「期待し過ぎず、諦めず」ジェンダー平等後進国・日本の行く末は? 国連女性差別撤廃委員会委員・秋月弘子さんに聞く

私と仕事のいい関係

2021年春、東京大学執行部が女性を過半数とする体制へと生まれ変わった。最近では、こうしたトップダウンで組織のジェンダー平等を達成しようとする動きも見られるようになっている。

今後、日本のジェンダーギャップはどのように変化していくのだろうか。前回に引き続き、国連女性差別撤廃委員会の委員である秋月弘子さんに話を聞いた。

秋月弘子さん

【プロフィール】 秋月弘子さん
亜細亜大学国際関係学部教授、2019年1月より国連女性差別撤廃委員会委員。国際基督教大学大学院行政学研究科博士課程修了(学術博士)。国連開発計画(UNDP)プログラム・オフィサー、北九州市立大学講師・助教授、コロンビア大学大学院国際公共政策研究科客員研究員などを経て、2002年より現職

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東大の組織改革は「大きな影響を与えるはず」

――先日、東大執行部の過半数に女性が登用されたという報道がありました。このような変化をどのように捉えていらっしゃいますか?

東京大学

東大がこのような動きをとったことは、非常にインパクトがあること。社会をリードする存在として、世界の潮流をしっかりと見抜き、その責任を自覚しているのだろうと思います。

東大を追随する大学も出てくるでしょうし、民間企業にも影響があるのではないでしょうか。

――ジェンダー平等に関する議論はますます活発になりそうですね。

今の勢いを大切にして、どんどん社会を変えていきたいですね。特に民間企業では、女性登用の必要性に気づき始めた企業が多いのではないでしょうか。

投資家の間では、投資の重要な判断材料としてジェンダー平等を挙げるところが増えていますし、経営者にとっては看過できない問題になりつつあります。

あとは政治分野が問題ですね。既得権益を守ろうと席を空けない人はまだまだ多い。今後5年、10年が勝負の過渡期となるはずです。

すぐには変わらない。でも、いつか絶対に変わる

――ジェンダーギャップ指数で、日本は156カ国中120位。この数字は今度どう変化していくとお考えですか?

数年後に大きく順位を上げているかといえば、正直難しいでしょう。それが本音です。政府は2020年までに女性管理職比率30%という目標をあっさり諦め延期しましたし、あまりにのんびりしていますから。

――やはり政治分野が特に課題である、と。

Global Gender Gap Report 2021

出典:『Global Gender Gap Report 2021 』より編集部で図を作成

ジェンダーギャップ指数は経済、政治、教育、医療の4分野で男女格差の状況を数値化したものですが、教育と保険はそこまで低位ではありません。

経済の領域では、民間企業が今まさに女性管理職を増やそうと努力をしているところ。企業に対する消費者の目、投資家の目は厳しいですから、徐々に変化していくことでしょう。

ただ政治の分野では、正直に申し上げてまだまだ取り組みが足りていません。罰則規定付きで議員立候補者のクォータ制を導入するなど、強力なテコ入れが必要です。

それくらいのことをして、初めて順位が少し上がるかどうか、という程度だと思います。

前の記事でも申し上げた通り、今の社会構造を変えるには、その根底にある法・政策を抜本的に改革することが必要です。そのためには立法・政策決定の場にどれだけ女性の視点を取り入れることができるか、が重要。

今後の選挙では、女性立候補者の数に注目するのはもちろんのこと、ジェンダー平等に関する問題をきちんと争点として取り上げることがポイントになってくるでしょう。

ジェンダー平等

――短期間で大きな変化を生むのは、やはり難しいのですね。

社会はそう早くは変わりません。なので、期待し過ぎないことも必要です。でも、絶対に諦めてはいけません。少しずつでも、変化は必ずあるのです。

ジェンダー平等

私自身の人生を振り返っても、確実に社会は良くなっていると感じますよ。

私の幼少期は、大人になったらお見合い結婚をして、お嫁さんになって家庭に入ることが普通だと思っていました。でも今は全く違う道を進んでいますから、予想もつかない社会の変化は起きるものなのです。

国連の計算では、現状のペースでいくと世界でジェンダー平等が達成されるのは120年後と言われています。日本ではもっとかかるでしょう。

でもそれを、どうにか頑張って50年後、30年後にしませんか、と言いたいのです。子どもや孫の世代が生きやすいように、一人一人が行動をしていく時だと思います。

ジェンダー平等のために明日からできるアクション

――多様な人が生きやすい職場、社会をつくるために。私たち一人一人ができることは、何なのでしょうか。

できることはさまざまありますが、まずは、家庭や職場で、ジェンダーバイアスがかかったコミュニケーションがなされていないか、チェックしてみること。

女はこうあるべき、男はこうあるべきと、お互いが押し付けあっていないか、意識してみましょう。

また、気になることがあったらSNSで発信してみるのもいいですね。

ジェンダー平等

オープンにするのが不安なら、鍵付きのアカウントでもいいし、安心感を持てる場で意見を人に伝えてみてください。「同じことを思っていた」という人が、仲間になってくれるでしょう。

そして、選挙に行くこと。ジェンダー平等に関するトピックに注目して、自分の意思を投じてください。

――今年は衆議院選挙が控えていますね。

ジェンダー平等は今回の選挙の大きな争点です。日本のジェンダー平等の水準を上げるには、政治分野の発展が不可欠。一人一人の意思表示が大きなうねりとなって結果に響きますから、必ず選挙に行ってほしいと思います。

職場、家庭、社会全体で、あなたがもしも生きづらさを感じているなら、同じ思いの人が必ずいる。そして、一人一人が声を上げなければ、次の世代も同じ思いをすることになります。

あらゆる立場にいる人が、自分らしく生きられる世の中にするためにも、しっかり意思を表明していきたいですね。

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取材・文/太田 冴