08 JUN/2020

女優・志田未来「仕事との距離感は今が一番ちょうどいい」仕事一色の日々を乗り越え気付いた、自分らしい挑戦のカタチ

今、社会が、時代が激しく変わろうとしている。変わることって、すごく難しい。変わることって、すごく勇気がいる。でも自分から変わることで、今まで知らなかった新しい自分に出会えることだって、きっとある。

女優の志田未来さんも変化を選ぶことで、新しい成長を掴んできた。

志田未来

志田未来(しだ・みらい)

1993年5月10日生まれ、神奈川県出身。2005年、『女王の教室』(日本テレビ系)で一躍注目を集め、06年、『14歳の母』(日本テレビ系)で13歳にして連続ドラマ初主演を務める。以降、ドラマ『正義の味方』(日本テレビ系)、『小公女セイラ』(TBS系)、映画『誰も守ってくれない』など数多くの作品に出演。『借りぐらしのアリエッティ』で声優業にも進出し、18年にはアニメ『僕のヒーローアカデミア』でメリッサ役のCVを務めた。現在放送中の『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)に加え、6月29日20時~放送のドラマスペシャル 堂場瞬一サスペンス『ラストライン 刑事 岩倉剛』(テレビ東京系)、映画『#ハンド全力』が公開を予定している

新しいことに挑戦するのは苦手。でも、チャレンジをやめない理由

「私自身、新しいことに挑戦するのはあんまり得意ではないんです」

そう少し恥ずかしそうに笑う志田さん。それでもチャレンジすることを選ぶのは、ずっと同じことを繰り返していたら成長できない、と知っているから。

「私のお仕事で言えば、同じような役柄が続いてしまったときは、自分ってこういうイメージに偏っているのかなと危機感を抱くこともあります。そんなときこそ、今までやったことのないような役、自分のイメージとは違う役に挑戦してみたくなるんです」

この世界に入ったのは6歳のとき。27歳にして21年の芸歴を誇る志田さんの役者人生で一番のチャレンジと言えば、2015年、初めて舞台に挑戦したことだった。

「それまでずっと映像でのお芝居しかしたことがなくて。周りの役者さんから『舞台をやっておいた方がいいよ』と言われていたんですけど、正直に言うと怖いという気持ちがあって、なかなか挑戦する勇気が持てませんでした」

志田未来

そんな志田さんが一歩踏み出そうと思ったのは、成長に対する渇望があったからだ。

「当時はちょうど、周りの同級生も就職活動をして新しい世界に行こうとしている時期で。なのに、私はずっと安全なところにいて成長していないなという気持ちがあった。そんな自分を変えるためにも新しい挑戦をしてみたかったんです。

それに、もし失敗したとしても『若ければ何度でもやり直せるから』と知人が言ってくれて。それもそうだなと思って、やってみようと決意しました」

同じお芝居といっても、映像と舞台では方法論がまるで違う。稽古では発声から鍛え直す日々が続いた。

「あの頃はすごく辛くて、毎日が試練だと感じていました(笑)。自分は舞台に向いていないなと思うことも何度もありました」

そんな逆風の時を乗り越えられたのは、こんなふうにマインドを切り替えられたからだ。

「どんなに辛いことでも『始まれば終わりが来る!』と自分に言い聞かせるようにしました。終わりが来ると思えば、なんとか乗り越えられる。

それに、わざわざ時間をつくって舞台を観に来てくださる方たちのことを考えたら、とにかく1回1回の公演を大切にしなきゃって。気持ちが負けそうになった時も、そのことだけを考えて過ごしていました」

苦手だった新しいことへのAnother Action。あえて未知の場所に飛び込んだことで得たものが、今でも志田さんを支えている。

「少しは自信がついたのかなと思います。それまではずっとドラマや映画の撮影でも、撮り直しができると分かっているのに、失敗したらどうしようって毎回緊張していました。

でも、やり直しのきかない生の舞台を乗り越えたことで、ちょっとやそっとのことは大丈夫って、気持ちに余裕ができました」

『ニャア』の一言で気持ちを伝える。それが、今回の新しい挑戦

泣きたい私は猫をかぶる

そして今、志田さんはまた一つAnother Actionを終えたところ。それが、このたび『Netfilx』での独占配信が決まったアニメーション映画『泣きたい私は猫をかぶる』だ。

本作で志田さんは猫に変身できる不思議な面を手に入れた中学2年生の女の子・笹木美代――通称「ムゲ」を演じている。これまで声優業は何度か経験してきたが、今回はまた今までにないチャレンジがあったそう。

「ムゲが変身する猫の太郎の声も私があてているのですが、『ニャア』という言葉だけで感情を表現するのが難しくて。

普段のお芝居のように表情も使えない中、『ニャア』という鳴き声だけで今何を思っているのかを観ている人に伝えるためには、声の高低とか強弱とか、そういった細かいことにもいつも以上に気を付けなきゃいけない。

収録の前に自宅で自分の声を録音したり、何度も練習をしました」

しかも今回は、ムゲのクラスメイトである日之出賢人のCVを声優の花江夏樹さんが務めている。自他共に認めるアニメファンの志田さんにとって、花江さんとアフレコを共にすることは大きな刺激になった。

「私は走るシーンを演じるときは実際に自分で手を振ってみたりしないと、それらしい声が出ないんですけど、花江さんは台本を持ってその場に立って台詞を言うだけで、本当に走っているような声や息遣いができるんです。

これが本物のプロフェッショナルなんだって思わず感動してしまって。すごいものを見させていただいた、という気持ちでした」

本作は、劇場用として公開される予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の防止を目的に映画館での上映を取りやめ、2020年6月18日によりNetflixにて全世界独占配信することが決定した。

未曾有の事態を受けての緊急措置だが、こうした異例の判断も志田さんは前向きに捉えている。

「すごく素敵な判断をしていただけたと思いました。やっぱり映画って観てくださる方がいて完成するものだから。私自身、普段家でよく動画配信サービスを利用するので、ぜひ皆さんにもおうちで『泣きたい私は猫をかぶる』を楽しんでほしいです」

27歳、今が一番「仕事との距離感」がちょうどいい

志田未来

実はこのインタビューもオンラインで行われた。芸歴21年の志田さんでも、オンラインでのリモート取材は新しい体験。画面の向こうの志田さんは、いつもよりもリラックスした表情に見えた。

「面白いですよね。何だか取材っていう感覚があんまりなくて。友達とおしゃべりしているみたいだなって思いました。変わることって難しいし、緊張するけど、新しいことをやってみるのって意外と新鮮で楽しいものなんだなって、こうやって取材を受けてみて感じました」

時代は否が応でも変わっていく。その中で、いつまでも昔のやり方にしがみついているわけにもいかない。

ぎゅっと手のひらの中で握りしめていたものを離し、まだ立ったことのない場所へ柔らかく足を踏み入れてみることで、何かが変わる。今、私たちは誰もがその局面を迎えているのだ。

「私自身、今年で27歳になり、仕事との距離感は今が一番自分に合っているのかなと思います。お仕事もすごく好きなんですけど、自分の時間も大切にしたいなと思っているので。

ここ数年はこうやってお仕事をする時間もあれば、お休みの時間も適度にあって、すごくいいペースだなと感じているんです」

がむしゃらに働いていたフェーズを超え、今の志田さんはワークとライフの最適なバランスを探る時期に。仕事一色だった日々を乗り越えたことで、働くことに対する気持ちに変化も生まれたのだとか。

「お仕事に対して感謝の気持ちが強くなったと思います。学生の頃は毎日現場に行くのが当たり前で、あまり仕事について深く考える余裕もなく、どこか『こなさなきゃいけない作業』になっていた時期が正直ありました。

今は一つ一つの作品にちゃんと向き合えているし、共演者の方やスタッフの方としっかりコミュニケーションを取る時間も持てるようになりました。それは、私にとってすごくうれしい変化なんです」

そうやって人は変わり続けていく。決して挑戦が好きではない志田さんも、withコロナと言われるこの時代でまた新しいワークスタイルを模索していく。

「今は何もかもが変わり始めている時期。だからこそ、私自身、これはこうだからって自分で決め込んでしまうところがあるので、まずはそういう頭の固さを捨てなきゃなって。

世の中にはもっといろんなやり方があって、いろんな人がいて、いろんなかたちがあることを知っていかなきゃいけないし、それに柔軟に対応していかなくちゃいけないなって思います」

リモートワークにオンライン会議、仕事を取り巻く環境は劇的に変化している。その中で、どれだけ私たちも変わっていけるか。このピンチこそが、新しい自分に変われるチャンスなのかもしれない。

最後にこれからやりたい役を尋ねると、「子どものいるお母さんの役をやってみたいです」と控えめに微笑んでくれた志田さん。

きっと近いうちに、また新しい志田未来のイメージを更新してくれそうだ。

取材・文/横川良明 

作品情報

泣きたい私は猫をかぶる

映画『泣きたい私は猫をかぶる
2020年6月18日(木)よりNetflix全世界独占配信

出演:志田未来、花江夏樹、寿美菜子、小野賢章、千葉進歩、川澄綾子、大原さやか、浪川大輔、小木博明、山寺宏一
監督:佐藤順一、柴山智隆
脚本:岡田麿里
制作:スタジオコロリド
企画:ツインエンジン

© 2020 「泣きたい私は猫をかぶる」製作委員会