一人が不安で“友達とのルームシェア”を選択「どんな形であれ、楽しく生きる方法を考えたい」
結婚する? 子どもを持つ? 仕事はどうする? 現代女性の人生は、選択の連続。そこで本特集では、自分らしく生きる女性たちの「選択ヒストリー」と「ワークライフ」を紹介します
一人暮らしをしている中でふと訪れる、不安や孤独。
そんな気持ちを軽減させるために「友達とのルームシェア」を選択し、同年代のオタク友達3人との同居生活を始めたのが、フリーライターの藤谷千明さん。
恋人との同棲や結婚ではなく、友達とのルームシェア。その生活はどんなものなのだろう。

藤谷千明さん
1981年、山口県生まれ。高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ビジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。著書『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)は、5月20日に韓国語版も発売予定。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)など
■Twitter
夜泣きしていた秋の夜、「一緒に住まない?」と友人に連絡
私は現在、一軒家でオタクの女友達3人とルームシェアをしています。
ことの始まりは4年前の秋の夜です。その日、私はメンタルが落ちて夜泣きしていました。
少し前に、駅の階段から滑り落ちて肩をけがしていたんですよ。一人暮らしで体が痛いと不安になるじゃないですか。
フリーランスゆえの収入の不安定さ、前年に長年同居していたパートナーとの関係を解消したこと、それで引っ越した1Kの部屋が物であふれて散らかっていること……。
そういったあれこれも重なって、孤独を感じてしまったんです。

そんな中でSNSを見たら、オタク系のイベントで時々会う友人が「将来が不安だ」みたいなツイートをしていて。彼女はフリーランスの服飾作家。私と同じく、ちょっとしたきっかけで気持ちが不安定になったようでした。
その時に「分かるわ~」と思うと同時に、「友達とルームシェアっていいかも」とふと思ったんですよね。
誰かと一緒に住めば生活コストは下がるし、精神的な不安も軽減できる。もう一度ゼロから恋人と関係性を作るのはちょっとしんどいし、既存のシェアハウスは収納が少ないからものが多い自分には向かない。でも、友達なら関係性はすでにあるし、物件も自分たちで選べる。
そこで「一緒に住まない?」と彼女に連絡をしたんです。実現したら面白いし、無理だったらそれはそれでいい。完全な思いつきでしたが、「面白いね」とすぐに返事が来ました。
その際、「在宅ワークのフリーランス2人だけだと不安じゃないか。もう一人いた方がいい」という彼女からの的確な指摘もあり、2人とも参加しているLINEグループに声を掛けてみたんです。
それは「ちょっとしたパーティー」という名称の、趣味の友達が集まるグループ。最初は小さな集まりでしたが、友達が友達を呼び、20人ほどのグループになっていました。
そこで新たに2人が手を上げてくれて、メンバーは4人に。予定より増えたけど、多い方が家賃は安くなるし、何より楽しそう。そうして、4人でのルームシェア生活に至りました。

今振り返ると、「ちょっとしたパーティー」で会を催すときの場所の確保や予算の管理は私がやっていたので、「この人なら大丈夫かな」と思ってもらえたのかなと思います。だらしないところもあるけど、そんな弱点も含めて知ってもらえていた。
「ルームシェアもパーティーも“コミュ強”だからできる」と言われたりするんですけど、私が主催の役割を担っていたのは、自分がコミュニケーションに自信がなくて、周りの人から「楽しめてる?」と気を遣われたくなかったから。
「主催して疲れているから壁の方向いてんだな」くらいに思ってもらいたいという動機でやっていたことですが、結果的にプラスに働きました(笑)
同居していてもやり取りはLINE。1週間会わないことも
同居人の3人とは、実はそれほど親密だったわけではありません。本名や仕事は一緒に住むまで知らなかった人もいるくらい。
でも、mixiやTwitterで十数年見ているから、人となりは知っていました。魂は知っているけど、肉体のことは全然知らない。そんな感じです。
特に相手へのイメージにギャップはないし、幸いこれまでにもめ事もないですね。
生活サイクルが違うから、毎日のように顔を合わせているわけではなく、普段のやり取りはLINEグループ。それぞれ忙しいので、人によっては1週間会わないこともあります。
私もあまり部屋から出ないので、「あ、久しぶり」となることも多々。そういう意味ではルームシェア前と距離感はさほど変わらないとも言える。
日々の生活も、テレビ番組からイメージするようなルームシェア生活ではありません。
たまにみんなが気になる配信やアニメの上映会をしたり、最近だと同居人が買った『Nintendo Switch』で遊んだりすることもありますが、基本的には淡々としています。

オタクグッズや本を収納している、倉庫部屋の共用の本棚。『鬼滅の刃』は話し合いの末、共用費で購入
快適に過ごせているのは、事前にしっかり話し合いをしたのも大きかったと思いますね。生活サイクルや家事の得手不得手、持病、「トイレがめちゃ近い」みたいなちょっとしたことまで、細かく共有をしました。
ルームシェアを始めてからも、お互いに気になることはこまめに言うようにしています。「お風呂の洗剤使い過ぎじゃない?」「電気つけっぱなしだったよ」レベルの話を、もめる前に伝える。全員アラフォーの大人ということもあり、話し合いはスムーズですね。
特に私は言われなければ分からないタイプで、察するのは得意じゃない。だから「気になることは言ってくれ」と事前に言っていました。一方、察する方が気が楽な人もいるだろうから、そこは相性でしょうね。
うちの場合は、本当に今の家のノリがみんなに合っているのかなと思います。ルームシェアの向き不向きは、「そのコミュニティーのノリと価値観が合うか」に尽きるような気がしてて。
例えば同居人の一人は、「柔軟剤が大好きな人がいなくてよかった」と言っていました。
うちは全員分をまとめて洗濯するんですけど、誰も柔軟剤にこだわりがないんです。匂いの好みはあるし、洗濯は毎日のことだから結構重要じゃないですか。
だからこだわりが強かったり、人のことが気になりすぎたり、逆に自分の行動が誰かに不快感を与えてるかもしれないと考え過ぎたりする人は特に、事前にできるだけ話し合った方がいいのだろうなと思います。
世間的な家族規範から外れる不便さはある
そんな生活は4年目に入り、最近賃貸契約の更新もしました。この家はちょっと駅から遠いけど便利な立地にあるし、部屋の間取りもルームシェア向きなので、本当に快適です。できれば次も更新したいくらい。家自体の築年数が古いこともあり、なんだか実家っぽくて落ち着くんですよ。

実家っぽさのあるシェアハウス
狙い通り生活コストは大きく減り、一人暮らしをしていた頃の約半分になりました。最近は光熱費の高騰で出費がかさんだ人も多いと思いますが、一人暮らしよりは4人暮らしのほうが光熱費を抑えることができるので、すごく助かりました。
コロナ禍で仕事が飛んで経済的に大変だったときも、「まあ大丈夫だろう」と思えましたし、精神的な安心感はありますね。
また、4人いるから、1人が倒れても3人いれば誰かしらがフォローができます。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種日も4人で調整して、共有費でポカリやおかゆを買って、しんどい時に誰かに頼れる体制を整えました。
陽性者が出たら全員が濃厚接触者になってしまうリスクはあるものの、やっぱり弱っている時ほど、一緒に住んでいる人がいることで救われるなと感じています。
一方、一人になるのが難しいのはマイナス面です。個室はあるものの、良くも悪くも人の気配はしますから。
実は去年の夏、試しに仕事場用に近所のワンルームのアパートを借りたことがあって。「これは違うな」と思ってすぐに解約しましたが、トライアンドエラーがしやすいのは良いところですね。これが家族だったら、おそらく同じことはやりにくいでしょうし。
ただ、やはり世間的な家族規範から外れる不便さはあります。実は今度、ちょっとした手術で入院予定なのですが、万が一私が意識不明になった場合、その手術には血縁者の許可が必要で。単なる同居人ではダメなんです。
他に、今の生活が長く続いた場合、「誰かが要介護になったらどうするか」という課題もあります。現行の介護に関する制度は家族関係や資格持ちに限定されていることが多く、老後も今のようなルームシェア生活を続けるのは難しい気もしています。
結婚に準ずるものとしてパートナーシップ制度がありますが、対象が同性カップルに限定されていたり、そもそも導入している自治体が限られたりと、友人同士で利用するのは現実的ではありません。
そもそも友人同士の賃貸契約や審査も厳しく、家探しも大変です。ただのルームシェアがもう少し便利になるよう、世の中の風潮が変わるといいなと思います。
どんな世帯の形であれ「楽しく暮らす努力」をすればいい
今の生活を始めてから、私は視野が広がったなと思います。大家族でもない限り、大人が4人で暮らすことってあまりないじゃないですか。
みんなバラバラの仕事だから、例えばコロナ禍で在宅ワークになった人もいれば、出勤している人もいる。フリーランスの私は仕事が不安定になったりもするし、一方で別のフリーランスの同居人は円安に悩んでいたり……。
そうやって同居人を通じて、人にはいろいろな立場や事情があることを再認識できる。それはライターとして仕事をする中でもプラスになっています。
この先、同居人の誰かが結婚して出ていくこともあるかもしれません。空いた部屋に、子持ちの人が入ってくる可能性もゼロではないし、ルームシェアしたまま籍を入れて週末婚にする人が現れても面白い。
さまざまな場面に備えられるよう、最近はライターの仕事の合間に行政のファミリーサポート制度を通じて地域の子どもの送迎をお手伝いしたり、介護職員初任者研修を受けて資格を取り、訪問介護の現場に立ったりもしています。この暮らしを選択していなければ、こういうこともしていなかったと思います。
今は独身中年女性でワイワイやっているけど、いつまでこの暮らしができるかは分かりません。私たちは生活を共有しているのであって、人生は共有していませんから。
誰かの家庭や仕事の事情、あるいは賃貸なので家主さんの都合で、今のルームシェアを解散させて、一人暮らしをする可能性だってありますしね。

共用の冷蔵庫。食材のダブりを防ぐために自作のマグネットシートで中身を可視化
でも、それは悪いことではなくて、ある意味では気楽で良いと感じている部分です。
いずれにせよ、その都度フレキシブルに、自分が面白いと思える生活をするための方法を考えたいですよね。
今回、「結婚のオルタナティブ(代案)としてのルームシェア」というテーマをいただいたのですが、もしこれを読んでいる人にとって「自分が望む生活」が結婚生活なのであれば、あえてルームシェアするのではなくて、婚活する方がいいと思います。
でも、恋愛に興味がなかったり、結婚したいと思えないけど、誰かと暮らしたい場合は、ルームシェアも選択肢の一つ。
つまりは「無理して結婚する必要もなければ、無理して結婚を諦める必要もないんじゃない?」ということ。「みんな~! 今すぐ結婚願望なんて捨ててルームシェアをしよう!」ということを言いたいわけではないんですよ。
どういう世帯の形であれ、楽しくやる方法はあると思うので、それをかたちにしていきたいし、発信していきたいです。……なんだか無難な話になってしまいましたね(笑)
でも、無難な話って案外大事だと思っていて。例えば、ネットには「結婚できない人はダメ」だとか「孤独な中高年の末路」だとか、不安をあおる意見がたくさんあるし、逆に「家族制度は全部クソ」みたいな極端な意見もある。しかもSNSの特性上、そういう情報の方が拡散されやすい。
結婚、事実婚、ルームシェア、一人暮らし……実際はどんな生活でも、良いところも悪いところもあるでしょう。その中で私はルームシェアという選択をして、現状結構楽しく暮らしています。
このサイトにも、おいしいお寿司が並んでるかのごとく、すごく良い生き方をされている女性のインタビューがたくさんあると思うんです。私の話は、お寿司の横に添えてあるガリみたいなお口直しの事例として、「こういう風に生きている人もいるんだな」と思ってもらえたらうれしいですね。
取材・文・構成/天野夏海
著書紹介

『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』著者:藤谷千明(幻冬舎)
一生を約束したくはないけれど、寂しいから誰かと暮らしたい、推しのグッズは増える一方なので広い部屋に住みたい、節約して将来への不安に備えたい……。意見の一致したアラフォーのオタク女子4人がルームシェアをすることに!
本名すら知らなかった仲間との生活は、オタクならではの出来事や会話が飛び交う毎日で、全然キラキラしてないけど、すごく楽しい。そんな4人が同居に至るまでと、春夏秋冬の暮らしを綴った、ゆるっと日常エッセイ。
『My life「私たちの選択」』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/our-choice/をクリック