EC時代に店舗売上を伸ばし続けるランジェリーブランド『Intimissimi』の敏腕マネジャーが明かす「接客力向上」4つの秘策

近年、急速に拡大を続けるECサイト市場。アパレル業界においても、ここ数年、着実にECサイトの売上を伸ばしている企業が多い(※出典:経済産業省)。

そこにさらに追い打ちをかけたのが、コロナ禍だ。首都圏の百貨店や大型商業施設は度々休業、実店舗から客足が遠のいた。大量閉店へと踏み切ったアパレル企業もあり、店舗運営に携わる人々にとっては頭の痛い日々が今なお続いている。

Intimissimi

『Intimissimi』は、2021年に7店舗を新規オープン。秋までにさらに3店舗をオープンする予定だ

しかし、コロナ禍以降も新規出店を続けているブランドがある。イタリア発祥のファッション・グローバル企業Calzedoniaが展開するランジェリーブランド『Intimissimi』だ。

『Intimissimi』の関西エリアマネージャー・湯浅花苗さんは、2014年にCalzedoniaに入社。『Intimissimi』の関⻄1号店の店⻑に就任して以降、関⻄エリアに展開する16店全ての立ち上げに携わってきた。

Intimissimi

Calzedonia Japan株式会社
『Intimissimi』
関西エリアマネージャー
湯浅花苗さん

1981年生まれ。短大卒業後、大手化粧品会社に入社し、美容部員として3年間勤務。その後、ジュエリー販売企業に転職。10年間勤務した後、2014年にCalzedonia Japan株式会社に入社。『Intimissimi』の店長として活躍後、入社4年目で5店舗を担当する地区マネージャーに就任。21年より、関西エリア全16店を担当するエリアマネージャーに昇進

店長時代からエリアマネージャーに就任した現在に至るまで、湯浅さんが担当する店舗の業績は常に右肩上がりを記録。

一時的な店舗休業を余儀なくされた2019年度においても、当初予定していた通りの売上目標を達成。前年比133%の成長を実現するという快挙を成し遂げた人物だ。

湯浅さん曰く、彼女が担当する店舗では、「来店率、購買率を上げるための4つの秘策を販売スタッフ皆で実践している」という。店頭に立つスタッフが変わることが何より大事だと話す湯浅さんに、彼女が店舗で実践してきた秘策を打ち明けてもらった。

秘策1:店舗周辺で徹底的に人間観察。スタッフのファッションを“その土地ならでは”に変えよ

アパレルブランドの多くが、店の立地や購買層にあわせて、内装や商品の仕入れ、陳列方法などを変えていると思います。ただ、店舗が変わるだけではなく、店頭に立つスタッフ自身も、その土地、その店らしく変わらなければいけないというのが私たちの考えです。

一般的にアパレルブランドでは、そのブランドらしいスタイリングというものがあると思います。しかし、ただそれを体現するだけではダメ。

その店舗があるエリアにいらっしゃる方の好きな服装・メイク、実際に店舗に足を運んでくださるお客さまの好みなどを研究し、スタッフ自らそのスタイルを取り入れていきます。自分たちのスタイルをその土地のお客さまに寄せていくことで、親しみを持ってもらえるようにするのです。

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では、どうやってお客さまの好みや傾向を把握するのか。これは「自分の足で稼ぐ」のが一番の近道です。

自分が働いている店舗の近くで道行く人のファッションやメイク、その人がまとっている雰囲気を観察してみるといいですよ。私も、新店舗を立ち上げる時などは特に、何時間も何日間もかけて近隣を視察して、それを店舗運営に生かします。

お客さまが「来店しよう」と思える店舗であるためには、スタッフの外見・雰囲気に至るまで、店舗ごとに変えるくらいの歩み寄りが必要だと考えています。

秘策2:お客さまへのファーストアプローチは“一言”だけに止めよ

「買ってもらいたい」「何か話さなきゃ」と思うあまり、お客さまにいきなり商品紹介を長々してしまった経験はありませんか?

でも、それでは逆効果。まだ「詳しく聞きたい」と思っていない人に、必要とされていない話をしてしまうと、言いたいことが伝わらないばかりか、悪い印象しか与えません。

つい話したくなる気持ちをぐっと堪えて、「ファーストアプローチは短く」を意識することが大事です。

声掛けの内容は、「よければ鏡もご利用ください」「お手に取ってご覧くださいね」などの簡単な一言で十分。お客さまが、商品に手を触れて興味をお持ちになっている様子が見てとれたら、そこから会話をスタートさせましょう。

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接客の中で「会話を弾ませることが大事だ」と考えている販売職の方は多いかもしれませんが、実は、会話が始まる前のファーストアプローチの時点で、お客さまは「この人から買うか、買わないか」を決めているケースもよくあるものです。

最初に嫌な気分になれば、物を買う意欲は湧きません。親しみを込めて、でも、決してくどくなく。そんな一言のファーストアプローチで、お客さまのショッピングモードをオンにしましょう。

秘策3:「暑いですね」は「天気がいいですね」へ変換。声掛けは全て“ポジティブワード”に翻訳せよ

次に、お客さまへの声掛けですが、私の担当する店舗ではスタッフ皆で「ポジティブなワード」を使うことにこだわっています。

例えば、「今日暑いですね~」と言われるのと、「今日はすごくお天気がいいですね」と言われるのと、どちらが前向きな印象を受けますか?

同じことを指して言っているとしても、後者の方が気持ち良く、前向きな感じがしますよね。 ちょっとした言い方の違いかもしれませんが、お客さまが受ける印象は大違い。

お客さまがお帰りになる際、「このお店に来たら、何だか明るい気持ちになれたな」という記憶が残ることが大事です。

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この、ポジティブワードへの言い換えは、スタッフ同士でも意識すると、だんだん出来るようになっていきますよ。手始めに、スタッフ同士でコミュニケーションを取るときに、「この声掛け良かったよ」「この言葉遣い、いいね」と、お互いのワードチョイスについて褒め合うようにしてみてください。

こうした声掛けがしやすくなるように、日頃からスタッフ同士で自分のサクセスストーリーを共有し合う取り組みをするのもおすすめです。

私の担当店舗では、接客で成功したときのこと、お客さまに感謝していただけたことを、“謙遜なし”でチームにシェアすることを習慣化しています。すると、ワードチョイスも店舗全体の雰囲気も、だんだん明るく前向きなものになっていきますよ。

秘策4:お客さまへの質問は、「重ねる」のではなく「深める」

お客さまが商品に興味を持ってくださったら、販売員はその商品の説明をしますよね。しかし、ただ単に商品紹介をするだけではお客さまの心は動きません。

そこでまずは、お客さまの本当のニーズを探ることが大事。なぜお客さまにこの商品が必要なのか、買っていただく必要があるのか、まずは確認していきましょう。

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例えば、「お仕事帰りですか?」という質問に対してイエスが返ってきたら、「何のお仕事をされているんですか?」と少し詳しく聞いてみる。さらに「座り仕事の時間が長いのでは?」など、購買ニーズとなる情報を深めていきます。そこまで聞ければ、「同じ姿勢が続くと、ランジェリーの締め付けが気になりませんか?」と、パーソナルなニーズを引き出しやすくなるのです。

NGなのは、質問を「広げていく」こと。「お仕事は何されていますか?」「お休みはどうお過ごしですか?」「この後ご予定はありますか?」など、関連性のない質問を並べてしまうことです。

上記のような質問の重ね方だと、お客さまのニーズにたどり着けないばかりか、何のために質問されているのかが分からずお客さまに不快感を与えることにもつながります。

EC時代に実店舗が持つ役割は“体験”そのもの

ここまで、販売スタッフの接客シーンにフォーカスして、店舗の売上を伸ばす方法についてお話ししてきましたが、いかがでしたか?

今は、ECサイトで簡単に物が買える時代です。だからといって、その変化を恐れる必要なんて全くない。なぜなら、ブランドのファン形成するという目的は、ECサイトも店舗も同じだからです。

一方で、「体験することの満足感」が得られることが、店舗ならではの魅力です。

商品への満足感は、ネットショップでの買い物でも感じられます。だからこそ、 「プロのアドバイスでいい買い物ができた」「楽しい会話で気分が晴れた」などの体験を通じて、お支払い時に「商品を購入する以上の満足」を感じていただくことが、店舗に求められる付加価値ではないでしょうか。

必ず1つ以上「店舗ならではの体験」をお客さまに提供すること。今回ご紹介した秘策は、そのための心掛けの一部です。私たちはこれからも、接客力の向上を続けていきたいと思います。

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取材・文/上野真理子 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER) 編集/栗原千明・秋元祐香里