたらよし!』って考えに変われたのは育児経験のおかげかも」

大人だから、先輩だからといって気負う必要はない。子どもも大人も、誰もが意志や意見を持っている。お互いに意見のやりとりをしていくことによって、新しい感性を得たり、深いコミュニケーションができたりする。

だから中嶋さんは、後輩に背中を見られる年代になったからといって、スタンスを変えることはない。

「基本的には、まずは自分をちゃんと作ることだと思います。後輩につい言いたくなることがあったら、『自分は同じくらいのころできていたっけ? 自分の経験がそのまま彼女にあてはまるんだっけ?』と一旦考えるようにしています。そうすると、よく考えたらわたしもできていないことだったり、自分自身クリアしたてでまだ身に付いていないことだったりする場合が多いので。だから、まずは自分を磨くことにエネルギーを使いたい。でも、自分が経験したことで、これは良かった、お得だったというオススメ情報みないなものは、自分の体感としてずけずけとお話しちゃいますけれどね」

そう言って、柔らかな笑顔を見せた中嶋さん。自分が年上だからと気負いすぎず、周囲の人との関係性を丁寧に育む。そして何より、完璧主義から離れてみるというのは、全ての女性にとって参考になる姿勢なのではないだろうか。

今できることとやりたいことを大切に
真剣に向き合うのみ

中嶋朋子

そんな中嶋さんは、実は幼いころの方が「演じることが自分の職業」だと意識していたという。大人の中で何かを作り上げるとか、仕事を託されて責任を持ってやり遂げるといったことが子ども心に刺激的だった。

ところが、年を経るにつれてどんどん要求が難しくなっていき、女優という仕事は一筋縄ではいかないと感じるようになってくるにつれて、辞めたいと思うようになってきた。

「でも、母に『ちゃんと辞めたい理由を言えないのならダメ』と言われ続けていて。理由をうまく話せなくて、辞めさせてもらえなかったんです。なのに、20歳になったときにまた、辞めたいと言ったら、『自分で決める年齢になったのだから、どうぞ好きにしなさい』と言われてしまって。そうしたら反対に、辞めたくない理由ばかりが出てきてしまったんです。そこで初めて、自分の職業として、女優という道を自ら選んだんですよね」

これまでも、これからも、「今できることと今やりたいと思うことを真摯にやっていくしかない。そこからしか次は見えないし、課題も見えないから」と、中嶋さん。そして、ひとたび課題を見つけたら、それにまっすぐ取り組んでいきたいと話す。

「私の場合、課題の振り幅が大きいんです。たとえばイントネーションをもっと丁寧にしたいと思っても、アナウンスを習おうとは思わないんですよね。『いろいろなイントネーションを話す人がいる地域に行ってみようかな』とか、全然違った方向に好奇心の花が咲いちゃうんです。だから、それに身を任せていると忙しいんですよ! でも、アンテナは常に磨いて、自分が求めることとか足りないと感じることに敏感でいたいと思っています」

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