アパレル販売歴26年の女性が選んだ「世間にとらわれない」人生――後悔のない生き方の裏にある“プロとしての自信”

20代後半の女性たちがよく口にする、「30歳になっちゃう」という言葉。なぜ私たちはこんなにも30代になるのが怖いのだろう?
これからの人生について、一人であれこれ悪い想像をしてしまうから? それなら、少し先の未来を歩く先輩たちが、何に悩み、何に喜びながら30代を過ごしてきたのかを知れば少しは不安がなくなるかも。すでに30代を乗り越えた“40’sウーマン”たちが語る等身大の言葉に耳を傾けてみよう。

アパレル販売歴26年の女性が選んだ「世間にとらわれない」人生――後悔のない生き方の裏にある“プロとしての自信”

SHIPS 二子玉川店
副店長
杉山美穂さん(49歳)
1989年、SHIPS渋谷店にアルバイトとして入社。1年後、正社員に昇格。二子玉川店のオープンに伴い、異動し、28歳で店長となる。その後、横浜店に異動した後、再び二子玉川店へ。現在は副店長としてウィメンズ売り場を統括している

不安を感じる暇もなく、仕事に一生懸命だった30代

私が30代を迎えるころは、ちょうど周りが怒濤の結婚ラッシュ。でも、焦りはありませんでした。販売職を長く続けられるイメージが持てないという方もいますが、そんな不安も全然なかった。なぜなら、そんな不安や焦りを抱く隙もないくらい、仕事が楽しかったからです。

私は24歳でSHIPSにアルバイトとして入社しました。半年もすれば辞めるだろう、そんなほんの軽い気持ちで入ってみたら初日から終電帰り。今はもうそんなことはありませんが、あのころは忙しくて、周りの先輩方は終電を過ぎた後もずっと仕事をしていました。

当然、親は「そんなところすぐ辞めろ」と、カンカンです。けれど、先輩たちはどうしてこんなにも一生懸命仕事に打ちこんでいるんだろうということが気になり、一緒になって遅くまで働いているうちに、私も仕事の面白さに目覚めていくようになりました。お客さまとお話をしたり、先輩たちと店舗を良くしていくために何ができるのかを必死に考えたり、そんなことがすごく楽しかったのです。1年後には正社員になり、どんどん仕事に夢中になって、のめり込んでいきました。

私にとっての30代は仕事一色。28歳で新しくオープンした二子玉川店の店長を任せてもらいましたが、それがうれしくって、もう大張り切りでした。当時の私は部下にも完璧や理想ばかり押しつけてしまい、仕事のやり方だけではなく、挨拶や生活態度まで細かく注意し、「何でちゃんとやってくれないんだろう」と、悶々としてばかり。それに、部下と上手に距離をとることもできないまま、相手を心配する気持ちが強過ぎて、特定の一人に深くのめり込んでしまうこともありました。それこそ、その子のことを考えていたら頭がいっぱいで夜も眠れなかったくらいです。疲れて、しょっちゅうイライラしていましたね。

アパレル販売歴26年の女性が選んだ「世間にとらわれない」人生――後悔のない生き方の裏にある“プロとしての自信”

今はもうちっともそんなことはありません。夜なんてぐっすり寝てますから(笑)。前のめりにならず、俯瞰して物事を見られるようになったのは、30代の終わりごろからです。先輩から「あまり考えすぎない方がいいよ」とアドバイスをもらったのをきっかけに、少しずつ自分自身の中で変化が生まれてきました。

今思うと、部下を持ち始めたころの私は、相手の話を聞く余裕がなかったんですよね。それよりも自分がどうしてほしいかばかり求めてしまって。今はまず相手がどうしたいのか聞いて、その上で道標を立ててあげることを心掛けています。下の子の考えを聞いてみると、意外と「それいいね」と納得してしまうことってあるんですよ。それに、自分が変わっていかないと下の子たちはついてこない。そう思えるようになってからは、ずっと仕事が楽になりました。

30代前半のころに厳しく指導していた部下の男の子は、結局会社を辞めてしまいましたが、今でも連絡をとり合っています。あるとき、彼から「今は全然違う人生を歩んでいるけど、杉山さんと何年か一緒にやってきたことが自分のもとになっている」と言ってもらえて。それはすごくうれしかったです。分からないなりに一生懸命にやっていたことが、ちゃんと自分に返ってくるんだと思えた瞬間でした。

25歳で付き合った彼と40代で結婚

結婚願望はまったくなかったです。25歳からお付き合いしている相手がいましたが、その人と結婚したのは40代前半。相手のご両親がいつまでも身を固めない私たちを心配してくださって、ようやく籍を入れることにしました。それまで私から一度も結婚したいなんて言ったことはなかったですし、相手からも言われたことはなかったです。口うるさく言う両親ではなかったので、私も「孫を見せなきゃ」などのプレッシャーを感じることはありませんでしたが、周りの友達からはいろいろと言われましたよ。「何で結婚しないの?」とか、「子どもがほしいなら早くした方がいいよ」とか(笑)。けれど、私はそんな気持ちにはならなかったんですよね。

なぜなら、私にとってまず何よりも大切なのは仕事だったからです。自分の大切にしている生活リズムやスタイルを変えることが、すごく嫌だったんです。相手もそれを分かってくれる人だったのでよかったんだと思います。

例えばお休みの日に会う約束をしていたとします。そこで、急に仕事に行かなければいけなくなったとしても、彼は「仕事なら仕方ないね」と言ってくれる。それこそ20代のうちなんてもう毎日終電まで働いていましたから会う時間なんてほとんどなかったです。忙しいときは1カ月くらい顔を合わせないこともありました。でも、彼から文句を言われることもなかった。お互い大事にしているものがあって、それを尊重した上で付き合い続けることができたから、結婚というカタチに縛られることなく、ずっと一緒にいられたんだと思います。

今も結婚はしていますが、別居婚です。休みの日に2人で旅行に行くようにはしていて、それがオン・オフのスイッチになっていると思います。ただ、結婚してもしなくても、私の生活リズムは何も変わらないですし、二人の関係も変わりません。結婚する・しないは、私にとってはそれほど大きな問題ではなかったのだと思います。

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