10 AUG/2021

30代なのに「やりたいこと」も「好きなこと」も仕事にできていないと感じるあなたへ

live your life

先日、こちらの連載で「『自分らしさ探し』に疲れた人へ。苦しくなったときに“今すぐやめていい”3つのこと」というテーマでコラムを書いたのですが、いつにも増して大きな反響をいただきました。

「『好き』を仕事にする」
「『やりたいこと』を実現する」
「『自分らしく』働く」

最近は、「好きなこと」や「やりたいこと」を形にして「自分らしく働く」……という表現が就職・転職活動の場面で使われることが非常に多くなりましたよね。

やりたい仕事がわからない

一方で、そうではない自分に対して「こんな私でいいのだろうか」「こんな自分はダメなんじゃないだろうか」と否定的にとらえてしまう人が少なくないのかもしれません。

あるシンクタンクの調査(2021年版)によれば「仕事内容を選ぶ上で重視することは何ですか?」との質問に対して「自分のやりたい仕事であること」と答えた人の割合は30.6%。

最多の回答を集めた「やりがいを感じられること」(32.5%)に続き、二番目に多い回答となっていました(複数回答)。

出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」
出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」

出典:株式会社 パーソル総合研究所「働く10,000人の就業・成長定点調査」

2019年以降の調査結果を振り返ってもこの二項目が突出して高い回答率となっており、それだけ「好きなこと」「やりたいこと」を仕事にしたい人が多いのだと感じさせます。

そこで今回は「『やりたいこと』が分からないまま、30代目前まできてしまった……」あるいは「もう30代になってしまった……」という人に向けて、今後のキャリアを考える上でのヒントについて書いてみたいと思います。

「仕事は仕事」の割り切り派にもメリットはある

やりたい仕事がわからない

ワシントン大学フォスタービジネススクールのキラ・シャブラム助教授の研究によれば、「天職を追求することは、成功につながることもあれば、燃え尽きてしまうこともある」といいます。

アメリカの動物保護施設で働く人の調査で、この調査によれば「動物を助けることが自分のアイデンティティー」だと信じている「好きを仕事に派」や、「動物を助けることが社会貢献につながる」と考えている「情熱派」は仕事の厳しい側面にさらされた場合に思いが強い分ショックも大きく、「本当はこれは好きな仕事ではないのかもしれない」「私には向いていないのかもしれない」などとモチベーションが影響を受けてしまってなかなかスキルが身に付きにくかったり、最終的には離職につながる傾向が見られたそうです。

一方で淡々と仕事に取り組む「実践派」については、仕事上の課題に直面しても強いショックやネガティブな感情を持ちづらい傾向があり、結果的に仕事の継続率の高さにとどまらず、スキルの熟練にもつながったとのこと。

もちろんアメリカの動物保護施設で働く人の調査ですので、すべての職場に当てはまるとは言いがたいですが、それでも、私たちが仕事について考える際に非常に示唆深い内容ではあります。

やりたい仕事がわからない

目の前の仕事に淡々と取り組むことで得られるスキルや経験が自分のキャリアに自然とつながっていくという示唆に、勇気づけられる人はたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。

「好き」のハードルを下げてみよう

また、20~30代の女性たちから「好きなことが見つからない」、「やりたいことが分からない」という相談を受けるたびに私が思うのは、「好き」や「やりたいこと」のハードルが高過ぎるのではないか? ということです。

魂が震えるような、一生涯のテーマ(好きなこと)に出会えるのは素晴らしいことですが、たいていの場合、そんな出会いはなかなかありません(もしそうした出会いがあればそれは奇跡的に素晴らしいことだとは思います!)。

現実には「好き」「やりたい」と一歩踏み出してもうまくいかなかったり、少しやってみたら「違った」と思ったり……そんなことは日々、いろいろなところで起きています。

ですから、やりたいこと、好きなことは、「運命的で情熱的な何か」でなくてもよいと思うのです。

やりたい仕事がわからない

「好きなことが見つからない」という人でも、「朝食に紅茶とコーヒー、どちらを飲みますか?」と聞かれたら、「紅茶」とか「コーヒー」と選べる人が大半ですよね。

あるいは、「お昼に何を食べたい?」と聞かれたら、「冷たいものがいいな」とか「温かいものを食べたいな」といった選択はできる場合が多いです。

「飲み物や食べ物を選ぶのと、仕事選びではワケが違う!」と言う人がいるかもしれません。でも本当にそうでしょうか? それは仕事選びを神聖視し過ぎてはいないでしょうか?

振り返れば道はつながっている

例えば、私は会社員時代にフィリピン・カンボジアの子どもたちを支援するチャリティー活動に参加していて、その流れでチャリティーマラソンを運営するNPOでプロボノ活動をしていたことがありました。

その時の経験や出会いがのちに起業する原動力にもなっていったのですが、その時はそんなことは想像もしていませんでした。

やりたい仕事がわからない

最初にフィリピンの児童養護施設を訪問した時のきっかけは、「友達に誘われたから」。加えて海外旅行が好きだったことも要因ではありました。

本当にたったそれだけだったのです。

「社会に貢献したい」とか、「子どもたちを支援したい」という強いモチベーションは当時はなく、純粋に「好き」な友達から誘われて「好き」なことだったから参加しただけだったんですよね。

でも、そんな私が10年以上勤めた会社を33歳で辞めて、「女性が生き生き働き続けられる社会をつくりたい」という想いで出会った仲間と34歳で会社を立ち上げて、8年会社を経営してきている……。今振り返ると本当に不思議です。

やりたい仕事がわからない

ここまで書いてきて改めてお伝えしたいのは、仕事は必ずしも「好き」や「やりたいこと」を実現する手段じゃなくてもいい、ということ。

「仕事は仕事」と割り切って目の前のことに淡々と取り組む中で得られるスキルや出会いもあります。それは何も全く悪いことではありませんし、「仕事は仕事」派の人だからこそ得られるメリットもあるものです。

一方で、「好き」や「やりたい」が分からず苦しいと感じているならば、「好きなこと」のハードルをちょっと下げて考えてみてください。

いきなり本業じゃなくてもいいので、私のように社外活動から「好きなこと」をする時間を増やしてもいいと思います。自分自身の心が求めていることに敏感になって、ちょっとした一歩を踏み出してみるのも大事じゃないかと思うんですね。

そんなふうに20代から30代へ。30代から40代へと年齢と経験を重ねていったら、それは確実に次のステージの自分につながっていく。私はそう信じています。

田中美和

【この記事を書いた人】
Waris共同代表・国家資格キャリアコンサルタント
田中美和

大学卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年多様な生き方・働き方を実現する人材エージェントWarisを共同創業。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事