「技術者のスキルや成長に性差はない」インフラエンジニアの“長く働く”のかなえ方/キンドリルジャパン

「女性のロールモデル」が少ないエンジニアの世界。 “好きな仕事”を続けている女性たちのインタビューから、自分らしいエンジニアライフを築いていくためのヒントを探してみよう。
エンジニアとして日々進化する技術を学び、やりたい仕事にチャレンジしながら、同時にプライベートも充実させる。そのためには、環境が重要だ。
ライフステージが変わってもエンジニアとして働き続けるには、どのような職場を選べばいいのだろうか。
そこで、IBMのインフラストラクチャー事業を分社化し、新しく立ち上がったキンドリルジャパン(以下、キンドリル)でインフラエンジニアとして働く田中さんにインタビュー。
「一人一人の意思を尊重する風土があるから、納得して働ける」という彼女のストーリーから、長く働くためのヒントを探る。

キンドリルジャパン株式会社
ストラテジック・デリバリー本部
田中さん
大学卒業後、新卒で日本アイ・ビー・エムに入社。社内システムの運用・構築を担当した後、アウトソーシング部門でサーバー/ストレージ運用・構築に従事。2017年、Web/ゲーム開発、広告企画などを行う会社へ転職。情報システム部門で全社システム管理を担当。21年2月、キンドリルに分社化予定であったIBMインフラ事業部門に再入社。21年9月、分社化に伴い転籍、現職
ワークライフバランスを考え、転職を決意
――田中さんは、元々IT系を大学で専攻していたのですか?
専攻はどちらかというと文系でしたが、ITに興味がありました。
その中で最終的にIBMを選んだのは、面接の時に就活でよくある型通りの受け答えではなく、自分の考えを話したところ内定をいただき、「その人ならではの個性を評価してくれる会社だ」と感じたことが大きかったです。
また、IBMは当時から女性活躍を推進していて、結婚や出産を経ても長く働ける環境が整っていたことにも引かれました。
――入社後はどのような仕事に携わったのでしょうか?
サーバー・インフラ系エンジニアとして、社内システムの運用・構築を担当しました。グローバル標準に則った運用に携われたことは、技術者として非常に勉強になりました。
その後、お客さま企業のシステム運用を手掛けるアウトソーシング部門に異動し、流通業や製造業など複数のクライアントを担当しました。
――さまざまな経験を積みながら順調にキャリアを重ねてきたように思えますが、2017年に他社へ転職されていますよね。
ワークライフバランスについて悩んでいた時に、元々興味があった会社からご縁をいただいたのがきっかけでした。
当時、私は郊外に住んでいて、都内のオフィスまでは片道2時間弱。将来子育てをしながら今と同じ働き方を続けるのは難しいと感じていました。
もちろん時短などの制度はあり、実際に利用している方もいましたが、子どもができてもフルタイムで仕事がしたいと考えていた私にとって、転職した会社の方が自宅と近く、希望の働き方をかなえやすそうだと感じたことが決め手になりました。
――ライフステージの変化を見越した転職だったのですね。
そうですね。あとは技術者としても、新しい学びや経験を得たいと思っていました。
当時は同じ業務を長く担当していたため、興味がある会社のハッカソンに参加しており、それが前職と出会ったきっかけにもなりました。
前職の会社はWebやゲーム開発、広告企画などを手掛ける元ベンチャーの企業で、当時すでに自社システムを完全クラウド化するなどシステム面でも進んでいました。
一方で、その頃のIBMは他社製品使用の制約やプロセスが多く、他社を知る中で、制約による不自由さや大企業ゆえのスピードの遅さなどを感じるようになりました。
ただ、今思えば、当時は会社の過渡期だったのだと思います。事実、私が転職してまもなく他社クラウドへの積極的な取り組みを始めたと聞きました。
新たな環境で「技術の仕事が好き」だと実感した

――実際に転職してみて、いかがでしたか?
入社後は情報システム部門に所属し、全社が利用する基盤クラウドやSaaSの管理に加え、ユーザーの個人情報保護などセキュリティーやコンプライアンスに関する業務も担当しました。
期待していた通り、レベルの高いエンジニアの方たちと新しい技術や環境に触れることができたのはうれしかったです。
入社からしばらくして産休・育休を取得したのですが、復帰後のワークライフバランスにも配慮していただき、フルタイムで働き続けることもできました。
私の希望をくんで融通を利かせてくださったことは本当にありがたく、心から感謝しています。
同時に、他社を経験したことで以前の環境の良さに気付くこともありました。
一人一人がプロフェッショナルでありつつ、「チームで成果を出す」という価値観をみんなが共有しているところは、IBMの強さだと思います。
――具体的にはどういうことでしょうか。
例えば、IBMではプロジェクトで想定外のことや問題が発生したときに、それを個人が無理をして解決するのではなく、「チームの課題として共有するべき」という考え方が根付いていました。
プロジェクトでは追加作業が発生することもありますが、その場合もマネジャーやメンバーに相談し、チームとしてタスクの優先順位を入れ替えたり、場合によっては人員追加の検討を行ったりすることもあります。
子どもが小さく時間の制約がある中で、イレギュラーな事態が起こった時にチームとして動いてもらえるのは心強いもの。「以前の環境は恵まれていたのだな」と気付く機会になったと思います。
――とはいえ転職先は新しい技術に触れられる環境で、働き方にも満足していたわけですよね。かつて在籍した企業に戻ろうと思ったのはなぜですか?
新しい環境で刺激を受けて、私はやっぱり技術の仕事が好きなのだと実感したのですが、前職の日々の業務はセキュリティーやコンプライアンスの対応や問題が起こった時の後処理など、バックオフィス的な業務が中心になっていて、技術そのものを扱える時間は多くはありませんでした。
振り返ると、IBMは新しい技術習得やリスキリング(学び直し)のための研修や学習プログラムが充実していました。
加えて、他社製品を活用したり、アジャイル開発を取り入れてスピードアップを図ったりと、離れている間に仕事の方針や進め方がかなり変わってきているという話も元同僚から聞いていました。
女性が育児をしながら働きやすい会社であることは実態としてよく知っており、また再入社した方も知っていたため、「技術を中心とした仕事を再びするのであれば、IBMに戻るのも一つの選択肢かもしれない」と思うようになりました。
――最終的な決め手は何だったのでしょう?
IBMのインフラストラクチャー事業がキンドリルとして分社化されると聞いたことです。「これはチャンスかもしれない」と思いました。
独立系プロバイダーになれば、制約なしにあらゆる技術に触れられます。
これまで手掛けられなかったお客さまの課題を解決できる可能性もありますし、自分がやりたいことを提案して、どんどん新しいことにチャレンジできるかもしれないと。退職時の理由や不安が大きく改善される方向性に期待しました。
そして、IBMの強みや良さを受け継ぎつつ、自分たちの手で新しい組織や仕事をつくっていく。そんな面白さを経験できそうだと思ったことは、大きな決め手になりました。
学び続ければ、男女問わずエンジニアとして長く活躍できる
――キンドリルでは期待した通りの仕事ができていますか?
そうですね。キンドリルではマイクロソフトやグーグルなど幅広い企業とパートナーシップを結んでエコシステムを拡大しており、かつてのような技術的な制約はありません。
私は現在AWSを活用したクラウド構築や提案サポートを担当しています。
他社の技術やプロダクトを学べる研修制度やトレーニングプログラムも充実していて、私もAWSの研修を受けたり、会社の予算で資格を取得したりと、学びの機会を活用させていただいています。

――かつて在籍していた頃と、仕事のスピード感も変わりましたか?
はい、変化を感じています。
再入社して2カ月ほどたった頃、ある案件で、AWSからリリースされたばかりの新サービスの概念実証の環境構築を任せていただいたことがあります。2週間ほどで提供するというスピード感でした。
通常の構築プロジェクトはまず要件定義して、設計して、構築して……と段階を踏んで進めます。
以前なら検証であっても、設計をある程度固めて費用の稟議や契約といったプロセスを通すのに1カ月はかかるようなところを、この案件ではお客さまへのヒアリングや技術的な調査と構築を同時並行で一気に進めることができました。
時間がないので大変でしたが、今まで体験したことがない新しいチャレンジができて楽しかったです。
また、新サービスの先行事例だったこともあり、やりがいも感じることができました。
その後もアジャイル開発のプロジェクトに参画させていただくなど、以前とは仕事の進め方も変わってきていると実感しています。
――最初に転職した時はワークライフバランスの問題もありましたが、それは解決されたのでしょうか?
今はフルリモートなので、通勤時間の問題はなくなりました。
より柔軟な働き方ができる制度が整ったことに加え、コロナ禍以降、リモートワークに対するお客さまの理解が深まったこともあり、仕事と育児の両立はよりしやすくなってきていると感じます。
私の場合は家族のサポートも大きいので、とても感謝しています。
会社によってはワークライフバランスを重視しすぎるあまり、子育て中の女性に過剰に配慮をしてしまい、なかなかチャレンジの機会が与えられないこともあるようですが、キンドリルでは自分から「これがやりたい」と意思表示をすれば、アサインのチャンスをいただけます。
周りの理解もあるので、必要なフォローも受けやすいと思います。
ワーキングマザーと一言で言っても、キャリアの考え方や必要なサポートはそれぞれ異なります。一人一人の意思を尊重するキンドリルのカルチャーはありがたく、納得して働けています。
――エンジニアは男性比率が高く、職場でジェンダーバイアスや働きにくさを感じる女性も少なくないですが、そういったことを感じる場面はないものですか?
キンドリルでは感じたことがありません。
性別によって仕事の内容や機会に差を付けることがないよう会社として徹底していますし、例えば女性が男性の上司になるのもいたって普通のことです。
もちろん子育てや介護などの事情で、働く時間に制約が生じることはあるでしょうし、私も夜の会議に出席できないこともあります。でも、それは性別ではなく個人の事情だと思っています。

エンジニアのスキルについても、基本的に男女で違いがあるとは考えていません。
男性でも「エンジニア35歳定年説」などと言われたりもしますし、男女関係なく勉強を続けてスキルを伸ばしていけば、エンジニアとして長く活躍できると思っています。
キンドリルは「個人が主体的にキャリアを構築する」という考えを持った会社ですし、幅広い職種がある大きな組織です。
エンジニアとしてスキルアップしていく道があるのはもちろんですが、PMやコンサルタントへ職種を変えることも可能なので、むしろ一生エンジニアとして働き続けることにこだわらなくてもいいのかもしれません。
そのくらい柔軟に考えた方が、幅広いキャリアの可能性が開けるようにも思います。
――最後に、田中さんの今後のキャリアビジョンを教えてください。
現在はシステム構築業務が中心ですが、提案に携わる機会を増やし、お客さまの本質的な課題解決につながる仕事をしていければと考えています。その中で、前職で得た経験や、これから学ぶ新しい技術を生かしていけたらうれしいです。
キンドリルでは、資格を取得するなどスキルアップの実績を社内に示せれば、よりチャレンジングな仕事や興味のある案件を任せてもらえます。
キャリアの方向性やビジョンをマネジャーと共有する機会が多く、描いているキャリアの実現につながるプロジェクトにアサインしてもらうこともできます。
そうやって個人の成長を後押しする環境があるので、チャレンジを続けながら、自分なりのキャリアを重ねていければと思います。
撮影/竹井俊晴 編集/天野夏海
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