「女なんだから、頑張って働かなくていいんだよ」という言葉にモヤる、20代営業職女性の葛藤
長く仕事は続けていきたい。でも、どんな仕事が自分に合っているのか、そもそもどんな人生を送りたいのか、自分のありたい姿が明確にならない女性も多いはず――。そこでこの連載では、さまざまな人生経験を積んできた『Mentor For』のメンターたちが、豊かなキャリアを描いていくためのヒントを後輩女性に向けて送ります
こんにちは。今回この連載の執筆を担当します、『Mentor For』公式メンターの田中彩です。「女性が自分らしくキャリアを重ねられる社会を創りたい」と起業して、8年目を迎えます。
自分自身がキャリアの壁にぶつかった時、相談できる人がいたら、と幾度も感じたことがあったので、今こうして社外メンターとしての活動もしています。
2万人を超える女性たちの声を聴いてきた立場から、そして働き方にもがいてきた経験者として、読者の皆さんのご相談に答えたいと思います。
先輩に聞きたい!今回の相談内容
両親や、今付き合っている彼氏から『女の子なんだから、そんなに頑張って働かなくていいのに』とよく言われます。
私は仕事が好きだし、結婚・出産してもやりがいのある仕事は続けたいのですが、周りからそう言われると、『そうなのかな』という気もしてきます。
でもやっぱり、『女の子なんだから、頑張らなくていい』といわれる度にモヤモヤしてしまうのです……。
Aさんの「仕事が好きで続けたい」というお気持ち。今の充実ぶりが伝わってきます。
そんな中で、掛けられる「女の子なんだから、頑張らなくていい」という言葉。これから先を見据えたときに、そうなのかも……とゆれ動いてしまう気持ちも、とてもよく分かります。
では、Aさんが抱えているモヤモヤする気持ちをどう整理すればいいのか。私からご紹介したいのは、「二つの視点」を持ち、ちょっと立ち止まって考えてみることです。
言葉の「真意」を考えてみる
一つ目の視点は、「頑張らなくていい」という言葉を、周囲がどんな想いで掛けてくれているか、考えてみることです。
私も、実母やパートナーから幾度となく掛けられたのが「頑張り過ぎないで」という言葉でした。最初は文字通り、「頑張ったら良くないのかなぁ」と思っていたのですが、ある時ふと気付いたんです。この言葉に込められているのは、「私に笑顔になってほしい」ということなんだと。
それまでは、「頑張り過ぎるな」と言われる度に、Aさん同様モヤモヤしていました。
「頑張り過ぎるな」と何度も言われ、「何でこんなに頑張っているのに、ダメ出しをするの?」と怒りに任せて言い返してしまったこともあります。
すると、返ってきたのは「あなたが無理を続けて、倒れるのを見たくない」との言葉。確かに、「頑張り過ぎるな」と言われるのは、「企画作りで深夜業務が続いた後」や「営業交渉で、思ったような成果が得られず、落ち込んでいる時」でした。
「頑張ってほしくない」のではなく、「あなたに健康で笑顔でいてほしい」というのが、「頑張り過ぎるな」という言葉だった。この時、ようやくその真意に気付けたのです。
私は、20代後半は本当に働き詰めで、仕事をして成果を出そうともがいていました。そんな時は、時間もエネルギーも120%全力疾走。確かに成果は出るんですが、ずっと続けていると体は限界を迎えます。強いストレスを与え過ぎると、心身の健康は損なわれていくのです。
だからこそ、周りの人から「頑張り過ぎないで」という言葉を掛けられたときは要注意。もしかすると心身に負荷を掛け過ぎているかもしれないので、仕事の進め方や働き方などを少し見直してみるのも大事です。
また、無理なく働き続けられる仕事の仕方をこのタイミングで覚えておくと、出産などでライフステージが変わった後にも応用できます。
子育て中は家庭内での仕事が増えるので、独身時代と同じ働き方を続けていくのは困難です。業務の無駄を省いていく、助け合える関係を部署でつくっていく、あるいは自分の仕事の進め方を変える、など、さまざまな形で「無理な働き方」を変革していきましょう。
ジェンダーバイアスを自覚してみる
二つ目の視点は、ジェンダーバイアスの観点です。
ジェンダーバイアスとは、男女の役割について固定的な観念を持つこと。つまり、無意識のうちに「女はこうあるべき」「男はこうあるべき」という偏見で物事を判断したり、行動をしてしまうことです。「女の子なんだから、頑張って働かなくていい」という言葉も、その一つかもしれません。
かくいう私も、まだまだそんなバイアスを持っている、ということも自白します。
女性だから「子育ては私が責任を持つべき」「仕事で忙しい夫に、子どもの看病で仕事を休んでもらうのは無理」。そんな自分の偏見のために、誰にも頼らずに子育てと仕事を両立させようとして心身のバランスを崩し、寝たきりになってしまったことがあります。
ただ、ジェンダーバイアスを完全に取り払うことは、誰にとっても難しいこと。最初の一歩として大事なのは、「自分も偏見を持っているかもしれない」と自覚することです。その上で、「私はどうありたいのか?」を考え、言葉にしてみてください。
例えば、「女の子なんだから」と家族や彼氏に言われるまま、仕事を頑張ることをやめてしまったとします。「仕事はそこそこでいいや」と割り切ったまま、5年、10年と働き続けている自分を想像してみて、いかがですか?
例えば、結婚・出産で仕事を辞めて専業主婦になるケースについて一緒に想像してみましょう。
子どもが小学生になった時にパートタイマーで復職した場合と、ずっと正社員を続けていく場合とでは、生涯年収の差は約2億円だと言われています。必然的に、自分が専業主婦になった場合、生活レベルは下がってしまうでしょう。
さらに、子育てがひと段落して職場復帰しようとした場合、再就職はできてもリーダー職などを目指せる機会は限定されています。実際、私自身も専業主婦からの再就職を経験していますが、「こんなにも壁があるのか」と愕然とした記憶があります。
また、自分にとって「難易度の低い仕事」をすることを選択したケースについても想像してみましょう。
一時的にはストレスが減り、心に余裕が生まれて、仕事と家庭の両立もうまくいくようになるかもしれません。ですが、多くの場合は「やりがい」を感じられず、仕事への意欲が低下してしまうと思います。成長実感を持ちづらいことも、ゆくゆく課題になってくるでしょう。
どうでしたか? 思い描いた未来の自分は、幸せそうですか? 満足していそうですか? さまざまな仮説を立てると、「こんな10年後は嫌だな。私が本当に目指したいのは〇〇な状態だ」ということが見えてくると思います。もし、ありたい姿がどんなものか分からなければ、職場の先輩や社外メンターなどに相談してみるのも一つの手です。
なりたい自分を思い描き、その上で、他者から向けられる「女の子なんだから」という言葉に、自分なりに向き合ってみてください。
上記で触れたように、あなたの健康を気遣っての言葉という場合もあるので、頭ごなしに反発する必要はないと思います。ただそれが、自分がありたい姿に近づいていくのを阻むような言葉なのだとすれば、安易に流されてしまうのは禁物です。
日々、仕事で忙しいと思いますが、広がっているテレワークスタイルで、夜にオンライン飲み会等交流の場は広がっているようにも感じています。外出ができない週末を使って、家族や彼氏と「本当の気持ち」を確認したり、先輩たちにキャリアの体験談をシェアしてもらったり。
「頑張らなくて良いのかな」というAさんの気持ちが二つの視点で整理され、本当にありたい姿に向けて、一歩進む春となりますよう、願っています。
『後輩たちへ』の過去記事一覧はこちら
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