「部下にいきなり成果を求める」はNG!管理職1年生が真っ先にやるべきたった一つのこと

アマゾン流でマネジメントの悩みを解決!
「管理職1年目の壁」突破法

元アマゾン ジャパン管理職、『amazonのすごいマネジメント』(宝島社)著者の二人が、管理職1年目の女性たちの仕事の悩みに回答! アマゾン流のベストプラクティスを使い、「管理職一年目の壁」を乗り越えるヒント、マネジメントの仕事を楽しむ秘訣を提供していきます

管理職1年目の悩み

Aさん

もともと管理職になりたいとは思っていなかったのですが、現在マネジメントの仕事を任されています。

自分が課の中でトップの業務スキルを持っているとも思えず、私が組織のマネジメントをする立場にいていいのか……と自信が持てずにいます。

マネジャーとして自分が何をすべきか分からず不安です。
(マネジャー歴半年/31歳/営業系職種:Aさん)

太田理加さん

【回答者プロフィール】
太田理加さん

アマゾン ジャパンに入社後、約13年間、新規ビジネス立案・立ち上げを担当し、立ち上げたビジネスの事業責任者を歴任。新規ビジネスをつくるということは、そのビジネスを実行する組織を一からつくること。よって、採用・人材育成・組織づくりに尽力。リーダーシップにフォーカスした幹部育成にも力を入れ、チームでイノベーションを起こす。2020年3月にaLLHANz合同会社共同代表に就任

太田さんからの回答
管理職抜擢には必ず理由がある。あなたが果たすべき役割を考えて

Aさんのお悩み、とてもよく分かります。管理職になりたいわけでもないし、スキルだって自信があるわけでもない。それでも、Aさんが管理職になったのには、必ず何らかの理由があります。

Aさんの上司もしくは会社は、Aさんには管理職の資質があると判断したからそのポジションをオファーしているはず。もしかすると、入社年次や女性管理職をつくりたいという理由で決まったのかもしれませんが、それも立派な資質です。

せっかくならその資質を生かしてチームメンバーの目標達成・成長に貢献し、自分自身も成長したいですよね。

「管理職1年目の壁」突破法

私自身も、管理職としてどうやってスキルを向上させたらいいのかと、悩んだことがあります。

私は、元々マーケティングやプランニングが主なキャリアでしたが、アマゾンに勤めていた時に上司から「理加さん、今後のあなたのキャリアのために、ヘルス&ビューティーのバイヤーチームのマネージャーをやってください」と突然言われたことがありました。

ヘルス&ビューティーという業界も、バイヤーという職種も初めてで、しかもそのマネージャーになるということにとても驚きました。

もちろん、マネージャーになるからには、業界に対する深い理解や、バイヤーという職種のスキルも得なければなりません。しかし、チームメンバーのバイヤーの皆の方が、よっぽどそういったスキルは強かったのです。

そんな状況で、私にマネージャーが務まるのだろうか……と悩んだものです。

そこで考えたのは、そもそも、管理職とはどんな仕事なのか、私には管理職として何が求められているのだろうか、ということです。

皆さんは、管理職はリーダーなので、強いリーダーシップを持ってチームを率いなければならないと思っていませんか?

もちろん、管理職はリーダーです。しかし、アマゾンでは、管理職だけが、リーダーというわけではなく、「社員全員がリーダーである」という考え方がありました。

この考え方は、アマゾンのサイトでも公開されているので、もし興味があれば、読んでみてください。

アマゾンでは、この14項目で構成されるリーダーの行動指針(アメリカでは16項目ありますが、日本のサイトではまだ反映されておりません)に従い行動することが期待されています。

では、全社員がリーダーとして行動することを求められているアマゾンにおいて、管理職の役割とは何なのか。

少し堅い言い方をすると、管理職は「自分のチームで行う業務が、会社のビジョン・ミッションに沿うことを実現し、その達成のためにチーム全員のスキルやリーダーシップがフルに発揮される状態を実現する人」のこと。

「管理職1年目の壁」突破法

具体的に私の例で説明します。

未経験の業界・職種でマネージャーになったのは、アマゾンに在籍していた年数がチームのメンバーよりも長く、アマゾンのビジョン・ミッション、そしてビジネスモデルをより理解していたからでした。

それが理由であれば、チームを率いて結果を出していくには、バイヤーとしての高いスキルをつけるよりも、アマゾンの「地球上で最もお客さまを大事にする会社・インターネット上でお客さまが探しているものは、全て品ぞろえする」というビジョン・ミッションを社内外にコミュニケーションしていき、自身のチームだけでなく、取引先などのステークホルダー全員を巻き込んでそれを実践していくことが大事だと考えました。

そして、バイヤーとしてスキルの高いチームメンバーが、力を最大限に発揮し、自主性を持って働けるような体制をつくっていくことが私の仕事。

ただ、これが管理職としての私の仕事だとすぐ気づけたわけではありませんでした。

経験のない私は、当初マネージャーである事にとても引け目を感じており、プレーイングマネージャーとなって、まずバイヤーの仕事をして結果を出した方がいいのか……とも考えました。

しかし、チームメンバーとのコミュニケーションを通して、皆が私に何を期待しているかを理解し、自分の役割を認識し、管理職としての仕事にフォーカスすることが、メンバーのためにも会社のためにもなる、と気づいたのでした。

繰り返しになりますが、マネージャーの仕事は、チームの誰よりも営業ができる、といったことではありません。チーム全員が、それぞれの力を発揮できるようにして、会社のゴールを達成することなのです。

ですので、いいマネージャーとは、それができる人。そして、チームメンバーの力を引き上げ、強いチームをつくることができる人なのです。

まずは部下が安心して働ける環境をつくること

では、そのために何をすることが必要なのか。また、部下は、何があれば力を発揮できるのでしょうか。

アマゾンに勤務している時に、管理職研修に参加する機会がありました。その際、「あなたの部下は何を一番大事だと考え、求めていますか?」と質問されました。

私は「モチベーションが大事なので、仕事を任せてくれること」かな、と思っていたのですが、答えはNo。その研修のトレーナーは、「安心・安全」が何より大事だと明言しました。

「管理職1年目の壁」突破法

部下は、「安心して発言できる環境」「失敗を許してくれる環境」「何かあったときに上司が守ってくれる環境」を求めていて、「安心や安全がなければ、部下は高い目標に向かって自ら動いていくことができない」とのこと。

考えてみれば、当たり前なのですが、目からうろこでした。コロナ禍の今、本当によく聞く言葉ですし、やはり人間は安心・安全がベースです。それは仕事上でも同じなのです。

目標を達成しろというだけで、サポートしてくれず、結果がダメだったら注意される、トラブルがあっても助けてくれない、そのような環境では、挑戦しようという気持ちはなくなっていきます。

「安心・安全な環境」がベースにあって初めて、上司と部下の信頼関係は築かれます。その信頼関係の上で仕事に挑戦するからこそ部下も力を発揮し、成長していくことができるのです。

なので、まずは部下にとって安心・安全な環境(=発言や失敗・挑戦が許される環境)をつくっていきましょう。

スーパースターがいなくても、スーパーチームはつくれる

マネージャーの仕事の醍醐味は、一人では達成できないような大きな事を、チームだと達成することができる、という事です。

ビジネスの例ではないですが、日本の女子バスケットボールチームのオリンピックでの活躍が良い例です。

トム・ホーバス監督が「このチームには、スーパースターはないないけど、スーパーチームだよ」と言った通り、エースと言われるようなメンバーがいない中で銀メダルを獲得しました。

ビジネスでもそれと全く同じことができるのです。

Aさんのチームのメンバーもそれぞれ得意不得意があるでしょう。それぞれの得意なところを伸ばし、不得意をチーム全体で補って行けば、きっと強いチームをつくれます。

管理職スキルの最重要項目は、部下の育成スキル

Aさんは、管理職であることにまだ自信を持てずにいるかもしれませんね。ある意味、それは当然のこと。なぜなら、管理職とプレーヤーでは違うスキルが必要だからです。

管理職1年目は、新入社員1年目と同じ状態。でも、管理職ならではの必要なスキルはトレーニングしていけば、必ず習得できます。では、どんなスキルを習得すれば良いのでしょうか?

「管理職1年目の壁」突破法

管理職としてのスキルにはコミュニケーションスキルや判断力・思考力などいろいろありますが、一番大事なのは、部下の育成です。育成する力をつけるには、まず目標を設定するところから始まります。

Aさん自身の年間目標に、部下の育成を入れてみてください。

具体的には、誰に対しては何をして、いつまでにどういう状態にする……という部下一人一人の育成計画を数カ月~年間単位で立てます。そして、その計画を実行していき、計画の進捗管理も行っていきましょう。

業務を行うのと同様にPDCAを回してみてほしいと思います。やってみたら修正が必要なこともあるでしょうし、これは成功したな、と自分で思えることも出てくるはず。

その経験こそが、管理職としての自分への自信につながっていくし、スキルになっていきます。そして、何より、部下の成長は、上司の成長にもなるのです。

ぜひ、安心・安全な環境づくり、そして、部下の育成にフォーカスしてみてください。きっと強いチームができるし、Aさん自身も成長できます。You can make it!

書籍紹介

『amazonのすごいマネジメント』
『amazonのすごいマネジメント』(宝島社)
「なかなかチームで結果を出せない」「部下が無難な数値目標ばかり出してくる」など、管理職の方々のチーム運営に関する悩みを、ジェフ・ベゾスが生み出したアマゾン流マネジメントで一挙解決! 黎明期のアマゾン ジャパンに入社し、長らく新規ビジネスの立案やブランディングを担当し、現在は起業家として活躍する太田理加、小西みさをによるアマゾン流マネジメントの極意を紹介。