04 AUG/2022

和歌山・アドベンチャーワールド「チーターの赤ちゃん6匹誕生」の快挙を支えた新米リーダーのオープンマインドな心掛け

和歌山県・白浜町にある人気テーマパークアドベンチャーワールド。

140種、約1400頭にもおよぶ動物が暮らし、飼育スタッフが毎日更新する愛らしい動物たちの姿をレポートしたSNSが注目を集めている。

また、同パークはジャイアントパンダでおなじみだが(2022年8月現在7頭のパンダを飼育。飼育数で国内一位)、22年3月には6頭のチーターの赤ちゃんが誕生して話題に。やんちゃ盛りのチーターたちは、現在もすくすくと成長中だ。

アドベンチャーワールド

アドベンチャーワールドでチーターの赤ちゃんが生まれたのは、2021年7月に続いて2年連続。チーターの繁殖は難易度が非常に高く、同園にとっても快挙となった。

この、チーターの赤ちゃん誕生を飼育担当の一人として支えたのが、アドベンチャーワールドの肉食動物飼育担当のチームリーダーを務めている江口葉月さん

3年前に肉食動物飼育担当になり、その後チームリーダーに就任した江口さんに、知られざる肉食動物飼育チームの仕事内容や、江口さんが手探りの中で見つけた「自分らしいリーダーシップのかたち」について話を聞いた。

アドベンチャーワールド

アドベンチャーワールド 肉食動物飼育担当チームリーダー 江口葉月さん

お互いの命を預ける。チームの「信頼関係」が欠かせない肉食動物飼育の仕事

編集部

動物園の飼育員は、女性が少ない世界だと聞きます。江口さんはなぜ飼育員になったのでしょうか?

江口さん

もともと動物が好きだったことに加えて、私はアドベンチャーワールドがある白浜町で育ったので、幼い頃からここが身近な場所だったことが大きかったですね。

それに、アドベンチャーワールドで働く人の男女比は半々くらいなので、女性の少なさも特に気になりませんでした。

編集部

特に好きな動物がいたのでしょうか?

江口さん

幼い頃から好きだったのはイルカです。高校生の時に「イルカのトレーナーになりたい」と思い、AWS(アワーズ)動物学院というアドベンチャーワールド内にある専門学校に進学して動物の飼育管理について学び、アドベンチャーワールドに入社しました。

編集部

チーターが入社のきっかけというわけではなかったんですね。

江口さん

そうなんです。入社当時は、夢のスタートラインに立ったワクワク感でいっぱいで、自分から何を発信すればイルカのトレーナーになれるんだろう? なんてことばかり考えていました。

編集部

そうなんですね。肉食動物チームのリーダーになるまでに、どんな仕事を経験してきましたか?

江口さん

最初に配属されたのは「エンジョイ課」で、遊園地エリアの運営業務を担当する部署です。

次に、「ふれあい広場」でコツメカワウソや小動物の飼育担当になり、その後は産休・育休をへてパークの入口にあるインフォメーションにて接客業務にあたりました。

編集部

動物の飼育だけでなく、接客業務にも多く携わってきたんですね。

江口さん

はい。そして、現在私がチームリーダーを務める肉食動物の飼育担当チームには、3年前に配属されました。

ここではチーターやライオンなど、さまざまな肉食動物の飼育をメインに担当しています。

編集部

肉食動物チームのリーダーの主な仕事は?

アドベンチャーワールド
江口さん

一番大切なことは、担当している動物たちを健康に管理することです。 できる限り動物たちにとって良い環境で生活できるように、チームメンバーと日々協力して飼育環境の改善にあたっています。

江口さん

また、今回生まれたチーターの赤ちゃんのように、動物の繁殖を実現するのも、私たち飼育スタッフの業務の一つ。

チーターの繁殖も、知見を持つ他園やパークスタッフと連携し、何度も意見を交わして飼育環境や出産・育児環境について考え、試行錯誤を重ねて実現までこぎつけました。

アドベンチャーワールド
編集部

飼育チームの「信頼関係が大事」というのは?

江口さん

動物園に限らず、どのような職場でも、メンバー同士が信頼しあっていることは大事だと思うのですが、私たちの仕事における「信頼関係」というのは特別なものだと感じています。 言い換えるなら、お互いの命を預かっているような、そんな関係。

スタッフ同士もですが、来園されたお客さまや動物たちの命も預かっている仕事だからこそ、お互いを信じ合える関係、いい意味で緊張感のある関係を維持していかなければいけないんです。

一度は断ったリーダーの仕事「やっぱりやります」

編集部

江口さんが肉食動物飼育チームのリーダーになったきっかけは?

江口さん

肉食動物飼育のチームに配属されて1年がたった時に、いきなり飼育部長から呼ばれ、そこで「リーダーをやってみない?」と突然打診されて。

その時は、正直戸惑いしかなかったですし、最初は「私には無理です!」と言い張りました。

編集部

それはなぜですか?

アドベンチャーワールド
江口さん

当時の私は、リーダーは「チームの中で一番現場を理解している人」「最も経験値のある人が担う役割」だと考えていたからです。

まだ肉食動物の飼育担当になってたった1年の私は、そのどちらにも当てはまらない。現場経験豊富な先輩もたくさんいる中で、「誰も私を認めてくれないと思う」「自信がありません」と言って断りました。

今思い返せば、自信のない自分に対する言い訳でしかないんですけど(笑)。それで、そこから2日間、悩みに悩みまして……。

編集部

ご自身にとっても意外な抜擢だったんですね。

江口さん

はい。私より仕事ができる先輩がたくさんいましたから。「何で私なの?」と思っていました。

でも、このチャンスを逃したくない気持ちもあったので、当時社内でチームリーダーをしていた人たちに「私にできると思いますか?」と聞いてみたり、家族にも相談したりしました。

そこでみんなに「きっとできるよ」「やりたい気持ちがあるなら頑張ってみたら?」と言ってもらえて、私もようやく決心できました。

そして、あれこれ人と話しているうちに、「やりたいことをかなえるためには、リーダーになるのがぴったりじゃないか」ということにも気付いたんです。

編集部

「やりたいこと」ですか? それは、イルカ担当ではなく?

江口さん

はい。入社当時の夢だった「イルカ担当になりたい」気持ちがまったくないわけではないですが、キャリアを重ねるにつれて、自分にとってどの動物を担当するかはあまり重要なことではなくなっていました。

それよりも、自分の中で大きくなっていたのが、ここで働く飼育スタッフの仲間たちが「夢を諦めなくていい環境」をつくりたいということ。 スタッフのみんなが幸せに働ける環境をつくることの方が、私にとって「やりたいこと」になっていたんです。

編集部

それはなぜですか?

江口さん

せっかく夢だった仕事に就いても、大好きな動物の担当ができていても、「自己実現できない 」と感じる人も結構いて、そこに対して何か力になりたいという気持ちが大きくなっていったんですよね。

それで、飼育員の働く環境やモチベーションを高めるような職場づくりができないかということに意識が向くようになっていきました。

編集部

まさにそれが、チームリーダーの仕事だと気づいた、と。

江口さん

はい。それで、打診をもらった2日後に声をかけてくれた上司の元に行って、「やっぱり私、リーダーやります!」と伝えました。

編集部

現場経験が少なかったということですが、なぜそんな江口さんをリーダーに抜擢したのか、上司に理由は聞きましたか?

江口さん

はい。どうやら私が以前から「飼育スタッフが働きやすく、夢をあきらめなくていい職場をつくりたい」というようなことを口にしてたことや、「いろいろなセクションの仕事を経験してこの会社でプロフェッショナルへと成長したい」と話していたことを覚えていてくれたみたいで。

その意欲があるならやってみない? と、チャンスをくれたようでした。

やりたいことやかなえたいことを人に伝える、口に出すというのは、つくづく大事だなと感じます。

方法は人それぞれ。リーダーは、チームのいい影響を与える人

アドベンチャーワールド
編集部

実際に、リーダーになってみてどうですか?

江口さん

動物の飼育だけでなく、人との対話を増やすことで、仕事の幅はすごく広がりました。

リーダーの仕事が楽しいと感じる一方で、自分にはチームをまとめる力や決断力などがまだまだ足りないことも痛感しています。

編集部

リーダーになった当時はベテラン飼育員からの見え方を心配していましたが、どのように信頼関係を築いているのでしょうか?

江口さん

飼育経験豊富な先輩方には、素直な気持ちで相談させてもらっていますね。

私の経験が足りない部分もあるので、チーターのこと、肉食動物のこと、いろいろ教えていただいています。

アドベンチャーワールド
江口さん

意識しているのは、完璧であることにこだわりすぎないこと

分からないことは分からないと伝えて、みんなに教えてもらう方がお互いの信頼関係構築にもつながり、いいチームワークができると感じています。

江口さん

また、この1年は「リーダーを練習させてください」「私もリーダーとして成長するので、皆さんも一緒に成長するチームをつくりましょう」と呼び掛けて、協力を仰ぎながらやってきました。

自分の状況をオープンに伝えることで、自然とみんながサポートしてくれるようになったと感じます。

編集部

以前は、リーダーは「現場を知り尽くしたベテラン」だと思っていたとのことですが、今はどう考えますか?

江口さん

この1年、私も「リーダーって何だろう」って思いながらいろいろ試行錯誤してきたんです。

それでたどりついた答えとしては、「チームにいい影響を与える人」。それに尽きるかな、と思っています。

編集部

業務知識の多さや現場経験の有無は、必ずしも重要ではない、と。

江口さん

そう思います。それに、チームに良い影響を与える方法も、人それぞれでいいと思っています。

あれもこれも完璧にこなすのは難しいので、少しでも多くメンバーの思いに応えて、「江口さんがいてくれてよかった」と言ってもらえる仕事ができればいいのかな、と自分のハードルを少し下げました。

江口さん

結果的に、昨年度のチームが解散する時には、メンバーから「江口さんがあの時、〇〇してくれたことが助かった」「私たちの思いをつないでくれてありがとう」というような感謝の言葉をもらえて。


自分でもあまり意識していなかった行動について「実はありがたかった」と伝えてくれるメンバーがいたので、すごくうれしかったですね。


以前はできなかったことや、カッコ悪いところにばかり気にしがちだったのですが、こうやって自分の仕事を「ありがたい」と思ってくれる人がいることに改めて気付き、これからもしっかりやっていきたいという気持ちにもなりました。

「笑顔を届けたい」赤ちゃんのニュースを社会に発信

編集部

これから、江口さんが目標にしていることは?

アドベンチャーワールド
江口さん

まずは、今年生まれた6頭の赤ちゃんとお母さんのチーターをしっかりサポートすることですね。

前回アドベンチャーワールドでチーターの赤ちゃんが生まれたのは昨年の1頭を除くと15年も前のことで、私も含め現在担当するスタッフ全員がチーター出産・育児を経験しておらず、初めてのことでした。

江口さん

今回、誕生した赤ちゃんたちは母親2頭が一生懸命育てているので、私たち飼育スタッフは親子が快適に健康的に成育できるようサポートをしていきたい。

試行錯誤の連続ですが、社内外のいろいろな人の努力が実ってこうして生まれた赤ちゃんたちを、責任をもって育てていけたらと思います。

アドベンチャーワールド
編集部

SNSでも飼育の様子を活発に発信されていますよね。

江口さん

はい。まだ一般公開されていないチーターの赤ちゃんたちの様子を多くの方に見ていただきたいですし、その他の動物たちの魅力も存分に伝えていきたいのでスタッフみんなで頑張って運用しています。

チーターの赤ちゃんたちをパークで一般公開できる日が来たら、ぜひ間近でご覧いただいて、皆さんに笑顔になってもらえたらうれしいです。

取材・文/モリエミサキ 画像提供/アドベンチャーワールド