「手放さなければ、得られない」元ビリギャル・小林さやかが34歳で2年の留学を決断できた理由
結婚する? 子どもを持つ? 仕事はどうする? 現代女性の人生は、選択の連続。そこで本特集では、自分らしく生きる女性たちの「選択ヒストリー」と「ワークライフ」を紹介します
有村架純さん主演で映画化もされた『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)のモデルとして一躍有名になった「ビリギャル」こと小林さやかさん。

今年34歳になった彼女は、2022年の秋からコロンビア教育大学院に2年間留学し、教育心理学を専攻すると発表した。
30代になってからも仕事は順調、プライベートでは再婚も果たし、次のライフステージを見据えた生活を始めたところだった。
一体なぜ、このタイミングで留学することを決断できたのだろうか。
「日本の大人を変えなきゃダメだ」講演活動で感じた限界
この秋からコロンビア教育大学院に進学することになりました。
今、私は34歳。仕事や家庭、これから訪れるかもしれない出産のことなどを考えると、この年齢から2年も留学するなんて……と思う人もいるかもしれません。
私自身、留学への憧れはありつつ、もう30代だしとか、英語も全然できないしとか、できない理由ばかりを探してやる前からあきらめていた時期がありました。

それでも今回チャレンジしてみようと思ったのは、私自身が学ぶことで、私にできることがもっと増えると確信したから。
「ビリギャル」としていろいろな方に話をきいてもらえるようになって、私の人生はがらりと変わりました。
この7年で行った講演回数は500回以上。講演を通じて私の話を聞いてくださった方の人数は25万人を超えています。
日本全国、時には海外の学校にも赴き、たくさんの児童、生徒たちの声を聞く中で感じたのは、何かに挑戦する前から「自分には無理だ」と決めつけてしまっている子どもたちの多さです。
そして、それは周りの親や先生など、日頃から接している大人たちの影響が大きいということでした。
「あなたには無理」「やめておきなさい」そういう言葉を大人たちから日々浴びせられることで、自分の可能性に蓋をしてしまう子が本当にたくさんいるんです。
振り返ると、私自身もかつてはそうでした。中学時代は素行不良で学校の先生に怒られっぱなしで、勉強は大っ嫌い。
慶應義塾大学に入りたいと思って勉強をし始めた時も、周りの大人たちの反応は「どうせ無理」というネガティブなものばかりでした。

でも、私には母と、塾講師の坪田信貴先生がいた。2人が「君なら大丈夫」と信じてくれたから、頑張ることができたんです。
自分を信じてくれる大人が側に1人でもいることが、どれだけ子どもの可能性を伸ばすか。私自身が一番よく分かっています。
講演を重ねてきて、今の私がやるべきことは、目の前の子どもたちを励ますだけじゃなく、周りの大人たちのことも変えていくことだと思うようになりました。
そのためにも、日本の学習観そのものを変える必要がある。でも、ずっと日本にいたら、良いところも課題点も、当たり前過ぎて気づけないこともたくさんあると思ったんです。
それなら、一度私自身が日本から出て多様な価値観の中で日本の教育を考えるために、コロンビア教育大学院へ行こう。それが、34歳になった今、留学することを決心した理由です。
麻雀理論で人生を考える。「手放す」と「手に入れる」は常にセット
とは言え、30代になってガラリと環境を変えるのは勇気がいります。
特に女性の場合は、何かとライフステージが変わるタイミング。自分のこれからのライフプランとキャリアを考えると、思い切った決断ができないというのも分かります。
私も同じで、留学を迷っていた理由の一つは、出産時期をどうするかでした。

もともと子どもが大好きで、仕事柄、いろいろな保護者の方から相談を受けることが多かった分、親になることへの興味も強い方だと思います。
今の夫と結婚したのは2020年。年齢やタイミングを考えても、世の中から見れば「そろそろ」と思われるだろうし、そんな時に海外の大学院に通い始めたら、母親になる時期を逃すんじゃないかと、少し悩んだんです。
ただ、最終的には今自分が情熱を注ぎたいと感じることにまずは取り組めばいいじゃないか、と思うようになったんです。
その理由は、今の夫の存在が大きくて。彼は私以上に自由な発想の持ち主で、「俺も一緒に行くから、やりたいことをやりなよ」と背中を押してくれました。
もしもその時がくるならアメリカで産む選択肢をとってもいい。今は生殖医療も発達してきているし、日本に帰ってきてから産む選択肢もとれるかもしれない。
仮に子どもができなくても、この人となら夫婦2人で歩む人生も楽しそうだなと純粋に思えたから。それはそれでいいか! って。
そう考えたら、すごく気持ちが楽になった。強いてあげるなら、留学を阻む壁になったのは、私の残念すぎる語学力くらいです。
受験であんなに勉強したのに、電車や飛行機なんかで流れる英語のアナウンスすら何言ってるか分かんない! っていうレベルでしたから(笑)

じゃあ、なぜ勇気のいる決断ができたかと言うと、「何かを手放すと、その分また新しい何かを得られる」ことを、これまでの人生経験の中から学んできたからかなと思います。
私はこれを「麻雀理論」と呼んでいます。麻雀はやったことないのですが(笑)。麻雀って、手元に置いておける牌(パイ)の数は決まっていて、牌を1枚拾ったら、1枚捨てなきゃいけない。
これって人生も全く一緒だなあと。手持ちの荷物がいっぱいだと、新しいものをつかめない。だから、今の日常を何か変えたいと思うなら、今あるものの中から何かを手放すことが必要。
その取捨選択が、その人にとってより豊かなキャリアをつくっていくんだと思います。
常にワクワクする道を選べば、後悔しない
そこで難しいのが、何を手放すのかを決めることですよね。
今持っているものを手放すのってすごく怖いし、そうやって新しい牌を手に入れたところで、役が揃ってアガれるとも限らない。だからみんな迷うんだと思う。
そういう時、自分なりの選択基準があると迷いが少なくなります。

私の選択基準は、常に「自分がワクワクできるかどうか」。
講演のお仕事も、もちろんすごく楽しかった。私に来てほしいと言ってもらえること自体ありがたいし、そこで直接生徒たちの声に耳を傾け、私なりの想いを伝えられることにもやりがいがありました。
でも、どんな環境に生まれても、すべての子どもたちが生きたいように生きられる社会を目指すなら、私ももっと根っこの部分を変えようとする努力をしなきゃだめだって思うんです。
だから、大好きな講演のお仕事を一度手放して、私自身が認知科学の研究が進んでいるアメリカで人の学びのメカニズムを学ぶことを選びました。
日本の教育現場で頑張っている先生方をサポートできるようになったら、全国を講演して回るより、こどもたちの未来をより確実に明るく照らしてあげられるんじゃないかな、って。
そんな未来に誰より私自身がワクワクしたから、安定して仕事や収入が得られる現状を手放して、もっと大きな自分の可能性に投資することを決められたんです。
これまでの人生でも、いろんな選択をしてきましたが、どの選択も全く後悔してません。
大学を卒業した後、最初に就いた仕事はウエディングプランナーだったし、ブライダルの仕事を辞めて教育に携わるようになってからも、聖心女子大学大学院に進んで教育学を専攻して、何度も道を曲がりながらここまで来ました。
プライベートで最も大きく、辛かった決断は離婚です。離婚だって、お互いの幸せのために選んだ選択の一つです。
大きなものを手放せば、それだけまた大きなものが舞い込んでくるものです。その時は本当に辛かったけど、やっぱりあの決断も、必要なものだったと今では思えます。

もしも今、何か人生において大事な選択をしなければいけない時期にいる人がこの記事を読んでいるとしたら、ぜひ一度自分の時間の使い方を棚卸ししてみてほしいと思います。
時間は有限で、誰しも平等に1日24時間しかない。その24時間を自分はどう使っているのか。
もし、その中に、ワクワクしない時間があったら。
まずはその「ワクワクしてない時間」を思い切って手放してみるのはどうですか?
すると、その空いた時間を、他のことに使うことができます。 その隙間を、ワクワクする未来を思い浮かべながら埋めてみてください。
私の場合はその時間を、留学に必要な英語の勉強にあてました。先ほどもお話ししましたが、私の英語力は、慶應に訴えられるんじゃないかっていうくらいひどかったので、勉強自体はそれはもう大変でしたよ。
読み書きにリスニング、スピーキング、英語漬けの毎日を一年過ごして 、なんとかTOEFLのスコアを62点から104点にまで上げることができ、アメリカのトップスクールに合格するために必要なラインを超えることが出来ました。
自分の手持ちの時間をどう使うかで、未来はまったく別のものに変わっていくと改めて実感しました。
そうやって麻雀の牌を切るように、ワクワクしないものを手放して、代わりに自分がワクワクするもので埋めていけば、きっと今とは全然違う未来になっていくと思う。
その牌が留学なら留学を選べばいいし、結婚や出産、転職ならそれを選んで、そのために必要な努力をするだけ。人生は、やりたいことをやるためにあるんです。
人の意見に振り回される必要なんて一切ない

ただ、人が何か選択しようとすると、必ず足を引っ張ろうとする人が出てきます。いま留学なんかして、子どもはいいの? とか、家庭はどうするの? 仕事は? なんて聞いてきたりして。
でも、結局決めるのも責任取るのも自分。周りの人の言うことなんてすごく勝手なものだから、いちいち他人の意見や評価に左右されなくていいんだ、と私も自分に言い聞かせてます。
以前、こんなことがありました。私が慶應を受験した時に、坪田先生が言ったんです。
「きっと君は受かっても受からなくても必ず悔しい思いをする」って。どういう意味か聞くと、先生はこう言いました。
「もし君が受験に合格したら、みんなはなんて言うと思う? 『どうせ君はもともと頭が良かったんだ』って言うだろう。逆に、不合格だったなら『ほらな、だから無理だって言ったじゃん』って言ってくるよ」って。
こんなに死にものぐるいで頑張った私に、そんなこと言う人いる? 先生、あまりにもひねくれた物の見方をするんだな……この人、友達がいないだろうな……なんて、その時は思いました(笑)
でもね、残念なことに、先生の言った通りになったんですよ。ビリギャルが世に出た時に、散々言われました。「この子はもともと進学校に通っていた」「もとから頭が良かっただけじゃん」って。

あぁ、人は誰かの努力のプロセスなんて見ようとしないんだ。出た結果が全てで、それを自分の見たいように見て解釈するだけなんだ。そう痛感しました。
だからこそ、周りの人の意見なんて、気にする必要ありますか? って思えるようにもなった。自分にとって大切な選択なら、人がどう思うか、賛成するかなんて一切気にする必要はないんです。
どんな道を選ぶとしても、それが自分の今やりたいことで、ワクワクすることなら、いつもそれが正解です。
失敗したっていいんですよ、そこにはとんでもない成長がともなっているはずだし、失うものが大きいときほど、もっと大きくてワクワクするものが後から舞い込みますから。
これが、自分の可能性に蓋をせず、人生に貪欲に生きてきた私から伝えられる、「選択の時」に迷える皆さんへのメッセージです。

1988年生まれ。愛知県出身。自らの受験期を綴った坪田信貴著『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)がベストセラーとなり、一躍注目を集める。慶應大学卒業後はウェディングプランナーを経て、フリーランスに転身。全国の生徒や、保護者、教育者の大人たちに講演活動を行うかたわら、2019年から2021年まで聖心女子大学大学院にて教育学を学ぶ。2022年秋からコロンビア教育大学院に進学予定。今後、自身のnoteで留学における動機や準備、英語学習についてと、リアルタイムでの留学日記を綴っていく。
note:小林さやか「アメリカ留学記」
Twitter:@sayaka03150915
Instagram:syk03150915
YouTube:「ビリギャルチャンネル」
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
『My life「私たちの選択」』の過去記事一覧はこちら
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