「世界に絶望できた自分を讃えて」15歳・ユーグレナCFO川﨑レナの⽬に映る日本の現状
「ジェンダー平等」はSDGsで掲げられた17のゴールの⼀つ。ところが日本のジェンダーギャップ指数は153カ国中121位と、先進国最下位だ。最近も元首相の女性差別発言が物議を醸したばかり。
こんなうんざりする現状に対して「絶望を見たからこそ挑戦の権利が与えられると思う」と話すのは、ユーグレナの2期目Chief Future Officer(最⾼未来責任者、以下CFO)、中学3年生、15歳の川﨑レナさんだ。
以前から環境保全団体WWFや、環境や人権の問題に取り組む国際NGOアース・ガーディアンズ・ジャパンなどで活動していた川﨑さんは「社会にもっと大きなインパクトを与えられるんじゃないかと思った」と、CFOに応募した動機を話す。
その業務内容は「会社と未来を変えるための全て」。彼女の目に、今の世の中はどう映っているのだろう。
学校にCFO、他の団体の活動、趣味、友達との遊びの時間。多忙な生活を送る川﨑さんを「15歳なのにすごい」と思った人にこそ、彼女の声に耳を傾けてほしい。
最終的にはみんな人間。簡単な認識がずれてない?
川﨑さんが関心を寄せるのは、SDGsに関する教育。SDGsの目標の一つであるジェンダー平等の実現について、「体育や性教育など、そもそも教育の場で男女を分ける意識が強い」と、実体験を教えてくれた。
私が通っていた運動教室では、男の子がコケたら「なに泣いてんねん! 男やろ!」って言われるのに、女の子に対しては「大丈夫? 大切なお顔が!」みたいな感じで。
もちろん体が違うから区別が必要なときもありますが、目に見えない考え方や道徳の部分で男女を区別する必要はない。男性は感情を出してはいけないって、どれだけつらいことなのかと思います。
「女はこう」「男はこう」と決めつけることの不利益は、何も女性だけに降りかかるものではない。学校の性教育の授業では、こんなこともあった。
私の学校は、性教育の授業を男女一緒に受けるんです。その中で、女性がセクハラ加害者になるケースを先生が見落としていて。男子生徒がそれを指摘して、私もその通りだなと思いました。
「『男性がセクハラをする』って教えられると、私たちもそういうものなんだって思っちゃう」と川﨑さん。
アインシュタインが「18歳までに身に付いたスティグマ(※)が自分の意見になってしまう」という趣旨の言葉を残したんですけど、本当にそうだろうなと思っています。
今の日本だと、大人になる前に「社会は男と女で分かれている」という考えになりやすいように感じています。
※差別や偏見の対象として使われる属性、及びそれに伴う負のイメージ
つい最近も、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の発言が女性差別だと批判を巻き起こした。「同じように考えている人は少なくないと思う」とした上で、川﨑さんは「すごく簡単な認識がズレてる」と続ける。
最終的にはみんな人間じゃないですか。男性であろうが女性であろうが性格が悪い人は悪いし、話が長い人は長い。男女で分けて考えるのは、今の時代に合わないと思います。
「100年、200年と続いてきたものに違和感を覚える時代がやってきたんだと思う」川﨑さんは語る。
日本はすごく後ろ向きな考え方を持った国で、それは多分、私たちの世代の方がよく分かるのかもしれません。
政府や会社は未来のことを考えようと言うけれど、政府や会社のトップの人たちが後ろを向いてしまっているように感じています。その状態で前に進もうとしたって、全く進まないですよね。
何歳でも大人の会議に参加できるし、貴重な意見は誰からも出る
男女で分けるのは今の時代に合わない。その意見に共感する人はきっと多い。ただ、私たちもまた属性で人を区切って判断してしまいがちだ。
それこそ、川﨑さんに対して「中学生なのにすごい」という大人はたくさんいるだろう。
「褒められて伸びるタイプなのでうれしいですけどね」と笑いながら、「何歳でも大人の会議に参加できるし、貴重な意見は誰からでも出る」と川﨑さん。
よく『15歳ですごい』って言われるんですけど、誰でも、どんな年齢でも変化は起こせて、35歳だろうが10歳だろうが、その成功の価値に差はないと思っています。
同世代から80代まで、幅広い年代の人たちと活動をしてきた中で、「年齢は人工的なボーダーに過ぎない」という考えに至ったという。
大人の人から「そんな考え方しているの?」とびっくりされることがあるけれど、私が特別なのではなくて、みんな意見は持っているんです。
これまで意見を聞いたり発言する場を設けていなかっただけでは? と思います。
むしろ褒めてくれる人のことが心配だと、川﨑さんは胸の内を明かす。
褒めることで自分への自信がなくなってしまう人がいるんじゃないかと思っていて。
私が他の人を褒める時って、ジェラシーを感じるときなんです。
それを認めて前に進める人はいいですけど、「私は普通の中学生だから何もできない」「自分は大人なのに大したことない」みたいに思ってしまうのは、あまり良くない気がします。
これまで子どもに発言の場が与えられていなかったのと同じように、まだ場を見つけられていないのだと考えれば、自分を卑下する必要はない。
川﨑さん自身も、今の活動ができているのは「恵まれているから」と冷静だ。
私には教育を受けさせてくれて、私を子ども扱いせず、人として信じて接してくれた両親がいます。
また、いま通っている学校の教育のおかげもあって、意見が言えているけど、私は弱いから、他の学校だったら意見を言えなかったかもしれません。
私自身は何もしていないのに、環境によって活動する権利が与えられているんです。
教育が受けられない途上国の子は、どんなに頑張ってもユーグレナという会社を知ることもできない。たとえ同じ日本であっても、子どもの環境はさまざまだ。
こうした不平等への違和感と怒り、そして恵まれている自分が果たすべき責任。それが彼女の活動の原動力だという。
自分のことも、他の人が苦しんでいることも、全て自分事にして戦えているのは、機会を与えられているから。それは恵まれたことだし、そのためなら私は絶望してもいい。
それに、自分のために戦っていることは、最終的にみんなのためにもつながっていくはず。それなら、絶望に対して行動することに意味があるのかなと思います。
「だってレナがよくないと思ったから」
「私は文句言いなんです」と笑う川﨑さん。学校でも、おかしいと感じることにはアクションを起こしてきた。「なんでそんなこと言うの?」という同級生からの指摘にも「だってレナがよくないと思ったから」とシンプルだ。
声を上げなければ私の気持ちはスッキリしないし、私がおかしいと思う時って、他の人もそう感じている時だと思うんです。
今の世界の問題はマイノリティが声を上げられない、もしくは声を上げても聞いてもらえない状態にあるから。
私は「それならレナが言おう」と思うタイプなんです。人生は一回しかないし、他の人に変えてもらうだけでは面白くないですから。
女性が長く働くことが、社会構造的に難しい部分がまだまだある中、日々絶望を感じてしまっている人はあちこちにいるだろう。川﨑さんは「そう感じたことがチャンスだと思う」と力強い。
絶望してしまうのは、違和感を持っているからだと思うんです。その違和感に気付いて、間違っていると思えたことがすごくいいこと。
洗脳されていたら、現状が普通だと思っちゃうじゃないですか。
男性より給料が低い。女性だから出世できない。そうした問題に声をあげたい人は、きっと周りにたくさんいる。「みんな人間だから、最終的には良いことをしたいんじゃないかな」と川﨑さん。
小さくても行動を起こすことに意味があるし、変化は遅いかもしれないですけど、絶望を感じたからこそ挑戦の権利が与えられたって考えたら、ちょっとポジティブになれるんじゃないかなと思います。
そうやって、目の前の問題に対して行動を起こすことが、他の誰かを救うことにつながる。
私が働く女性の問題を実感したことはまだないけれど、問題に直面している人が意識や行動を変えることで、未来の私が同じ問題を感じることはなくなるかもしれません。
二つに分かれた線路の片方に1人、もう片方には5人がいる。電車が向かってくるとき、どちらに舵を切るか。いわゆるトロッコ問題に対して、川﨑さんは「電車を止める方法を考える」という。
そんな漫画の主人公のような川﨑さんは、「ユーグレナのCFOに選ばれた奇跡を使って同世代に影響を与えたい」と目を輝かす。
私たちの世代の意見を大きなプラットフォームに置けない状況がある中で、このポジションには大きな意味がある。18歳以下が集まっているからこその変化にこだわりたいですね。
個人的には、年齢や性別、地域に関係なく人を集めた強いネットワークを作って、高校3年生までに社会の変化を実現させたいです。
さらにその先は「教育に携わりたい」という。人の偏見をなくす教育に興味があるという彼女は「何かしら人を助けることに携わっていたい」と、イキイキと未来を語る。
「元気だねって言われるんですけど、私たちはみんな、本当に元気なんですよ」と、川﨑さんは終始明るい。
この社会で女性が自立して生きるにはタフさが必要で、厳しい現実に愕然としてしまうこともある。それでも、絶望できた自分を讃えて、自分にできるアクションを起こす。
私たちに必要なのは、まさに「レナがよくないと思ったから」の精神なのかもしれない。
<プロフィール>
株式会社ユーグレナ 最⾼未来責任者(CFO)
川﨑レナさん
2005年生まれ、大阪府出身。大阪府のインターナショナルスクールに通う15歳。趣味はミュージカル。11年からWWFユースメンバー、NPOのJUMPワークショップ選抜メンバー、アース・ガーディアンズ・ジャパンのディレクターなどを務める。
取材・文/天野夏海 写真/株式会社ユーグレナ提供