「何もしない」が不安なので「何もしないをする」マインドフルネスの専門家に相談してみた
コロナ禍で突然増えた「おうち時間」。
ぽっかり空いた穴を埋めなければ、と、せっせと料理や家事に勤しんだり、本や映画に触れたり、勉強をしたり……気付けば心も体も休む間もなく忙しく過ごしている、という人は多いのではないだろうか。
暇さえあればスマホを見たり、仕事のことを考えてしまったり――。もはや「何もしないこと」に罪悪感すら抱いてしまう。
そこで「何もしない」をする、マインドフルネスの専門家に相談してみた。

株式会社Melon 代表取締役CEO
橋本大佑さん
早稲田大学卒業後、シティグループ証券投資銀行本部を経て、米資産運用会社、オークツリー・キャピタル・マネジメントで日本株運用に携わる。15年間の外資金融でのキャリアの中で、マインドフルネス瞑想を継続し効果を実感。2019年に株式会社Melonを設立し、日本初のオンライン・マインドフルネスのプラットフォーム『MELON ONLINE』をスタート。法人向けのマインドフルネス研修やイベント登壇、個人向けの講演など各方面でマインドフルネスを広める活動を継続中
「ついスマホに手が伸びる」生活は、人間にとって不自然なこと
――コロナ禍で余暇が増えたことで「何かしなきゃ」と焦ったり、不安に感じたりすることも増えました。あまり精神的によくないなと思うのですが……。
実はコロナ禍以前から、精神疾患の患者は増えています。健康志向の高まりや医療技術の進歩から身体的な疾患に罹る人は減っている一方で、うつや不安障害、気分障害などの疾患を抱える人は90年代後半以降、約2倍に増えているんです。
コロナ禍で個人のストレスは増える一方ですから、この傾向はさらに顕著になっていくのではないでしょうか。
――2倍も! それはどうしてなのでしょうか?
一言でいえば、スマホやPCなどの急速な普及による情報過多が原因でしょう。スマホのスクリーンタイム、確認したことありますか?
――はい。とんでもない数字で、自分でも驚きました……。
皆さん、きっと一日何時間もスマホを見ているのではないでしょうか。スマホを日常的に使いこなし、いわば依存した生活を送っているわけですから、当然のことです。

一方で、人間の体にとっては、一日中情報を浴びる生活はとても不自然なことなんです。
テクノロジーの進化の過程で体や脳の作りも変化すればよいのですが、そういうわけにはいきません。そのギャップが、メンタル不調として顕在化してしまっているのです。
そこで注目されているのが、マインドフルネスというわけです。
――「マインドフルネス=スピリチュアル」なイメージがありましたが、テクノロジーの進化による情報過多に対応するために必要な考え方なんですね。
自分の感覚をしっかりと認識すること=マインドフルネス
――ただ、よくないことだとは分かっているのですが、ついつい無意識にスマホに手が伸びてしまうんですよね……。
それがまさに「マインドフルネス」とは真逆の状態なんですよ。
ルーティンのように無意識に行動をするのではなく、自分の感覚をしっかりと認識すること。それが「マインドフルネス」なんです。
――「マインドフルネス」という言葉は最近よく耳にしますが、具体的にどういう状態なのか、いまいち分かりません。
堅苦しく考える方が多いのですが、実はそう難しいことではありません。
例えば温泉に入る瞬間、「ふぅ~」となりますよね。力が抜けて、温泉の温度や香り、お湯がツルツルしているのか、とろっとしているのかなど、五感全体を使って感じ取ります。

また、美味しいものを味わっているときもそうです。嗅覚や味覚などをフルに活用して楽しみますよね。それらがまさに「マインドフルネス」な状態なんです。
――なるほど。そう考えると、誰しも「マインドフルネス」な状態を経験しているのですね。マインドフルネスな状態でいると、どうして良いのでしょう?
皆さん、何かしら悩みや不安を抱えて生きていると思うのですが、それらから離れることができるようになるんです。
というのも、悩みや不安というのは目の前に実在するものではなく、頭の中だけに存在するものですよね。マインドフルネスの状態を長く保つことができれば、悩みや不安を感じることが少なくなる、ということなんです。
――将来の不安や悩みではなく、今に集中できるようになる、と。
はい。当社が運営するオンライン・マインドフルネス・プログラム『MELON』のレッスンを受けている方々にも、悩みを抱えている方が大勢いらっしゃいます。
自分自身の病気だったり、家庭の悩みや仕事の悩みだったりと、その内容はさまざまです。

オンライン・マインドフルネス・プログラム『MELON』では、自宅でレッスンが受けられる
もちろんレッスンによって病気を治すことや悩みのもとを取り去ることはできませんが、意識下において悩みから離れることはできるようになるんです。
毎朝のコーヒーから。「マインドフルネス」を日常に取り入れる方法
――マインドフルネスの重要性はよく分かりました。日常的に取り入れることのできるトレーニングの方法はあるのでしょうか?
日常の中で習慣化することをお勧めします。
例えば、毎朝コーヒーをいれる時はコーヒーのことだけを意識する、と決めるのです。お湯を注いだ時のコポコポという音、コーヒーの香り、一口目の舌触りや苦味、二口目からの味の変化……五感をフルに使って、コーヒーを飲む、という行為に集中します。

もしくは、いつもはスマホをいじったり音楽を聴いたりして過ごしている移動中に五感に目を向ける習慣をつくる、というのもいいでしょう。
足の裏の感触をしっかりと感じて、外の空気の香りや温度などに意識を向ける。そういった日常の一コマで構いませんから、意識をコントロールする時間を増やすと集中力がアップしますよ。
――よく、ヨガなどでは「呼吸に集中するといい」と聞きます。
呼吸を意識することは、マインドフルネスの中でもフォーマルなトレーニングの一つです。
なぜ呼吸に着目するかというと、呼吸というのは常に動いていて止まることがないから。常に体の中で動き続けているものを観察することによって「今この瞬間」に意識を留めることができるんですね。
――なるほど。ただ、呼吸を意識しようとすればするほど気が散ってしまいます。
それでいいんですよ。
――えっ、いいんですか?
はい。なぜなら、「気が散っている」ということに気付いているからです。自分の感覚や意識を把握しているということは、それだけでもすでにマインドフルネスの状態に一歩近付けていることになります。
初めからうまく没入できる人はそういません。
気が逸れて思わず仕事のことを考えてしまったら、また意識を戻せばいい。逸れたら戻す、また逸れたら戻す。
それを繰り返していくうちに、徐々に「今」に意識を留めることができるようになりますよ。
“Doingモード”と“Beingモード”の幸せは違う
――日常にマインドフルネスを取り入れたとしても、充実している人をSNSで見て「何かしなきゃ」と焦ってしまうのは変わらない気もします。人と比べてしまう自分とは、どのように向き合えばいいのでしょうか。
マインドフルネスでは、心には2種類の状態があると考えられています。
もっともっと仕事で成果を出してお金を稼いで広い部屋に住んで高い服を着て……と、現状に満足せず高みを目指している“Doingモード”。それとは逆に、何も得なくとも今の状態が幸せ、という状態である“Beingモード”の2つです。

これはどちらの状態が良い・悪いというものではありません。どちらも必要な考え方ではありますが、現代社会では“Doingモード”の思考に偏りやすい状態であることには間違いないでしょう。
良い学校に入って、良い成績をとって、良い会社に入って……と、競争して獲得することを良しとされて生きてきましたから。
――「良い」とする価値観が決められていて、それに当てはめて生きている感じがします。
もちろんそれで得られるものも多いにあるでしょう。ただ、“Doingモード”では得られない幸せもあるんです。
“Doingモード”と“Beingモード”では、得られる幸せの種類は違います。ドーパミンが分泌されるような高揚感は“Doingモード”で得られますが、セロトニンが分泌されるような安心感・幸福感は“Beingモード”でしか得られないもの。
よく「幸せになりたい」という言葉を耳にしますが、それは具体的にどういった感情を示しているのでしょうか。
その違いを理解していないと、ただ闇雲に仕事を頑張って給料が増えたとしても、気付けばそれは求めていた「幸せ」ではなかった、ということになるのです。
――“Doingモード”をいくら極めたとしても、安心感のある幸福には辿りつかないのですね。
はい。これは歳を重ねれば変わる、というものではありません。高齢になって初めて“Beingモード”の幸せの存在に気付く、という方は大勢いらっしゃいます。
そうならないためにも、若い世代の方々にこそマインドフルネスの考え方を身に付けていただき「今ここにある幸せ」に気付いてほしいのです。

物質的欲求を満たし高みを目指す資本主義の世界は、今後どんどんと変わっていきます。
息切れするような努力だけをするのではなく、よりサステナブルな幸せの形を見つけていきたいですね。
取材・文/太田 冴 編集/天野夏海