コロナショックで仕事が激減「職場に戻りたいのに戻れなかった」 国際線CAを支えたWebデザイナーの副業

「ついに、この仕事を辞める時が来たのかもしれない」

2020年3月、北欧系航空会社で国際線のキャビンアテンダント(以下、CA)として働く三橋由美さんは、不安の最中にいた。

コロナ禍で大きな打撃を受けた航空業界。世界中でフライト数が激減し、当時、第二子出産による育休中だった三橋さんは復職時期の延期を迫られた。

コロナショックで仕事が激減「職場に戻りたいのに戻れなかった」 国際線CAを支えたWebデザイナーの副業

(画像はイメージです)

21年10月、ようやく現場への復帰がかなったが、当初の復帰予定より一年半も遅れていた。

いつ職場に戻れるのか……そんな不安を抱えながら過ごした二度目の育休期間。彼女を支えたのは、副業として取り組んだWebデザイナーの仕事だったという。

Webデザインは本業とは全く共通点のない仕事のように思えるが、「CAとしての経験が役立っている」と三橋さん。

さらに、「Webデザイナーの副業を始めたことで、CAの仕事がもっと好きになった」と続ける。

一般的には、本業のスキルを生かした副業で副収入を得る人が多い。では、「本業とかけ離れた仕事」を副業にすることで得られるものとは一体何なのだろうか。

三橋さんが実感している自分自身の変化と、キャリアへの影響を聞いた。

コロナショックで仕事が激減「職場に戻りたいのに戻れなかった」 国際線CAを支えたWebデザイナーの副業

【プロフィール】
北欧系航空会社客室乗務員
Web デザイナー デジタルハリウッド STUDIO千葉トレーナー
三橋 由美(みつはしゆみ)さん

岩手県一関市出身。大学卒業後、オーストリアの航空会社に国際線のCAとして勤務。北欧系航空会社に転職し、引き続きCAとして活躍。二度目の育休の際に『デジタルハリウッドSTUDIO』のWebデザイナー専攻 主婦・ママクラスに通いWebデザイナーのスキルを習得、現在はCAとWebデザイナーのパラレルワークを実現している

家族に勧められるまま、未知のWebデザインの世界へ

大学を卒業してすぐ、オーストリアの航空会社に就職。もう10年以上外資系航空会社の国際線CAとして働いています。

今の勤め先は北欧系航空会社。フィンランドでは、ダブルワークをしていて当たり前というカルチャーがあり、会社員の副業も一般的です。

もちろん、CAも例外ではありません。私の周りにも、自分のお店を経営している人や、看護師資格を生かして副業をしている人など、さまざまなCAがいます。

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国際線のCAは、意外と余暇の時間があるんですよ。夜勤はあるし、土日祝日も関係ない仕事ですが、フライトは多くても週に1往復のみ。月に3~4往復しかできません。放射線量などの兼ね合いで、機内で働いてもよい頻度が法律で決まっているからです。

それに、外資の航空会社だとCAが地上で業務を行うこともありません。ですから、空いた時間で副業をするCAが多いんです。

私がWebデザイナーの仕事を副業にするようになったきっかけは、二度目の育休に入った時にオンラインでも学べる『デジタルハリウッドSTUDIO』の主婦・ママクラスを受講したこと。

育休中に何か新しいことを学ぼうとしていた私に、夫が「Webデザイナーなんて向いているんじゃない?」と勧めてくれて、説明会に行ってみたんです。

当時はWebやITのことなんて何も知らないし、本当は興味も全くなかった(笑)。でも、いざやってみたら楽しくなってしまって。

私、昔から編み物が好きなんですけど、Webデザインには似たところがあるなと思うんです。一つ一つ毛糸を編み込んでいくように、Webも仕上がりに向けて黙々と作り上げていくもの。

その工程が好きだし、時間を忘れてしまうくらい夢中になってしまうんですよね。

「40歳までにCAは辞めなきゃ」と思い込んでいた

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Webデザインを学ぼうと思った背景には、キャリアに対する漠然とした不安がありました。コロナ禍に関わらず、もともと「40歳くらいまでにはCAを辞めなきゃいけない」って思っていたんですよ。

というのも、国際線のCAを続けるなら、1回のフライトで3日くらい家を空けることになるので「子どもがいたらそういう働き方はよくないよな」「お母さんらしくないよな」なんて以前の私は考えていたんです。

それに、機内での仕事はルーティンになりがちな面も。外資だと基本的にポジションアップもないので、キャリアを積めば管理職になれるということもなく、「このままこの仕事を続けていいのか」という気持ちが膨らんでいたんです。

Webデザインに行き着く前にも、実はいろんな資格取得に手を出してきました。ベビーマッサージとか、詩吟、ヨガ、ファイナンシャル・プランナー、英語教育とか……。

でも、今振り返るといずれも浪費のようなものでした。「人生の保険」を手当たり次第求めたけれど、どれも本気になれないから仕事にもつながらず、ただ学んで終わっちゃったという感じ。

でも、Webデザインは違ったんです。先ほどお話ししたように、作業工程自体も楽しいと思えたし、何より自分のスキルが「社会の役に立つ」ということを実感できたので。

実は私、コロナ禍で困っている飲食店の皆さんのために自分にも何かできないかと思って、飲食店向けのテイクアウトサイトを作ったんです。育休復帰が延期になって時間だけはあったもので。

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それをきっかけに、「うちのサイトも作ってくれない?」っていう風に声を掛けていただけることが増えて、少しずつお仕事をいただけるようになったんです。

実績が一つできると、次の仕事を呼び込んで……というふうに、つながっていきました。

「本業とかけ離れた副業」が気づかせてくれたCAとしての成長

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Webデザインの仕事を個人で受けるようになって気づいたのは、CAの仕事と全く関係のない仕事のように見えて、実はCAとしてつちかったスキルが存分に生きるということ。これは、私自身もすごく意外なことでした。

例えば、コミュニケーションスキル。これは個人で仕事を受ける上でも、デザイナーとして働く上でも、絶対になくてはならないスキルです。

Webデザインというと、パソコンでひたすら作業をするイメージを持っている人も多いかもしれませんが、発注者がいる仕事であれば、どんな目的があるのか、どんなイメージで仕上げたいのか、認識合わせをしながら制作を進めていくが大事ですよね。

そして、Webサイトには必ずユーザーがいるわけなので、使う人の使いやすさや好みも反映しなければいけない。CAの仕事をしてきたことで「人の要望を察する力」をしっかり磨いてきましたから、そこに壁を感じることなく仕事ができました。

実は私、こんなに成長していたんだ」そう気付かされましたね。

自分がルーティンだと思っていた機内での業務も、実はちゃんと経験・知識として蓄積されていて、どこへ行っても使える立派なポータブルスキルになっていた。これは、副業をしたからこそ発見できたことです。

それに、自分がいかにCAの仕事が好きか、改めて認識することができました。Webデザインの仕事はすごく楽しいんですけど、これ一本で働くことを想像すると性格的に自分には無理だなって思ったのも事実。

私はもっと外に出たいし、海外にも行って、たくさんの方と直接触れ合いながら働きたい。まさにCAの仕事は、自分が働く上で大事にしたいことや欠かせないことがぎゅっとつまった仕事だと気づきました。

あんなに「このままでいいのか」「40歳までに辞めなきゃ」なんてキャリアについてもやもや考えていたけれど、そんなに悩む必要なんてなかったのかも。

今は、こうやって好きな仕事ができてちゃんと成長できているなんて、すごく幸せなことじゃないかってはっきり分かります。

本業でも副業でも、働く母のかっこいい背中を見せたい

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Webデザインの副業を始めて良かったことは、もう一つあります。それは、働く母の姿を子どもたちに間近で見せられるようになったこと。

CAの仕事はどうしても子どもたちの目に入らないので、ただ「お母さんが家にいない」っていう感じになってしまいがち。でも、Webデザインの仕事は自宅でできますから、仕事中の姿を見せられるんですよ。

この間テレビを見ていたら、あるママタレントさんが「仕事って楽しいんだよってことをわが子に見せたい」と言って難しい企画にチャレンジしていて、側にいてあげるだけが母親の役割じゃないよなと心を打たれました。

かつては、「お母さんが家にいないのは可哀想だからCAを辞めようか」って考えていたんですけど、そんなこと、そもそも家族の誰からも頼まれていなかったんですよ。ただ自分が「お母さんは家にいるべき」って思い込んでいただけで。

でも、一緒に過ごせる時間にちゃんと愛情を注いでさえいれば、仕事に一生懸命な母親だって素敵じゃないか、と。

好きな仕事をして人生も楽しむ。そういう母親の姿を子どもたちに見せていくことで、大人になることを楽しみにしてもらえるんじゃないかなと思っています。

もしも今のキャリアに悩んでいる人がいるなら、まずは私のようにまずは副業で、好きなことにチャレンジしてみるのはおすすめですね。

本業と全然関係ない仕事でもいい。自分が「楽しい」「好き」と思えることや「向いていること」に挑戦するのが、本業と両立していくポイントかなと思います。

そしていつか、副業ではなく、本業と変わらないほど打ち込める複業に変わるかもしれないし、新たなキャリアチェンジにつながるかもしれない。

その結果、私のように本業への愛が深まることもあるし、今まで気づけなかった自分の成長を知るきっかけになるかもしれない。きっと意味のある経験になるのではないでしょうか。

コロナショックで仕事が激減「職場に戻りたいのに戻れなかった」 国際線CAを支えたWebデザイナーの副業

取材・文/栗原千明(編集部)