「不安なときほど、かなえたい未来に目を向けて」ピルのオンライン診療プラットホーム立ち上げを決意できた理由/『ルナトモ』永友絢子

連載:「私の未来」の見つけ方

生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるってすてきだけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします

私が輝ける仕事は他にあるのではないか——。そう思っても、今ここにある安心感を手放す怖さから、一歩を踏み出せずにいる人は少なくないだろう。

新卒でサイバーエージェントに入社し、約6年間マッチングアプリ『タップル』の企画・開発に携わってきた永友絢子さんは、2021年末に株式会社Lunatomoを立ち上げ、ピルのオンライン診療プラットホーム『ルナトモ』を22年10月に正式リリースした。

永友さん

永友さんはなぜ、慣れ親しんだ場所を離れて、新しい挑戦へと踏み出すことができたのだろうか?

『タップル』に携わり6年目、新規事業提案のチャンスが到来

私がIT業界を志すきっかけになったのは、大学時代にシリコンバレーで見た景色。60代くらいのエンジニアの方々が、「自分がつくるプロダクトで世界を変えるんだ」と目を輝かせながら話す姿に衝撃を受けて。私も胸を張れるような仕事がしたいと思ったんです。

そんな思いでサイバーエージェントに入社してからは、マッチングアプリ『タップル』に企画職として携わることになりました。

ディレクターやプロダクトマネジャーという裁量と責任あるポジションを任せられ、大きなやりがいを感じながら6年間、『タップル』を成長させるために必死に頑張ってました。

永友さん

転機が訪れたのは、社会人6年目のとき。役員が選抜した社員たちとチームを組み、サイバーエージェントの未来につながる新規事業や課題解決の方法を社長に提案するという社内制度、『あした会議』のメンバーに選ばれたんです。

ありがたいことに、そこで私が提案した「医師のオンライン診療からピルの処方までを、スマートフォンで完結できるプラットホームサービス」が新規事業として決議され、株式会社Lunatomoの設立にいたりました。

ピルに救われた私だからこそ、新サービス『ルナトモ』を立ち上げる意義がある

私には「女性の人生に寄り添うサービスをつくりたい」という思いがあります。その思いが芽生えたのは、社会人2年目から運営に携わってきた『CAramel(カラメル)』という社内横断組織での活動がきっかけでした。

CAramelは、女性社員の十人十色な働き方を応援する横軸の組織。女性が安心して働ける環境をつくるためのキャリア相談会や懇親会を開催したり、時には産婦人科医を招いて女性のカラダにまつわるセミナーを開催したりと、いろいろな活動を行っていました。

その活動を通して女性社員とコミュニケーションを取るうちに、女性特有の体調不良について悩みを抱えている女性が多いことに気が付いて。「もっと女性が等身大で楽しく働ける環境を増やしたい」と思うようになったんです。

永友さん

実は私自身、どうしても体の不調が拭えない時期があって。適度な運動を取り入れたり、食生活を見直してみたりしても一向に改善されなくて、お手上げ状態でした。

仕事が充実していたからこそ、頑張りきれないのが悔しくもあったのです。

最終的に婦人科で相談してみたら、「ホルモンバランスが乱れてるから」と低用量ピルを処方されて。正直、当時の私はピルに対して「副作用が怖い」イメージなど偏った知識しか持っていなかったのですが、服用し始めるとピルのさまざまな効能を実感することができました。

しかし同時に、「私のように体調不良に悩まされながらも、誤った知識や先入観があるために怖くてピルに手が出せない女性も多いのではないか?」と思ったのです。もしくは、病院に行く時間が取れなかったり、産婦人科に行く心理的ハードルがあったりと、つらいのを我慢してしまう女性も少なくないかもしれません。

だからこそ、婦人科受診やピルを身近なものにしたい。正しい医療の知識をもとに、選択肢が広がれば、女性の生活は大きく変わるかもしれない。

そしてそれは、ピルに救われた当事者として、私がやることに意義があるはず。いつの間にか、そんな使命感を抱いていたのです。

過去の失敗経験が、新しい挑戦の背中を押してくれた

もちろん『タップル』を離れることに名残惜しさも感じていました。サービスに携わってきた6年間が今の私をつくっていると言っても過言ではないし、慣れ親しんだ仲間がいる環境から去ることに寂しさも感じていました。

でも、どんなに名残惜しさを感じていようが、後ろを向いてはいられない。「このサービスは自分らしく挑戦する女性たちの後押しにつながるだろう」という強い思いがありましたし、『タップル』で共に頑張ってきた仲間たちも、私のことを応援してくれています。

そんな人たちのためにも、ピルのオンライン診療プラットホーム『ルナトモ』の事業を成功させたい。そう覚悟を決めるしかなかったんです。

永友さん

だから、とにかく目の前にある課題に一生懸命取り組んで、他のことを考える余裕がないくらいに集中しました。

事実、リリースまでにやるべきことは山積み。初めて医療業界に携わるにあたり、薬機法などの法律について勉強することから始めなければいけませんでしたし、サービスに協力してくれる医師を見つけるために、さまざまな人たちに声を掛けて回ることもしました。

膨大な業務に追われる日々に「本当にできるんだろうか」と不安を覚えることもあったけど、それを乗り越えられたのは『タップル』時代にたくさん失敗した経験があったからこそ。

例えば、落ち込んだ時は日記を書いて内省の時間をつくってみたり、不安に押しつぶされそうになった時は、意識的に笑う時間を増やして気持ちを立て直してみたり。

どれも小さな工夫ではありますが、そうやって不安との上手な付き合い方を『タップル』での6年間で身に付けてきたから、慣れ親しんだ過去を振り返ることなく、目の前のことに集中できた。

とにかくかなえたい未来に目を向けることで、少しずつ気持ちを切り替えていけたのだと思います。

先のキャリアが不安なら、「流れに身を任せる」のも一つの道

永友さん

「新しいことに挑戦したいけど、失敗したらどうしよう」と自信を持てずにいる人に伝えたいのは、「想像できる不安なことなんて、実際にはほとんど起こらない」ということ。

一歩踏み出してみないと何が起こるかなんて分からないですし、実際には想像だにしなかったことが起こるんですよ(笑)

とはいえ、「現在持っているものを手放した先には、何があるんだろう?」と不安に思う気持ちは私にもありました。今振り返って思うのは、「流れに身を任せる、川下り的なキャリアも悪くない」ということ。

私が起業したのも、『タップル』事業を一生懸命頑張っていた時に、たまたま社内で新規事業提案の機会をもらい、運良く案が採用されたから。前から起業したいと強く願っていたわけではなく、偶然与えられたチャンスに、全力で向き合ってきた結果にすぎません。

先々のライフプランを考えながら行動することが大切だと言われることもありますが、計画的に生きようとするあまり苦しくなってしまうこともあると思うんです。

だから「流れに身を任せるうちに、気づけば自分らしいキャリアが築けていた」という。考え方でもいいんじゃないかなと私は思います。一歩踏み出した先に、どんな未来が待っているかは分かりませんから。

永友さん

今の私が人生を懸けて成し遂げたいのは、等身大で自分らしく挑戦する女性たちを応援すること。

『ルナトモ』もその一助になれるようなブランドに育てたいですし、私自身の生き方を通しても、そのメッセージを伝えられたらいいなと思っています。

まずはオンライン診療サービスに注力しますが、それだけにとどまらず、今後も働く女性に寄り添ったサービスを展開していけたらうれしいですね。

かつてシリコンバレーで見たエンジニアたちのように、年を重ねてもずっと生き生きと人生を楽しみたいし、「世界を変える」と胸を張れるようなサービスやプロダクトをつくり続けたい。

そのためにも、私自身が幸せでいることを大切にしていきたいです。自分が幸せじゃないと、周りの人を幸せにできないと思うから。

日常のささいな喜びを慈しみながら、今私の周りにいる人に感謝を言葉にして伝えていきたい。そうできる人こそが、大きなことを成し遂げられると信じています。

永友さん

<プロフィール> 永友 絢子(ながとも・あやこ)さん

1993年生まれ。2016年、株式会社サイバーエージェントに新卒入社。同年4月より株式会社タップルに出向し、マッチングアプリ『タップル』のプランナーに従事。新機能の開発やプロモーション、CM制作などに携わった後、2020年5月より同サービスのプロダクトマネジャーやプロダクト全体の品質マネジメントを担当。2022年1月に株式会社Lunatomo(ルナトモ)を設立し、代表に就任

取材・文/安心院 彩 撮影/小黒冴夏 編集/柴田捺美(編集部)