07 DEC/2022

ストレス=悪ではない? 働く女性が「ストレスとうまく付き合える人」に生まれ変わる方法を心理学者に聞いてみた

転職や部署異動で新しい環境に飛び込んだとき、多くの人はストレスを感じるもの。

慣れない仕事に四苦八苦したり、見知らぬ人に囲まれて緊張したり、「職場で感じるストレスを放置してしまっていいものか」と不安になったことがある女性もいるのでは?

永岑さん

そこで、『はじめてのストレス心理学』(岩崎学術出版社)の著者で東京工業大学准教授の永岑光恵さんに話を聞くと、「ストレス自体は刺激への反応。それ自体が悪いものではない」とのこと。

ただ、ストレスとうまく付き合えるかどうかは、「刺激の捉え方に違いがある」という。

どうすれば新しい環境でストレスにつぶされずに成長することができるのだろうか。永岑さんに詳しく聞いた。

永岑さん

<プロフィール>
東京工業大学リーダーシップ教育院・リベラルアーツ研究教育院准教授 永岑光恵さん

1997年東京女子大学文理学部心理学科卒業。99年3月東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻修士課程修了。同年10月ドイツ学術交流会(DAAD)奨学生として,ドイツ連邦共和国トリア大学心理生物学・心身医学研究所に留学。2002年東京工業大学大学院社会理工学研究科人間行動システム専攻博士課程修了。博士(理学)。02年4月から国立精神・神経センター精神保健研究所成人精神保健部(現:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所行動医学研究部)にて客員研究員,流動研究員,リサーチレジデント等を経て,08年10月から16年3月まで防衛大学校人間文化学科准教授。16年4月から東京工業大学リベラルアーツ研究教育院/環境・社会理工学院准教授。22年4月より現職。著書に『はじめてのストレス心理学』(岩崎学術出版社)がある

人は環境に適応しようとする。転職・異動後にストレスを感じるのは当然のこと

編集部

転職や部署異動などで新しい環境に移ると、多くの人はストレスを感じますよね。そもそも、それはなぜなのでしょうか?

永岑さん

それは、その環境に適応しようとしている証拠です。そもそもストレスとは、「外からの刺激に対する適応反応」のこと。

例えば、長い間寒さにさらされたり、身動きのとれない状態に置かれたりすると、その状況に適応するため私たちの体にはさまざまな変化が現れますよね。 生理学者のセリエは、このような刺激への適応反応の総称を「ストレス」と呼びました。

永岑さん

現代においては、ストレスと聞くと「良くないもの、排除すべきもの」というイメージを抱く人は少なくありませんが、ストレスそれ自体が悪いものというわけではありません

新しい環境で新しい仕事をしている人にストレスは「あって当然のもの」ですから、必要以上に避ける必要はないと思います。

編集部

ただ、ストレスによって体に悪影響が出る場合もありますよね。それはどんなときでしょうか?

永岑さん

主に、強いストレスにさらされている状態が長く続いたときです。
ストレスの原因となる刺激のことを「ストレッサー」というのですが、ずっとストレッサーにさらされ続けると、体に負担が掛かり、病気の発症につながります。

ですから、転職などで新しい環境に飛び込んだときは特に、身体的な変化には敏感になってほしいと思います。

例えば、よく眠れなくなったり、食欲が落ちたり、普段の自分と違う状態になっているなら、それは体が疲れているサイン。 その場合は、意識的に休養をとることも大切です。

永岑さん
編集部

特に、女性がストレスへの対処で気を付けた方がいいことはありますか?

永岑さん

新しい環境に飛び込んだときに受ける刺激や、それに対する適応反応に男女の違いはほとんど見られません。

ただ、長期的に見ると女性ならではのストレッサーはたくさんありますよね。特に、妊娠・出産などのライフイベントは、働く女性にとって大きなストレッサーとなる可能性があります。

ですから、20代のうちから「ストレスとうまく付き合える人」になれるよう、意識してみてほしいと思います。

大人になってからでも「再学習」でストレスとうまく付き合えるようになれる

編集部

「ストレスとうまく付き合える人」になるには、どうしたら良いでしょうか?

永岑さん

先ほど、ストレスは刺激への適応反応だとお話ししましたが、その反応には個人差があります。

つまり、同じ刺激を受けても、それを良く受け取れる人と、悪く受け取ってしまう人がいて、それは認知の差によるものが大きいのです。

例えば、日常的なシーンで説明すると、こちらから「こんにちは」と声を掛けたのに相手からあいさつが返ってこなかったときに「嫌われた」と悲しい気持ちになる人もいれば、怒り出す人もいる。

一方で、「聞こえなかったんだろう」くらいに思って特に気にしない人もいるでしょう。

永岑さん

また、新しい職場で上司から何かやったことのない仕事を「これ、あなたがやってみない?」と任されたとしましょう。

そのときに、「なんで新人の私にいきなり仕事を増やすんだ」と怒ったり、「どうしよう、自分にはまだできない……」と弱気になったりする人もいる一方で、「チャレンジしてみようかな」と前向きに受け取れる人もいます。

仕事自体は大変かもしれないけれど、それに取り組むことのポジティブな側面にも目を向けられると、その後の行動が変わりますよね。

つまり、ストレスとうまく付き合える人というのは、ストレッサーを多面的に捉えられる人だと言えますね。

編集部

明らかに、後者の人の方がストレスとうまく付き合えそうですね。ただ、大人になってから認知を変えるのは難しそうですが……。

永岑さん

そんなことないですよ。物事をどう捉えるかは、その人が過去の経験から学習したものなので、“再学習”すればいいんです。

編集部

再学習ですか?

永岑さん

はい。例えば、これまで仕事において望む結果を得られずに「どうせ何をしても変わらない」と最初からあきらめている人がいるのであれば、ささやかなことでいいから「やってみたらできた」という体験で上書きしてほしいと思います。

最初から高すぎるハードルを設定せずに、小さな成功体験を積み重ねる。あまり簡単なものだとモチベーションにつながりにくいと言われているので、ちょっと背伸びをするくらいの目標を設定するといいでしょう。

すると、「自分にもできる」という自信や自己効力感につながり、また新しいことにチャレンジしようという好循環が生まれる。挑戦することに対してストレスを過剰に感じにくくなります。

永岑さん
編集部

他にも、「ストレスとうまく付き合える人」になるためにできることはありますか?

永岑さん

周囲の人をうまく頼るなど、自分なりの対処法をたくさん持っておくことですね。

特に、新しい環境でチャレンジしている人は、自分にポジティブな声を掛けてくれる人や自分を認めてくれる人を見つけておくと安心感を得られると思いますよ。

また、スポーツや音楽などの趣味や好きなことに取り組む時間を作ったり、職場以外の居場所を作ったりすることもいいですね。

「いつも失敗する」ってホント?過去の成功体験を“正確に”思い出してみて

編集部

新しいことに挑戦する際に、「失敗したらどうしよう」という不安からストレスを感じる人もいると思います。そんなときはどうしたらいいと思いますか?

永岑さん

失敗することを不安だと感じるのもまた、その人の認知の問題です。

ですから、小さなことから成功体験を積んで「仮に失敗しても大丈夫」と思えるように再学習することもできるし、過去の成功体験を思い出してみることも有効です。

過去に一度失敗しただけなのに、その印象ばかりが強くなりすぎて「いつも失敗する」「絶対に失敗する」と極端な認識をしているケースも多いのです。

よくよく事実を思い起こせば、「いつも失敗していた」のではなく、「できたこと」や「成功したこと」もいっぱいあると気付くことがあると思います。

永岑さん
編集部

なぜ失敗することをそこまで怖がっているのか、ということを見つめ直してみると不安を克服するヒントが見つかりそうですね。

永岑さん

そう思います。人間は「学習によって変わる」ということがさまざまな研究から分かっています。

それは、大人になっても変わりません。その意味で、まさに人は成長し続けることができる存在なのだと思いますね。

編集部

ストレスにうまく対処し、成功体験を積み重ねていくことで成長できるんですね。

永岑さん

はい。ただ、仮に失敗しても次への足がかりにできればそれも貴重な経験ですし、他者が積んだ経験だって自分の糧にすることはできます。

例えば、歴史上の偉人と言われる人も、成功するまでにはたくさんのストレスを抱え、大変な苦労をしているはずですよね。でも、最終的には偉業を成し遂げることができた。そこから学習できることもあると思います。

永岑さん

今まさに新しい環境でチャレンジしている女性たちには、刺激をポジティブに受け取る認知を育てながら、自分なりのストレス対処法をたくさん見つけてほしいなと思います。

きっと、これからの長いキャリアの中でも、今まさに目の前にある壁を乗り越えた経験が役に立つはずです。

書籍情報

永岑さん

『はじめてのストレス心理学』(岩崎学術出版社)

心理学の観点からストレスの正体そのものを再考するとともに、正しい対策方法を紹介。自分自身のストレスへの捉え方や理解を深めることで、悩みを解消する方法を提案する一冊。

>>書籍はこちら

取材・文/瀬戸友子 編集/柴田捺美(編集部)