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JUL/2020

「まさか自分が木こりになるなんて」東大卒の彼女が、女性比率1割未満の林業の世界で“一生モノの仕事”を見つけられた理由

誰もが予想していなかったコロナショックの中、ワークスタイルや暮らし方など、これまで私たちにとって「普通」だったことが、ことごとく覆されている。

もしかしたら、これからの時代はキャリアの面でも「普通」に縛られないことが、ますます大切になっていくのかもしれないーー。

そこで今回お話を伺ったのは、東京・檜原村の林業ベンチャー東京チェンソーズで働く飯塚潤子さん。

東京チェンソーズ 飯塚さん
東京チェンソーズ
飯塚潤子さん

1984年生まれ、茨城県つくば市出身。東京大学林学科卒。国際見本市主催会社に4年、林野庁の外郭団体に1年勤めた後、「林業の現場をやりつつ、新しいことにチャレンジできそう」との思いで入社。檜原村林業研究グループ「やまびこ会」会員
◆東京チェンソーズのオンラインストア:https://www.chainsaws-store.jp/

飯塚さんは、2008年に東京大学を卒業し、国際見本市を主催する企業で4年間勤務。

その後、森林整備や森林関連のイベント、木材の販売、森林育成体験プロジェクトなどを手掛ける東京チェンソーズへ転職し、チェンソーを抱えて自ら間伐作業を行うなど、まさに林業の現場の第一線で活躍してきた人だ。

東京チェンソーズ 飯塚さん

実は、林業の世界で働く女性の比率は、たったの6%(平成27年総務省「国勢調査」より)。飯塚さんのように森林の中で実際に山仕事を行う女性となれば、その数はさらに限られる。

東大卒の肩書を持つ彼女は、なぜ林業の現場へ飛び込んだのか。その理由を問うと、「ビビッと来ちゃったんですよ」と、リラックスした様子で笑顔を見せる。

「普通」 に縛られず、肩肘張らないキャリアを飯塚さんが築いてこられた理由とは一体何なのだろうか。

「私はここに骨を埋めるんだろうな」

東京チェンソーズ 飯塚さん

茨城県つくば市で生まれ育ち、大学進学以降は都心で暮らしていた飯塚さん。現在は、東京・檜原村の豊かな自然の中で働き、暮らしている。

飯塚さん

学生時代から森林問題には興味がありましたが、まさか自分が“木こり”になるとは思ってもいませんでした

東京チェンソーズに入社してから、暮らしは一変。満員電車とは無縁の土地で、車を使って職場と家を行き来している。

「通勤は気軽だし、眺めも良いし、本当に最高です」と飯塚さんは微笑む。

東京チェンソーズ 飯塚さん
飯塚さんが毎朝通勤で通るという林道。木漏れ日が差し込む

しかし、自然に囲まれた生活が性に合っていると知ったのは、現在の職場に転職してからのことだったという。

飯塚さん

以前は東京のイベント会社で働いていたんですが、“私の居場所はここじゃない感”がずっとあったんです。

でも、自分が一生かけて取り組める仕事は何なのか、どういうところで働きたいのか、すぐに答えが出ずにずっとモヤモヤしていました。

転機は急に訪れた。たまたま2011年に出版された『今日も森にいます。東京チェンソーズ』(徳間書店)を手に取り、目を通した時に「ビビッときた」と飯塚さんは目を輝かせる。

若者だけの林業会社、奮闘ドキュメント 今日も森にいます。東京チェンソーズ
『若者だけの林業会社、奮闘ドキュメント 今日も森にいます。東京チェンソーズ』(徳間書店)
飯塚さん

その時に初めて東京チェンソーズという会社を知ったのですが、『私はここに骨を埋めるんだろうな』と直感したんです。

なぜ、そこまで強く惹かれたのか。飯塚さんの心を掴んだのは、書籍や同社のHPなどから感じられた“心地いい雰囲気”だったという。

東京チェンソーズ 飯塚さん
飯塚さん

『東京の森を元気にしたい』という企業理念に共感したことや、自分がやってみたいと思っていたことがここでなら実現できそうだと思えたことも入社の決め手になっています。

ですが、一番大きかったのは、この会社の人たちとなら楽しく働けそうだという感覚的なもの。いくら仕事の内容が楽しくても、合わない人に囲まれて働くのは辛いですからね。

東京チェンソーズ 飯塚さん

ロールモデルがいないからこそ、気楽な部分もある

転職後には、結婚、出産も経験。現在は、二児の子育てと仕事を両立しているが、ライフステージの変化に対して感じた戸惑いは大きかった。

飯塚さん

完全に、育児をなめてました(苦笑)。子育てがここまで大変だったとは、全く想像できていませんでしたね。

第一子の妊娠を機に、山での現場仕事からは離れ、事務や企画、広報などを担当するようになった。

飯塚さん

できればもっと現場の経験も積みたかったですが、子どもを産んで育てたいという思いもあったので、少し残念ですが今は時短、フレックス勤務をしています。

単身の時のように思いっきり仕事に打ち込めないことに、若干フラストレーションを感じることはありますね。

上述した通り、林業の世界では、女性は圧倒的マイノリティーだ。ロールモデルとなるような先輩も、社内どころか業界全体を見渡してもほとんどいない。

そんな中で子どもを育てながら働くことに、不安はなかったのだろうか。

東京チェンソーズ 飯塚さん
飯塚さん

ロールモデルの有無は、そこまで気になりませんでした。逆にロールモデルがいないからこそ、他の人と自分を比べる必要がなく、気楽だった部分もあったかもしれません。

東京チェンソーズでは前例がなかった女性社員の産休・育休。飯塚さんは、自ら社内制度づくりにも携わり、無事に職場復帰を果たした。

結果として、林業の世界で育児と仕事を両立する働く女性のロールモデルとなった飯塚さんだが、心掛けていることがある。それは、「頑張り過ぎない」ことだ。

飯塚さん

私がここで無理をし過ぎてしまうと、そういう“当たり前”ができちゃう気がするので、頑張り過ぎないように意識しています。

これからこの業界に入ってくるかもしれない後輩たちが、『こうはなれない』とか『あの人みたいにはできない』とか、私を見て尻込みしないように。無理のない働き方をしていきたいと思います。

誰にとっても、持続可能な働き方ができるというのは大切なこと。「仕事は働く人間ありき」と断言する飯塚さんからは、いい意味で「女性だから」という意識は感じられない。

エコな暮らしは楽しみながら。「木を使う」ことで森林を守る

東京チェンソーズ 飯塚さん

幼い頃、テレビのニュースや新聞で「ダイオキシン」や「温暖化」などの言葉をよく目にしていたことや、好きだった漫画『ブラック・ジャック』でも公害などがテーマとして扱われていたことから、漠然と環境問題に関心を持つようになったという飯塚さん。

昨今、紙ストローやエコバッグの利用が加速するなど、世界的にエコロジー意識が高まっているが、飯塚さんの目にはどう映っているのだろうか。

飯塚さん

環境問題って、あまりにも大きなトピックですよね。一言に『エコ』といっても、範囲が広過ぎて、何から手をつけたらいいのか分からない人も多いはず。実際、以前の私もそうでしたから。

環境のために何をすべきか絶対的な正解はないと思いますが、私が何をやりたいか、やるべきかがが明確になったのは、東京チェンソーズに入社してからです。

檜原村というエリアに自分の意識を向けたことで、『東京の森を元気にすることで、日本の林業を盛り上げる』というミッションがクリアになりました。

ここで成功事例をつくり、森林大国である日本をもっと美しく住みやすい国にしたいと飯塚さんは熱を込める。

東京チェンソーズ 飯塚さん
東京チェンソーズが販売する『自分で仕上げるヒノキのスプーン』
飯塚さん

環境のために何かしたいという人は、自分が楽しくできそうなことに的を絞るといいと思います。

もしもこの記事を読んで、日本の森林を守ることに少しでも興味を寄せてくれる人がいらっしゃるなら、『出どころのハッキリした木の製品をどんどん使って』と伝えたいですね。

自然を大切に、というと、なるべく森に手をつけないようにするイメージがありますが、実はその逆。人がしっかり手入れをして育てた木を木材として活用し、また山に植えて育てるという好循環を作ることが大事なんです。

ですから、木の製品を使っていただくことで森にお金をかけることができるようになり、森を活性化できるようになります。

東京チェンソーズ 飯塚さん
東京チェンソーズが販売する『かたちいろいろ木のかけらセット』

机や椅子などの家具、リラクゼーションに使える木の置物まで、暮らしに取り入れられる木の製品はさまざまだ。

飯塚さん

木の産地によって、一つ一つ異なるストーリーがあるのも木製品の面白さです。

東京チェンソーズの場合は、林業会社自らが製材、加工、販売まで行っているので、売上の100%が山づくりに還元されるのが特徴。ぜひ日常のちょっとしたところで木の製品を取り入れて、東京の森林を支えてほしいです。

東京チェンソーズ 飯塚さん
東京チェンソーズが販売する『ほたるのつみき 6匹セット』

東京の森を元気にすべく邁進している飯塚さん。人生に迷ったときや落ち込んだとき、彼女を元気付にしてくれるのは、檜原村の豊かな自然だ。

飯塚さん

森の中とか川の近くでボーッとする時間って、すごく癒されるんです。

檜原村の森の中で瞑想すると、自分の欲求がクリアになることも。木々に囲まれて頭を空っぽにする時間、悩んでいる方にはすごくおすすめですよ。

自然の中で、緑を眺めながら深呼吸する。いい意味で力を抜いたら、本当に自分が欲しいものが見えてくるのかもしれない。

飯塚さんの包容力のある語り口が、そう感じさせてくれた。

取材・文/太田 冴 画像提供/飯塚潤子さん

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