「案外、壁はなかった」4年の長期育休を取得した女性が“すんなり復職”できたワケ【サイボウズ 渡辺清美さん】

【特集】
「私らしい育休」って何だろう?

出産後も働き続ける女性は増えたけれど、育休後のキャリアには何となく不安がつきまとうもの。「育休期間をどう過ごすべき?」「復職後もやりたい仕事を続けるにはどうしたら…?」 本特集ではそんな疑問に答えていきます。

ここ数年の間に、2年以上の長期育休制度を設ける企業が増えている。その先駆けとなったのが、ソフトウェア開発事業を手掛けるサイボウズ株式会社だ。

「100人100通りの働き方」を提唱する同社では、「最長6年の育児・介護休暇制度」を導入している。

しかし、長期で育休を取れる制度があったとしても、実際に数年職場を離れることになれば、不安を感じる人は多いはずだ。

「周囲に置いていかれるのではないか」「復帰後に感覚を取り戻せるのか」……そんな心配事が頭を過ぎる。

サイボウズの社長室で働く渡辺清美さんは、第一子誕生時、同社最長の4年の育休を取得した。

復帰後はシングルマザーやステップファミリーと家族の形を変えながら、仕事と子育ての両立に奮闘しつつ、イキイキと働き続けている。

「長期の育休は、自分のキャリアにもいい影響を与えてくれた」と穏やかに微笑む彼女に、その理由を聞いた。

渡辺清美

渡辺清美さん

PR企業を経て2001年、サイボウズ株式会社に入社。マーケティング部で広告宣伝、営業部で顧客対応、経営管理部門で広報IRを担当後、06年8月から4年8カ月の産・育休を取得。11年4月に社長室コーポレートコミュニケーションに復職。現在は社長室で非営利団体との協働やIT活用支援、虐待防止プロジェクトを担当する。一児の母

長期育休中の“出会い”から多くを学んだ

――渡辺さんは4年の育休を取得していますよね。長期の育休を取得した理由は何だったのでしょうか?

実は、最初からここまで長期の育休を取得しようと考えていたわけではありませんでした。

サイボウズには最長6年間育休を取得できる制度があるのですが、この制度ができたのも、私が出産する直前のタイミングでした。

妊娠中に人事制度についてヒアリングされたとき、当時の1年という規定より長くてもいいのではないかということは伝えていましたが。

1年で復職するつもりで、保育園も申し込んでいました。

――保育園探しで何かあったのですか?

第2希望で預け入れが決まった保育園もあったのですが、見学したところ、その保育園に子どもを預けたいとは思えなかったんですね。環境面に不安を感じまして。

また、年の離れた弟の世話をしていたこともあってか学生のころから子どもが好きで、自分にとって子どもといられる時間は貴重でした。

悩みましたが、6年間育休が取れるということもあり、もっと保育園を必要としているご家庭に、枠を譲ろうと決めたんです。

――育休中はどのようなことをしていましたか?

渡辺清美

子どもやママ友と公園や児童館、子育て広場や博物館、ショッピングモールに出掛けていました。

保育士の勉強をしたり、子どもと英語の幼児教室に通ったりもしていました。

子どもが幼稚園に入ってからはママ友とエクササイズサークルをつくって、ミュージカル女優をしていたママ友にヨガやバレエ、ピラティス、フラダンスやジャズダンスを教わっていました。

子どもはもちろんですが、さまざまな国出身の方や近隣の多年代の方々とも交流していましたね。

――育休をただの“ブランク”だと感じてしまう人も多いと思います。渡辺さんは育休中の経験が仕事に生かされていると思うことはありますか?

はい。多様な人たちと交流できたことは、当社のオウンドメディア『サイボウズ式』でのワークスタイル関連の企画や、非営利団体との協働に生かされていると思います。

職場との関わりで復職の不安を解消

――たった1年でも会社の環境は大きく変わりますよね。4年となればなおさらですが、渡辺さんは復帰前に不安は感じませんでしたか?

不安というよりは、戻れるだけありがたいという気持ちでした。

育休に入ったころは離職率が高い時期で、4年たつと以前の上司や同僚はかなり辞めていたんです。

知らない人ばかりになっているだろうから、まっさらな気持ちでやり直そうと思っていました。

渡辺清美

育休中は、会社のHPでプレスリリースをチェックしたり、IRのメルマガをみたり、友人と近況交換をしたり、育休中の人たちとグループウェアで交流したりもしていました。

会社の人事の方が訪ねてきてくれたこともあります。

少しずつですが、関わりがあったのも不安にならなかった要因かもしれませんね。

――実際に復帰してみて、何か壁を感じたことはありましたか?

壁というほど困ったことはありませんでした。

私の場合、育休前にはなく、あったらいいなと思っていた社長室に復帰できました。

ちょうど、かつて私が広報の仕事を引き継いだ人が転職するタイミングだったんです。

一人でやっていた仕事が3人のチーム体制になっていましたし、以前はできなかった職場のグループウェアへのリモートアクセスや在宅勤務もできるようになっていました。

働きやすい会社に変化していて、ありがたかったですね。

新たに企業向けのクラウドサービスが立ち上がる直前の時期で、事業の変化にもワクワクしました。

――自分が職場から離れている間に会社の環境が変わることは、何も悪いことばかりではないと。

そう思います。自分がいない間に会社が変わってしまうのは怖いな……って感じ方もいるかと思うんですが、良い変化もたくさんありましたね。

育休の“当たり前”は時代とともに変わるもの

――最近は、「育休」についてメディアでもさまざまな議論がなされていますよね。

ええ。これまでの「当たり前」に縛られず、いろいろなカタチで子育ても仕事も楽しめる人が増えるといいなと思っています。

――サイボウズの青野社長は、男性で育休を取得した経営者の先駆けでしたね。

渡辺清美

そうなんです。自分が育休から復帰したのは、社長が第1子の育休取得をした直後でした。

社長が「育児は仕事より大事」というメッセージを社会に発信してくれるようになり、とてもありがたかったです。

社長と共に男性の育休やワークライフバランスについて発信できることにやりがいを感じていました。

――女性も男性も、これから育休を取得する人はさらに増えていきますよね。良い育休期間を過ごすために、大事だと思うことは?

子育てを安心して楽しめるような環境づくりが大事だと思います。

不安や焦りがある中で無理を重ねているのは大変です。

産後は心身の激変期でうつになる方もいますので、なるべく親子が孤立してしまわないよう、周囲がケアできるとよいのではないでしょうか。

取材・文/スギモトアイ 撮影・編集/栗原千明(編集部)