“白衣の天使”に性別はない! 自ら切り開く「男性看護師」の可能性

“白衣の天使”に性別はない! 自ら切り開く「男性看護師」の可能性

さまざまな仕事で女性の積極活用が行われるようになり、女性の働き方は変わりつつある。とはいえ、まだまだ男性比率が高い職場が多かったり、職種によっては「男性の仕事」という世間のイメージが根強く残っていたりと、少数派であることに息苦しさを感じている人は多いもの。そんな人は逆に、女社会でマイノリティーとして働く男性の仕事観を覗いてみては? 紅一点ならぬ「白一点男子」の姿から、今の職場で前向きに働いていくためのヒントが見つかるかも!

“白衣の天使”に性別はない! 自ら切り開く「男性看護師」の可能性

看護師
木工 達也さん(27歳)

専門学校卒業後、21歳で富山県の病院に入職。5年間の勤務を経て、カテーテル室業務の認定資格を活かせる場を求め、千葉県の総合病院に転職。その後、地域包括ケアに対する関心が高まり、東京の病院へ。趣味はトライアスロンとお菓子作り

父親の緊急搬送によって開けた、看護師の道

白衣の天使という言葉がある。この言葉を聞いたとき、真っ先に浮かぶのは、可憐な女性看護師の姿だろう。けれど、天使に性別はない。人を和ませる柔らかい笑顔で今日も医療の現場に立つのが、木工達也さんだ。

「高校では理系で、ものづくりが好きだから工学部に進学できたらいいなあと思っていました。自分が看護師になるなんて考えてもいなかったですね」

そんな木工さんが看護の道を志すようになったのは、高校3年生のとき。家に帰ったら、父親が嘔吐をして倒れていた。呼び掛けても意識はない。すぐさま救急車を呼び、看護師をしている父方の伯母に連絡を取った。幸いにも父親の容態は命に関わるものではなく、木工さんはほっと胸を撫で下ろすが、そんな10代の青年の落ち着いた対応ぶりに思わずうなり声を上げたのが、伯母だった。医療系の職種に向いているんじゃないか――伯母のその一言が、木工さんの将来を変えたのだ。

「帰り道、その足で本屋に寄って、看護の専門学校について調べました。医療に関わる仕事はいろいろあるけど、例えば病院に行ったとき、受付で待っている患者さんに一番に声を掛けるのは看護師。人と接するのが好きな僕には、看護師が向いているかもと思ったんです」

患者からの「女性に代わってほしい」という声への歯がゆさ

“白衣の天使”に性別はない! 自ら切り開く「男性看護師」の可能性

看護師と言えば、代表的な女性社会。専門学校でも約100人の生徒の中で、男性はわずか10名だけだった。兄と2人兄弟の木工さんは、決して女友達が多いというわけではない。部活も体育会系で、休日は女の子を誘って海に行くより、男友達とつるんでいる方が楽しいタイプだ。右を見ても左を見ても女性ばかりという環境に馴染むのには相当の苦労を要した。

「まず共通の話題というものがない。『月9見た?』って聞かれても、そもそも月9って何?って感じですから(笑)」

それは就職先でも変わらない。地元・富山の専門学校を経て、病院へ入職した木工さんだが、そこでも35人ほどの看護師がいる中で、男性は木工さんを含めて3人だけ。ただでさえ分からないことを上司や先輩に相談するのは緊張するのに、それが異性となるとさらなる勇気が必要だった。

さらに、実務に入れば清拭や排泄介助といったデリケートな業務も多い。女性の患者さんから「女性に代わってほしい」と請われる場面も頻発した。

「特に夜勤では勤務に入るのが3人だけ。その中で僕がNGになってしまうと、残りの2人に掛かる負担がどうしても大きくなってしまう。自分の知識や技術が足りなくて交替されてしまうなら仕方ないですが、ズボンを下げることなんて1年目の僕にだってできること。それなのに任せてもらえないというのは、どうしようもないこととは言え、歯がゆいものがありました」

自ら体現する、“男性看護師”の可能性

少子高齢化が進む昨今、医療・福祉における人材不足は社会的な問題となっている。看護の世界も例外ではなく、現場は常に人材難にあえいでいる。毎年国内には5万人の新人看護師が生まれている一方、日本看護協会の調査によると2013年度の離職率は11%にものぼる。女性の場合、結婚や出産といったライフイベントと共に現場を退くケースも多い。つまり、スキルを持った看護師が定着しない上、技術が下の世代へ継承されないという問題が起きているのだ。

「全国の看護師の数は約150万人。その内、男性は約6万5000人しかいません。女性が結婚や出産を機に現場から離れる中で、ずっと仕事を続けることができる男性看護師の存在は大きい。働き方を変えざるを得ない女性看護師をフォローすることだってできるはずです。もっと看護師という選択肢が男性に浸透すれば、今業界が抱えている問題を解決することにつながると思っています」

男性看護師の可能性を広げようと活動していた『日本男性看護師会~JMNs~』が昨年には一般社団法人化。木工さんも再出発した法人の発起を支える一員として、Webサイト更新やFacebookでの情報発信を担当している。

ただ、男性看護師が長期的にキャリアを築いていくには課題も多いのが現状だ。例えば収入面。看護師の年収は500万円程度で頭打ちとなる。1人で生活にするには十分な金額だが、家族を養うには心許ない数字だ。また、男性看護師のロールモデルが少ないがゆえに、キャリアアップの道筋も明確ではない。

だが、その道筋を今、木工さんは自ら開こうとしている。半年前に住み慣れた地元・富山を離れ、取得したカテーテル室業務の認定資格を活かして千葉の病院へ転職。さらにそこで退院指導や自宅ケアの重要性を痛感し、現在は訪問看護や訪問リハビリなどの強みを持つ病院に移り、地域に根ざした看護のあり方を模索している。

「いずれはマネジメントを経験したいと思っています。そのためにMBAの取得も考えているところ。やっぱり看護の世界だけを見ていたら視野が狭くなる。一般のビジネスにおけるマネジメントを学ぶことで、看護業界の慣習にメスを入れ、もっと合理的で実践的な方法を見つけることもできると思うんです」

150万分の6万5000。男性看護師は、圧倒的なマイノリティーだ。だが、マイノリティーゆえの視点と発想は、凝り固まった従来の慣例に新たな気付きをもたらす光明となる。木工さんは、将来的には看護師の経験を活かして業界をより良くするための起業も視野に入れていると言う。白衣のイノベーターの奮闘は、ここからが本当の勝負だ。

取材・文/横川良明 撮影/柴田ひろあき