大企業を辞めて20代で起業。私たちの「自分らしいキャリア」のつくり方【秋元里奈・金井芽衣】
コロナで急速に変化した私たちの働き方。リモートワークや副業など、働く選択肢は増える一方で「自分らしいキャリアって何?」「このままの働き方でいいの?」と道に迷う女性も多いのではないだろうか。
Woman typeが5月28日に開催したオンラインイベントでは、産直通販サイト『食べチョク』を運営するビビッドガーデン代表・秋元里奈さん、キャリアトレーニングサービス『POSIWILL CAREER』を運営するポジウィル代表・金井芽衣さんが登壇。

写真左:ポジウィル株式会社・代表取締役の金井芽衣さん 写真右:株式会社ビビッドガーデン・代表取締役社長の秋元里奈さん
二人の共通点は、新卒で大企業に就職し、退職の後にスタートアップを創業していること。しかし、会社創業を決断した背景や、キャリア観は異なる。
では、彼女たちが考える、「自分らしいキャリア」とは? 自分にとって納得感のある働き方・生き方とは何か、悩む女性たちへのアドバイスとあわせて聞いてみた。
今の状況は想定外「まさか自分が起業するなんて」
――秋元さんは2016年、金井さんは2017年にそれぞれ起業されています。それまではDeNA、リクルートキャリアという大企業で働かれていたわけですが、どうして起業を?
実は前職のリクルートキャリアを辞めた時には、個人事業主の延長のような起業しか考えていませんでした。
ただ、一人で仕事をしているうちに、個人事業主ではなく法人の方が契約ごとなどでスムーズに進むことに気づきました。
そこで、法人化を決意。まさか現在のように社員を抱える経営者になるなんて想像もしていませんでしたね。

――それは意外です。では、会社規模を大きくしていこうと決意したのはいつ頃なのですか?
27歳で会社を設立したのですが、周囲が結婚をしていく中で自分も結婚した方がいいのではないかと思うこともありました。
一度、婚活パーティーに行ったことがあったのですが、その際に参加者の方から職業を聞かれて、「自分で会社を経営している」と言うと引かれてしまうことがありました。
でも、少し嘘をついて「会社員」というとぐいぐいアプローチされるんです。 形式として法人化を選択しただけで、どうしてこんなに扱いが違うのだろう、と驚きました。
それで、すごく悔しくなってしまって。「本気で経営してやろう」って腹を決めたんです。
――婚活が、まさかそんな効果を発揮するとは!
しかもその頃、リクルート時代の同期の中にはスタートアップを創業して爆発的に事業を伸ばしている人もいました。そういう人の姿を見て刺激を受けたのもあります。
独立したんだから、リスクをとってチャレンジしてみよう。そう思えたのは、ちょうどこの時でしたね。
――秋元さんは、どうして起業を?

私も、「大きなチャレンジしよう」と思って会社を立ち上げたわけではないんです。前職のDeNAは大好きでしたし、できることなら一生DeNAで働きたいという気持ちもあった。
でも、仕事は好きなのに、自分の中に明確な「やりたいこと」を持っていないことがずっとコンプレックスだったんです。
悩み行動していく中で、「農家で娘であること」を話すと多くの方に興味を持ってもらうことが増え、それが自分の個性だと気づくことができました。
私の実家はもともと相模原で農業を営んでいましたが、今はもう廃業してしまい、荒れ果てていく実家の土地を見ていると放っておけませんでした。
初めは全く関心がなかった農業に次第に興味を持ち始め、さらには第一次産業に携わる農家・漁師の方々の役に立つことがしたい、と思うように。
そこで手段として選んだのが、起業です。
――起業は目的ではなかった、と。
ええ。単純に、目の前の生産者さんに貢献したい、何ができるか……と考えているうちに、起業に行き着きました。
目的が達成できるなら、手段は何でもよかったんですが、一番効果的だと思ったのが自分が起業することでした。
そして、細々とではありますが今の『食べチョク』につながる事業を始めてみると、生産者さんの置かれている立場が想像以上に厳しいということを知ることになります。
私がマイペースに準備を進めている間にも、廃業に追い込まれていく生産者さんたちがいる。このままでは全く役に立てない、と思ったんです。
そこで、事業をもっと拡大して、できる支援をよりスピーディーに届けていくことにチャレンジしようと決意しました。
リスクだけに目を向けない。“希少な経験”は後の市場価値アップにつながる
――お二人とも、大企業の社員という立場から、起業して経営者に。ガラッと環境も立場も変わる中で、不安はありませんでしたか?
不安はもちろんありました。ただ、「これを勉強しておけばよかった」とか「こんなスキルがあればよかった」とか、そういうことを思ったことはほぼありませんね。
もちろん会計やファイナンスのスキルなど、今でも苦手なことはたくさんあります。
でも、スタートアップ経営は単独戦ではなくチーム戦。 自分ができないことは他の人に補ってもらうことで乗り越えていけますし、逆に経営者という立場では、自分の軸をぶらさずに突き進めるか、の方がよほど大事です。
困難な状況でも「夢中になれる力」、「何とかする力」、みたいなものはDeNA時代に随分と鍛えてもらったので、それらは起業する時にあってよかったと思うものですね。
私も、不安がなかったわけではありません。
でも、リクルート時代に鍛えられた「巻き込み力」のおかげで何とかやれているなと感じます。
前職でも150人規模の組織をどう動かしていくか、という力を試される機会を多くいただいていましたから。
――単独戦ではなくチーム戦。そう考えると、創業時に一緒に働くメンバーが非常に重要ですよね。
メンバー集めには本当に苦労しました。
当然ながら、起業って成功するか失敗するか分からない。そんな中で一緒に戦ってくれるメンバーってものすごく貴重なんです。
創業期のスタートアップは、漫画『キングダム』の世界で、立派な武器を持ったツワモノ相手に棒一本だけで戦いにいくようなもの。
どんな逆境でも「勝てる!」と信じられる人でなければ、スタートアップで働いていくのは難しいかもしれません。
――大企業を辞めれば、安定した給与は得られなくなります。退職、そして会社創業の際に、収入についての不安はありませんでしたか?
たしかにリスクは伴います。
私は会社員時代の貯金200万円を資本金として起業しましたが、一瞬でなくなりました。
ただ、私はもともとかなり心配性でリスクはできるだけ排除したいタイプなので、できるだけリスク要因を減らすための工夫はしました。
例えば、起業してしばらくは、週2日は個人でコンサルティングの仕事を引き受けていました。
自分が個人として働けば大体どれくらいの期間でどれくらいの金額を稼げるのか、を肌感覚として知っておきたかったのです。
そうすれば最悪事業が失敗して借金を背負ったとしても、返していけますから。
――ある程度のリスクをカバーできる方法を知っておくだけで、安心材料にはなりそうですね。
あとは、起業のリスク面ばかりを気にしないことも大切です。
というのも、起業して例え失敗しても、起業せずにそのまま会社員を続けている方がリスク、という場合もあります。
世の中、起業をした人自体がそう多くありません。たとえ失敗しても起業した経験自体が価値になる。
そう考えると、起業した方が私の市場価値は上がると思ったんです。
何がやりたい? どうありたい? “自分の本音”を知る方法
――今回のセッションテーマは「自分らしいキャリアのつくり方」ですが、お二人が「自分らしいキャリア」と聞いてイメージするのは?

「人と比較せずに生きられること」でしょうか。
私や秋元さんみたいに仕事一直線で邁進する人もいれば、プライベートを中心に据えたい人もいますよね。
仕事との付き合い方はさまざまなので、何も私たちのような働き方を選択する人ばかりでなくていい。どれも素晴らしい選択のはずです。
でも、今の時代は隣の芝がやたらと青く見えてしまうもの。
そこで、いかに「自分はどうしたいのか」という本音と向き合って、自分の心の声に従えるか、が大事ですね。
人からどう思われるか、他人からどう評価されるか、ということではなく。
――心の声が、見えにくくなっていますよね。「自分がどうしたいのか」「どうありたいのか」が分からないという人も多い印象です。
まさにそうですね。『POSIWILL CAREER』に相談にいらっしゃる方の多くが、自分のやりたいことが分からずに悩んでいます。
そんな方にいつもお伝えしているのは、「自分の体験を全て棚卸ししてほしい」ということ。
自分がこれまでどういうことに喜びを感じてきて、逆にどんなことがたまらなく嫌だったのか。過去の体験から、自分の感情が動くパターンを紐解いていくのです。
自分に合わない仕事を選んでしまうのはとてももったいないこと。ミスマッチを防ぐためには、まず何より自己分析が大切なのです。
――女性は特に、キャリアの悩みとプライベートの悩みが複雑に絡み合っていますよね。
20代後半以降の女性は、まさにそうでしょうね。SNSが結婚報告・出産報告で埋め尽くされる人も多いはず。
「どんな仕事をしていくべきか」だけでなく「どう生きていくべきか」という悩みにまで膨らんでいく。
悩みが複合的になっていくので、キャリアのことから「前髪がイマイチいい感じに決まらない」というような些細なことまで、いろいろなことを考えるのが嫌になってきます。
だからこそ一個一個の悩みを机の上に並べて、紐解いていくことが大事なのです。
――秋元さんも、会社員時代は「やりたいことがない」ことに悩んだと仰っていましたね。

はい。ただ、私は仕事に一直線のタイプだったので、プライベートの悩みはほぼなかったかもしれません。
それでも一つ思うのは、悩んでいる時期にこそ、キャリアの選択肢をできるだけ多く知っておくことは大事だ、ということですね。
私はたまたま起業という選択肢を具体的に知っていたから起業することができたけれど、知らなかったら起業していなかった。
もし自分のやりたいことが見つかっても、それを叶える手段が分からないと、具体的なアクションにつながっていかないと思うんです。
――目的を叶える手段のバリエーションを増やすには、どうすることが効果的だと思いますか?
たくさん人に会うことですね。
今は対面で会うのが厳しいかもしれないけれど、こういうウェビナーなんかも活用しながら、いろいろな人の人生に触れるといいのかなと思います。
さらに、「やりたいこと」を明確にするためには、自分自身の体験や考えを言語化する訓練をするのもおすすめですよ。
――言語化の訓練ですか?
はい。人は誰しもがその人特有の体験を持っているはずですが、それを言葉にできる人はそう多くありません。
私自身も、起業するまでは言語化が苦手でしたが、取材を受けたりこういう場で自分のことをお話しする機会をいただけるようになって、自己理解がぐんと深まりました。

無理やりにでも「言葉にすること」をやらない限り、自分について分からないこと、よく理解できないことがいっぱいあったんです。
私たちは人生の半分以上の時間を仕事に費やしていますが、働くことに納得感を持てない状態はあまりにもったいない。
自己理解を深めて、自分なりに「どうして働いているのか」という理由を持っておくことは、長く幸せに働く上で大切だと考えています。
「やろう」と思ったときに動く。待っていても「ベストタイミング」はこない
――参加者の皆さんから、たくさん質問をいただいています。中には「お二人のように起業に挑戦したいが、コロナ禍の影響が怖くて躊躇してしまう」との声も。
環境がどうというのはあまり気にしなくていいと思います。
やろうと思ったときが、ベストタイミング。やらない理由ってどんどん増えていきますからね。
私も起業する時はすごく不安で、やらない理由ばかりを探してしまう時もありました。
でも知人から、「その“やらない理由”は、時間が経てば解決する問題なの?」と言われてハッとして。
例えば、「コロナ禍で不安だから」という理由があるとしたら、それは具体的に何が不安なのか、考えてみるといいかもしれません。
極端な話、今このタイミングで飲食店などを開業するのは、確かに不安要素が強いかもしれません。
でも、まだ具体的に事業が定まっていないのであれば、コロナは“やらない理由”にはなりませんよね。
「やっても失敗するかも」という不安なのであれば、それはコロナに関係なく、いつだって一緒です。
私も同感です。何もかも条件が揃うベストタイミングなんて、いくら待っても訪れません。やると決めたときにやるしかない。

そして、悔いのないキャリア選択をするために、自分の体験の棚卸し・言語化もコロナ禍で一人の時間が多いこの機会にぜひ取り組んでみてください。
一人で考え込むと辛いので、色々な人の話を聞いて、客観的な意見をもらうのもおすすめです。
そんな中で、辛さを感じずに取り組めるような「得意なこと」だったり、ワクワクするような「好きなこと」だったり、そういうものを過去の経験の中から探してみてほしいと思います。
「自分は何に魅力を感じるのか」を棚卸しすれば、何か共通する部分があるはず。
自己分析と情報収集を繰り返して、ぜひ「自分らしいキャリア」を見つけてほしいです。
文/太田冴
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<プロフィール>
株式会社ビビッドガーデン 代表取締役社長
秋元里奈さん
慶應義塾大学理工学部を卒業後、株式会社ディー・エヌ・エーへ入社。webサービスのディレクター、営業チームリーダー、新規事業の立ち上げを経験した後、スマートフォンアプリの宣伝プロデューサーに就任。2016年11月に株式会社ビビッドガーデンを創業。実家は相模原の農家 。品質にこだわる農家・漁師から旬の食材を直接お取り寄せできる産直通販サイト『食べチョク』は、「利用率No.1」の産直通販サイトへと急成長。コロナショックで被害を受けた生産者の支援などにも精力的に取り組む Twitter:@aki_rina
ポジウィル株式会社 代表取締役
金井芽衣さん
1990年群馬県生まれ。埼玉純真短期大学で保育士・幼稚園教諭の免許を取得した後、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入。13年、リクルートキャリアに入社し、法人営業を経験。17年に国家資格キャリアコンサルタント登録。同年8月にポジウィル株式会社を設立し、同社代表取締役に就任。「どう生きたいか?でキャリアをきめる」キャリアのパーソナル・トレーニング事業『POSIWILL CAREER』(旧『ゲキサポ』)を運営。20代~30代の若手ビジネスパーソンを中心に、絶大な支持を集めるサービスへと成長している Twitter:@meiem326
『私と仕事のいい関係』の過去記事一覧はこちら
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