【稲垣吾郎インタビュー】プロの仕事に“慣れ”は天敵。「いつも新鮮な気持ち」で働き続けるための心掛け

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

大人の色気と洗練。そして、思わず「吾郎ちゃん」と呼びたくなってしまうチャーミングさ。稲垣吾郎さんが上梓した19年ぶりのフォトエッセイ集『Blume(ブルーメ)』(宝島社)には、稲垣さんの日常を感じさせる写真が数多く収録されている。

稲垣吾郎

「もともと、アイドルや俳優になりたいっていう強い思いがあったわけじゃなかった」という稲垣さん。それでも約30年もの間、誰もが知る国民的スターとして第一線で仕事をしてきた。

人気稼業で、移り変わりも早い芸能界で、長きにわたって活躍できているのはなぜなのか。一つの道を究めたプロフェッショナル、稲垣吾郎にとっての「いい仕事」に迫る。

20代の頃から“ブレない自分”がいたから、ここまでやってこられた

『Blume』は、女性誌『GLOW(グロー)』(宝島社)のコラム連載『大人男子ライフ』をベースに、未公開の写真やエッセイ、仕事にまつわるロングインタビューを収録した作品だ。

「僕のプライベートを露(あらわ)にしてくれている連載」と本人が語る通り、稲垣さんのライフスタイルが率直に綴られている。

稲垣吾郎
稲垣さん

今はデジタル社会ですけど、物として残すこと、触れられることの必要性も感じています。だから、紙の本を作るというのは僕にとってうれしいこと。

何よりも昔から応援してくださっているファンの方たちが待ち望んでくれていたことなので、本当によかったなと思います。

タイトルの『Blume』は、ドイツ語でブーケを意味する。そこに込められているのは、長年応援してくれているファンへの感謝の気持ちだ。 

稲垣さん

ファンの方たちに花束を贈るように、本自体にブーケみたいなニュアンスがあったらいいと思いました。ドイツ語を選んだところに深い意味はないんですけど、響きの硬質な感じがいいなと。

フラワーとかブーケって、ちょっと可愛らしいイメージじゃないですか。それも僕には似合うかもしれないけど(笑)、46歳ですし、大人の男の雰囲気を醸せたらと思いました。

稲垣さんが著書を出すのは19年ぶり。『Blume』の巻末には「内なる自分と改めて向き合うきっかけになりました」と記されている。発見したのは、20代の頃から“根本的に変わっていない自分自身”だったという。

稲垣さん

個性や価値観、仕事や暮らしに求めるものや、綺麗、かっこいいと思うもの。そういうものは、昔からさほど変わっていないなと。

良いのか悪いのかって感じですけど、それには自分でもにんまりしてしまったというか。20代で美意識が確立されていたのは面白いなと思いました。

稲垣吾郎
稲垣さん

自分自身にブレがないから、一つの個性として、タレントとして、これまでやってこれたのかな。

その一方で成長も感じましたし、本を出すことによって、またさらに未来に向かって道を進めていきたいと思うきっかけをつくってもらったんでしょうね。

コロナ禍のStay Homeで考える時間も増えたことも、「自分のことを見つめ直すきっかけになった」と稲垣さん。同時に、「20代の頃の自分と仲良くなれた感覚がある」と話す。

稲垣さん

自分が20代の頃の感覚が、不思議なんですけど、今になって蘇ってきているんですよ。

例えば写真。自粛期間中に部屋を整理していたら、昔の僕が香取慎吾くんを撮った写真が見つかったんです。

最近も写真を撮るのが好きなので、若い時にできた自分の思考みたいなものはきっと変わっていなかったんだなって。

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僕が撮った懐かしい写真が出てきた。 #おうち時間

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稲垣さん

20~30代はすごく忙しかったから、忘れてしまっていたことも多くて。でも一度立ち止まったことで、それを思い出しているんです。

当時の自分と仲良くなれた感覚がありますし、『もう一回やってみようかな』と思うことも増えました。

僕はコロナの中でタイムスリップして、過去に思いを戻してみたのかもしれないですね。20代の頃の感性をもう一度大切にしたいと思い直しました。

「大手企業」から「個人商店」へ。でも、“稲垣吾郎らしさ”は変わらず持ち続けたい

稲垣吾郎

多忙を極めた20〜30代から、少し余裕ができた40代。そこにはどんな変化があったのか。少し考えた後で、稲垣さんは「人間性が大切な気がしてきました」と答えてくれた。

稲垣さん

基本的に僕は役者だと思っていますし、演じることが大好きです。なので、これからもいろんな役を演じていきたい。

でも、最近は、何を演じるか、どう演じるか以上に、本人の資質みたいなものが問われているのを感じます。

アイドルで見た目が良ければいいっていうだけじゃなくて、自分自身の『人間性』が問われる年齢になったんだと思います。

今回の著書を通じて「ブレなさ」を感じたという稲垣さんだが、仕事への向き合い方には変化もある。

稲垣吾郎
稲垣さん

寝る暇もないくらい忙しかったり、キャパシティーを超えてきたりすると、仕事のモチベーションや取り組み方は変わってしまいますよね。

特に20~30代は本当に忙しかったので、今よりも少し雑だったかもしれません。一個一個の仕事をこなすことで精一杯だったし、グループはやっぱりチームプレイなので、自分の立ち位置を意識してやってきました。

その分、「誤解も多かったと思います」と稲垣さんは続ける。

稲垣さん

それが駄目だったわけじゃなくて、僕はそこに尽くしてきた。だから、今の方がのびのびと自分を表現できているかもしれないですね。

今は、個人商店ですから(笑)。グループにいた時は大手企業で働いていたようなもので、企業戦士として戦ってきた感じがあるかな。

それも自分には必要な経験だったと思うし、そこで培ってきたことは大きいし、当時の自分も決して嘘ではないですけどね。

3年前にグループが解散したのは、まだ記憶に新しい。今は香取慎吾さんと草なぎ剛さんと一緒に『新しい地図』として、グループとは違う形で仕事をするようになった。

稲垣吾郎
稲垣さん

これまでを否定しているわけでは全くないんですけど、何十年も同じグループで、同じような環境でお仕事をしていると、少し凝り固まってくる。

自分の考え方やスタイルが固定化してきちゃうところはあったので、そういう意味では生まれ変わって新しい自分に出会えた感じはあります。

とはいえ、“稲垣吾郎らしさ”は昔から変わっていないんですけどね。

環境が変わったことで、新しいジャンルの仕事も増えた。その一つが、生放送のラジオパーソナリティーだ。

稲垣さん

僕はあまりトークや司会をするイメージがなかったと思うんですね。

おしゃべり上手なメンバーがいっぱいましたから、どちらかと言うと皆にいじられるとか、そういうグループの中でのポジションがあった。

稲垣吾郎
稲垣さん

でも、人と話をするのはもともと好きなんですよ。

Abemaの番組『7.2(ななにー)』の中でも『インテリゴロウ』っていうコーナーがあって。自分で言うのは微妙なタイトルなんですけど(笑)。

その中で、この間は今度公開される草なぎくん主演の映画『ミッドナイトスワン』の内田(英治)監督と対談しました。そういう仕事の変化は最近特に感じていますね。

ルーティンの中でも新鮮さを失わない。それがプロの仕事

活動のかたちを変えて、仕事の幅を広げている稲垣さんがプロとして大事にしてること。それは「慣れないこと」だという。

稲垣吾郎
稲垣さん

僕の仕事はルーティンでもあります。

例えばですけど、舞台は毎日同じことをやるんですよね。精度をキープしつつも、凝り固まらず、鮮度を保ちながらやるお芝居が理想。

ルーティンの中でも新鮮さを失わない。そのバランスかなと思います。

仕事はやっていくうちにどうしても慣れていくもの。そんな中で新鮮さを忘れずに、精度の高いアウトプットを提示し続ける。それこそがプロの仕事だというのは、あらゆる仕事に通じる考え方だろう。

そして同時に、「慣れ」もまた全ての仕事に生じる課題だ。新鮮さはどうやったら保てるのだろうか。

稲垣吾郎
稲垣さん

僕は子どもの頃から仕事をしているので、自然と身に付いていることも多いです。

ただ、何事にもちゃんと興味を持つこと、あとはオンとオフをはっきり切り替えることかな。僕は寝ても覚めてもというのは好きじゃなくて。

趣味ならいいですけど、お仕事や人間関係には没頭しすぎない。メリハリがあるからこそ、バランスが取れるのかなと思います。

約30年もの期間、芸能界に身を置く稲垣さんだが、テレビの世界への憧れや、アイドルや俳優になりたい思いが強くあったわけではなかったという。

「15歳くらいでなんとなく『これが自分の生きる道なんだな』と気付いた。ちょっと特殊ですよね」と自身を振り返る。

稲垣さん

まさかこの歳まで芸能界でやっていけるだなんて夢にも思っていませんでしたし、『新しい地図』の活動はゼロからのスタートだと思って始めたこと。

今こうやって仕事ができているのは、何度も言いますけど支えてくれているファンの方たちが一番。

そして、その環境を整えてくれるスタッフの方々や、僕の価値観みたいなものを面白がってくれる方たちのおかげです。

稲垣吾郎
稲垣さん

どんどん新しい才能が生まれて、年下のスタッフの方も増えていく中で、それでも僕を使ってみたいと思ってくれたり、僕からインスピレーションを得て作品を作ってくれたりと、常に素材として必要とし、面白がってくれている人がいる。

タレントという商品にとって大切なことだと思うので、そう居続けられていることが本当にうれしいですし、感謝していますね。

仕事を長く続けていく上で大事なことは、プロとしての仕事を全うすること。すなわち「慣れないこと」だ。

稲垣さん

新鮮さと、緊張感が大事なんじゃないかな。一つの固まったルーティンになっちゃうと、怖いよね。

それが必要な世界もあると思うけど、閉鎖的になっていっちゃう気がする。

今も緊張することはある? そう聞くと、「なくなってきてる。やばいね」と率直な返答が。「でも、もういいんじゃないかとも思う」と続ける。

稲垣吾郎
稲垣さん

僕はこれまで運良く緊張感のある状況にいた感じ。

もし僕が一人で紅白に出たり、東京ドームでコンサートをやったり、ダブルミリオンの曲を出したりしていたら、多分もう続いていないと思いますね。

稲垣さん

メンバー間には緊張感があって、それがよかったんだと思います。

僕らは独特なグループだったみたいで、『会うと緊張する』って周囲の方にもよく言われましたしね。

でも、馴れ合いじゃない方がグループって面白いとも思います。

仕事が「人生の全て」を与えてくれた

仕事が稲垣さんに与えてくれたものは? 最後にそんな質問を投げ掛けると、間髪入れずに「人生の全てですね」と即答。

稲垣さん

仕事が今の自分を形成していると思うので、働いていなかったとしたらっていうのは、もう想像できないです。

では、稲垣さんにとっての“いい仕事”とは一体何だろう。

稲垣さん

何か人の役に立っていること。

人のためにっていうと綺麗過ぎるけど、何かしら人に影響を与えられている実感を生きている間に持てないと、『いい仕事』はできないんじゃないかな。

仕事は単にご飯を食べるための手段じゃないと思うし。

稲垣吾郎
稲垣さん

芸術家のゴッホは素晴らしい作品を残しているのに、生きている間に評価はされなかった。

天国で喜んでいるかもしれないけど、生きている間にそれを感じられないと、いい人生って思えないよね。

とはいえ、稲垣さんの目指すものは、大げさなことではない。

稲垣さん

僕はあまり爪痕を残すっていう言葉は好きじゃなくて、同時に生きている人間の心を動かしたいんです。

僕が舞台でベートーベンを演じていてすごいなと思うのは、後世に絶対に音楽を残してやろうっていう思い。『俺は天才だ』って言っているくらいだから相当自信もあっただろうしね。

稲垣吾郎
稲垣さん

でも、僕はそういうのがないんです。

僕、今回の『やりすぎない、でしゃばりすぎないのが好きです。』っていう本の帯が大好きで。これは僕のモットーでもある。

野望はないけど、それが自分らしいかなとも思いますね。

稲垣吾郎

リモート取材中は「ワンセンテンスが長いですか? おじさん特有の話がしつこいみたいな雰囲気ない?」と心配そうな様子も。吾郎さん、優しい……!


【Profile】
稲垣 吾郎 (イナガキ ゴロウ)

1973年、東京都生まれ。 1991 年 CD デビュー。ドラマ、映画、舞台、バラエティ番組と幅広いジャンルで活躍。主演映画 『ばるぼら』が2020年11月20日(金)公開。ほか、最新の出演作に映画 『海辺の映画館-キネマの玉手箱』(2020年7月31日公開)、バラエティ番組『不可避研究中』、ラジオ『THE TRAD』『編集長 稲垣吾郎』、インターネット番組『7.2 新しい別の窓』などがある。2020年4月、朝日新聞社×宝島社『GLOW』共同プロジェクト「Aging Gracefully」プロジェクト初の男性アンバサダーに就任
Twitter:@ingkgrofficial
Instagram:goro_inagaki_official
ブログ:https://ameblo.jp/inagakigoro-official
YouTube:新しい地図

書籍紹介

稲垣吾郎 Blume

タイトル:『Blume』、出版元:宝島社、発売日:9月18日(金)、定価:2500円+税/女性誌『GLOW』の連載『大人男子ライフ』をベースに、未公開の写真やエッセイ、仕事にまつわるロングインタビューを収録したフォトエッセイ。

稲垣さん

一緒に時間を過ごしてきたファンの方が多いので、皆さんにとってもいろいろな発見や気づきがあるんじゃないかな。ファンの方たちとは近くで一緒に歩んで来たっていう感覚がいっぱいあるので、皆さんにもいろいろ感じてもらえるものになっているかなと思います。

取材・文/天野夏海 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)企画・編集/栗原千明(編集部)