女性エンジニアが自分らしく働き続けるためには? IBM戸倉彩さんキャリアセミナー開催レポート
「ロールモデルが身近にいない」「どうキャリアを築けばいいのか分からない」などの悩みを抱えている人も少なくないと思います。
そこでWoman typeでは、「女性エンジニアが自分らしく長く働いていく」ために必要なことについて考える機会をつくるべく、オンラインキャリアセミナーを2020年7月29日に開催。
この記事では、ゲスト講師としてお招きした戸倉彩さんによる講演の一部をご紹介します。
【姉妹媒体のインタビュー記事】
IBM戸倉彩に学ぶ、女性エンジニアが好きな仕事を続けるためのディベロッパー思考「基本アジャイル、時々ウォーターフォールで」
出産後のエンジニアとしての成長「想像もしていなかった」IBM戸倉彩が語る、“子育て経験”を武器にする働き方
「キャリアの道筋」は、未来からの逆算で考える
講演中、これからのキャリアを考えるための手法として戸倉さんが紹介してくれたのは、厚生労働省も推奨している「ナンシー・シュロスバーグの4S」。
①Situation(状況)②Self(自分自身)③Support(周囲からの支援)④Strategies(戦略)の4項目を軸にしたキャリア理論です。
①Situation(状況)
未来のことを考える前準備として、今の自分がどのような状況に置かれているかを整理する
②Self(自分自身)
自分らしさ(ビジョン)を持ち、セルフブランディングをする
③Support(周囲からの支援)
家庭・会社・業界・社会から受けることができるサポートは積極的に活用していく。サポートが不足している部分に関しては、制度などを充実させるために働きかける
④Strategies(戦略)
世の中には「変わるもの」と「変わらないもの」があることを理解する。その上で、キャリアプランとライフプランは分けて考える
エンジニアとしてのキャリアを考えるときは、技術力などのスペックについては一度置いておくと良いと思います。
最初は、なりたい自分の姿(=自分らしさ)を思い描いていくようにしましょう。
実際、ITエンジニアになりたくてなったという戸倉さんも、いざITエンジニアになってみると、将来の「なりたい姿」が描けず悩んだ時期があったと言います。
ITエンジニアになったばかりの時、『なぜなったのか?』『どうしてITエンジニアである必要があったのか?』という問いに、漠然としか答えられない自分がいました。
そこで気付いたのが、ビジョンを持つことの大切さです。『ITエンジニアになる』というのは、あくまでも自分のビジョンを実現するための『手段』であって、『目的』ではなかったんだと痛感したのです。
では、「なりたい姿」や今後のビジョンを描き、そこへと近づいていくためには、どうすればよいのでしょうか?
戸倉さんは「未来予想図から現実に向かって考えることが大事です」と続けます。
20年後に成し遂げたいことを思い描くことができれば、「10年後にはこうなっている」「5年後、3年後の段階ではこう」「つまり1年後はこれができていると良い」といった具合に、マイルストーンが置きやすくなるのです。
自分自身にタグ付けをして、強みを明確化する
また、自分らしく働き続けていくためには、「自分の強みをしっかり周囲に発信していくことが大事」と戸倉さん。
自分は第三者からどのような人物として“タグ付け”されているのか、意識するとよいと言います。
所属している企業や、どんな仕事をしているかというところもその人のタグになりますが、趣味や好きなことで自分にタグ付けしてみるのもありです。
自分はどんなことができる・関心がある・強みを持った人なのかを第三者にアピールすることは、ビジネスパーソンにとっても非常にメリットがあります。
例えば私の場合、『Visual Studio Code』というコードエディターが好きだったので、仲間を集めたいと思っていた時期がありました。
そこで、『Visual Studio Codeが好きな人』というタグを自分に付けるために、コミュニティーを立ち上げたり、『Visual Studio Code』に関する記事を書いてみたり、行動を変えてみたのです。
それにより、いつの間にか「戸倉さんといえば、『Visual Studio Code』が好きな人・詳しい人だよね」というイメージが周囲の人につくようになりました。結果、関連する仕事や情報がよりいっそう舞い込んできやすくなるのです。
最後に、女性エンジニアが好きな仕事をこの先も続けていくために大切なことを紹介してくれた戸倉さん。withコロナの時代は「アイデア」「ネットワーク」「サステナビリティ―」がキーワードだと話します。
気軽に外に出ることができないwithコロナ時代においては、オンラインサービスを活用しながら自発的に行動を起こしていく必要があります。コミュニティーなどに積極的に参加して、ネットワークを形成していくのも良いですね。
サステナブルな体制基盤をつくるためにも、家庭・会社・業界・社会から提供される支援は積極的に受けるようにしていきましょう。
ただし、会社のサポートの限界や、予算不足に直面する可能性も視野に入れて、自らアイデアを出すことも心掛けていくことが大切です。
セミナー参加者の8割以上が「参加してよかった」と回答
講演終了後の質問も続々
今回のセミナーには、約50名が参加。エンジニア系・クリエイティブ系職の方の参加が約半数となりました。
講演終了、Q&Aプラットフォームのslidoにはたくさんの質問が寄せられ、戸倉さんが回答していきました。
エンジニアとしてのキャリアをスタートした当初は、どのようにスキルを磨いて一人前を目指しましたか?
私が駆け出しエンジニアだった頃、オンリーワンになるためにやった3つのことを紹介します。
まずは、「資格を取る」こと。技術力が可視化できるので、「私はここまでできます」というアピールになります。私の場合は、グローバルで通用する資格を意識的に取得していました。
次に「“ビジネス”に貢献できるスキルを磨く」こと。例えば、セキュリティー関連の企業に勤めていたとしたら、そのプロダクトに関する知識を高めることはもちろん、トラブルが起こったときに必要とされる対応は何かを理解しておくこと。
有事の際の対処法をガイドブックにしてまとめるのも良いですね。
このような行動を積み重ねていくことで「この人にしかできないこと」というものが周囲に認知されていくようになります。営業やマーケティングなど、他部署に貢献できることを意識的に行っていくようにしましょう。
そして最後が「自社以外の技術を勉強する」ことです。他社のプロダクトや技術を学んでおくことで、改めて自社の強みに対する理解が深まりますし、自分の言葉で語れるようになりますよ。
技術力が高まらないままに産休・育休に入る女性が多い印象です。どのようにエンジニアとしてスキルアップしていけばよいでしょうか?
テクノロジーはどんどん進化していくので、長く現場にいたとしても、新バージョンが登場すれば誰もが初心者。何歳からはじめたとしても、新しいものに対しては平等な状態でスタートできるのが、私がIT業界を大好きな理由の一つです。
私自身、ブランクから復帰したときには流行りものに飛びついてみました。皆が『分からない』と悩みながら取り組んでいる輪に入り、一緒に取り組んでいったのです。
あと、プログラミングスキルは磨いておくようにしましょう。『技術力がない』と気付けたことが一つのチャンスなので、思い立ったらすぐにでも取り組んでみてほしいと思います。
セミナー実施後に行ったアンケートでは、「周りに女性エンジニアが少ないため、戸倉さんのように成功されている方のお話や、参加者の皆さまの質問が非常に参考になりました」「何歳になっても自分次第で道が切り拓けることが分かりました」といった感想も多く寄せられていました。
今後も『Woman type』では、長く働き続けたい女性を応援するイベントやセミナー企画を定期的に実施していく予定です。ぜひご期待ください!
文/秋元 祐香里(編集部)