上司が自分にだけ構ってくれない、仕事を押し付けてくる「これってなんで?」森本千賀子さんが翻訳する“管理職の本音”
「何でそんなこと言うの?」「何でこんな態度をとるの?」上司の言動・行動にモヤっとしたことがある人は多いはず。
でも、その言葉や行動の真意を「上司の視点」で考え直してみると、モヤモヤ解消につながるヒントが得られるかもしれない。
そこでお話を伺ったのは、“リクルート伝説の営業ウーマン”として過去に100人以上の部下を育成してきたキャリアコンサルタントの森本千賀子さん。現在も、人材紹介エージェントmorich代表として、仕事に悩める女性たちの相談に応じている。
Woman type読者から集めた「これって何で? どうして?」という三つのモヤモヤ事例を、森本さんに上司の視点で“翻訳”してもらうと……?
モヤモヤ1:上司が私にだけ構ってくれないのはなんで?
回答:「構わなくていい」は上司からの“信頼の表れ”です
中途入社した会社で働き始めて2年目。
去年までは上司が私にベッタリついて仕事を教えてくれていたのですが、いつの間にかコミュニケーションの量が減り、私の先輩や今年入ってきた新人とばかり話をしています。
上司に構われなくなってしまった私は、期待されていないのかな、なんて考えてモヤモヤしています。
Aさんとしては、まだまだ上司のフォローが必要なのに、チームに新人が増えたことなどが原因でコミュニケーションの量が減ってしまい、不安を感じているようですね。
ただ、その上司が会社からちゃんと評価されていて、周囲からも人望があるタイプなら(要は、上司個人に問題があるケースではないとするなら)、組織に入ってきたばかりの新人や、このタイミングでもっと上に引き上げなければいけない先輩の面倒を見ている状態は自然なこと。
そして、Aさんのことを「以前と比べて構ってくれなくなった」のは、あなたに対する信頼の表れだと思います。
きっと、入社2年目になったAさんは、入社当時にはできなかったようなことも一人でできるようになっていますよね。そして、自走力があり、任せたい業務をある程度は一人で遂行できる人だと認めているはず。
Aさんは問題なく仕事ができているから、「構わないでOK」と思っているのでしょう。
逆に、放っておいてOKではない人を、上司としては時間を割いて「構わないといけない」のです。
当たり前ですが、上司の時間も有限です。そのため、組織の成長フェーズに合わせて手をかけるべき人を見極めなければいけません。
「以前と比べて構ってもらえなくなった」というマイナス面にフォーカスすると不安を感じるかもしれませんが、「信頼して自分に仕事を任せてくれているんだ」と考えてみると、ちょっと見方が変わりませんか?
とはいえ、「もっと構ってもらいたい」「手をかけてもらいたい」と感じてしまうのは、Aさんがまだまだ上司の助けを必要とするシーンがあるからだと思います。そういう場合は、自分の気持ちを包み隠さず上司に伝えてみましょう。
Aさんも心当たりがあるかもしれませんが、真面目に働いている女性ほど「困っている」「ここができない」というサインを出せずに“平気な顔”をして仕事をしてしまうんですよね。
だから、上司もAさんがモヤモヤしていたり、不安を感じたりしているなんて「少しも気づいていなかった」なんてこともあるわけです。
私自身も、過去にいきなり「実はもっと構ってほしかった、寂しかった」なんて部下に打ち明けられてびっくりしたことがありました。
あんなに平然と仕事をしていたのに、そんなことを思っていたなんて! と。
そう、上司も人間なので全能ではないし、言われていないことまで全て察することは無理なわけです。
ですから、Aさんからの自己開示も大事。助けが必要な人なんだ、と分かればもっと構ってくれるし、必要なアシストをしてくれるようになると思います。
もし、自分の状況を伝えるときに緊張してしまうなら、執務室や会議室でかしこまって伝えるのではなく、ランチなどの場でカジュアルに伝えてみてはどうでしょうか?
どんな小さなことでも話してもらえたら上司としてはうれしいですし、自己開示してくれる部下についてはますます「信頼したい」と思えるようになるものです。
気になることがあったらすぐに聞ける・話せる関係を、自分からつくっていくことがストレスフリーで働くことにつながります。
モヤモヤ2:部署異動でやってきた上司が現場の仕事を覚えようとしない!
回答:優先事項が違うだけ。現場経験の少ない上司がきたら大チャンス!
今の会社に入社して5年、現在はWebディレクターとして一人で自分の担当業務をこなしつつ、後輩の育成も担当しています。
ですが、この春まったくWebの知識のない人が課長としてチームに異動してきて、私の上司になりました。
その課長は、私に対して「Webの知識が豊富ですごいね」「現場の仕事はあなたに任せておけば安心だね」とは言ってくれるのですが、自分でWebの勉強をしている様子がなく……なぜ上司なんだろうとモヤモヤしています。
自分よりも現場経験がなかったり、業務知識のない人がチームのマネジャーになるケースはよくありますよね。
しかも、その課長がそのチームで必要とされる現場の知識や業務に必要なスキルについて積極的に習得しようとしていないということで、Bさんがその姿勢にモヤモヤする気持ちもよく分かります。
ただ、その新しい上司は、本当に「何もしていない」のでしょうか? もしかすると、もっとほかのことを勉強していたり、他の役割を全うしようとしていませんか?
上司の視点を翻訳するなら、「細かい業務を覚えるより、チームの成果を最大化するために今はもっと大事なことがある」ということなのかな、と思います。
Bさんのように、「管理職なら、現場の仕事もできるべき」と考える人は多いのですが、実はそうとは限りません。
チームをマネジメントする管理職と部下の関係は、スポーツでいうところの、コーチと選手の関係に似ています。つまり、やるべきことも役割も全く違うのです。
そして、この「業務知識のない上司がいきなりやってきた」状況は、Bさんのキャリアにとってかなりおいしい状況。自分の価値を示す最大のチャンスでもあります。
それはなぜかというと、自分より業務知識があって、仕事ができて、何でも完璧な上司がいると、「すごい人だ」と尊敬できる一方で、その組織の中で上司の存在は絶大。
部下として、その上司の傘の下となると、自分の価値やプレゼンスを発揮するのは恐らく難しいでしょう。
逆に、現場のことがよく分かっていない上司が来たなら、その人の足りない部分をBさんが補ってあげれば、あなたの評価はうなぎ上りです。
それに、あなたの手柄につながるような、大きな仕事を任される機会も自然と増えるでしょう。
また、Webディレクターからのたたき上げではない上司は、それまで違う部署や違う会社でBさんとは全く違う経験を積んできた人なのだと思います。
そういう人が新しい視点をチームの運営に取り入れてくれたりすると、組織もサービスも一段と成長することがあるものです。
管理職の仕事は、チームの成果を最大化すること。そのための方法は、「業務知識がある」ということに限りません。
その人が来ないと学べなかったことをどんどん学んで、積極的にフォローをしてあげて、Bさんの成長&キャリアアップのチャンスにしてしまいましょう!
モヤモヤ3:上司が私にばかり仕事を押し付けてくるのは何で?
回答:人によって成長の課題はそれぞれ。「量を経験する」が必要な時期もある
チームメンバー10人の営業事務の組織に所属しています。
メンバーはたくさんいるはずなのに、上司が私にだけ仕事をたくさん押し付けてくることに悩んでいます。
みんなほぼ同じ給料なのに、なぜ私だけ大変な思いをしているのか……上司の仕事の采配にモヤモヤしっぱなしです。
自分だけ仕事をたくさんしていると、損した気持ちになってしまう。この状況にモヤモヤしてしまうCさんの気持ち、よく分かります。
でも、あえて上司の視点に立ってこの仕事の采配について考えるなら、Cさんが特に効率よく仕事をこなせる人で、なおかつ「今は量をたくさんこなすことが、Cさんの成長にとって不可欠」だと上司が認識しているということなのかなと思います。
同じチームで、同じような役職の人たちが複数いたとしても、その人たちの得意不得意や課題となっているポイント、成長のステップは全然違うことがあります。
例えば、量よりも質にこだわった仕事をさせた方が伸びる人、あるいは、まずは場数を踏ませてとにかく経験値を増やした方がいい人、どっちの方がその人のためになり、チームの成長につながるのかを上司は考えているものです。
すると自然に、誰にどのくらいの仕事を任せるのかが変わってくるのは明らかですよね。
話を戻すと、Cさんに必要なのは今、量をさばく経験値で、それがあなたを最も成長させると上司は客観的に判断しているのかもしれません。
そして、そこで一定以上の成果をCさんが出せば、近い将来にさらに上のポジションに引き上げようと思っている可能性もあります。
とはいえ、明らかに一人だけキャパオーバーなのに仕事を増やし続けてくる場合は、上司にその状況について感じていることを相談してみましょう。
上司からすると、仕事をまだ任せられる余裕があるように見えているのかもしれませんし、「できる人だ」と認めているから仕事をふって成長させたいと思っているだけかもしれません。
思い切って本音を伝えてみたら「まさかあなたがそんなふうに感じていたとは!」と上司は驚くかもしれませんが、采配の意図を教えてくれるはずです。
もしもこうした相談を直接上司にしづらいなら、他部署のマネジャーに相談してみるのもおすすめ。
自分では気付かなかった視点を与えてくれるかもしれませんし、必要があればCさんの上司に横から掛け合ってくれるかもしれません。
いずれにせよ、社内にさまざまな相談先を持っておくことは、Cさんが安心して働き続けるために役立ちますよ。
“部下力”を磨くことで、仕事も人間関係もうまくいく?
自分が今モヤモヤしていることを「上司の視点」で考えてみると、実は「悩む必要のないことだった」……なんて気づくこともあるかもしれません。
また、本人に直接相談したり、疑問に思っていることを聞けば解決することも多いものです。
そこで必要なのが、“部下力”。
自分がストレスフリーで働いていくためにも、何でも受け身で情報を待つのではなく、上司といい関係を築き情報が入ってきやすい関係をつくってしまいましょう。
もちろん、部下が働きやすい環境をつくるのは上司の仕事です。ただ、それが一方通行だとうまくいかないのも事実。
自分に合ったマネジメントをしてもらおうと思ったら、部下からマネージャーへ自分のことを分かってもらうために自己開示する努力も必要です。そうすると、適切なタイミングで適切なアシストが受けられるようになっていくと思います。
それと同時に、上司の立場からすると、中長期的なキャリアビジョンを共有してくれたり、自分の状況を正しく伝えてくれる人は、ますます信頼感が増していきます。
困ったときにちゃんと相談ができたり、助けを求められる人は、大きな仕事も任せやすい。それに、やりたいことを示してくれると、その人に合った仕事を采配しやすくもなります。
上司を変えようとするのは難しいかもしれませんが、“いいマネジメント”を引き出すことは部下にもできる努力の一つ。
“部下力”を鍛えて、働きやすく成長できる環境をつくっていくスキルも磨いていきましょう。
取材・文/関口まりの(編集部)