「専業主婦の妻がいる男性社員に嫉妬しちゃう」30代女性の悩みを犬山紙子さん、精神科医Tomy先生、僧侶に相談してみた

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

子どもを産む・産まないはどっちでもいい。そんな女性にとって、30 代は答えなき悩みが付きまとう時期。

この先のキャリアや人生を考えたときに、状況がはっきりしないからこそ身動きが取れなくなってしまうこともある。

そんな読者のモヤモヤを、専門領域の異なる識者3名に相談。

『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)で産む・産まない問題に向き合ったイラストエッセイスト・犬山紙子さん、浄土宗僧侶・掬池 友絢さん、精神科医Tomy先生のそれぞれの見解を参考に、自分なりの答えや折り合いの付け方を探してみよう。

読者からの相談内容

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

「専業主婦の妻がいる男性社員に、嫉妬のような感情を抱いてしまいます。

私は『もし子どもができたら産もう』という感じなのですが、子どもができるかどうかが分からないから、転職したり大きい仕事を引き受けたりすることへの躊躇があります。

でも職場の男性社員は、妻が子どもを産んでくれて、子育てもしてくれて、本人は何の葛藤もなく仕事を続けている。その環境が本当にうらやましいし、当たり前のように享受している男性を憎らしく思うことも……。

この気持ちとどう付き合えばいいのでしょうか」(Bさん/35歳/既婚/営業職)

犬山紙子さんからの回答:どうか自分を責めないで

犬山紙子

イラストエッセイスト
犬山紙子さん

1981年、大阪府生まれのイラストエッセイスト。『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『アドバイスかとおもったら呪いだった』(ポプラ社)などの著書多数。近年はTVコメンテーターとしても活躍。最新著は『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社) Twitter:@inuningen Instagram:inuyamakamiko note:https://note.com/inuningen

これはもう、日本の男女格差のせいですよね。嫉妬のような感情を抱いて当たり前ですよ。何も悪くないです。

そもそも同じ仕事をしても男女で2割賃金が違うってデータがあります。ほんとおかしい話です。

そして、専業主婦の妻がいる男性社員に対するモヤモヤする気持ち……。夫が専業主夫をするという手もありますが、Bさんはきっと「なぜ女性ばかりが妊娠出産でキャリアのハンデを追わなければいけないのか」というところに違和感があるんですよね。

二人の子どものはずなのに、女性側に偏ってキャリアへの躊躇が出てしまうのは、やはりまだまだ会社側の妊娠出産への対応が十分でないということだと思います。

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

ですので、「嫉妬しちゃうのは仕方ない」と一度受け止めつつ、自分で変えられることに意識を向けてみるといいかもしれません。

政治には選挙などで意思を示し、身近なところでは孤立せずに、同じモヤモヤを抱える人と共有するのがいいと思います。数人で意見を上司に出すなどもできるのであれば一つの方法。

子どもができる可能性があっても、大きな仕事はしていいし、穴を開けてもいいが前提ですから。どうか自分を責めないでください。

浄土宗僧侶・掬池 友絢さんからの回答:嫉妬は煩悩の一つであり、誰しも抱く感情

掬池 友絢

掬池 友絢さん(きくち ゆうけん)

1975年生まれ。浄土宗僧侶。ILAB(国際仏教婦人会)役員。静岡県三島市にある蓮馨寺の副住職。都内の仏教組織で働く一方で、仏教の良さを伝え広めるべくさまざまな活動に取り組んでいる。蓮馨寺で「お念仏の会」や「お寺BBQ」といったコミュニティー活動をおこなう他、寺子屋ブッダの「友絢さんとお茶を飲む日」で女性向けお話し会の講師も務めている。著書に『泣きたいときには泣いていい』(講談社)

Bさんはとても頑張っている方なのでしょうね。自分を抱きしめて、甘やかしてあげてほしいなと思います。

その上で、「嫉妬」という感情に向き合ってみてください。

仏教では嫉妬は煩悩の一つと言われています。煩悩は、私たちが生きる上での苦しみの原因となるもの。煩悩は108個あると言われますが、実はそれ以上にあり、私たちを苦しめています。

そして、煩悩はなくなりません。大事なのは、自身の煩悩に気づくこと。そして冷静に分析し、自分の気持ちをコントロールして、上手に付き合っていくことです。

嫉妬は誰しもが持つ感情であり、嫉妬してしまう自分に落ち込む必要はありません。生きていれば当たり前に抱く感情であり、そんな自分を受け入れることが大切です。

そういう意味では、Bさんは嫉妬している自分を認められていますから、次は嫉妬という感情を噛み砕く必要があると思います。

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

嫉妬は満たされない気持ちから生まれてくるものです。

仕事の頑張りを認めてもらいたい思いや、子どもができるか分からない不安、出産で仕事を中断せざるを得ないことへの心配など、嫉妬心がどこから来ているのか、見つめてみましょう。

Bさんが本当に憎らしく思っているのは、もしかすると専業主婦の妻がいる男性社員ではなく、社会構造そのものかもしれません。

私たちは分かりやすい対象に気持ちを当てつけてしまいがちですが、嫉妬の感情と付き合うことで、その感情を本来はぶつける必要がない人に向けなくて済みます。

自分のためにも、周りの人のためにも、嫉妬心をどうやって良い方向に変えていくのかを考える。その結果として未来が明るくなると、仏教では考えます。

周りの人や環境が変わらないのであれば、自分の受け止め方を変えるしかありません。

煩悩を抱えながら前向きに生きることはできますから、その気持ちを新たなエネルギーに変えることに意識を向けてみてください。

精神科医・Tomy先生からの回答:モヤモヤには二つの種類があるのよ

Tomy先生

精神科医
Tomy先生

1978年生まれ。某国立大学医学部卒業後、医師免許取得。精神科病院勤務を経て、現在はクリニックにて常勤医として勤務 Twitter:精神科医Tomy(@PdoctorTomy) ブログ:精神科医Tomyのお部屋♡(https://kazeyokoi.exblog.jp/

これも前回の悩みと同じで、子どものことと、転職や大きな仕事は別の問題よね。大きな仕事のチャンスがあってやりたいならやればいいし、子どもを授かったらその時に考えればいい。

まだ起きてもいないことをあれこれ考えてチャンスを逃したとき、後悔からまた誰かを憎らしく思ってしまいかねません。その都度訪れたチャンスを拾うマインドに切り替えた方が健やかでいられるわ。

それに女性が男性に嫉妬したって、そもそもの土俵が全然違うじゃない。それなのに無理やり嫉妬することで、自分のモヤモヤを発散させようとしていないかしら?

あまり健全なやり方ではないので、一度自分に問い掛けてみてほしいなと思います。

犬山紙子・精神科医Tomy先生・僧侶

「モヤモヤ」には二つの種類があってね。一つは、対応すべきことをやってないモヤモヤ。もう一つは、無理やりつくっているモヤモヤです。

あなたの場合は後者よね。

どんな人間にも恵まれた環境と、そうでない環境があるもの。もしあなたが正社員なら、それをうらやましく思っている非正規雇用の人もいるかもしれない。

職場の男性社員だって、もしかしたら妻と仲が悪いかもしれないわよね。「葛藤がない」なんてあなたには分からないし、そもそも葛藤がない人間なんていないの。

自分の恵まれていない環境にだけ目を向けていると、「男に生まれたら良かった」といった、自分ではどうにもできないことに悩んじゃうんですよ。

それは本当に不毛なこと。自分で解決できないことに目を向けたって、自らストレスを生み出して、幸せから遠のいてしまうだけ。

その状態から逃れるには、自分の「恵まれていること」を見つめ直して、ミクロな視点を持つことが大切です。

なるべく近視眼的に物事を見た方が、人は幸せを感じられるの。「朝のコーヒー美味しいな」「天気いいな」みたいな、日々の日常にある幸せを探してみましょう。

年齢的に子どものことで焦る気持ちは分かるけれど、まだ不幸なことは何も起きていません。わざわざ悪いことを拾いに行くことはないわ。

目先のことに目を向けて、自分の人生に集中して、どうにもできないことに向けている意識を薄めていきましょう。

【書籍紹介】

精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方

『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』(ダイヤモンド社)

「期待」「不安」「選択」「好意」「悪意」「女王」「迷い」「決意」をテーマにした、心がスッと軽くなる8つの読み切り小説。精神科医である著者自身が、これまで抱えてきた葛藤も赤裸々にしつつ、多くの人が抱えがちな悩みの解決法を物語に仕立て、わかりやすい解説とともに説いた一冊

企画・取材・文/天野夏海