アマゾン流・管理職1年目から知っておきたい「仕事の優先順位」のつけ方
元アマゾン ジャパン管理職、『amazonのすごいマネジメント』(宝島社)著者の二人が、管理職1年目の女性たちの仕事の悩みに回答! アマゾン流のベストプラクティスを使い、「管理職一年目の壁」を乗り越えるヒント、マネジメントの仕事を楽しむ秘訣を提供していきます

管理職1年目の悩み
私が担当する部署は自社サービスの商品開発に関わる部署で、年間を通して忙しい部署です。
そのため、どこに・何から人的リソースを割くか、お金をかけるか、などの優先順位付けがとても大事でそれを判断しなければいけないのですが、いつも「これでいいのか」と自分の判断に自信がありません。
仕事の優先順位の判断方法について、自分の決断に自信を持つための方法が知りたいです。

【回答者プロフィール】
太田理加さん
アマゾン ジャパンに入社後、約13年間、新規ビジネス立案・立ち上げを担当し、立ち上げたビジネスの事業責任者を歴任。新規ビジネスをつくるということは、そのビジネスを実行する組織を一からつくること。よって、採用・人材育成・組織づくりに尽力。リーダーシップにフォーカスした幹部育成にも力を入れ、チームでイノベーションを起こす。2020年3月にaLLHANz合同会社共同代表に就任
太田さんからの回答:まずは「重要度」と「緊急度」の二軸でタスクを整理して
やるべきことが山積みの状態だと、考える時間すら惜しく、締切の期限が近いものから手をつけていきがち。私も同じような経験があります。
そんな時は、たとえ時間がかかってしまっても、仕事の棚卸しをして優先順位をつけたいですよね。
優先順位をつける方法には、「重要度」と「緊急度」のニ軸で考える方法があります。私も使っていますが、分かりやすく取り組みやすいのでおすすめです。
仕事を重要度と緊急度の高低で四つに分類し、その分類ごとに、優先度と対応の仕方を決めていきます。

最も優先度が高いのは、重要度と緊急度の両方高い右上の象限に振り分けた仕事です。
例えば、会社の業績にインパクトのある新しいサービスを作るプロジェクトや、大きな新規営業先の開拓など。言うまでもなく、真っ先にここに時間を割きます。
次に取り掛かるべきが、「重要度は低いけれど、締め切りがあるなど緊急度の高い」もの。上のグラフでいうと、左上の象限に振り分けられる仕事です。
例えば、日々のレポートや報告だけのミーティングなどがここに当てはまります。仕事の棚卸しをしてみると、ここに振り分けられる仕事が多いことに気づくかもしれません。
ただ、ここの仕事はなるべく時間をかけないようにすることが必要。出来るだけ自動化・テンプレート化をして、貴重なリソースを使わないようにしましょう。
ミーティングや週次報告などは、なんとなく「決まりだから」や「ずっとやっていたから」ということで続いているものもあるはず。本当に全て必要な仕事かどうかは、改めて見直してみてもいいかもしれませんね。
管理職であるFさんが現状の課題改善を目的に関係者と交渉すれば、その仕事をなくしたり、頻度を下げたりすることもできるかもしれません。効率化を徹底していきましょう。

その次に、「緊急度は低いけれど、重要度が高い」もの。例えば、中長期的なサービスの計画や、顧客ニーズが今後どうなっていくのか予測し、理解することなどがグラフの右下のところに振り分けられます。
ここの仕事は、緊急度の高い仕事に時間をとられて、手をつけられていない人も多いかもしれません。
でも、ここに振り分けられた仕事は、マネージャーにとっては大切な仕事一つです。スケジュール管理ツールをうまく使うなどして、時間を予め割り当てておくとよいと思います。
毎日少しずつ時間をとって取り組む、 もしくは週のうち数時間はこの業務に取り組むなど、「忙しくて手をつけられなかった」ということがないようにしておきます。

最後に、「重要度も緊急度も高くない」もの。グラフの左下に振り分けた仕事は、言うまでもなく、優先度は一番低いです。
例えば、書類のファイリングや名刺の整理、備品の整理など。こういうものは、仕事が山積みのときには後回しにして優先度の高いものに取り組みましょう。
その決断が「One Way Door」か「Two Way Door 」かを見極めて
ここまで、いくつか例を出してお話してきましたが、そもそも「重要度が高い」かどうかをどのように決めるの? と思った方もいるかもしれません。
一つは、顧客満足度、売上、利益への影響が大きいもの。これは、多くの方が意識しているポイントだと思います。
また、アマゾンでは、「何が重要か」「何に対して時間を割くべきか」を見分けるのに、「One Way Door(ワンウェイドア)かどうか」という考え方を用います。

「One Way Door」は、日本語にすると「一方通行のドア」という意味。その扉を一度開けてしまうともう元には戻れない、もしくは元に戻るのに、多大なるコストや時間がかかるものを指します。つまり、「一度きりの決断」のことを表しています。
例えば『Amazon Prime Video』のような会員制の新規ビジネスは、一度やると決めて始めたら、「やっぱりうまくいかないので中止します」と言ってすぐに引き返すことができません。これは、「One Way Door」に該当します。
アマゾンでは、これから決めようとしている事柄が「One Way Door」である場合には、極めて慎重かつ徹底的に検証をしてから実施の決断をします。
これに対して、「Two Way Door (ツーウェイドア)」というものがあります。これは訳すと「双方向のドア」。一度開けてもまた違う方向からドアを開けることができる、つまり「後でやり直しがきく決断」のことを指しています。
例えば、プロモーションの実施や、追加サービスの導入など。ある程度のリスクはありつつも、チャレンジして失敗した場合でもやり直しが可能な決断です。
その場合は、「One Way Door」と違って、スピード感をもって実施までのプロセスを進めていきます。
いいマネージャーは「One Way Door」を「Two Way Door」に変換する
そしてマネージャーにとって特に大事なのは、一見「One Way Door」だと思えるようなことも、「Two Way Door」に変更できるような意思決定をすること。
例えば、新しいビジネスを始めるにあたり、大きな設備投資をする。それを購入してしまう決断だと、One Way Doorに思えますが、リース(※)にすると、Two Way Doorになりますよね。
※リースとは、企業などが選択した機械設備などをリース会社が購入し、その企業に対してその物件を比較的長期にわたり賃貸する事
また、サブスクリプションサービスの値段を決めることも、一度決めると変更するのは難しく、One Way Doorです。しかし、これを期間限定プライスなどにしてテストすると後で変更しやすくなり、Two Way Doorになる。
優先順位をつけるのは難しいですが、常に重要度・緊急度で仕分けし、重要なこともリスクを分散したり、テストをして結果を見てから決断できるようになると、マネージャーとしての自分の判断に自信が持てるようになります。
ぜひ、活用してみてください。
管理職1年目は、新入社員1年目と同じ。トレーニングすれば必ず成長できる

Fさんはじめ、管理職1年目の皆さんは、仕事や責任の範囲が大きくなり、自信を失ってしまうこともあるかもしれません。
でも、ある意味、それは当然のこと。なぜなら、管理職とプレーヤーは違う「スキル」が必要だからです。管理職1年目は、新入社員1年目と同じ状態。最初は、分からないこと、知らないことだらけなのです。
でも、この連載で書いた通り、管理職に必要なスキルは意識的にトレーニングしていけば必ず習得できるもの。
私も管理職になる前は、自分の好きな仕事だけしていたい! と思っていて、いろいろ面倒なことが多そうな管理職にはできればなりたくないな、とさえ思っていました。
でも、今は、管理職になって良かったと心から思ってます。
それは、自分の成長だけでなく、会社やチームの成長に貢献できたと感じるから。また、それらを通して、自分一人ではつくれなかった価値を社会に還元できたと思うからです。
管理職にせっかくなれたなら、ぜひ自信を持ってほしい。徐々にマネジメントスキルを磨けば、どんどん仕事の楽しさに気づくと思いますよ。
You can make it!
書籍紹介

「なかなかチームで結果を出せない」「部下が無難な数値目標ばかり出してくる」など、管理職の方々のチーム運営に関する悩みを、ジェフ・ベゾスが生み出したアマゾン流マネジメントで一挙解決! 黎明期のアマゾン ジャパンに入社し、長らく新規ビジネスの立案やブランディングを担当し、現在は起業家として活躍する太田理加、小西みさをによるアマゾン流マネジメントの極意を紹介。
『「管理職1年目の壁」突破法』の過去記事一覧はこちら
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