「私が我慢すればいい」はもうやめる。犬山紙子さんと考える“夫婦円満”の秘訣【Woman typeイベントレポート】

9周年特集

いつも真面目に、頑張り過ぎてしまう私たちだから――。コロナ禍の今こそ見つめ直したい、擦り減らない働き方、生き方を実践するヒントとは?
今回は、犬山紙子さんをゲストに迎えて開催したオンラインイベントの様子をお届けします。

コロナ禍で、生活様式が大きく変化した2020年。働き方や生き方の見直しをする中で、パートナーと自分の価値観のズレを顕著に感じた人もいたのでは?

「パートナーの言動にイラッとすることが増えた」「家事・育児の分担で喧嘩をした」、なんていう声も、あちこちから聞こえてくる。

そこでWoman typeでは、11月24日、著書『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』の著者・イラストエッセイストの犬山紙子さんをゲストに迎え、オンラインイベントを開催。

犬山紙子

夫婦喧嘩、家事分担、不妊治療などさまざまな壁を乗り越えてきた夫婦を3年にわたり取材する中で見えてきた「“ちょうどいい”夫婦のカタチ」について、犬山さん自身の実体験も交えながら、たっぷりと話してもらった。

犬山紙子さん

イラストエッセイスト
犬山紙子さん

1981年、大阪府生まれのイラストエッセイスト。『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『アドバイスかとおもったら呪いだった』(ポプラ社)など計14冊の著書がある。近年はTVコメンテーターとしても活躍。最新著に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)
Twitter:@inuningen
note:https://note.com/inuningen

栗原千明

Woman type編集長
栗原千明

1988年生まれ。早稲田大学大学院教育学研究科修了。2013年株式会社キャリアデザインセンター入社。求人広告制作職を経て、14年Woman type編集部に配属。現在は、Webマガジン『Woman type』『20’s type』『エンジニアtype』や、就職情報誌『type就活』の編集長を務める

パートナーと「真面目な話ができる関係」を築いておこう

栗原

今回のイベントを開催するにあたって、参加者の方から犬山さんに質問・相談がたくさん寄せられています。中でも、コロナ禍に夫婦で「価値観の違い」が浮き彫りになった、という声が多くありました。

犬山

もしもパートナーと今後も“いい関係”を続けていきたいと思うなら、対処法はやはりコミュニケーションを取ることになると思います。

価値観の相違が生まれたときには、話し合いを通してお互いに納得できる着地点を探すことが必要です。でも、実際には話し合いをせずにどちらかが我慢してしまっているケースがすごく多いと思います。

犬山

ただ、それだと問題を先延ばしにしているだけになってしまう。最終的に積もりに積もった不満が爆発して、事態がより悪化することもあります。

そうならないためにも、普段から「パートナーと真面目な話をできる関係」を築いておくことが重要ですね。

栗原

夫婦間であっても、「真面目な話」をすることを避けてしまうことってありますよね。何をどんなふうに伝えればいいのか、迷ってしまうというか。

犬山

「真面目な話」を避けたくなる人は、もしかしたら失敗体験があるのかもしれませんね。例えば、自分の気持ちを伝えたのに、相手に軽く聞き流されたとか、喧嘩に発展してしまったとか。

そういう場合は、まずは美味しいコーヒーでも飲みながら、楽しい雰囲気で、小さな話し合いから始めて成功体験をつくっていくのがおすすめです。

栗原

相手を責めたり叱ったりするのではなく、あくまで「話し合う」姿勢が大事ですね。

犬山紙子
犬山

傷つけられていたら、責めたり叱ったりするのも人間の自然な感情なので、もちろんして良いと思います。それでやっと「傷ついていたなんて知らなかった」と初めてわかるパートナーもたくさんいるので。

でも、まだ話せる力が残っていたら「話し合う」姿勢で臨むのが良いと思います。利点は冷静に解決策を考えられるからです。

犬山

そして「察してほしい」と思わずに言葉で伝える努力をすることも大切。先ほども言いましたが本当にわかってないことが多いんですよね。小まめに自分の意見を伝えるようにした方が問題は大きくなりません。

栗原

犬山さんご夫妻も、「言葉にして伝える」ということは普段から意識されていますか?

犬山

はい。ただ、人それぞれ特性があるので、そこは理解し合う必要があるかな、とは思います。

犬山

自分の気持ちをはっきり伝えない人の中には、「自分さえ我慢すれば、ここは丸く収まるから言わないでおこう」という優しさが根底にあったりする。私の夫もそうで、なかなか言葉にして吐き出さない性格なんです。

なので、よく喋る私の方から積極的に彼の気持ちや考えをヒアリングして引き出すようにしています。

栗原

「自分さえ我慢すれば」っていうのは、多くの人がやってしまいがちなことかもしれませんね。

犬山

ええ。話し合いって、いくら楽しくやろうとしても負荷はかかるんですよ。誰かと向き合おうとすると精神的に削られるし、時間もかかる。だから、話し合いを避ける方がその場は楽に決まっています。

でも、話し合いをするコストを1とすると、問題を放置することで後々かかるコストは10くらいになる。少し手間がかかったとしても、「あれ?」と思ったときに話し合いをすることを強くお勧めします。

「自分さえ我慢すればいいや」は危険なサイン

栗原

次に、現在育休中の女性からいただいた相談です。「夫がフルタイムで働いていて残業も多いため、家事・育児を全て私がやっています。育休中だし仕方ないと思いつつ、子育てに無関心な夫にイライラしてしまいます」とのこと。

犬山紙子
犬山

家事・育児を一人でやるなんて、育休中かどうかは関係なしに、イライラして当たり前です! まずは自分を責めないでほしいです。

今はキャパオーバーで余裕がなくなっている状態だと思うので、パートナーの方とぜひ話し合いをしてみてください。例えば、夫にもっと早く帰ってきてもらうことはできないか、それが無理ならシッターさんや家事代行サービスなどの第三者に頼ることはできないか。

犬山

「私が我慢すればいい」と諦めるのではなく、ぜひ手段を考えてみてください。本当は夫側がそれが考えるべきところなのですが……。大切にされなくて良い人などこの世にいないですから、いかに自分を大切にするかという軸で考えて欲しい。

栗原

常にイライラしてしまって、自分がつらい状態にあるなら、それを放置してはいけないということですね。

犬山

そうです。もし、家事代行やシッターを頼むことにしたら、その費用は夫が自由に使えるお金から費用を出すようにお願いしてみてください。夫が担当できない分の家事・育児をアウトソースするわけですから、お金を払うことでコミットしてもらうという考え方もできますよね。

犬山

もし金銭的に負担するのが難しいようであれば、行政のサービスを探してみるのもおすすめです。育児支援系の制度は安く使えるものがいろいろありますから。

栗原

犬山さんのご家庭では、家事分担はどのようにされていますか?

犬山

家事・育児と外での仕事を全部含めて、1日の仕事量がトントンになるように分担しています。どちらかが忙し過ぎる場合には、第三者にお願いして、稼いだお金の分から費用を捻出することもあります。

栗原

時短勤務をしている女性からも、「時短なんだから家事・育児は妻が」と“当然のように”押し付けられていることにモヤモヤする、という声が届いています。

犬山

妻が時短勤務だったとしても、夫にも家事をやってもらうのは当たり前のことです。違和感があるなら、本音を相手に伝えましょう。

それでもダメなら、夫に代わってやってあげていた分の家事は「すべて放棄」してみては? 著書にもある通り、夫が全く家事をしなかったご家庭を取材したことがあるのですが、妻が家事をやめことをきっかけに、夫が変わった事例がありました。

犬山

最初はワンオペ状態の妻がイライラしていることにすら夫は気付いていなかったのですが、初めてちゃんと家事に取り組んだ夫が、「罪悪感がなくて気持ちいい」って言い出したそうなんです。 妻に家事を全て押し付けている罪悪感から解放されるなら、自分で家事をした方が心地がいい、と。

栗原

心の奥には「家事も育児も妻に任せっきりで申し訳ないな」という気持ちがあったんですね。

犬山

そうなんです。家事を全くしていない夫でも、実は罪悪感を持っていることがあります。でも、妻の気持ちを察することは難しかったり、どうやって家事・育児に参加すればいいかが分からなかったりするケースがあります。

そういう場合は、「どうしてほしいか」を伝えると、妻のイライラも夫の罪悪感も消える方向にいくかもしれません。

栗原

ここでもやはり、自分の気持ちを言葉にすることが重要ということですね。

犬山

ええ。そもそもなんですが、時短勤務を選ぶのだって「女がやるものだ」って話し合いもなく決めちゃう夫婦が多くないですか?

栗原

そうですね、本当は「時短にする必要はあるのか」「必要があるならどちらがどれくらいの期間、時短にするのか」などいろいろ話し合うことはあるはず。

犬山

先ほども申し上げた通り、「まぁ、自分さえ我慢すればいいや」と思ってしまうのは危険なサインです。我慢した先に現状がよくなることは殆どないはず。自分、一人で抱えられない量のことをやらされてないか?って。ちょっとした違和感は無視せずに、ぜひ夫婦で話し合ってみてください。

パートナーは「敵」ではなく「味方」にする

栗原

今日は男性からも質問が来ています。「これから子どもができたら育児に積極的に参加したいが、どうすればいいかイメージが湧かない」とのこと。

犬山

まずは、産後の一番大変な時に妻のそばにいることが大事ですね。里帰り出産をする方もいますが、今はコロナでそれも難しい場合も。出産直後、妻は「大けが」しているような状態ですから、一番大変です。お互い子育てが初めてなら、スタート地点は同じ。妻と一緒に学び始めるのが本当にオススメです。

犬山

あとは、妊娠中から知識の格差をつくらないことも重要。女性の体の仕組みや変化、産後うつも含めて、女性の身に何が起きてどんな風に大変なのか、ということを夫も同じレベルで知っておくことが大事だと思います。

栗原

妊娠、出産、子育ての知識レベルをお互いに揃えるように意識するということですね。

犬山紙子
犬山

はい。あと、「夫婦の愛情曲線」というものがあるのですが、産後の一番大変な時に夫が育児に参加した場合とそうでない場合で、その後の夫婦の関係が大きく変わると言われているんです。

犬山

これはとても理にかなっていて、自分が出産で大怪我している時に何もしてくれない夫を好きでいるわけがないんですよね。男性はちゃんと育児に参加しておかないと、あとで厳しいことになるという事実を知っておくといいと思います。

栗原

相手が弱っている、苦しんでいるときに寄り添うのはいいパートナーシップを築くための基本ですよね。

犬山

はい。夫婦円満のポイントは、夫婦がお互いの「支援者」であることを常に意識できる関係を築くことにあります。

つい夫婦関係で不満が生じたときにやってしまうのが、「なんでこんなこともやってくれない」「私はこんなにやっているのに」と相手を責めたてること。でも、パートナーを自分の「敵」にしてしまうと、余計に苦しくなってしまいますよね。

栗原

その通りですね。ただ、話し合いの場を設けたり、コミュニケーションの方法に気をつけたり、妻だけが意識していてもやっぱり疲れてしまいます。どちらか一人だけでなく、夫婦二人で意識できるようになるにはどうしたらいいのでしょう?

犬山

自分を主語にして、相手に何をしてほしいかはっきり言うとより伝わります。「なんであなたはやってくれないの?」と言うより、「私はいまの状況で追い詰められていて、このままこれを続けことが本当に辛いし不安。一緒に解決策を考えたい」という風に。

犬山

仮に、どんなに相手に訴え掛けても建設的な話し合いができず、あなたのことを「責める」「けなす」「蔑ろにする」ことしかしないパートナーなのであれば、今のまま夫婦を続けていくべきなのかは考えた方がいいかもしれない。今の関係を続けるだけでなく、別々の道を行くのだって、一つの選択肢だし、問題解決の手段になります。

栗原

なるほど。お互いが“最良の支援者”だと思える関係を築けるかどうか、ですね。

犬山紙子
犬山

自分にとって最強の味方がいつも近くにいてくれると思えれば、自分の心も安定しますからね。理解者が側にいるという基盤がゆるぎないものになると、仕事にも思い切り取り組めるようになりますし。

犬山

そのためにも1日の終わりにお互いに「今日自分が頑張ったこと」「やろうと思ったけどできなかったこと」を伝え合い、それに対して労い合い、褒め合うという習慣を作るのが本当におすすめです。話す時間を取るのが難しければメールでもかまいません。

私自身もまだまだ道半ば。“夫婦円満のルール”を日々学びつつ、皆さんにシェアしていけたらと思います!

取材・文/太田 冴 撮影/赤松洋太(※写真は過去取材時に撮影したものを掲載しています)