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MAY/2021

未来のキャリア戦略は「遺伝子レベルで自分を知る」ことから。幸せに生きる・働くを叶える方法【ジーンクエスト高橋祥子】

私と仕事のいい関係

遺伝子を知ることは、自分自身の“スタート地点”を知ることです

そう話すのは、個人向け遺伝子解析サービスを展開するジーンクエスト代表の高橋祥子さん。2014年のサービス開始以来、徐々に認知を広げており、最近は検査を受ける20~30代女性も増えているそう。

高橋祥子さん

長期的なキャリア形成が前提となった今、心身ともに自分を深く知り、将来に備えたいもの。長く幸せに働くことを叶えたい女性たちが「遺伝子レベルで自分を知る」ことによって得られるものとは何だろうか。

300以上の項目で「疾患リスク」や「体質」の遺伝的傾向が分かる

ーージーンクエストが提供している遺伝子解析サービスについて教えてください。

インターネットで解析キットを購入すると、自宅に唾液の採取キットが届きます。それに唾液を入れて返送すると、約1カ月後にマイページ上で自分の遺伝子情報を確認できるという内容です。

生活習慣病や糖尿病、脳卒中、高血圧などの疾患リスクから、運動や睡眠、ストレスなどの体質に関する遺伝的傾向まで、全部で300項目以上の解析結果が分かります。

ーーそんなに多くの情報が分かるのですね!

高橋祥子さん

しかも、研究の進展によって新たに分かった遺伝子情報については、無償でアップデートしています。最近は新型コロナウイルスの重症化リスクに関する項目を追加しました。

ヒトの持つ遺伝子の配列自体は一生変わりませんが、遺伝子に関する人類の知見は日々更新されているので、できる限り最新の研究成果を反映するようにしています。

ーー遺伝子解析を受ける若い女性が増えているそうですが、何がきっかけでサービスを利用するのでしょうか?

20〜30代の女性の場合は、自分に合ったダイエット方法を知るためや、将来かかりやすい病気を知るために利用をする方が多いですね。中には、家族が病気になったときに、「自分にも同じ病気のリスクがあるか気になった」と仰る方も。

年齢や性別に関わらず、遺伝的な特徴から自分自身を知り、生活習慣を見つめ直すためのツールとしてご利用いただいています。

キャリア、お酒、睡眠、妊娠……遺伝子の影響はどのくらい?

高橋祥子さん

ーー遺伝子解析の結果から、自分に合う仕事や働き方まで分かるものでしょうか?

「こういう遺伝的特徴があるから、こんなキャリアが向いている」と言えるような事実があるかどうかは、まだ分かっていません。

適職や適した働き方を導き出せる可能性はありますが、過去の遺伝子研究においては、主に「病気との関係」が調べられてきたので、疾患以外の領域はまだ研究数自体が多くないのです。

ただ、遺伝子解析から自分の体、健康に対する理解を深めることができれば「長く幸せに働き続ける」ことを叶えやすくなると思います。

例えば、若いうちに知っておいた方がいいと思うのは、お酒の強さ。これは、アルコールの代謝酵素に関する遺伝子が関わっています。

ーーそうなのですか?

はい。私自身は、お酒が強い人と全く飲めない人のちょうど真ん中ぐらいのタイプの遺伝子なのですが、このタイプの人が強い人と同じ量のお酒を飲むと、アルコールによる食道がんのリスクが非常に高いことが分かっています。

自分のアルコール体質を知る前の20代の頃は、お酒が強い人に合わせて飲むこともありました。解析結果を目の前にした時は、こんなリスクがあったのか! と恐ろしかったですね。

高橋祥子さん

同じように、二日酔いのなりやすさも遺伝子が関わっています。私はまさに二日酔いになりやすい体質で、よく気持ち悪くなっていたのですが、遺伝子を調べるまではその体質に気づけませんでした。「お酒を飲んだ翌日はみんな気分が悪くなる」と思い込んでいたんです。

ーー確かに、自分の体調と人の体調は比べられませんから、自分の体質は意外に気づきにくいものなのかもしれないですね。

遺伝子解析によって、自分の体質を改めて認識する方は多いですね。

また、自分の睡眠に関するも遺伝子が関係しています。朝型か夜型か、ロングスリーパーかショートスリーパーかにも、遺伝子が影響を与えています。

以前、私は睡眠時間の短い人が羨ましくて、1日3〜4時間睡眠で頑張っていた時期があるんです。でもかなり辛くなってきて、最終的には倒れてしまいました。

夜型の人が朝型を目指したり、ロングスリーパーの人がショートスリーパーになろうとしたりしても、遺伝子的には難しいんです。

ーーなるほど。ちなみに、遺伝子解析で妊娠のしやすさなども分かるのでしょうか?

高橋祥子さん

残念ながら、「妊娠しやすさ」はさまざまな環境要因の影響の方が大きく、項目としては提供していません。

多嚢胞性症候群や子宮頸がんといった不妊の原因となる疾患リスクは遺伝子解析で分かりますが、これらの病気も環境要因の影響の方が強いと言われています。

ただ、それ以外で妊娠に関して分かる有益な情報はあります。

ーーどんな情報でしょう?

例えば、妊娠中の葉酸の摂取量が人並みで十分なのか、少し多めに取った方がいいのかは、葉酸の代謝に関する遺伝子が関わっています。

また、妊婦の約15%が発症する「むずむず脚症候群」のなりやすさに関する遺伝子情報もあります。この病気は鉄分不足や貧血が原因なので、鉄分を摂れば予防できるかもしれません。

ーー遺伝子解析によって自分の体質を知ると、かなりの割合で体調不良を予防できそうですね。

遺伝要因と環境要因の両方が関わっている体質や疾患では、遺伝要因を知ることで環境要因を変えていくことができます。しかし遺伝子を知らない状態では、自分に合った作戦を立てられません。トランプのゲームでは、まず自分の手札を見て、それに応じた戦略を立てますよね? 遺伝子を知るのはそれと同じことなんです。

生物にとって「思考の負担」は重い。でも、放棄しないで

高橋祥子さん

ーー生命科学の視点で見たときに、「幸せな人生」を生きるために大事なことというのは何なのでしょうか?

今は、人間の人生がいまだかつてなく長くなっていますよね。でも、ヒトの寿命が伸びようが縮まろうが、人生を豊かにするものは変わりません。

それは、「こんな未来にしたい」「こんな風に生きたい」と未来の理想を具体的に想像し今を過ごすことです。

もし、今がどれだけハッピーでも、明日からずっと地獄のような日々が続くと分かっていたならハッピーではいられないですよね? 一方で、今目の前に面倒な仕事があっても、それが夢の実現につながると感じられるなら、気持ちはハッピーでいられるはず。

要は、人間の幸せを左右するのは、意外と目の前で起きている現在のことより、未来への希望や期待にかかっているところが大きいのです。

なので、幸せに生きたいと願うならば、自分は将来どうしたいか、どうありたいか、という理想を常に持ちながらいまを過ごすことだが大事だと思いますね。

ーー変化が早い世の中なので、「将来についてじっくり考えても意味はない」と思ってしまう人も多そうです。

そうですね。でも、私はそれでも皆さんに、何カ月後、何年後、「自分はこう生きたいな」「こんな未来をつくりたいな」という理想を考え続けてほしいと思っています。

なぜかというと、望む未来を具体的に想像すると、今の行動が変わるからです。ゴールが見えると、そのためにやるべきことが何なのかが分かります。

また、何となくやっていることも、何のためにやるのかが明確になると、取り組むモチベーションがさらに高まりますよね。

ーー確かにそうですね。

ただ、未来について「考える」って、実はものすごくエネルギーを消費する行為です。

高橋祥子さん

ーーエネルギーを消費する?

ええ。生物は、考えなくていい環境であれば、必要以上に考えないようにできているんです。脳は省エネをしたがるので、思考しなくてもいい環境であれば放っておくと思考しない方へ、思考しない方へと流れていきます。

だからこそ私たちは、「意識的に」未来についてを考えなければ、簡単に思考停止に陥ってしまいます。

ーー意識して未来を考えるために、高橋さんがやっていることはありますか?

私はあらかじめ「考える日」を自分のスケジュールに入れて、その時間を定期的に確保するようにしていますね。私の場合は一カ月に一回。人によっては隔週に一回くらいでもいいかもしれません。

それくらい頻繁に、自分はどうしたいか、どうありたいかを問い掛けてみると、生き方そのものが変わってきます。

忙しい毎日の中でも、立ち止まって未来について考える習慣が充実した毎日をもたらしてくれることは間違いありません。それが結果的に、「長く幸せに働く」キャリアにもつながっていくのだと思います。

取材・文/一本麻衣 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)


<プロフィール>
高橋祥子(たかはし・しょうこ) さん

ジーンクエスト代表取締役。2010年京都大学農学部卒業。13年東京大学大学院農学生命科学研究科応用生命化学専攻博士課程在籍中に、遺伝子解析の研究を推進し、正しい活用を広めることを目指すジーンクエスト(https://genequest.jp/)を起業。15年同学博士課程修了。18年株式会社ユーグレナ執行役員バイオインフォマテクス事業担当就任。受賞歴に経済産業省「第二回日本ベンチャー大賞」経済産業大臣賞(女性起業家賞)、「日本バイオベンチャー大賞」日本ベンチャー学会賞など。その他科学技術・学術政策研究所「科学技術への顕著な貢献2015(ナイスステップな研究者)」、世界経済フォーラム「Young Global Leaders 2018」、フォーブス30歳未満のアジアを代表する30人「30 Under 30 Asia」、Newsweek「世界が尊敬する日本人100」に選出など。著書に『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか? 生命科学のテクノロジーによって生まれうる未来』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『ビジネスと人生の「見え方」が一変する 生命科学的思考』(NewsPicksパブリッシング)がある

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