何歳になっても人生は楽しめる! Netflixドラマ『グレイス&フランキー』に学ぶ、人生100年時代のハッピー哲学
海外ドラマコラムニストの伊藤ハルカが、旬な海外ドラマ作品の中から、注目のパワーウーマンをご紹介! 強くて、知的で、お茶目で、美しい……個性的なキャラクターが続々と登場する海外ドラマから、女性の“働き方&生き方”を学んじゃおう!
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「人生100年時代」という言葉を、よく耳にするようになりました。
長い長い人生、自分の老後を考えると不安なこともあるけれど、「歳を重ねても人生を楽しみ続けたい」という女性はきっと多いはず。
そこで今回ご紹介したいのが、Netflixのコメディ-ドラマ『グレイス&フランキー』です。
ありそうでなかったアラウンド80(アラエイ)の女性二人による老後ストーリー。
熟年離婚、新しい恋愛、セックス、起業……アラエイの二人の人生は、穏やかな老後とは縁遠く、全然落ち着きません。
現代女性の人生は、生涯現役。 「何歳になっても人生は楽しめる」ことを、最高にクレイジーなアラエイの二人組が教えてくれます。
今月のオススメ作品:『グレイス&フランキー』(Netflix)
アラエイの元夫婦をメインキャストに、彼らの熟年離婚後の人生を笑いと皮肉たっぷりに描く本作。
メインキャラクターは、典型的な仮面夫婦である弁護士ロバートと、妻で起業家のグレイス。ロバートのビジネスパートナーである弁護士ソルと、ヒッピー気取りの妻フランキーです。
80歳目前のタイミングで、ロバートとソルは長年連れそった妻のグレイスとフランキーを前に、突然のカミングアウト。
それは、自分たちが「ゲイである」こと、「20年以上不倫関係にあり愛し合っている」こと、「残りの人生は嘘偽りなく愛する人と歩みたいので離婚したい」という衝撃的なものでした。
夫と余生を穏やかに過ごすはずが、人生終盤戦でのまさかのどんでん返し。
体裁ばかりを気にするプライドの高いグレイスと、人からどう思われるかなんてまるで気にしない、わが道を行くフランキーは、元夫たちから譲り受けたビーチハウスで仕方なく共同生活を送ることになります。
まるで違うタイプの二人の女性が、孤独や老いの悩みを共有しながら、ありのままの自分を受け入れ、人生を楽しもうと邁進する様子はとてもパワフル。
また、成り行きで一緒にビジネスを始めることになった二人が注目したのは、高齢女性の性生活。
「高齢者だって性生活を楽しんでいいじゃない!」と、長く握っていても関節が痛くならない女性用バイブを開発します。
老いに背を向けるのではなく、老いを受け入れ人生を謳歌する二人の姿を見ていると、自然と元気をもらえます。
また、70代に入ってからゲイであることをカミングアウトした二人の元夫、ロバートとソルの姿にも勇気付けられます。
ゲイだなんて口が裂けても言えなかった時代に生まれ育った二人。自分らしく、正直に、人を愛して生きていきたいという思いは、とても勇敢でピュアなものです。
『グレイス&フランキー』は、単なるアラエイの“老後の話”ではなく、若い世代にとっても自分ごとと言えるようなセクシュアリティー、ダイバーシティー、結婚観にジェンダー、フェミニズムまで、さまざまなテーマがバランスよく組み込まれた作品。
そして、「何歳になっても自分らしく生きる」ことの大切さを教えてくれる一作です。
今月のパワーウーマン【1】
グレイス(ジェーン・フォンダ)
セレブ妻の座に大人しくおさまらず、自分で会社を興して大成功をおさめたグレイスは、まさに典型的なパワーウーマン。
完璧主義で、それを他人にも強要してしまう、ちょっぴりパワハラ体質な女性です。
昔は有能な経営者でしたが、長女に会社を譲り、悠々自適なリタイアライフを送ろうと夢見ていました。でも、やはり経営に口を出さずにはいられない……。そんなグレイスに、娘はストレスを感じます。
向かうところ敵なしなグレイスでしたが、フランキーとの生活を通じて大きく変化した部分があります。唯一の弱点である「老いへの恐怖」を克服したのです。
関節が傷んでバイブレーターがうまく使えない、彼の自宅にあるトイレから立ち上がれない、年を重ねると、これまでのようにいかないことも出てきます。
離婚前のグレイスは、老いに対する恐れや悩みを周囲にひた隠しにしていたと思います。
それがフランキーと出会ったことで、自分の心境や経験をオープンに語り、自分と同じような状況にいる人たちの悩み解決する商品を積極的に開発するように。
プライドの高さと負けん気の強さは離婚前も後も変わりませんが、じわじわと迫る老いを敵対視するのではなく仲良くしていこうとする姿がとても印象的です。
だからといって人生を諦めるわけではありません。恋愛もセックスもビジネスも若い頃と変わらずチャレンジする姿に、希望をもらえます。
そんなグレイスを演じるのは、82歳の女優ジェーン・フォンダ。名優ヘンリー・フォンダの娘で、『コールガール』(1971年)と『帰郷』(1978年)で2度のアカデミー賞主演女優賞に輝くオスカー女優でもあります。
若い頃はモデルとして女性誌の表紙を飾り、美しい見た目から男性からセックスシンボルと拝められましたが、最近では、シワやしみなどひっくるめ、ありのままの自分をさらけ出すように。
2017年秋にUS版『タウン&カントリー』の表紙を画像修正なしで飾ったり、2018年1月には、下唇に絆創膏を貼った状態で、インタビューライブ配信『Build Series』に登場。
「本来ならあまりこういうことを言いたくないのだけれど」と前置きをした上で、悪性腫瘍の切除手術を受けたことを明らかにしました。エイジングを前向きに受け止める彼女の姿勢に賞賛が集まっています。
「女性はこうあるべき」「女優ならこうすべき」という考え方から開放されたジェーンは、今を心から楽しんでいるように見えます。
そんな彼女のはつらつとした演技は、作中のグレイスにも見事に投影されています。ありのままの自分を愛する人は、とても美しいものです。
今月のパワーウーマン【2】
フランキー(リリー・トムリン)
もう一人の主役フランキーは、人からの評価を全く気にしないヒッピー体質。思いついたことをキャンパスに描く画家で、不思議な瞑想や漢方を愛し、いつも思いつきで行動しては周りを困らせる自由人。
あまり先のことは考えず、今を楽しむ名人で、裏を返せば誰よりも愛情深く、お金やプライド、名声よりも、家族や友人を大切にする粋な女性でもあります。
実はこのフランキーこそ、新しいリーダー像を示してくれているのではないかと思います。
高齢者向けのバイブレーターを開発した際、商品名をツイートした人にバイブレーターをプレゼントという企画を勝手に実施し、何万人もがツイート。資金が追いつかず、会社倒産の危機に陥ります。
うまく言い逃れをして事を済まそうとするグレイスに対し、「高齢者向けなのだから、高齢者へ優先的に配布し、若い女性たちに対しては、彼女らが高齢者になるころに届く50年プランでいこう」とフランキーは提案。
突拍子もないアイデアにも思えますが、これが企業理念にぴったりはまるものでした。彼女の機転と、顧客に対する愛情深さが、理にかなった解決案を導き出したのです。
そんな新たなビジネスのプロ(?)であるフランキーを演じるのは、女優でコメディエンヌのリリー・トムリン。
2013年に40年来のパートナーである作家ジェーン・ワグナーと同性結婚をしています。
今でこそ、セクシュアリティーの自由が認められつつありますが、リリーとパートナーとの恋愛がスタートしたのは70年代。同性愛者だとカミングアウトすることがとても難しかった時代です。
リリーは、ジェーンとの関係を「母親のために自ら進んでカミングアウトしなかった」と、英テレグラフのインタビューで語っています。
だからといって、これまでリリーがストレートのふりをしていたかというと答えはノー。彼女は自ら進んで「同性愛者だ」と言わなかっただけで、ストレートと偽ったことはありませんでした。
コメディエンヌという職業柄、70年代や80年代のコメディショーでは、フォモフォビック(同性愛を差別的に取り上げる)なネタもあったそうですが、そういうものに対しては、自身は演じられない、出演できないとディレクターに伝えていたそうです。
今や、関係が長く続くレズビアンカップルの代表格でもあるリリー・トムリンとジェーン・ワグナー。愛情深く、家族やパートナーを大切にし、自分を偽らないリリーは、本作のフランキーととても似ているように思います。
ジェーン・フォンダとリリー・トムリンは、1980年に映画『9時から5時まで』で共演して以来、実生活でも40年来の親友。
ともに80代をパワフルに生きる同志として、互いを尊敬し合い、高め合っていることが『グレイス&フランキー』を見ていると伝わってきます。
ドラマでも実生活でも今を思い切り楽しむ女性二人は、現代を生きる女性にとっての新しいロールモデル。
まだまだ続く私たちの長い人生が、心掛け次第でチャレンジと楽しみで満たせることを証明してくれています。
作品情報:『グレイス&フランキー』
Netflixオリジナルシリーズ。シーズン1〜6を独占配信中
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