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JUL/2020

「コロナ移住」を成功に導くポイントは?“移住者あるある”に陥らないための、たった一つの心構え

内閣府が行なった調査によれば、コロナ禍の影響を受けて、地方移住に関心を寄せる20代、30代が増えている。

リモートワークの浸透も後押しし、地方移住をよりリアルに考えられるようになった人も多いかもしれない。

コロナ移住
出典:新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査(内閣府、令和2年)

しかし、勢いで地方移住を決めてしまうと、「地域の人たちとうまく関われなくて、全然楽しめない……」なんてことになってしまうかも。

後悔しない移住生活を実現するためには、どんなことに気を付ければよいのだろうか。

2016年に東京から大分県竹田市に移住した小笠原順子さんは、以前は大手食品メーカーのキリンビール株式会社で働いていた。12年間同社に勤めた後、子育てのために家族で竹田市に移住することを決意。

現在は「一般社団法人ゆれる」を設立し、竹田市内に“牧場”をつくるプロジェクトを推進している。

竹田 移住 小笠原順子
【Profile】小笠原 順子さん
東京都出身。中央大学法学部卒業後、2004 年キリンビール株式会社に入社。営業職、企業ブランド戦略を担当。2016年退職後、大分県竹田市へ移住。地域おこし協力隊に就任。教育や地域の魅力発見、世代間交流の機会つくりを中心とした活動をスタート。オリジナルの体験型教室「タケハコ教室」や8ミリフィルムを市民から集め映画を制作する「竹8シネマプロジェクト」を実施。現在は、「一般社団法人ゆれる」を立ち上げ、代表理事を務める。馬を中心とした暮らし型のセラピーを行う牧場や児童デイサービスを立ち上げ、空き店舗を活用した映画館でフィルムの保存や活用も行なっていく2児の母

4年間の地方暮らしを経験して、小笠原さんは地方暮らしの素晴らしさを実感するとともに、「移住者は、悪気なく地域の人たちを傷付けてしまいがち」だと話す。

移住すると、どんな素晴らしいことが待っているのか。 そして移住者が地域の人たちとうまくやっていくためのポイントとは? 小笠原さんに豊かな移住生活を築くためのヒントを教えてもらった。

東京にいた時は、「地域のため」なんて考えたこともなかった

竹田 移住 小笠原順子

私は竹田市で地域おこし協力隊として3年間活動してきました。でも竹田に行くと決めた時は、地域活性化の仕事がしたいと思っていたわけではないんです。

「竹田に引っ越すのは、子育てのため」。初めはそう思っていました。

ところが地域の人と触れ合ううちに、「私も竹田を元気にすることを仕事にしたい」と思うようになったんです。なぜだと思いますか?

もう、一気に好きになってしまったんです。竹田で暮らす人たちのことを。

こんなに私と子どもたちを大事にしてくれて、元気をくれる。そして、こんなに豊かな生活をさせてもらえる。子育ても何も困ることがないし、地域の方と日々関わることでたくさんのエネルギーをもらえる……。

竹田の人たちへの感謝とともに、「皆さんが幸せになるように、少しでもできる事をしていきたい」という気持ちが、日に日に膨らんでいきました。

竹田 移住 小笠原順子

「地方で暮らすようになって、何が変わりましたか?」

移住に興味のある方からは、よくこんなことを聞かれます。その答えは、「何もかも」です。食べ物も暮らしも生活の風景も、全てが変わりました。

その中でも一番大きく変わったのは、私自身の「考え方」じゃないかなと思います。

東京に住んでいた時の私は、はっきり言って自分と家族の幸せしか考えていませんでした。

仕事も充実していたし、面白かった。でも、「将来こうなりたい」とか「こんな仕事がしたい」と思うことは一切なかったんです。今振り返ると、随分視野が狭かったように思います。

それが竹田に来て一変。「地域の人たちのために何ができるか」「子どもたちのために何ができるか」を考えるうちに、自分でもびっくりするぐらいやりたいことが溢れ出てきたんです。

不思議ですね。東京にいた時は「自分の住んでいる地域のために何かしたい」「自分の子ども以外の子どもたちのために何かしたい」なんて、これっぽっちも思わなかったのに(笑)

竹田 移住 小笠原順子

もう一つ大きく変わったのは、お金に対する考え方です。

東京にいると、何かとお金のことを考える機会って多いと思うんです。「この歳でいくら貯金がないとまずいんじゃないか」とか「子育てするのに十分な収入は……」とか。

そんな知りたくない情報がいつもネットのニュースで入り、お金のことを心配していました。

それが今は、「貯蓄なんか一円もいらないや」と思えるんですよ(笑)。将来起こるかどうか分からないことのために、悩んだり節約したりするなんてもったいないなって。

それよりも、困っている子どもたちや社会のために、「今」お金を使いたい。自分のためではないことにお金を使いたいと強く思うようになりました。

だから、地方って本当に面白いと思います。東京に生まれて、ずっと都会で暮らしてきた自分の考えがこんな風に180度変わってしまうなんて、全く想像していませんでしたからね。

「子どもたちのための馬の牧場」を竹田につくりたい

竹田 移住 小笠原順子

3年間の地域おこし協力隊の活動を終えた今、私は竹田に馬を中心とした“暮らし型のセラピー”を行う牧場をつくるプロジェクトを進めています。

立ち上げのきっかけは、地域おこし協力隊として子どものための体験型の教室や映画制作のプロジェクトを企画運営の活動をしていた時に、たまたま参加した湯布院の映画祭でホースセラピーの第一人者の方と知り合ったこと。

その方から、「動物の力を取り入れたら、もっと子どもたちにとって意味のある活動ができるんじゃない?」と提案されたのです。

そういえば私も動物が大好きだったな、そんなこと全く忘れてたな、ってその時はっとしたんです。

竹田 移住 小笠原順子

当時、学校に通うのが難しい子どもたちが集まれるような居場所をつくりたいと思っていたので、そこに動物、特に馬がいることによって、もっと地域に貢献できるのでは……? それなら、竹田に馬の牧場をつくろう! と決意しました。

ただ、決意はしたものの、計画は具体的になかなか進みませんでした(笑)。一番苦労したのは、牧場をつくるために最も必要な場所探しです。「つくる」と決めてから場所が決まるまで2年半もかかってしまいました。

昔は暮らしの中に必ず動物がいて人間は動物と共に生きてきたのに、今は、地方であっても動物が近くにいることを拒否する傾向が強いんですね。

せっかく応援してくださる方が地域にいても、声の強い方が反対すると、「やっぱりやめておこう」と翻ってしまうことが続きました。

もう何箇所回ったか分からないぐらい、説明しては断られ、説明しては断られを繰り返し……。

そんな中、去年の冬にようやく、「自分たちの村にぜひ牧場をつくってほしい」と言ってくれる人たちに出会うことができました。

しかもその人たちは、私を口で応援するだけではなく、「誘致の会」を立ち上げて、私と反対者の間に入ってくださったんです。

竹田 移住 小笠原順子

すごいですよね。それは、私たちへの個人的な応援ではなく、地域の未来を思っての行動です。

東京にいた時の私だったら、そんな面倒くさそうな話には絶対に関わっていかなかったと思います(笑)

でも、誘致の会を立ち上げてくださった竹田の皆さんは違いました。この村が元気になるためには何かを変えないといけないと自覚している、自分たちの住む地域を愛している人たちだったんです。

さらに、この地域の方が主体的に関わってくださるおかげで、当初の「牧場をつくり、そこに子ども達の居場所をつくる」という単純な計画から、地域の人たちと子どもたちが関わることで成長し、地域も農業や林業など、かつてここにあった馬との暮らしを取り戻すための村全体のプロジェクトに変化しました。

今年の夏頃には竹田に馬がやって来る予定です。「馬のいる暮らし」が竹田をどんな風に変えるのか、とても楽しみです。

都会目線の押し付けは、地域の人たちを“傷つける”

竹田 移住 小笠原順子

コロナの影響で地方移住を考える若い人が増えているそうですね。この間、牧場を一緒につくってくれる仲間をSNSで募集したのですが、福岡や東京に住んでいる方が何人も応募してきてくれました。

地方での暮らしは素晴らしいです。チャレンジする価値は大いにあります。でも、「これだけは守らないと、豊かな暮らしが送れなくなってしまう」と思うことがあります。

それは、地域の人たちの気持ちや暮らしの目線をとにかく大事にすること。

なぜそんな当たり前のことを言うのかというと、移住者は自分でも気付かぬうちに、地域に住んでいる人たちの気持ちを無視してしまうことがあるからです。

例えば、地域の人たちには届きにくい情報の流し方をしたり、なかなか出にくいような場所で勝手に集会を開催したりすれば、地域の人たちは「自分たちの知らないところで勝手に村のことが決められちゃったの?」と思いますよね。

そうすると、ここで暮らしてきた人たちはまるで存在を無視されたように感じてとても傷つきます。

まず思いや共感があって、それが重ならない限り、本当の意味でのいい町にならないですし、活動への応援や協力をしてもらえるはずがありません。

「このやり方がいいんじゃないか」「新しいことやりましょうよ」と提案すること自体は悪いことではありません。でもそれが、都会目線の押し付けになっていないか。ずっとここで生きてきた人たちがどう思うのか。

自分のやりたいことをやるよりも、地域の人たちの幸せを大切にする目線を失ってはいけないと思っています。

ただ難しいのは、移住者の人たちには、悪気がないということです。良かれと思ってやったことが、結果的に人を傷つけてしまうことがあります。

竹田 移住 小笠原順子

では、そうならないためにはどうすればいいのか。

私がこの4年間の生活で学んだのは、暮らしの中で自然な関わりを持つことの大切さです。

例えば、いつも温泉でお話する仲良しのおばちゃんは、私がどういう人かということを知らなくても、毎日温泉で会う子連れのお母さん、としてずっと仲良くしてくれます。

そういう「自分の職業や活動内容と全く関係のないところ」でも人とつながれると、見ているのは仕事や利害ではなく、その人そのもの。そうすると、自然と愛情が湧いてきて、相手を大切にしたいと思うようになるのではと感じています。

ただ、今都会で暮らしている人は、なかなか地域の人と気軽に会話する機会はないかもしれません。私も東京にいた頃はそうでした。

「そんな自分が移住して、地域の人たちと関係性をつくれるだろうか?」と不安に思ってしまう方も多いのではないかと思います。

でもね、安心してください。絶対大丈夫です!

ちょっと町を歩いているだけでも「こんにちは!」と声を掛けてくれる人がいたり、近所のおばちゃんは「干し椎茸いる? じゃあ、今夜温泉でね」とLINEを送ってくれたり(笑)。拒否さえしなければ、すぐに知り合いばかりになりますよ。

今地域の人と深く関われないのは、ご自身の問題ではなく、住んでいる場所の問題だと思います。だから心配は不要です。

地域を愛し、そして地域の人たちの気持ちを大切にする。豊かな自然と人間関係に恵まれた、最高の地方暮らしが待っていると信じていますし、地方に希望を感じてくれる人を応援していきたいです。

竹田 移住 小笠原順子

取材・文/一本麻衣 画像提供/川上信也さん、小笠原 順子さん

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