迷子ペットの救世主。発見率8割超、凄腕ペット探偵の仕事流儀「どの捜索も初心を忘れず」
「ペット探偵」という仕事がある。
不意のアクシデントによって行方が分からなくなった迷子のペットを見つけ出し、捕まえる。そんな動物捜索・捕獲のプロフェッショナルがペット探偵だ。

神奈川県藤沢市に本拠地を置く「ペットレスキュー」は、年間200件以上の依頼が殺到するペット探偵のエキスパート集団。猫、犬などの迷子ペットの発見率は8割を超え、業界内でも高い捕獲実績を誇る。
そこで働く遠山敦子さんは、2020年からペット探偵としてのキャリアをスタートさせた。
「犬や猫に限らず、生き物はみんな大好き」と笑顔を浮かべる遠山さん。行方不明となったペットとその飼い主のために日夜奮闘する遠山さんに、ペット探偵の流儀を聞いた。

遠山敦子(とおやま・あつこ)さん
1996年生まれ。大阪府出身。島留学制度により、13歳から16歳まで九州の離島で生活。野生の動物たちと触れ合う日々を過ごす。2020年、『情熱大陸』(TBS)で紹介されたペット探偵・藤原博史に衝撃を受け、ペットレスキューに入社。現在に至る
■インスタグラム
迷子の猫を探し、三日で90キロ歩いたことも
ペット探偵は昼も夜も関係なく、いなくなったペットを探し、見つけて捕獲するのが仕事です。
動物とはいえ、飼い主にとっては家族。いなくなった子どもを探すような気持ちで、毎回ペットの捜索にあたっています。
仕事は楽ではありません。夜型の猫が相手なら、捜索地域を夜な夜な歩いて探し回ることもあるし、正直、生活スケジュールは不規則になりがちです。
また、基本の捕獲セオリーはあっても、ペットにも人間同様に性格があるので、毎回同じようにはいきません。

とにかく足で稼ぐことも重要で、一日30キロ歩いたことも(笑)。捜索が続いて、三日で90キロ以上歩いたこともあったかな。さすがにその時は脚がパンパンになりました。
こうやって話すと、もともと運動が得意だったの? って聞かれるんですけど、全然そんなことはなくて。
普段の私は100m先のコンビニに行くのも原付バイクを使うくらい歩くのが嫌い(笑)。だけど、動物のためなら歩けちゃうから不思議ですよね。
ペットを捕まえるには、捕獲器や、ドロップというトラップを使います。

猫の捕獲によく使用する捕獲機。餌などを中に置き、ペットが自分から入り込むのを待つ。床にはられた板をペットが踏むと、その重みで入口が塞がれる仕組み
ドロップというのは、動物が餌に気をとられているうちに紐を引っ張ってゲージを落とすという、よく漫画とかでも見る古典的なトラップです。
だけど、猫は警戒心が強いから、そう簡単に引っかかりません。そうなってくると、私と猫との根気比べ。
タイミングを一瞬でも間違えると逃げられてしまうので失敗は許されません。重要なのは、焦らず、じっとその瞬間を待つこと。長いときは、紐を持ったまま5時間くらいじっとして待っていたこともありました。
時には、猫に見つからないようにマンションとマンションの隙間にじっと隠れて待つことも。理由を知らない人からすれば不審極まりないですよね(笑)
子どもの頃から「動物のためなら、ずっと待てた」
自分の生い立ちを振り返ると、小さい頃から生き物が人一倍大好きな子どもでした。幼稚園の時は、あの黄色い帽子を使ってスズメを捕まえようとしたりして。
スズメって素早いので、タイミングを狙うにはじっと息をひそめて待つのが大事。普段はじっとしていられない子だって言われていたんですけど、この時から生き物のためならいくらでも我慢できたんですよ(笑)

「まさか、子どものころの遊びがこうやって仕事に生かされるなんて……夢にも思っていませんでした」(遠山さん)
私の動物好きのルーツは、父。父も動物が大好きで、よく兄と三人で山に遊びに行きました。と言っても、親子で仲良くハイキングというわけではありません。
わが家の山遊びは基本、現地集合、現地解散(笑)。「じゃあ、何時に集合で~」と時間だけ決めて、あとはみんな散り散りになって、おのおの好きな生き物を捕まえたり、自然を見たりして楽しんでいました。
私は13歳で親元を離れて鹿児島の平島という離島で暮らすことになりました。「島留学」と呼ばれる制度で、現地の方のお家に住まわせてもらって、そこから学校に通うんですね。
私の留学先である平島は、人口71人の小さな集落で。私はそこでも野生のヤギを捕まえて、ホームステイ先の玄関で飼ったりしていました(笑)
ペット探偵の師、藤原博史さんとの運命的な出会い
こんな性格ですから、将来の夢はもちろん動物に関わる仕事に就くこと。中でも18歳の時に訪れた鹿児島の動物愛護センターでの出来事はとても大きかったです。

居場所のない犬や猫たちが檻の中に入れられていて、その檻が通路の端から端までずっと続いている。
その現実を目の当たりにした時、こんなふうに生活する場所を失った動物たちを1匹でも救える仕事がしたいと思うようになりました。
が、その後すぐ何かアクションを起こしたわけではありません。実はそこから5年ほど友人とバンドを組んで音楽活動をしていたんです。
私が動物に関わる仕事に就くことになるのは、バンドを辞めた後。『情熱大陸』(TBS)というテレビ番組で藤原博史さんが特集されているのを観て、こんな人がいるんだって衝撃を受けたんです。
8月9日(日)『情熱大陸』
ペット探偵/藤原博史
きっと生きているはず。
迷子のペットを家族のもとへ。#情熱大陸 #mbs #tbs #藤原博史 #ペット pic.twitter.com/yUz53ufgME— 情熱大陸 (@jounetsu) August 7, 2020
それが、ペット探偵という仕事と出会った瞬間でした。
それまでペット探偵という仕事があること自体知らなかったし、藤原さんほど動物を愛している人に出会ったこともなかった。
こういう人になりたいと思ったし、ペット探偵という仕事を通じて家に帰ることができなくなった犬や猫を助けられたら、あの日鹿児島で見た動物愛護センターの状況をほんの少しでも変えられるかもしれない。
そう考えた私は、藤原さんに直接連絡して自分を売り込んだんです。それで面接をしてもらえることになり、こうしてペット探偵として働くことになりました。
猫の性格や習性を知り、その内容をもとに仮説を立てる
今、一番よく探しているのは迷子の猫です。
コロナ禍で在宅勤務の方が増えたことや、孤独を感じるようになった方が増えたことで、ペットの需要が上がっています。そして、ペットを飼う方が増えるのと比例して、迷子の猫も急増しています。

いなくなった猫を見つけるために私がやっているのは、とにかくその猫の気持ちになりきってどこに行くか、どう過ごすか考えてみること。
その子の気持ちを想像するために、まずは飼い主の方から猫の性格や習性を徹底的にヒアリングすることから開始。その内容をもとに、今どこでどうしているか仮説を立てて捜索を進めていきます。

以前、3~4カ月前に野良猫を保護した飼い主さんから、「隙をついて逃げ出してしまったので探してほしい」という依頼が入りました。
その時に私が飼い主さんに確認したのは、野良だった頃にその子がどんなところで生きていたか、ということです。
その保護猫は7歳ぐらいの中年猫だったので、いきなり生活環境が変わって家の中に馴染めなかったから逃げ出したのではないかと思いました。
だとすると、もともと自分が暮らしていた環境に近いところに行く可能性が高い。

飼い主さんから「この子がもともといたのは、緑の多い公園だった」と聞いた私は、周辺の森林に的を絞って捜索を始めました。
すると、そこには逃げ出してしまった猫の姿が。元野良猫だけあって、外でぴんぴんして生きていたんですよ。飼い主さんもその姿を見て、ほっとしていました。
私は猫と会話はできないけど、生い立ちや性格からその子の気持ちを想像することはできる。限られた情報をもとに、自分がこの猫だったらどうするかイメージすることが、いなくなってしまった猫を見つける手立てになるのです。

狭いところに入り込んだペットを捜索するための、小型カメラ
ただし、過剰な思い込みは禁物。私たち人間が一人一人違う個性を持っているように、猫だって100匹いれば100通りの性格をしている。
特に捜索の経験を積めば積むほど、過去の成功体験に縛られて「猫はきっとこうする」とか「こんなところにはいないはず」と決めつけてしまうことがあります。
その決めつけが視界を狭め、捕獲の可能性を減らしてしまうこともある。何事もセオリー通りにいくことなんてない。だから、経験は経験で大事にしつつ、どの捜索にも常に初心で臨むことを心掛けています。
一瞬の油断で、大切な家族と一生会えない。そんな悲劇をなくすために
ペットは、飼い主の方にとっては大切な家族です。
だけど、ほんのちょっと目を離した隙に家から出て行って、そのまま二度と帰ってこられなくなることもある。
自分の命と同じくらい大切な家族に、一瞬の油断で一生会えなくなることがあるんです。

でもそれって、普段何気なく暮らしているとなかなか実感できないですよね。
私自身もペット探偵の仕事を始めるまでは、そのあたりの意識は非常に希薄で、荷物を外に出すために玄関を開けっぱなしにしていたこともよくありました。
だから飼い主の皆さんには常に、ペットが脱走する可能性があることを頭に入れていてほしいなと思います。
網戸にはちゃんとストッパーをする。あるいは、そもそも網戸にしないという方法もあります。ドアノブも要注意です。猫は頭がいいから、ひょいっとノブをまわして、ドアを開けてしまうこともある。
私も猫を飼っているのですが、帰宅時にドアを開けた瞬間、さっと外に出てしまうこともあるので、玄関は二重扉にしています。

そして、ペットを飼われていない方も、もし迷い犬や迷い猫のチラシを見かけたら、心に留めておいてもらえるとうれしいです。
そのチラシの向こう側には、大切な家族がいなくなって本気で心を痛めている飼い主さんがいる。皆さんの何気ない情報提供が、引き裂かれてしまった飼い主さんとペットをつなぐ手掛かりになることがあるんです。
ペット探偵としての私のキャリアはまだ始まったばかり。まだまだえらそうなことは言えませんが、この仕事に出会って本当に良かったなと思います。
確かにちょっと変わっている仕事だし、体力的にしんどいこともあります。でも、動物とその飼い主さんの両方を救えるやりがいのある仕事。捕獲したペットと飼い主さんを再会させることができたときは、何にも代えがたい喜びがあります。

小さい頃から好きで動物を捕獲しようとしてきた私が、こうやって大人になってペット探偵の仕事をしているのって、なんだか運命みたいな気がするんですよね(笑)
過去の私に、「あなたの好きなこと、大人になってちゃんと仕事にできてるよ」って教えてあげたいです。
取材・文/横川良明 人物・捕獲機撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)