妊娠中の昇進打診、突然訪れた社長就任ーーIBM傘下社長・井上裕美さんを導いた「まずやってみる精神」
人生100年時代。年齢や常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性たちの姿から、自分らしく働き続ける秘訣を学ぼう
ここ数年「女性活躍」がしきりに叫ばれているけれど、国内の女性社長比率はいまだ1割以下(出典:帝国データバンク)。中間管理職から経営層まで、指導的立場に就く女性の少なさは日本の社会課題の一つだという認識が広がっている。
そんな中、2020年7月に誕生した日本アイ・ビー・エムデジタルサービス(以下、IJDS)の社長に、当時39歳だった井上裕美さんが就任。二人の子どもを育てる母でもあり、新しい時代のリーダーを象徴する存在として話題を呼んだ。

日本アイ・ビー・エムデジタルサービス
代表取締役社長
井上裕美さん
2003年、日本アイ・ビー・エム入社。システムエンジニアとして官公庁のシステム開発を担当後、さまざまな案件でプロジェクトマネジャーを務める。19年より、ガバメント・デリバリー・リーダー。20年より、日本アイ・ビー・エム グローバル・ビジネス・サービシーズのガバメント・インダストリー理事。20年7月、日本アイ・ビー・エムデジタルサービスの設立に伴い、代表取締役社長に就任。二人の娘を持つ母でもある
新卒で日本アイ・ビー・エム(以下、IBM)に入社して以来、20代からプロジェクトマネジャーを任されるなど重要なポストを務めてきた井上さんだが、「決して順風満帆なキャリアを歩んできたわけではない」と打ち明ける。
ライフステージの変化とともに訪れるキャリアの壁を、井上さんはどのように乗り越えてきたのだろうか。
妊娠中に昇進の打診。「やります」がすぐに言えなかった
IBM社長の山口(明夫氏)から「DX推進のコンサルティングや技術支援を行う新会社を立ち上げる」と聞いたのは、急に訪れたコロナ禍で日本中の企業や組織がデジタル化の対応に追われていた時期でした。
「あなたに社長を任せたい」と言われた時は、予想外のことに驚きましたが、それもほんの一瞬。すぐに「ぜひやらせてください」と答えました。
就任当時は39歳だったのですが、メディアでは「若手の女性社長が誕生した」と年齢・性別に注目されて報じられることも多くて。それが、私にとってはすごく意外でした。私自身は、自分の年齢やジェンダーをキャリアと結び付けて考えたことがなかったからです。
こういうマインドがつくられたのは、IBMのおかげかもしれません。IBMでは年齢や性別に関係なくグローバルな環境でチャレンジの機会が与えられるので、周囲から属性で決め付けられたり、行動を制限されることがなかったのです。

しかし、そんな私でも過去には責任あるポジションのオファーに対して尻込みした経験があります。特に悩んだのは、今から約10年前。第一子を妊娠している際に、昇進の打診を受けた時でした。
初めての出産に、初めての産休・育休。復帰後の自分の姿がイメージできない中で昇進してもいいものかと自信が持てずにいたのです。
そこで上司に相談したところ、「何が不安で、何が問題なの?」と聞き返されました。そう言われてみると、確かに私にもよく分からなかったんですよね。
ただ「何となく不安だ」と正直に伝えたら、「やってみないと分からないじゃない? やってみて困ったことがあれば、その時に改善策を考えればいいだけだよ」と言ってくれました。その言葉で、肩の荷が降りたんです。
それからは試行錯誤の連続で、成功もあれば失敗もありました。ただ、チャレンジした結果「やればできるものだな」と思えた。これは私にとって大きな糧になりました。
「やってみないと分からない」はどんなポジションでも同じ
実は、第二子の妊娠中にも昇進を告げられたんですよ。ですが、一度目の経験があったので「今度も大丈夫かな」とこの時は迷うことなく引き受けました。

でも、子育て中は時間の制約があるのも事実。子どもが二人になるとなおさら大変で、同僚に自分の仕事のサポートや代わりをお願いせざるを得ないシーンも増えました。それがいつももどかしくて。
すると、私が申し訳無さそうにしていたからか、いっぱいいっぱいに見えたのか、メンバーやお客さまから「もっと周囲に頼った方がいいですよ」というフィードバックを同時期にもらったんです。
それをきっかけに、「そうか、自分一人で何でも完璧にやろうとしなくていいんだ」と吹っ切ることができました。メンバーの力を信じて、チームで成果を上げる方法を真剣に考えるようになったのもこの頃からです。
漠然とした不安にとらわれないこと。自分一人で抱え込まないこと。そう決めてからは、より一層「まずはやってみよう」「やってみればなんとかなるさ」と思えるようになりました。社長就任の話に「やります」と即答できたのも、そのおかげです。
もちろん、数千人の社員を束ねるトップになるということは、これまでに経験したことのないくらい大変なこと。責任の重さも感じています。
ただ、どんなポジションの仕事であれ、やってみないとどうなるかは分からない。その点は、これまでのチャレンジと同じだなと思っています。

最近では20代~30代の女性たちから、将来のキャリアについて相談を受ける機会が増えました。
「いずれ結婚して子どもを産みたい」という人もいれば、まだ分からないという人もいます。具体的には何も起こっていないのに、漠然とした不安だけがある。彼女たちには、かつての私と重なる部分がたくさんあります。
時を経ても女性たちの悩みが変わっていないということは、どれだけ時代が進んでも、不安が消えることはないのでしょう。保育施設が増え、国や企業の子育て支援策が充実しても、「何となく不安」という感覚は残り続けるのだと思います。
ですが、周囲を見渡せば、こうした不安を「まずはやってみよう」というマインドで乗り越えてきた先輩たちはたくさんいるもの。私も、その一人です。
挑戦する気持ちは“自分への自信”から生まれる
人生100年時代、この「まずはやってみる」精神がとても重要ですね。環境が変わり、自分の立場やポジションも変わっていく中で幸せに働き続けるポイントは、恐れずチャレンジを続けることです。
では、どうすればチャレンジに対して前向きになれるのか。大切なことは、自分に自信を持つことだと思います。

日本人は、良く言うととても慎ましやか。一方で、「良い点を積極的には発信しない」という特徴もありますね。その分、自分に自信を持っていいところにも気付きにくくなっています。
海外の場合、議論の場などでも「君のここが良いね」といったポジティブなやりとりが多く交わされるんですよ。私もそういう言葉をもらって、「私のいいところって、こんなところなんだ」と気付かされたことが幾度もあります。
ですから私自身も、その人の強み、いいところ、個性を明確に言葉にしてどんどん社員に伝えていきたい。自分に自信を持ち、挑戦する人を増やしたいと思っています。
そして、私自身もチャレンジする人であり続けたい。IJDSを日本市場におけるデジタル変革の中核を担う会社にすることが、私の新たな使命です。
IJDSには、これまでの実績で培った現場力という強みがある。それを生かし、金融・製造・流通・公共など、あらゆる業界のお客さまが持続的なデジタル変革を実現できるように支援していきます。
駆け出し経営者として歩み出した今、新しく学ぶことばかり。今後も、大なり小なりぶつかる壁もあるでしょう。でも、「まずはやってみる」の精神があるし、優秀な仲間たちがいるから大丈夫。いつだって、最後には乗り越えていけますから。
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取材・文/塚田有香 撮影/竹井俊晴
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