「生理用品を選ぶことは、主体的に生きること」BLAST ・石井リナが吸水ショーツ『Nagi』を開発した理由
女性にとって、生理はあまりにも身近な存在。それなのに私たちは生理用品を“選ぶ”ことを、ちゃんとしてきただろうか? そもそも、選ぶに足る選択肢は十分だっただろうか……?
そんな問いを投げかけるのは、女性向けエンパワーメントメディア『BLAST』を運営する石井リナさん。女性が主体的に生きられる社会を目指し、フェミニズムに関する発信を続けている。5月28日に、生理用品ブランド『Nagi』を発表したばかりだ。
「女性のエンパワメントは私のミッション」と語る石井さんに、生理用品の開発に挑戦した理由を聞いた。
「日本は先進国じゃなかったの……?」ジェンダーギャップ指数の衝撃
フェミニズムの問題に興味を持つようになったのは、日本のジェンダーギャップ指数を知ったことがきっかけです。新卒で入社したIT広告代理店ではSNSマーケティングを担当しており、私はSNS上の企業のコミュニケーションを常にウォッチしていました。
2016~2017年になると、海外ではダイバーシティやフェミニズムに関する発信が目立つようになりました。ところが、日本にそうした流れがやってきたのはだいぶ後になってからのこと。海外とのギャップを感じる中で、日本のジェンダーギャップ指数が144カ国中114位(2017年当時)と、先進国で最下位の水準にあることを知りました。
その時はもう……本当にびっくりしましたね。ずっと当たり前のように日本が先進国だと思って過ごしてきたので、「今まで信じていた世の中は何だったんだろう?」と大きなショックを受けました。
でも思い返してみると、「あれも男女差別だったな」とか「ジェンダーギャップのせいでこういう社会構造になっているんだ」と、自分の中でスルスルと紐解けることがありました。
「日本のジェンダーギャップについて気付いていない女性は多く、もっと女性が自分の意思で選択できる社会をつくらなければいけない」。そんな思いから2018年に起業し、女性向けエンパワーメントメディア『BLAST』の運営を始めました。
私たちは化粧品を選ぶようには、生理用品を選んでいない
女性をエンパワーする方法として、最初にメディア・プロダクト・コミュニティの3軸を考え、まずは自分たちの置かれている状況や新たな選択肢を「知る」ことを促すメディア事業を始めました。
そして単に「知る」だけでなく、プロダクトを通じてライフスタイルに寄り添い、物理的にサポートしたいと思い、今回新たに生理用品ブランドを立ち上げました。
確かに日本の生理用品は、品質は良いものが多いですし、簡単に手に入ります。しかし、そもそもプロダクトの種類が少ないために、日本では限られた手段でしか生理と向き合うことができませんでした。
例えば海外には、「月経ディスク」といって、膣の中にゴム製のリングを入れ込むことで、生理中でも水泳やセックスができるというプロダクトがあります。低用量ピルだって日本では高いですし、あまり普及してないですよね。
日本の女性は自分に合う生理用品をもっと積極的に選択してもいいはず。加えて、デザイン性についても諦めていることは多いと思います。生理は毎月くるにも関わらず、化粧品を選ぶようにワクワクしながら選んではいないですよね。
もちろん、私たちが作ったプロダクトは生理の悩みを解決するものだと思っていますが、生理をもっと身近なものに、ポジティブなものに変換したいという思いもありました。そんな思いから開発したのが、、吸水ショーツ『Nagi』です。
私は紙ナプキンのおむつのような使用感が苦手だったので、初めて吸水ショーツを使ったときは本当に感動しました。生理中に生理を忘れられるような感覚がありました。実際に『Nagi』を使ったモニターの方からは、「紙ナプキンには戻れません」「想像以上に吸収するのでこれだけで大丈夫でした」といった声が届いています。
体の問題なので『Nagi』が合わない方もいるとは思います。でも、それでいいんです。私たちの思いは、『Nagi』をきっかけに自身の生理や体について考えてもらうこと。そして、身近な問題に目を向けてもらうことにあります。
例えば、日本ではアフターピルのオンライン処方はかなり限定的です。これらを推し進める場所に女性の姿はほとんどありません。女性の体のことなのに、です。
こうした現状を見ても、ジェンダーギャップが背景にありますよね。「おかしいな」と感じたときに声をあげる女性たちが増えれば、社会を変えることができるかもしれません。
慣れ親しんだ紙ナプキン以外の生理用品を使うことに、抵抗のある人はいると思います。でも、こうしたプロダクトの存在を知って、自身に合うものを考えるきっかけになれば、女性が自分の人生を主体的に生きるきっかけになると考えています。
自分の体をコントロールすることは、自分の人生をコントロールすることにつながっているんです。
ミッションに共感できる会社で働くことで、自分自身をエンパワーできる
私は今の仕事が好きで、幸せだと感じています。でもフェミニズムの問題は耳に入るたびに落ち込みますし、悔しくて涙を流すこともあります。
特に政府のコロナ危機への対応には、経営者として以上に、一個人として強い焦りを覚えました。こんなにも国民一人一人が大切にされない国なんだと。
給付金を世帯主に配ってしまえという発想や、最初に性風俗業で働く人を給付金の対象外にしたことも、あり得ないですよね。日本のジェンダーギャップ指数は特に政治部門の順位が低くて、後ろから10番目の144位(2019年)です。それが如実に現れていると思いました。
でも、政治の問題が広く知られることによって、SNSでの抗議デモなどのアクションが生まれましたよね。私もコロナ危機で困っているシングルマザーと子どもを支援する「ひとりじゃないよPJ」に賛同しましたが、今回いろいろな問題が噴出する中で、何か行動を起こさなくてはと感じた人も多いのではないでしょうか。
在宅の時間が増えた今、やるべき仕事は何か、多くの人が悩んでいると聞きました。やりたいことがまだ見つかっていない方は、共感する人を応援したり、ミッションに共感できる会社で働いたりするのもいいと思います。お互いに強くつながれるコミュニティに所属することは、自分自身をエンパワーすることにもつながります。
私自身の「女性のエンパワメント」というミッションは、日本のジェンダーギャップ指数が大幅に改善しない限り、変わることはないと思います。
でも正直、「日本での生活にはもう見切りをつけた方がいいんじゃないか」なんて話を旦那さんとよくするんです。それでも日本で活動している理由は……何でしょうね(笑)
やっぱり、ここまで築いてきたコミュティを置いていくわけにはいかないですし、生まれ育った日本に対して誇りを持ちたいと思っています。そういう勝手な“使命感”が、私を動かしているからだと思います。
取材・文/一本麻衣 編集/天野夏海 写真/三澤亮介
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