蒼井優・タナダユキと考える、身近な人と“いい関係”を続ける秘訣「30代は自然体で。周りを萎縮させちゃダメ」
身近な人を大切にする――。言葉にすると簡単だけど、それって意外と難しい。
時間が経つにつれて愛情が目減りしたり、相手が家族なら近くにいることが当たり前過ぎて雑な扱い方をしてしまったり。
でも、令和の時代を健やかに生きる上で「身近な人を大切にする」というのは、欠かせないキーワードの一つだと思う。
1月24日(金)公開の映画『ロマンスドール』もそんな身近な人との関係性の移り変わりを丁寧に掬い取った作品だ。
まるでパズルのピーズがはまったみたいに恋におち、ずっと一緒にいたいと願って結婚した一組の夫婦。けれど、季節が移ろうごとに、嘘と秘密を抱えながら、少しずつ二人の間に距離が生まれていく。
夫婦、恋人、友人、家族、同僚。それぞれ名前は違うけれど、人と人が長くいい関係を築いていくのはとても難しい。では、私たちは一体どうすれば?
身近な人たちと“良い関係”を続けていくために大切なことは何か、『ロマンスドール』で高橋一生演じる主人公・哲雄の妻・園子役を演じた蒼井優さんと、本作の原作者であり脚本・監督を務めたタナダユキさんに聞いてみた。
夫婦という「不思議な関係」を描きたかった
――そもそも今回、「夫婦」という題材を取り上げようと思ったのは、どういう理由があったのでしょう?
タナダユキ(以下、タナダ):ずっと夫婦というものに興味があったんです。夫婦って家族ではあるけれど、血のつながりはないし、あくまで他人同士じゃないですか。
違った環境で生まれ育った二人の人間が生涯をともに生きていくって、どれほどの幸せと困難があるんだろう、と。
その疑問に向き合ってみるためにも、夫婦を描いてみたかったんです。
蒼井優(以下、蒼井):そうだったんですね。
タナダ:私、親と子は子どもが成長したら離れた方が良いと思っているんです。それは、血がつながっているから。
逆に、夫婦は他人だからこそ、一緒に居続ける努力をした方がいいとも思う。もちろん努力する価値はないなと思ったら「解散しましょう」でいいですけどね(笑)
タナダ:でも、家族になったらつい相手を枠にはめてしまうんですよね。
「夫なんだから、妻なんだから、こうあるべき」とか「母親なんだから、父親なんだからこうすべき」とか。
他人が家族になり、相手を枠にはめこんだ結果、歪んでいく何かを描けたらという想いがありました。
――蒼井さんは映画をご覧になって、夫婦の関係についてどう思いました?
蒼井:この作品で私と高橋一生さんが演じた夫婦は、あくまでその二人の事例でしかなくて。
夫婦には、夫婦の数だけ形があって、それぞれ全部違うんだということを再認識しましたね。
タナダ:私もこれは一つの形でしかないと思う。
蒼井:私が演じた園子は夫に大きな隠し事をするんですけど、いつも一緒に暮らしている相手に秘密を抱えるなんて、自分だったら絶対にできないな……。
「今、あなたに隠していることがあります。なーんだ!?」って言ってクイズとか出しちゃうかも(笑)
タナダ:自分からバラしにいくんだ(笑)
蒼井:そう。「今、落ち込んでます。さぁ、理由は何でしょうか?」なんて言って、自分から気付いてもらえるように聞いちゃったりするんですよね。
本当に大切にすべき人は誰か。優先順位を間違えてはいけない
――映画を観て「身近な人を大切にする」って、意外と難しいことだなと改めて気付かされたのですが、お二人は家族、恋人、友人、仕事仲間など、身近な人たちといい関係を長く続けていくために大切にされていることはありますか?
タナダ:私は独身ですけど、どうだろうな。長く続く関係っていうと、飼い猫と過ごした時間が最長で10年かも……。人間のパートナーとは、まだ10年も一緒にいたことがないです(笑)
蒼井:友達とかは?
タナダ:それなら少しいる(笑)。でも、共同生活を送るとなると話は別かもしれない。近しい関係になると馴れ合いも出てくるし、難しいなって。
一方で猫はね、そういうのが無い。毎日見ていて可愛いっていうだけじゃなくて、毎日新しい発見があるから、飽きないんだよね。
と、猫の話をすればするほど私のダメ人間感が増しますが(笑)
蒼井:人間が相手だと、過剰に期待してしまったりするしね。
タナダ:そうそう。猫は何もしてくれなくてただ可愛い存在っていうのが「当たり前」なんだけど、人間が相手となると、どうしても「私のことを分かってほしい」みたいな甘えが出ちゃうから。
――蒼井さんはどうですか?身近な人といい関係を築くために大切にしていること、何かありますか。
蒼井:私の場合は、自分の両親を例にしてしか言えないんですけど、うちの父と母はすごい仲が良いんですよ。
タナダ:いまだにデートとかしてる?
蒼井:してる。うちの父親は腹の括り方が違うんです。たとえ子どもたちを敵に回してでも、一番に守るのはお母さん。
「100%お母さんが悪いよね?」ってことがあっても、絶対に責められるのは私だった(笑)
タナダ:お父さま、すごい徹底ぶりだね。でも素敵。
蒼井:これも先ほどお話ししたとおり、一つの夫婦の事例に過ぎないんですけど、「どんな時でも妻の肩を持つ」っていうのがうちの父の身近な人を大切にする方法なんだと思います。
父がそうやって腹をくくっているのも、今思うと、母が他人だからなんじゃないかな。
私とは血縁関係にあるから何だかんだで許し合えたり、縁が切れることもないけど、母とはまた赤の他人になれるから。
自分が大切にしなきゃいけない人の優先順位を間違えないことって、すごく大事なんだなって父親を見ていて思います。
あと、友人関係もそうですけど、「あ、今この人のこと好きじゃなくなってるな」って思ったら、一回離れて距離を置くのって大事じゃないですか?
――なるほど、確かにそうですね。
蒼井:やっぱりそれぞれのコンディションがあるから。相手が支えを欲しがっているときはいいけど、自分が相手に過度に期待してしまっているときは距離を取るとか。
たとえどんなに相手にモヤモヤしても、それをそのときにぶつける必要はないなって。少し離れて過ごすとお互いの状況が変わってまた気持ちよく付き合える時がきたりもするので。
どうしても言ってやりたいと思うことがあるなら、全部が過ぎた後に。「あの時のあなた、すごいやな奴だったよ?」って、笑い話にできるようになったときでもいいんじゃないかな。
タナダ:うんうん、すごく分かります。
30代を過ぎたら、自分の威圧感に要注意?
――長くいい関係を築きたい人というと、夫婦や友人関係だけでなく、仕事で関わる人たちもそうですよね。タナダ監督はチームを率いる立場にいますが、仕事仲間といい関係を続けていくためにどんなことを心掛けています?
タナダ:昔は「私は監督なんだからしっかりしなきゃ」ってすごく力んでいたんですよ。でも、今は逆。どうせ根がしっかりしていないんだから、もういいやってあきらめました。
そうして自分のスタンスを表明したら、自然と周りが助けてくれるようになって、チームワークもより良くなっていった気がして。
無理して本来の自分と真逆の人間を目指すより、自然体の自分でいて、それでも一緒にいてくれる人たちと仕事をすればいいんじゃないかなと思ったんですよね。
――変にかっこつけずに、さらけ出すという感じですね。
タナダ:そうです。できないことはできないって言って。得意な人にやってもらうのでいいかなと。むしろその方が、チームとしてうまくいく。
蒼井:タナダ監督は、威圧感がないんですよ。監督と仕事をしていると、座組みの一員であることを感じられるというか。ちゃんと仲間になれるというか。
それは、私以外のスタッフさんも感じていると思いますよ。
タナダ:これは年齢的なこともあると思うんですけど、自分が知らず知らずのうちに周りに威圧感を与える人間になっているということを最近自覚して。
20代後半とか、30代の女性で職場に後輩がいる方だったら、きっと思い当たる節があるんじゃないでしょうか?
蒼井:本当にそうですよね。私も34歳になりましたけど、キャリアも長くなってきたせいか、現場で自分の発言が重たくなってきていると感じることがあって。
「こういうのいいね」って何気なく言ったことが、「蒼井さんが言ってたから、マストでやらなきゃ!」って周りの人に気を遣わせてしまうことがあったんです。
――特に、自分がチームのリーダーだったり、後輩を育てる立場だったりすると、なおさらそうかもしれませんね。必要以上に発言に重みが出てしまうというか。
タナダ:そこはもうしょうがないですけどね。だって、30年も生きてるって、すごいことですから。
人間以外の生き物じゃ、なかなかこんな長生きすることないでしょ?
蒼井:視点が大きいですね(笑)
タナダ:それに、30代以降になると必然的に自分より若い子たちと仕事をする機会が増えてくると思います。そういう時に、周りを萎縮させないように自分が気を付けるっていうのはやっぱり大事かな、と。
蒼井:そうですね。あとはさっきタナダ監督が仰っていたとおり、自然体でいることかな。
無理して相手を気遣い過ぎてもよくないし、脱力した姿を見せておくっていうのも、いい関係を続けていく上では大事なのかも。
「自分っぽいな」は、生きづらさを解消する魔法の言葉
――以前、Woman typeでは蒼井さんに取材をさせていただいているんですけど、その時に、蒼井さんが「『寂しい』って思ったときは、それを『退屈』って言葉に置き換える」というお話をされていて。その発想の転換というか、蒼井さんの考え方に共感した読者の方からたくさんの反響がありました。
蒼井:ありがとうございます!
タナダ:私、蒼井さんのことをすごく尊敬しているんですよ。年齢的には10歳も私より年下なんだけど、なんて自分より先を生きているんだろうって感じがするというか。
私は30歳になったばかりの頃、蒼井さんみたいに冷静に自分の人生とか生き方を考えられてはいなかったな。
蒼井:人より失敗する回数が多いだけです。そういう星のもとに生まれたみたい(笑)
――例えば、人間関係でトラブって落ち込むこともあるじゃないですか。家族や恋人、友人と喧嘩してしまったり、仕事関係の人とのやりとりでミスして事態がこじれたり。そういうとき、蒼井さんはどうするんですか?
蒼井:「自分っぽいわ」って口に出すようにしています。
タナダ:自分っぽい?
蒼井:20代の頃なんかは、恥ずかしながら自分のことを「そこそこデキる人間」だと思い込んでたんですけど……。30代になって全然そんなことないなって気付いたんですね。だから、合格ラインをぐっと下げたんですよ。
――というと?
蒼井:20代のころは過度に自分に期待していたから、人間関係でも何でもちゃんとできないと嫌だったんです。どちらかというと完璧思考というか。
でも、30代になって、そもそも自分は大してできる人間じゃないなって認めたら、何かうまくいかなくても「まぁ、そんなもんでしょ」って思えるようなった。
デキる人間じゃないんだから、うまくいかなくて当然じゃんって。そう考えるようになったら、生きることがすごい楽になったんですよね。
タナダ:そうなんだ。初めて聞きました。
蒼井:向上心みたいなものを捨てるってことじゃないんですけど、どうしても思い通りにいかないことにぶつかったときに変に悩まなくて済むんですよ。
蒼井:「自分っぽいな」って言って、自分のことを許しちゃうっていうのは、30代になって見つけた逃げ道。生きづらさを解消する魔法の言葉でもあるんで、ぜひ皆さんも使ってください。
――蒼井さんは、ご自身の感情を整理するのがすごく上手ですよね。
蒼井:ありがとうございます。何かと自分の中で言語化できないと前に進めないタイプなんです。私は、悩むのが好きってわけじゃなくて、考えるのが好きで。
私にとって言葉は、自分が抱えている戸惑いや違和感を少し解消してくれる方程式を探すためのもの。たとえそれが一生通じるものじゃなくていいんです。
その時々の生き方が少しでも楽になればそれでいい。
タナダ:それは昔から?
蒼井:昔からですね。考え事をするのが楽しくて生きているみたいなところがあるかな(笑)
タナダ:悩んでいるんじゃなくて、考えているんだって置き換えるのもすごくいいよね。同じような状態でも、全然意識としては違うじゃないですか。
「考えてる」っていうのは、ちゃんと思考して前向きになれている状態だから。
蒼井:モヤモヤした状態から抜け出す一番の方法は、原因を突き止めること。夫婦関係とか、人間関係もそうですね。
こじれたら、何が原因なのか突き止めないと、改善はできないじゃないですか。モヤモヤの原因を突き止めて、それを解決すれば、ちゃんとプラスに変えられるはず。
20年、30年と生きてきて、さらに仕事をして、たくさんの人とさまざまな関係を築いているとなれば、モヤモヤすることはいっぱいあって当然。思い通りにいかないことだらけです。
でも、そこで感じたこと、学んだことをちゃんと考えて言葉にしていくことで、意味あるものにしていけたらと思っています。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER) 企画・編集/栗原千明(編集部)
映画情報
映画『ロマンスドール』1月24日(金)全国公開
キャスト:高橋一生 蒼井優 浜野謙太 三浦透子 大倉孝ニ ピエール瀧 渡辺えり きたろう
脚本・監督:タナダユキ
原作:タナダユキ「ロマンスドール」(角川文庫刊)
©2019「ロマンスドール」製作委員会
配給:KADOKAWA
映画公式サイト:romancedoll.jp