コロナ禍の転職市場でインサイドセールスの採用が加速。「元販売職の女性」にオファー殺到のワケ
ビデオ通話をはじめとするオンラインコミュニケーションが急速に普及したコロナ禍。企業の営業活動も、「足で稼ぐ」スタイルから非対面型へとシフトしている。
そんな中、女性採用のニーズが高まっているのが「インサイドセールス」という職業だ。

インサイドセールスとは、見込み顧客に対して電話やメールなどでアプローチを行うポジション。顧客のニーズをヒアリングし、成約の可能性が高まった段階で営業担当(フィールドセールス)にバトンを渡す。
人材紹介やコンサルティング事業を手掛ける株式会社morichの代表取締役・キャリアコンサルタントの森本千賀子さんによれば、「この1~2年、販売職経験者がインサイドセールス職として採用されるケースが増えている」という。
その理由と、インサイドセールスの仕事やキャリアパスについて、森本千賀子さんと、インサイドセールスサービスのアウトソーシング事業を展開するブリッジインターナショナルに話を聞いた。
オンラインで商機を開拓する「インサイドセールス」のニーズが高騰

森本 千賀子さん
1970年生まれ。93年、リクルート人材センター(現リクルート)に入社。累計売上実績は歴代トップ。入社1年目にして営業成績1位、全社MVPを受賞以来、全社MVP/グッドプラクティス賞/新規事業提案優秀賞など輝かしい実績を残す。2017年3月、株式会社morich設立、代表取締役に就任。25年在籍していたリクルートを17年9月で卒業。同年10月に独立。HRに限定せず外部パートナー企業とのアライアンス推進などさまざまなソリューションを提供している
現在、転職市場でインサイドセールスのニーズが高騰している理由を、森本さんは次のように語る。
「コロナ禍でリモートワークが進んだことで、対面での商談機会が激減。最初のコンタクトポイントをつくることに苦戦するようになったのです。
そこで、顧客との接点を生み出すことを専門としたインサイドセールスと、成約獲得をミッションとするフィールドセールスに分けることで、営業活動の効率化を図る動きが目立つように。
また、営業チームを分業体制にすることで、顧客へのアプローチフェーズごとの営業ノウハウを蓄積できるというメリットもあります」(森本さん)
企業がインサイドセールスのポジションで採用する人材は、幅広い。営業経験者はもちろんのこと、接客・販売職経験者が採用されるケースも多く、コミュニケーション力が重視される。
「顧客と最初にコンタクトを取るインサイドセールスは、少ない情報の中から相手のニーズを探っていく必要があります。これは、接客・販売の仕事に通ずるものがありますよね。
従来の法人営業とは異なり非対面型の内勤営業のため、未経験からのチャレンジがしやすいと言われています」(森本さん)

インサイドセールスの重要性にいち早く着目し、2002年よりアウトソーシング事業を展開しているブリッジインターナショナル株式会社でも、元販売職の女性が活躍している。
同社で採用担当を務める居壁さんは、インサイドセールスに必要なスキルについて次のように話す。
「インサイドセールスは、単純なモノ売りのサポートスタッフではありません。お客さまとの会話を通じて潜在的なニーズを探り、それに合わせた提案をする『非対面営業のプロ』です。
よって、お客さまに適切なヒアリングをして情報を引き出す能力が必要不可欠です」(居壁さん)
また、販売経験者の中でもアパレル、コスメなどの業界で接客の仕事をしてきた女性は、入社後に高い実績を上げていると居壁さんは言う。
元美容部員からインサイドセールスに転身「長く働きたかった」
ブリッジインターナショナルでインサイドセールスとして働いている川村早紀さんの前職は、化粧品メーカーの美容部員。
百貨店やドラッグストアで接客業務に携わり、未経験からインサイドセールスに転身した。

ブリッジインターナショナル株式会社
インサイドセールス
川村早紀さん
2015年4月、新卒で化粧品メーカーへ就職。美容部員として百貨店・専門店・ドラッグストアなどで化粧品販売に従事。19年8月にブリッジインターナショナルに転職。インサイドセールスに。現在は、自治体向けのクラウドサービスなどを扱う企業のセールスチームに配属されている
「美容部員の仕事は楽しかったのですが、どうしても長く働けるイメージが湧かなくて。シフト制で不規則な勤務スタイルや体力面にも負担を感じていたので、結婚・出産後も続けていける仕事を探そうと思い、キャリアコンサルタントへ相談しました。」(川村さん)
そこで注目の求人として紹介されたのが、ブリッジインターナショナルのインサイドセールスの求人だった。
「販売職でつちかった経験を生かして新しいことに挑戦したい、ライフステージが変わっても長く働いていきたいと希望を伝えたところ、『ぴったりの仕事がある』と紹介されたのが今の仕事でした。
当時はインサイドセールスという言葉を初めて聞いたので、『何それ?』という状態(笑)。でも、よく話を聞いてみると、接客の仕事で磨いたコミュニケーション力が武器になる仕事だと分かり、面白そうだなと思ったんです」(川村さん)
川村さんが入社前に抱いていたインサイドセールスのイメージは、「見込み顧客に電話やメールをする」「商談のアポイントを取る」といったシンプルなものだった。しかし、働き始めると、予想以上に顧客と深く関わる仕事で驚いたという。
「最初に配属されたのは、パソコンなどの端末を販売している企業のセールスチームでした。
クライアントの担当者に対し、『そろそろ端末の交換時期ではないですか?』と伺うところからやりとりが始まるのですが、予算決定や希望の時期、求めている端末のスペックまで、詳しくヒアリングする必要があるんです。
そこから提案できる商品を調査して、見積もりを出すのもインサイドセールスの仕事でした」(川村さん)

当然、ITや商材の知見も求められるが、入社当時、川村さんの専門知識はゼロ。最初のうちは顧客からの質問にその場で即答できないことも多く、悔しい思いをすることも多かったと振り返る。
それでも、地道な努力を積み重ね、次第に手応えを感じられるようになっていったのは入社から6カ月 が過ぎたころだった。
「分からないことがある度に先輩に聞いたり、自分で勉強したり。経験を重ねるうちに、電話先のお客さまの反応もみるみる変わっていきました。
先方の事業内容や業務内容を考慮して自分なりに提案した内容に対して『まさにそれが欲しかった』と言われた時は、やった! とうれしくなりますね」(川村さん)
相手の声のトーンが変わる瞬間。会話を通じて信頼を得ていく心地よさ
インサイドセールスとして働き出して2年半が経った今、「前職の化粧品販売の経験が存分に生かされていると思う」と川村さんは言う。

「お客さまに今必要なものは何か、自分で考えて提案するのは美容部員もインサイドセールスも同じ。初めてお話しする相手とすぐ打ち解けられるのも、前職の経験があったからこそかなと思います。
最初は『営業電話か』とあしらわれることもありますが、会話を進めていくと、相手のテンションや声のトーンが変わる瞬間が訪れる。信頼していただけたことが感じられて、モチベーションが上がります」(川村さん)
インサイドセールスも、営業組織の一員。顧客との会話時間、営業担当につなぐことができた案件数、そこからの成約数など、仕事の成果が数字で可視化される。
「成果が目に見えて分かるし、自分への評価もクリアなのでやる気が出ます」と川村さんは声を弾ませる。
また、仕事の中で成長を実感できるシーンが多いことも、この仕事の魅力だという。
「インサイドセールスは、成約見込みが高まったタイミングで営業担当に顧客対応を引き継ぎます。その際に営業担当に伝えられる情報量も、入社当時は微々たるものでした。
でも今は、顧客の社内事情など一歩踏み込んだ情報もヒアリングできるようになったので、営業担当からも『それは知らなかった』『おかげで助かりました』と言ってもらえることが増えてきて。
コミュニケーションスキルに磨きがかかってきたかも、と自信が持てるようになりました」(川村さん)

将来への不安、もう感じない。ワークもライフもどちらも諦めない選択
現在、新たなチームに活躍の場を移し、IT企業のセールスチームの一員としてクラウドサービスの販売に携わっている川村さん。
「ライフステージが変わったら、仕事を続けていけないのではないか」という美容部員時代に感じていた不安はすっかりなくなったという。
ブリッジインターナショナルの社内を見渡すと、子育てと両立しながら働く女性社員も多くいる。
「ワークもライフもどちらも自分の理想を諦めたくない。私のような販売経験者の方に、インサイドセールスというキャリアパスをぜひ知ってもらえたらと思います」(川村さん)

取材・文/古屋 江美子・秋元 祐香里(編集部) 撮影/小黒冴夏 編集/栗原千明(編集部)