あなたの給料が上がらない7つの理由とは? 要因別の対処法を転職のプロ・森本千賀子が解説
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、1990年の平均給与は425万2000円。2019年の調査では、平均給与は436万円。
30年という歳月が流れ、物価は上昇しているにもかかわらず、日本人の給与は横ばいが続いている。
どれだけ頑張ってもその努力が給料に反映されないという不満に、会社で働くモチベーションを削られている人も多いかもしれない。
とはいえ、周りを見渡してみると、着実に昇進・昇格している人や昇給し続けている人がいることも確かだ。給料が上がる人、上がらない人、その差は一体何なのだろうか。
努力しているのに給料が上がらない理由は、自分自身に起因するもの、会社の制度や環境に起因するもの、大きく分けて二つのタイプがあります。
そう話すのは、これまでに数々の採用支援を手掛けてきた転職エージェントの森本千賀子さん。転職・キャリア相談に訪れる会社員女性の多くが、「給料が上がらない」理由を見落としがちだという。
頑張っているのに給料が上がらない……そんな人にぜひ確認してほしい理由と対策を森本さんが解説する。
【給料が上がらない理由1】会社の評価制度をよく理解していない
まず大前提として、自分の会社の評価システムや指標について理解していない人は、性別問わず、非常に多いです。
例えば営業職にしても、単に売り上げだけ見る会社もあれば、その内訳が新規顧客なのか既存顧客なのかで評価が変わる会社もある。会社のフェーズや戦略によって、どんな成果を出している社員を評価するかはガラリと変わります。
それを知らずに努力をしても、その頑張りは会社から見れば的外れということにもなりかねません。
大事なのは、まず会社があなたに何を求めているのかを知ること。評価制度に関しては人事に聞けば教えてもらえるはずですし、具体的な目標については上司と面談などでしっかり共有しておきましょう。
評価基準に沿ってアクションプランを立てていくことが、給料アップのための第一歩です。
【給料が上がらない理由2】上司に「プレゼン材料」を渡せていない
給料というのは直属の上司の一存だけでは決まりません。社員の給料は絶対評価ではなく、相対評価で決まることがほとんど。多くの会社では、グレードの同じ社員をそれぞれ比較した上で、誰にどれくらいの給料を与えるかを決定します。
つまり、社内で昇給を勝ち取ろうと思ったら、あなたの直属の上司がそうした会議の場で、あなたの成果を客観的な事実に基づいてプレゼンできなければいけません。
そのための材料が不足していれば、どんなに上司が頑張ってアピールしても、経営陣を納得させることは不可能。
そこであなたにできることは何かと言うと、上司が昇進・昇格を検討する会議の場でしっかりプレゼンできるような材料を渡すことです。
目標に対して、どんなアクションを起こし、どんな成果を獲得したのか。多くの会社ではそうした内容を評価シートなどにまとめると思いますが、そこにきちんと具体的な結果だけでなくプロセスの数字も盛り込んで記入できれば、上司もぐっと交渉しやすくなります。
もちろん、上司なんだから言わずとも把握しておいてほしいという思いもあるでしょう。でも、自分のためにより説得力のあるプレゼンをしてほしいと思うなら、あなた自身も協力して損はありません。
「自分は大したことないから……」なんて遠慮は無用。むしろ上司を自分の代わりに給料アップの交渉をする代理人と思うくらいがちょうどいい。
どうすれば上司がより交渉しやすいか、という視点で実績報告をまとめてみると、より強力な援護射撃になるはずです。
【給料が上がらない理由3】仕事に「アドオン」していない
シビアな言い方になりますが、「頑張っているのに給料が上がらない」という人の話を聞くと、やっていることはどれも、給与相応のことだったりします。
会社は、与えられたポジション・業務に見合う金額を対価として社員に支払います。設定された範囲内のことをやっているだけでは、残念ながら給料アップは望めません。
そこで必要となってくるのが、どれだけプラスアルファの価値をアドオンできるか。これは何も残業をしろとか、業務量を増やせという意味ではありません。
会社が重視するのは、業務の量ではなく、どれだけ組織に貢献できているかという点です。
例えば、営業アシスタントなら、部署内で新規獲得キャンペーンをやっていたら、その進捗を棒グラフにして競争意識が芽生える風土をつくったり、各グループの進捗を週に1回レポートにしてまとめたり。
なくても支障はないけど、あると組織が活性化するような働き掛けをアドオンしてみれば、評価の対象になることも十分あります。
あなたが現在の役職・ポジション相応の働きだけでなく、「現在の役職より上のポジションの人がやるような仕事をできている」と思われたときに、昇進・昇格の打診や、昇給の提案があると心得て。
【給料が上がらない理由4】個人のナレッジを、組織のナレッジにできていない
業務の属人化は組織の生産効率を下げる一因。「あの人だからできる」ではなく、「誰でもできる」ように標準化するところまでいけると、さらに評価を得られます。
例えば、あなたがどれだけ効率的なExcelの活用術を身に付けていても、それがあなた一人の中でブラックボックス化されている限り、給料アップの材料にはなりません。
それを後輩に教えてスキルや知識を伝承したり、みんなが使えるような状態にしてこそ、一つ上のバリューになるのです。
営業活動も同じですよね。一人の人が100売れるより、50売れる人が10人いた方が持続性があるため、組織にとってはプラスです。
売るためのノウハウや刺さるキラーフレーズがあるなら、自分だけのものにするよりチームに惜しみなく共有した方が、確実にあなたの社内プレゼンスは上がります。
自分が身に付けたナレッジを無償で提供するなんてもったいないと思う必要はありません。
そうやって優秀な人間だと認められれば、給料が上がるだけでなく、自身がブランディング化され社内での注目度も高まり、より大きなチャンスを与えられる可能性が広がります。
【給料が上がらない理由5】会社が給料を低く設定し過ぎている
ここから紹介する「給料が上がらない理由」は、あなた自身ではなく、会社側に問題があるケースです。
まず考えられるのが、そもそも会社の給料基準が低過ぎるケース。
これは何も労働力を安く買い叩きたいという場合だけでなく、単純に「ずっとこの金額でやってきたから」という慣習を何となく続けているだけの場合もあります。
会社が気づいていないだけだったり、場合によってはあなたに甘えているとうこともいえます。
なぜそうした事態が起きるのかというと、社員が何も言わないから、ということが非常に多い。皆うっすら給料に不満を持ちつつも、表立って口にしなかったり、何も言わずに転職しまったりします。
特に女性の方が、自分自身の市場価値を低く見積もる傾向があります。「私の給料、安過ぎませんか?」と会社と交渉する前に、「まぁ自分の価値はこんなものか」と諦めてしまう人が多い印象です。
しかし、あなた自身が大きく変わらなくても、交渉や転職を通して環境を変えると給料が一気に伸びるということは十分あり得ます。
自分の市場価値を正しく理解するためには、転職意欲の有無にかかわらず、転職サイトに登録したり、人材エージェントの話を聞きに行ったりするのがおすすめです。
そうすれば、今の自分のスキルでどれくらいの給与額のオファーが来るかがすぐに分かりますから。
その金額が今の自分の給料とそれほど変わらないのであれば、すでに適正価格の給料をもらっていると言えますし、もしもオファーで提示された金額と比べて今の給料が低ければ、交渉のチャンス。
「他社からこれくらいの給料でお話をいただいていて……」と上司や人事と話してみるだけで、給料がアップしたということは、実はよくある話なんです。
給料交渉が苦手という人もいると思いますが、何も相場よりずっと高い金額を吹っかけているわけではありませんから。あくまで、自分の給料を適正価格にするだけ。
何も後ろめたいことはありませんので、もし給料が低過ぎると思う場合は、自分の市場価値をチェックして一度相談してみるといいと思います。
【給料が上がらない理由6】利益率の低い/労働集約型の業界・企業で働いている
いくら社員に高い給料を払いたくても、無い袖は振れないというのが企業の本音。どれだけ社員から交渉しても、そもそもその原資がなければ昇給の見込みは薄いでしょう。
特に労働集約型(※)のビジネスモデルはどうしても薄利多売になりやすく、なかなか給料が上がりにくいのが現実です。
これについては、個人でとれる即効的な解決策はないため、大幅な給料アップを望むなら、他業種への転職を視野に入れた方がいいでしょう。
【給料が上がらない理由7】経営が傾いている会社にいる
コロナ禍で、経営に深刻なダメージを受けた会社も少なくありません。業績が悪化している以上、人員を整理したり、組織をシュリンクさせ、役職者の数を減らすことも考えざるを得ません。
そうすると、ポストが減る分、給料アップのチャンスが遠のくも仕方のないこと。こうした状況にいる場合、やはり個人の努力で解決するのは難しいでしょう。
ですから、給料を上げたいと思うのであれば、会社の経営状態に関しては入念に調べておきたいところ。
特に転職時は、オフィスがおしゃれだとか、ホームページのデザインがいいとか、見た目のイメージに気をとられがち。ですが、大事なのは中身です。
まずは会社の利益率をチェックすること。利益率が高い会社ほど給料に還元される可能性がありますから、売り上げだけでなく、ちゃんと利益が出ているかまで、しっかりチェックしてください。
あとは今後の中長期的な事業計画についても聞いておいた方がいいですね。面接の段階で人事に質問すれば、よほどのことでない限り教えてくれるはずです。
こうしたことを聞くのをためらう人もいますが、入社してから経営が芳しくないことを知っても後の祭り。むしろ入社前から会社の将来について関心を寄せている姿勢を見せれば、相手に好印象を与えることも。
入社できるならどこでもいいではなく、長くしっかり働ける環境かどうか。そこをきちんと見極めることが、継続的な給料アップにつながるのです。
給料が上がる人と上がらない人、決定的な差とは?
ここまでミクロ的な視点から給料が上がらない理由と対策を説明してきましたが、最後にもう少しマクロ的な視点でお話をしますね。
繰り返しになりますが、年功序列が崩れた今、年次が上がればその分給料がアップするという時代は終わりました。では、そんな時代でこれからも給料が上がり続ける人はどんな人か。
それは、変化対応力のある人。どんなスキルや資格を持っていても、それが3年後、5年後、今と同じバリューがあるかと言ったら、誰も保証はできません。
新しい技術やビジネスモデルがどんどん生まれている今日の労働市場では、あっという間にスキルも陳腐化します。
だからこそ、求められるのは、どんな会社でも、どんな時代でも通用するポータブルスキル。その一つが「変化への対応力」です。
例えば、今まで使っていたシステムがある日急に刷新されたとします。
そのときに「また新しいことを覚えなきゃいけないの」とげんなりして学ぼうとしない人と、「また新しいことをキャッチアップできるチャンスだ」と自ら学びに行ける人、どちらを会社が求めるかと言ったら明白ですよね。
無論、会社にとって重要なポジションにどちらのタイプの人を配置するかと問われたら、後者でしょう。
つまり、変化への対応力がある人は、それがない人に比べてエンプリアビリティー(雇用される力)も、昇給する可能性も高いわけです。
今持っているスキルが未来永劫必要とされるものかなんて誰にも分からない。そんな時代だからこそ、重要なのは専門性ではなく、いかなる変化にも順応できるマインドセットだと言えるでしょう。
取材・文/横川良明 企画・編集/栗原千明(編集部)