玉山鉄二「セオリーは持たない、期待値を超え続けるために」理不尽、挫折を乗り越えた大人の仕事哲学
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

多くの物事には「こうすべき」「こうすると良い」といった“定説=セオリー”がある。
本連載「プロフェッショナルのTheory」も、各界のプロたちが持つ独自のセオリーを聞く企画だ。
しかし、俳優・玉山鉄二さんは力強くこう言い切る。
いい仕事をするために、セオリーは必要ない。
では彼は、これまでどのようにして数々の作品に挑んできたのだろうか。「セオリーは必要ない」という言葉の真意に迫ると、玉山さん流の仕事哲学が見えてきた。
40代を迎えるまでに、誰もが心に闇を抱える
4月8日公開の映画『今はちょっと、ついてないだけ』。この作品で、玉山さんは『カフーを待ちわびて』から実に13年ぶりに映画の主演を務める。
本作は、挫折を経験した不器用な大人たちが、シェアハウスと自然を舞台に再び歩みを進めていく物語。ゆるやかに過ぎていく日々が丁寧に描かれた、心地よいヒューマンドラマだ。
あっと驚くどんでん返しがあったり、大きな事件が起こるような派手さはありません。
最近のトレンドとは少し違って、僕自身もあまり関わったことがないテイストの作品なので、すごく貴重な経験になりました。

作品に対する確かな手応えを覗かせた玉山さん。本作のテーマや主人公・立花浩樹に対しても、深い思い入れがあるという。
立花を含め、40代を迎えたおじさんたちが自分の悩みや苦しみを他者とシェアして、もう一度スタートを切る。その姿がかわいらしく、微笑ましいんです。
見ている方々に応援してもらえるような作品・キャラクターにしたいと考えながら撮影に挑みました。
玉山さん演じる立花は、秘境を旅するドキュメンタリー番組で脚光を浴びた過去を持つカメラマン。しかし、バブル崩壊をきっかけにすべてを失い、気付けば40代を迎えていた男だ。
玉山さんは「立花のように、40代を迎える頃には誰もが何らかの闇を抱えている」と話す。
どんなに努力しても成果が伴わなかったり、社会の理不尽さに打ちのめされたり。そういう経験を重ねるうちに、何となく自分の実力に限界を感じてしまって無気力になる。
そして一度挫折を経験すると、リスタートを切ることがすごく億劫になって、無難な選択しかできなくなってしまう。
そんな時期が、誰にでもあるんじゃないかな。
そう語る玉山さんは、現在41歳。立花と同じ40代だ。これまでの人生の中で、本作のタイトルにもある「ついていない」と感じた経験の有無を問うと、「そんなのしょっちゅうですよ」と包み隠すことなく明かしてくれた。

僕たちの仕事は作品ごとに始まりと終わりがある。その機会が年に何回もあるから、自分の仕事の成果と向き合うタイミングも多くて。
そのたびに自分の力量を突き付けられて、ヘコむんです。
だから、この作品の登場人物たちのように、世の中の常識に飲まれてしまう気持ちはよく分かります。
作品が評価されて初めて、俳優としての自分が評価される
しかし、玉山さんは「成果を出すためには、世間や自分の中にある常識をいかに崩せるかが大事」と続けた。
世間で語られる「業界のセオリー」に身をゆだねて行動すれば、考えず、悩まず、疲れず、いくらでも楽に仕事ができるかもしれない。
だけど、無難な行動を繰り返していると、いずれ周りに求められなくなる。「ある程度」の期待しかかけてもらえなくなります。

俳優は、関わった作品が評価されなければ、自分の仕事が認められることはありません。そして、曲や詞が書けるアーティストと違って、俳優は一人で作品をつくることができない。
多くの人の力があって初めて成り立つ仕事だからこそ、周囲から期待されなくなることがとても怖いんです。
一人で仕事をするのではなく、他者と力を合わせながら成果を上げていく。それは多くのビジネスパーソンにも当てはまることだ。
チームの一員として、与えられた役割をそのままこなすだけでは不十分。常識に捉われず、自分なりに考えて行動することが必要、というのが玉山さんの考えだ。
以前ノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑さんが『教科書を信じるな』と言っていたんです。
正攻法とも言える物事のセオリーを疑ったり斜めから見てみることで、オリジナリティーは生まれるんだと思います。

玉山さんは毎回「自分の行動が作品にどんな影響を与えるか」を掘り下げて役作りに取り組むという。そこにも、セオリー通りのアウトプットでは満足しない玉山さんならではの工夫があった。
役作りをするとき、映画やドラマなどの創作物を見て勉強することはありません。なぜなら、「この時はこう演じる」という先入観を持ってしまうから。
代わりにスポーツの試合やニュース、ドキュメンタリー、人との会話など、“リアル”にたくさん触れる。そうすれば、これまで演じられてきたものとは違うリアリティーのある表現ができるようになると信じています。
自分なりの仕事哲学を持っている大人は、カッコいい

「セオリーを持たないことが大切」と、玉山さんは強い眼差しで何度も繰り返す。ストイックさを垣間見せる玉山さんが、常識にあらがってまで「俳優」として成し遂げたいこととは何なのだろうか。
実のところ、「こうなりたい」とかはあまりなくて。作品をより良くするために、そして次の仕事につなげるために、「期待値以上のお返しをすること」しか考えていません。
「若い頃は、ミスしても『てへ』って笑えば済んだかもしれないけど……」と肩をすくめてみせながら、今の自身の年齢と照らし合わせてこう語る。
僕も40代、俳優としては中堅です。おかげさまで、ある程度の期待を持ってオファーをいただけるようになりました。
僕の背中を見てくれる後輩も増えてきたし、下手なミスはできない。それに僕にも俳優としてのプライドがあるので、やっぱり「すごいな」と言ってもらいたいですからね。

最後に、Woman typeの読者に向けて、玉山さんはこう問い掛けた。
こんなことあまり大きな声では言えないけど、「仕事をしている風」を装っているだけの人ってすごく多いと思いませんか?
常識に捉われて、ポジションだけ必死に守って、安パイな仕事しかしない。そんな上の世代にうんざりしている20~30代は少なくないはずです。
だからこそ、自分なりに「譲れないところ」を持って仕事をしている人はカッコいいですよね
年功序列にあぐらをかいて、いつしか努力を忘れてしまった人。現状に満足して挑戦を止めた人。身近な誰かを思い浮かべたり、自分自身もぎくりとした人もいるだろう。
しかし玉山さんは、「上辺だけの化けの皮はいずれ剥がれる」と、そして「上辺だけの人間には負けたくない」と静かにも熱く語る。
「譲れないポリシー」を持つカッコいい大人を体現する。そんな玉山さんだからこそ、俳優としての彼の演技は私たちの心を掴んで離さないのだ。

<プロフィール>
玉山鉄二(たまやま・てつじ)さん
1980年、京都府生まれ。99年のドラマ『ナオミ』で俳優デビュー、2005年『逆境ナイン』で映画初主演。09年映画『ハゲタカ』では日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。14年、NHK連続テレビ小説『マッサン』では主人公を務めた。その他の主な出演映画に『手紙』(06年)、『ノルウェイの森』(10年)、『星守る犬』(11年)、『ルパン三世』、『亜人』(ともに14年)などがある
作品情報

映画『今はちょっと、ついてないだけ』
監督・脚本・編集:柴山健次『流れ星が消えないうちに』(15)『パーフェクトワールド 君といる奇跡』(18)
原作:伊吹有喜「今はちょっと、ついてないだけ」(光文社文庫 刊)
出演:玉山鉄二、音尾琢真、深川麻衣、団長安田(安田大サーカス)/高橋和也 他
配給:ギャガ
オフィシャルHP:https://gaga.ne.jp/ima-tsui/
オフィシャルTwitter:@ima_tsui
©2022映画『今はちょっと、ついてないだけ』製作委員会
4月8日(金)新宿ピカデリー他 全国順次ロードショー
取材・文/阿部裕華 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) ヘアメイク/城間 健(VOW-VOW) スタイリスト/袴田能生(juice)
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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