キャリアの遠回りも悪くない? 人生迷子の20代が夢をかなえるために知っておきたいこと【「働き女子が輝くために」レポート】
過去に思い描いていた夢はあるだろうか? そして、社会人としてある程度経験を積んできた現在、その夢は実現できているだろうか……?
この質問に対して、はっきりと「Yes」と答えられる人は少ないかもしれない。中には、やりたい仕事や夢を諦めてしまった人もいるだろう。
2022年8月26日(金)に開催された、品川女子学院理事長の漆紫穂子さんと住宅や宅地の企画・販売などを手掛けるアールシーコア(BESS)常務取締役の谷秋子さんによるトークショー「働き女子が輝くために」には、20代女性がこれから夢をかなえるためのヒントが詰まっていた。
今回は、そのトークショーの内容を一部紹介しよう。

本トークショーは、東京・代官山のログハウス展示場BESS MAGMAで開催された『アップサイクルProject 品川女子学院×ブランディア浴衣展示会』の特別企画として行われた。/写真左・品川女子学院理事長 漆紫穂子さん、写真右・株式会社アールシーコア(BESS) 常務取締役 谷 秋子さん
「28歳」は女性の人生の節目
私は『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)という本を出したのですが、28歳という年齢は、女性の人生にとって節目となる年齢だと考えます。日本の女性の第一子出産の平均年齢である30歳を目の前にして、結婚や出産について真剣に考え始めるのがちょうどこの頃なのです。
仕事に関してもそう。新卒で入った会社である程度キャリアを積んだことで、転勤や管理職への昇進などの声が掛かり始める年齢なのではないでしょうか。
28歳といえば私の場合、ちょうど会社を創業した年齢ですね。4人の仲間と一緒に立ち上げたのですが、後悔しないように「やりたいことをやろう」と思っていた頃でした。
転職や独立など、会社外でのキャリアに目を向ける時期でもありますよね。
私が理事長を務める品川女子学院では、学生に「28歳の理想の自分」を思い描いてもらい、その実現に向けて経験やスキルを能動的に磨くことの大切さを伝えています。
自分らしい人生設計を立てるには、若いうちに「いろいろな生き方があるんだ」と知っておくこと。生き方が多様化している現代においては、その必要性がさらに高まっていると思います。
当社は住宅事業を展開しているのですが、お客さまの価値観が多様化している実感はあります。住宅購入は「今後、家族がどうありたいか?」を真剣に考える良い機会であり、その考え方は本当にさまざまです。
そして、選択肢自体も増えています。働き方一つとっても、リモートワークが普及したことで、場所にとらわれなくなりました。
「地方に移り住んで自然と近く暮らすのが自分にとっての幸せなのかも」「ノマドワーカーのような暮らし方もありなのでは?」 など、生き方をより自由に選べるようになりつつあると感じますね。
現代女性には、働き盛りの時期が2回ある
働き方の変化でいうと、現代女性の働き盛りは20代と40代後半にあるのではないでしょうか。
「40代後半」と聞いて意外だと思う人もいるかもしれませんが、ちょうど子育てが一段落し、再び仕事に打ち込めるようになる方が少なくないようです。
その時に、20代で仕事を通して身に付けた社会人としてのスキルと、子育てを通して身に付けた「育てる」スキルを生かして、リーダーなどのポジションで活躍する人もいますね。
他に、タイムマネジメント能力も強みですよね。子どもが小さいうちには仕事に費やせる時間は短くなってしまう。そうなると、限られた時間内でタスクを遂行させる能力が自然と身に付きます。

改めて考えてみると、仕事に対する現代女性の価値観って、私たち世代とだいぶ変わりましたよね。
当時は子育てと仕事を両立させることが難しかったので、私の同年代で仕事を優先した人たちの中には、40代半ばで出産する人も少なくありませんでした。
子どもを持つ持たないの選択を考える間もないほど忙しく働いて、いつの間にか妊娠・出産が困難な年齢になっている場合もあります。
最近は少しずつ、家庭と仕事のバランスをどうとるか、人それぞれに選択できる社会になってきて、本当にうれしく感じています。「どう生きたいか」を選べる幅が広がりましたよね。だからこそ若いうちに多様な生き方を知ってほしいと強く思います。
最短距離より、遠回りでも「自分なりの道を切り開くこと」
谷さんは28歳のときに会社立ち上げに携わったとのことですが、学生の頃はどんなことをやりたかったのですか?
私は美術大学で染と織を学んでいたので、布に関わる仕事がしたかったんです。当時は芸術系の就職先はほとんどなかったので、就職活動はだいぶ苦戦しましたね。何とかテキスタイル事業を専門にする会社に入れたものの……結局、ものづくりはせずに事務職として働いていました。
その後、新規事業を担当する部署に異動したのですが、その時の上司が独立することになって、「一緒にやらせてください」とついていきました。そうして私含めて4名が元上司・現当社社長の二木の後を追い、現在の会社を立ち上げるに至ったという流れです。
現在は住宅事業をなさっているんですよね。一見すると美術大学で学んでいた染と織とはつながらない印象なのですが、いかがでしょうか?
実は、美術大学で学んだことが現在の仕事に生きているなと感じることは多いんです。
例えば、日本特有の「四季の美しさ」は染や織の作品テーマの一つですが、これは住居に置き換えると「暮らしの豊かさ」を実現するための要素でもあります。
春が近づくにつれ少しずつ桜のつぼみが開いていく美しさ、これを日々感じ取れる家でなら心豊かに暮らせそうですよね。
私のように、学生時代に思い描いていたキャリアを歩めなかった人は少なくないと思いますし、中には違う道を歩んだことを失敗だと感じている人もいるかもしれません。ですが、どんな経験でも後になって役立つものなんですよ。
若い時期は、むしろ失敗できるチャンスですよね。とりあえずなんでも来るもの拒まず挑戦してみて、失敗したらどうすればいいかは後で考えればいいと思っています。
若いうちは、たとえ失敗したとしても、誰かがフォローしてくれたり、取り返しがつくことも多かったりしますから。
そういえば以前、品川女子学院のイベントで映画字幕翻訳家の戸田奈津子さんに講演をお願いしたことがありました。その時に生徒が「どうしたら翻訳家になれますか?」と質問したのですが、「自分で考えましょう。人の行く道は混んでるから」という回答をされたんです。
よくよく聞くと、戸田さんも映画の道に進むことを諦めた過去があったそうなんですね。でもその時に、「好きなこと=映画」と「できること=英語」の両方を磨いたことで、結果としてやりたい仕事につなげることができたとおっしゃっていました。
やりたい仕事や夢をかなえるのに、近道なんてないのだと思います。大切なのは、自分なりの方法で道を切り開いていくこと。そのためには、遠回りだと思うような経験も必要だということを、20代皆さんにお伝えしたいですね。

<プロフィール ※左から順に>
株式会社アールシーコア 常務取締役
谷 秋子(たに あきこ)さん
1979年よりファブリックメーカーに勤務。その後、1985年8月に株式会社アールシーコアの創業に参画。ログハウスを住宅として全国に広めるBESS事業を立ち上げ、ログハウス国内No.1まで成長させる。その後に「ワンダーデバイス」、「程々の家」などの展開にも従事。商品開発部責任者、BI(ブランドイメージ)本部責任者等を経て、2012年4月に現任の常務取締役に就任
品川女子学院理事長
漆 紫穂子(うるし・しほこ)さん
早稲田大学教育学部国語国文学専攻科、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了。私立中高一貫校で国語科教員として勤務後、品川中学校・高等学校(1991年に現校名に改称)に移る。2003年から卒業後10年目の自分の姿を意識してモチベーションを高める「28プロジェクト」を開始し、06年校長に就任。17年理事長に就任。教育再生実行会議委員、内閣官房行政改革推進本部構成員。著書に、『女の子が幸せになる子育て』(大和書房)、『働き女子が輝くために28歳までに身につけたいこと』(かんき出版)、『伸びる子の育て方』(ダイヤモンド社)など
取材・文・写真/柴田捺美(編集部)