27 MAY/2020

理不尽に負けない「強い心」を育てるには?『鬼滅の刃』に学ぶ、女性が幸せに働き続けるための知恵

大ヒットマンガ『鬼滅の刃』(集英社)が、『週刊少年ジャンプ』24号で205話をもって完結。2020年5月13日に発売されたコミック20巻はシリーズ累計6000万部を突破し、この後に発売される21~23巻まで、すでに予約が殺到しているという。

今秋には煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)が登場する映画の公開も予定されており、「鬼滅現象」はまだまだ続いていきそうだ。

そこで今回は、前回の記事に引き続き、キャリア心理学者の井島由佳さんに、『鬼滅の刃』に学ぶ「女性がこれからの時代を幸せに働き、強く生き抜くためのヒント」を聞いた。

井島由佳

大東文化大学社会学部助教
井島由佳さん

大東文化大学社会学部社会学科助教。心理・キャリアカウンセラー。1970年東京生まれ。東京家政大学大学院家政学研究科人間生活学専攻修了。博士(学術)。専門は教育心理学、キャリア心理学。CDA、産業カウンセラー。ライフキャリアと漫画に関する研究を行う。キャリアデザイン、チームビルディング、メンタルヘルスなどの専門家。自治体や企業等で研修講師を務める。学校教育において、キャリアデザインに関するテキスト作成と教員研修、キャリアカウンセラー養成講座を長年担当。大学のキャリアセンター長として、学生の就職支援も行う。また、キャリアデザイン授業のプログラムも開発している。漫画を使った講義・研修・セミナーが人気。最新著に 『「鬼滅の刃」流強い自分のつくり方』(アスコム)

優しさと感謝の心で物事を好転させる、『鬼滅の刃』キャラのすごさ

前回の記事でもご紹介した通り、Woman typeの読者層である20代、30代女性の中にも『鬼滅の刃』のファンは多いと思います。

>>社会現象を起こす『鬼滅の刃』の魅力を徹底解説!「コロナ禍にこそ、働く女性に読んでほしい」とキャリア心理学者が推す理由

ですので、改めてこの作品の魅力をお伝えするのは野暮かもしれませんが、個人的に「鬼滅の魅力」だと思うのは、何と言っても話のスピード感と、分かりやすい物語の設定。そして、個性豊かなキャラクターとドラマです。

また、私たちの人生、キャリアにも非常に役立つ学びをたくさん与えてくれるところもその魅力の一つ。そこに注目し、今回『「鬼滅の刃」流 強い自分のつくり方』(アスコム)を執筆しました。

鬼滅ファンの方から見れば、この本に書かれていることは、『鬼滅の刃』の魅力の一部でしかないかもしれません。しかし、その一部でも「鬼滅愛」を込めて、役立つ姿勢を一冊にまとめたつもりです。

この本について、働く女性にぜひ読んでもらいたい箇所はたくさんあるのですが、この記事では「チームで仕事をする上で大切なこと」をテーマに、鬼滅の事例をご紹介したいと思います。

チームワークを高めながら働いていくためには、チームのメンバー同士のコミュニケーションが欠かせませんよね。コミュニケーションを円滑にし、自分の考えを相手に理解してもらう上で大切なことはいろいろとありますが、ここでは「優しさ」と「感謝」の気持ちを持ち続けることをおすすめしたいと思います。

なぜならそれが、あなた自身をより魅力的な人へ、他者から一目置かれる存在へと変え、事態を好転させるようになるからです。

例えば、『鬼滅の刃』に登場するキャラクターで“優しさナンバーワン”は、炭治郎でしょう。また、他のキャラクターも表現は違いますが「愛他性(※)」の高さを示しています。(※)他人の幸福・利益を第一とする考え方や姿勢

嫌いな人にも優しく対応し、感謝できる部分を見つけていく――。まずは自分自身が人を許し、愛する強さを持つことで、物事が好転していくことを『鬼滅の刃』のキャラクターたちは教えてくれます。

心理学的にも、他者のために行動をとる優しさの行為は向社会性の高さを示しており、あわせて感謝の心を持つことは「well being(より良く生きる)」やモチベーションを上げることに効果があるという結果が示されています。「優しさ」と「感謝」は、これからの時代を幸せに働き続けるため、すべての人に欠かせないものですね。

『鬼滅の刃』の珠玉の名台詞に学ぶ、「強く生きる」ためのヒント

また、『鬼滅の刃』には、心に刻まれる“珠玉の台詞”が散りばめられています。中でも、この台詞は有名で、私たちの心を奮い立たせてくれます。

「頑張れ 炭治郎 頑張れ!! 俺は今までよくやってきた!! 俺はできる奴だ!! そして今日も!! これからも!! 折れていても!! 俺が挫けることは絶対に無い!!」(3巻 第24話「元十二鬼月」より)

つらいときや、理不尽なことに遭遇したとき、心を強く持ち続けるには、自分に言い聞かせることも大切。これまでやってきた自分の行動を信じることは、自己効力感(自分の能力を信じる力)を高めることにつながります。

大変なときこそ、これまでの自分を認めて誇りを持ち、自分に「できる」と言い聞かせることで、窮地を脱していけることがあります。

次いで、恋柱の甘露寺蜜璃(かんろじみつり)の潔さと覚悟の言葉を紹介します。

「みんな ありがとお~~~!! 柱なのにヘマしちゃってごめんねぇぇ 仲間は絶対死なせないから 鬼殺隊は 私の大切な居場所なんだから 上弦だろうが何だろうが関係ないわよ 私悪い奴には絶対負けない 覚悟しないさいよ 本気出すから」 (14巻 第123話「甘露寺蜜璃の走馬灯」より)

可愛らしい言い方ですが、このセリフを読み解くと、部下をきちんと認めていること、自分の過ちを自覚し謝罪していること、自分の立場と状況を理解し、覚悟を言い聞かせていることが分かります。

先輩や上司になると自分のミスを認められなかったり、見栄を張ったりしてしまうことがありますが、それよりも素直に謝り、自分の考えを打ち明けて成すべきことに取り組む方が潔く、好感度もアップします。

炭治郎も蜜璃も、心底「強い人」です。肉体的に屈強というだけではなく、心が強いのです。彼らに学ぶ“強く生きる”ヒントとは何か。それは、自分の力を信じ、自らに言い聞かせ、素直に人を認め、自分の能力を出せる場を見失わずに発揮しようとする姿勢とも言えるでしょう。

「鬼滅」をさらに堪能するための+α

鬼滅ファンの方は、マンガもアニメもすでに十分堪能していることと思います。もし、+αの見方をしていただけるようでしたら、私からは三つオススメしたいと思います。

【1】原作とアニメを見比べてみる

この見方は、既にやっている方も多いかもしれませんね。アニメ『鬼滅の刃』は、原作の7巻第54話のはじめのあたりで終わっています。比較的、原作に忠実なつくりだと思うのですが、アニメオリジナルのシーンも数々存在しています。

原作には、ほんの一コマしかないものが膨らんで描かれていたり、原作にはないけれど、意を汲んだ形で映像化していたりする部分がいろいろとあるのです。これらの違いを比べてみると、より『鬼滅の刃』の魅力をディープに楽しむことができると思います。

【2】鬼から学べることを考える

著書にも記したのですが、鬼舞辻無惨をはじめ、鬼たちには人生の反面教師にできる部分がたくさんあります。人間であったときの過去シーンから、鬼となるまでに何をきっかけとしたのか。それは、自分には当てはまらないだろうか……? そう考えてみると、意外と自分にも鬼になる要素があることに気付きます。

「一線を越えてしまえば、自分も鬼側かも」そんなことを考えながら、作品を読み直してみるのも面白いと思います。

【3】単行本23巻(最終話)まで読み切る

鬼滅ファンにとっては当然かもしれませんが、『鬼滅の刃』を最近読み始めたという方にはぜひ最後まで読み切ってほしいなと思います。

人気絶好調の中、『週刊少年ジャンプ』での連載は最終回を迎えました。単行本で最後の205話までが刊行されるのは、今年の12月頃の予定です。まだ、3巻あります。

この3巻は、「上弦の鬼との戦い」、「無惨との戦い」で多くの命が失われながらも、炭治郎たちが目標を達成するまでと、達成した後のことが描かれていきます。鬼殺隊や鬼が私たちに教えてくれることも多いので、ぜひ最後まで見届けてください。

書籍情報

『「鬼滅の刃」流 強い自分のつくり方』(アスコム
井島由佳
発売日:2020年4月17日