【バイリンガール 吉田ちか】子育ても親の生き方も「もっと自由になれるはず」海外プチ移住生活を経て気づいたこと
生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるって素敵だけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします
YouTubeチャンネル『バイリンガール英会話』で人気の「バイリンガール」こと吉田ちかさん。「好きなことで生きていく」を体現する彼女は、子どもができたことで「これからの生き方」を考えるようになったという。
そこで始めたのが、プチ移住。これまでオーストラリアとマレーシアで、それぞれ3カ月間暮らした。
働き方も、住む場所も、そしてあらゆる固定概念から自由であろうとするちかさんが描く「私らしい未来」とはーー?
「子どもの遊び場所が狭いこと」がプチ移住生活のきっかけに
私が会社を辞めて、YouTuberになって約10年。これまでも仕事で悩むことはあったけれど、「この先どう過ごしたいか」を真剣に考えるようになったのは、子どもが産まれたことがきっかけでした。
それまで東京で生活していた私が「子どもを育てるのは東京ではなくてもいいのかな」と思ったのは、ある雪の日のこと。
自分がアメリカの田舎で広々とした土地に育ったこともあり、子どもたちが道路沿いで窮屈そうに雪だるまを作って遊んでいる姿を見て、「東京って、こんなに遊ぶ場所が狭いのか」と思ったんです。
そこで国内の移住先を調べ始めたのですが、次第に「国内に絞る必要はないのでは?」と思いついたことが、海外プチ移住生活の始まり。私自身もいろいろな国の生活を見てみたいと思ったし、ちょうどいいかなと。
「それなら3カ月間、外国のどこかで暮らしてみよう」と、オーストラリアのメルボルンとマレーシアのクアラルンプールで生活しました。
場所の選び方は、直感が大きいです。
マレーシアに行ったのも、メルボルンのカフェでたまたま出会った日本人のご夫婦からおすすめされたことがきっかけでした。YouTubeでアジアを紹介したこともなかったし、面白いかなと。
マレーシアに行ったのは初めてでしたが、とても都会で驚きました。イギリス領だった歴史もあり、街のエリアごとにさまざまな特徴がある。大きな日本食スーパーもあって、想像以上に何不自由ない生活ができました。
2カ国でのプチ移住生活を経て気付いたのは、やっぱり私はさまざまな文化や人に触れるのが好きだということ。
そして、短い期間の旅では得られないものがあることを実感しています。長く滞在するからこそ、現地で出会う人たちとの関係性が深まる面白さがある。
マレーシアから帰国して2年経った今も、当時知り合った人たちと連絡を取り合っています。
「子どもにとってどうなの?」の固定概念を覆したい
ただ、海外プチ移住を家族で繰り返すような、まだ多くの人があまりやっていない生き方を選択すると、「それって子どもにとってどうなの?」「 親が子どもを連れまわすなんてかわいそう」「子どもが学校に通うようになったらそういう生き方はできないね」と、言われることも。
たしかに、上の子が3歳半になった今、私自身に迷いがないわけではありません。マレーシアでも、娘はプリスクール(幼稚園)に行く日は毎回必ず泣いていたのに、最終日だけは泣かなくて。「せっかく慣れたのに、帰国するのか…」とも思いました。
でも、私には子どもがいる親の生き方や、子育てそのものに対する固定概念を覆したい思いもあって。「親なんだから自由に生きられなくて当たり前」という考え方自体を変えたい。
例えば、「家族で海外移住なんて、子どもにとってかわいそうだし無理だよね」って思う人には、逆に「なぜそう思うのか」を考えてみてほしい。
確かに、慣れ親しんだ場所を一時的にでも離れることでデメリットもあるかもしれないけれど、移住しなければ得られないものもあるわけで、そこにはメリットもいっぱいあるんじゃないかと。
逆に、同じ土地にずっといればメリットしかないか、といえばそうではないと思います。
そして、コロナ禍でリモートワークやオンラインでのコミュニケーションが浸透した今、住む場所を固定しなくても、慣れ親しんだコミュニティーに身を置く方法はいくらでも持てるようになりました。
学校はまだ一か所に固定されているけれど、今後は教育を受ける場所だって固定化せずに済むようにできるんじゃないかな、もっといろいろな選択肢があるんじゃないかな、って思うんです。
もちろん、子どもに必要な学びはオンライン教育だけでは足りませんし、私も転校した経験があるので、学校が変わる負担やつらさもよく分かる。
でも、例えばオンライン上に学校とは関係のないコミュニティーがあって、そこに子どもが所属していれば、世界中のどこに行っても友達とつながれますよね。
そのコミュニティーを軸に持って、さまざまなところで生活をしながら多様な価値観や文化、視点を知ることができれば、生活自体も学びになる。今話題のメタバース(仮想現実)なども、これから役立ちそうです。
新しいツール、テクノロジーをうまく使って、子育てしながらでも場所に縛られない自由な生き方をする選択肢がもっと普通になっていいのでは、と思います。
「これだ!」と思ったらまず動く。失敗したら泣き叫んで「はい、次!」
働き方も、住む場所も、生き方も、今はたくさんの選択肢があって迷う人も多いと思います。でも、私はあまり深く考えないタイプ。「これだ」と思ったらすぐ動くのが私のスタイルです。
自分に合っているかは実際にやってみないと分からない。だから、悩んでいても意味がない。それなら早く動いた方がいいじゃないですか。
仮に選択したことを後から「違ったな」と思ったら、すぐ切り替えてそこから学んだことを次に生かせばいいだけ。
起きてしまったことにクヨクヨしても意味がないと思っているので、「やっぱりあっちの選択肢にすればよかった……」と、考えたこともありません。
今回のコロナもそうですね。私の動画はほとんどが旅動画だったから、旅ができなくなった今は正直きついです。どんなコンテンツが出せるか、いつも必死で考えています(笑)
でも、仕事を辞めるわけにはいかないから、工夫してやるしかない。
そういう中で、子どもとのやりとりを動画でアップしたら、「子どもの英語の成長が見えて面白い」「ちかさんと娘さんが話している英語のスピードが分かりやすい」といった反響があって。
やり方を模索しながら動き続けていれば、新しい発見もあるんだなと改めて思いました。
とはいえ、私だってもちろん落ち込むことはありますよ。
皆さんが思っているほど私はポジティブじゃないから、悩むし、凹むし、泣くし、時には感情が爆発して泣き叫ぶことだってあります(笑)
でも、失敗や後悔にとらわれて前に進めない状態にはならないですね。私は感情を表に出すタイプで、友達に話したり、文章に書いたり、自分が思っていることを全部吐き出しちゃえばすっきりできるんです。
とにかくダラダラ落ち込むんじゃなくて、ガッとどん底まで落ち込んで、マイナスの感情を一気に発散する。そうすれば「よし、次!」と思えるから、切り替えは早い方かもしれないですね。
公私ともに「自由になる」カギは周囲からの信頼
私は子どもをきっかけに未来を真剣に考えるようになりましたが、今振り返って思うのは、「とことん目の前のことに集中する期間」も必要だということ。
私はYouTuberになる前、コンサルティング会社で6年間働いたのですが、入社して最初の3年間は仕事漬けで本当にキツかったんです。
当時は先のことを考える余裕なんかなくて、目の前のことを頑張るので精一杯。16年住んでいたアメリカから帰国してすぐに働き始めたので、敬語一つまともに使えず……。何度も「辞めたい」と思いました。
それでも2年はとことん頑張ると決めて、さらにもうちょっと頑張って。3年経ったころにようやく上司やクライアントから信頼してもらえるようになりました。
そうしたら少し会社の中で自由が得られて、時間の余裕も生まれて、先のことを考える余裕もできました。そうして始めたのが、YouTubeです。
日本人の感覚として「一つのことをきちんと終わらせてから次をやる」という、ステップをきちんと踏みたい意識があると思いますが、いきなり会社を辞めて何かを始めるって、ほとんどの人にとっては難しいことですよね。
ならば、まずは目の前の仕事を頑張って、周囲の人から信頼を得る。
信頼が得られれば、自分が好きなことがやりやすくなる。そうやって軸がありながら気になった世界をちょっとかじってみて、少しずつ自分に合いそうな方向に切り替えるやり方を私はしました。
それに、目の前のことを一生懸命やっているから得られることって、たくさんあると思います。そして、それは絶対に次へつながる。
私はYouTubeクリエイターとして今は全く違う仕事をしていますけど、例えば企業からの案件の依頼を受けるときに、コンサルティング会社で仕事をした経験が生きていることを感じています。
「仕事と子育ての良いバランス」に必要なのは、固定概念からの開放
今後の人生をどう過ごすか。いろいろ未来を妄想するけど、結局のところ私は「自由でいたい」のだと思います。
どんな生き方を選んでも、つらいことは絶対ある。自由な生き方にも、自分で全てを決め、自分で問題を解決し、全部自分で責任をとらなければいけない厳しさがあります。
それでも縛られるつらさより、自由のつらさの方が私は耐えられるというだけ。
今後はYouTube以外にも、子ども向けに英語教育をするようなことにも挑戦してみたい。ただ、会社をつくって人を雇って事業をやろうと思うと、私の場合はその責任から精神的な自由を失ってしまうかもしれません。
そういう意味では、フリーランスとして一つ一つ区切りがあるプロジェクトを担当する仕事の方が私には向いているのだろうと思います。そっちの方が、働き方も住む場所も、フレキシブルでいられそうですしね。
仕事と子育ての両立については今も悩んでいますが、私にとってはやっぱり「自由」が大切。「こうしなければ」「こうでなければ」をなるべく持ちたくないんです。自分がその時々で優先したいことをちゃんと優先できる生き方をなるべくしていきたい。
でも、仕事と子育てをどちらもフルタイムでやろうとすると、どう考えてもそれぞれ50%ずつしかできないんですよね。動画のクオリティーを保ちながら、日々の子育てもしてとなると、動画の更新頻度も下がってしまう……そんなことが起きています。
ワークライフバランスって簡単に言うけど、それを実現するのってものすごく難しい。バランスを取るには、きっと何かしら固定概念を崩していく必要があるのだろうなと感じています。
特に子育てにはたくさんの固定概念があるから、まずは「固定概念がある」と意識をすることが大切なのではないかなと。その意識があれば「これって変じゃない?」って当たり前の中にあるおかしなことに気づけるようになる気がしています。
あとは、周りの目をあまり気にし過ぎないことも必要だと思います。
例えば家事代行を使おうとしようとした時「自分でやらないなんてだらしない」と周りに思われやしないかと、心配になってしまうかもしれませんが、仮に周りがそう思ったとしても「自分は自分」って思えることが重要です。
仕事と同じで、乗り越えないといけない課題があったら「どうやったらできるだろう」って考えて、できない理由を一つ一つ潰していく。
そうやって目の前にあるハードルを解消していけば、「こうじゃなければいけない」という自分の首を絞めるような固定概念がだんだんなくなって、より自由でいられるような気がしています。
小学校1年生の時に父親の仕事の関係でアメリカ・シアトルに渡米。以後、16年間をアメリカで過ごす。ワシントン大学・ビジネススクール卒業後、帰国し大手コンサルティング会社に就職。2011年よりYouTubeで英会話動画を投稿し、現在の『バイリンガール英会話』を開始。13年、6年間勤めていた会社を辞め、動画クリエイター一本で活動することを決意。14年 GoogleによるYouTube「好きなことで生きていく」キャンペーン起用。16年、国連とYouTubeの共同プログラムによる “Change Ambassador”に就任。15年に結婚、18年第一子となる女児、21年第二子となる男児を出産。チャンネル登録者数は150万人、再生回数は4億回を超える YouTube『バイリンガール英会話』/Instagram /Twitter
取材・文・構成/天野夏海
書籍紹介
『WAKE UP! in クアラルンプール』(世界文化社)
大人気YouTubeCreator・吉田ちかさんファミリーが、2019年に行ったメルボルン(オーストラリア)の次の”プチ移住先”として決めたのは、クアラルンプール(マレーシア)。英語勉強中の夫・おさるさん(仮名)と、1歳の娘・プリンちゃん(仮名)と共に、4ヵ月のプチ移住で実感したマレーシアの魅力をお届けする1冊
『「私の未来」の見つけ方』の過去記事一覧はこちら
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