13 JAN/2023

不機嫌はパンデミックを巻き起こす? 脳波研究者が伝授する働く女性が覚えておきたい職場のフキハラ対策【満倉靖恵】

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身近な人のイライラを敏感に感じ取ってしまい、自分の気持ちまで落ちてしまう……そんな経験がある女性は少なくないのでは?

この不機嫌な人から周囲の人が受けるネガティブな影響を「フキハラ(不機嫌ハラスメント)」と名付けたのは、慶應義塾大学で「感情の可視化」をテーマに脳波の研究を行う満倉靖恵さん。

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満倉さんによると、「ネガティブな感情は、ポジティブな感情よりも人に伝わりやすい」のだという。

職場にいつも不機嫌な人がいてストレスを感じている人や、仕事中にイライラして不機嫌になりやすい人、それぞれどのように対処すべきなのか、フキハラの原因と合わせて聞いてみた。

「不機嫌ノーラ」は相手にガンガン伝わってしまう

編集部

言葉を発さなくても、不機嫌な感情が人に伝わるというのは、実感として何となく分かる気がします。その理由は何なのでしょうか?

満倉さん

脳波の高い周波数のパワーが大きいからです。怒っているときの脳波は、周波数が高くそのパワーが大きいんですよ。

編集部

周波数?

満倉さん

周波数とは、1秒間の振動の回数を表すもの。1秒間に1回振動すれば1ヘルツです。

脳波のリラックスしている時の周波数は10ヘルツ程度ですが、怒っているときの周波数は25〜36ヘルツ。

ポジティブな感情は周波数の振幅もゆるやかでスピードもゆっくりですが、ネガティブな感情は振幅が大きく、スピードも速いのです。

編集部

そんなに違いがあるのですね。

満倉さん

私は、脳波は電磁波のようなものなのではと考えています。

それをオーラにかけて「ノーラ」と呼んでいますが、ネガティブなノーラの方がスピードが速い分、相手の元により素早く到達する。

つまり、「不機嫌ノーラ」は相手にガンガン伝わってしまうのです。

編集部

「不機嫌ノーラ」にさらされ続けることで、どのような影響が生じますか?

満倉さん

自分がずっと嫌な気持ちでいることになるので、それが続くことでやがてノイローゼやうつ病のリスクは増すと思います。

まだ実験はできていませんが、特にセンシティブな人は、不機嫌ノーラを受け取りやすいかもしれないですね。

相手の不機嫌は、ご機嫌ではね返す

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編集部

不機嫌な人が近くにいる場合の対処法を教えてください。

満倉さん

相手から距離を置くのが一番ですね。逃げろ! って。

編集部

とはいえ、同じ職場やチームの人の場合、逃げられないこともあります。その場合に身を守る方法はありますか?

満倉さん

その人からのノーラをもらわないためには、それ以上のノーラではね返すか、はね返さなくとも「守る」だけでもいいんです

ちょうど自分の周りに見えないカプセルを作って、その中にいるのをイメージする感じで。

あるいは、楽しい音楽を聴くなど、自分がハイな状態でいることが有効です。

編集部

違う周波数でノーラを打ち返すイメージですね。

満倉さん

あとは、そもそも考えないこと。あるいは違うことを考えて、自分の中から不機嫌な人の存在を消しましょう。

これが先ほどお話しした、「カプセルの中にいる感じ」ですかね。

視界に入れないことも重要です。それでもノーラは伝わってしまうと思いますが、目に入れなければ気にせずに済みますから。

編集部

近くにいるとどうしても相手のノーラは伝わってきてしまうけど、せめて相手を気にしないために視界に入れないようにして、その上で楽しいことをして武装すると。

満倉さん

そう。「ご機嫌ノーラ」を出して、「不機嫌ノーラ」をはね返しましょう。

編集部

ということは、裏を返せば自分の調子が悪いときはより食らっちゃいますね。

満倉さん

自分のネガティブな感情と相手の「不機嫌ノーラ」が共鳴してしまうでしょうね。その場合はカフェに行ったりリモートワークに切り替えたりできるといいと思います。

とにかく「不機嫌ノーラ」からは逃げるのが一番ですよ。まさに、逃げるが勝ちだと思います。

「ハッピーでいること」を選ぶのが第一歩

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編集部

一方で、自分がフキハラをしてしまうこともあると思います。

満倉さん

そうですね、女性の場合はPMSなどの症状がある人もいて、男性と比較して「不機嫌ノーラ」を出しやすい傾向があります。

編集部

自分が不機嫌なことを自覚している場合は、やはり物理的に周りの人と距離を取るのがいいのでしょうか?

満倉さん

そう思います。不機嫌は伝染していくので、パンデミックを起こしてしまう前に、人から離れましょう

編集部

「今日は調子よくないぞ」と思ったら、さっさと仕事を切り上げて一人になるのがベストですか?

満倉さん

そうです。早く帰って好きなことをしたり、睡眠をとったり、何もしたくないならそれでもいいと思います。

その代わり、落ち着いたらしっかり働きましょう。

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編集部

なるほど。とはいえ、いつもイライラしている人っていますよね。不機嫌が常になってしまうと、なかなか切り替えが難しくなってしまう気がして。

満倉さん

その場合は、いつも不機嫌な自分をまずは自覚して、ご機嫌になる意識づけから始めること。

そもそも不機嫌にならないことが自分にとっても周りにとっても一番なので、常にご機嫌でいられたらいいですよね。

ちなみに、「Happy People Live Longer」って聞いたことありますか?

編集部

日本語に訳すと、「幸せな人は長く生きる」ですね?

満倉さん

そう、ハッピーな人は長生きするんです

科学誌『サイエンス』に掲載された論文のタイトルであり、つまりそれは科学的にも分かっていることなんですよ。

編集部

どうしたらハッピーでいられるのでしょう?

満倉さん

それは、出発点が違いますね。まずは「ハッピーでいること」を選ぶんです。

編集部

ハッピーでいることを選ぶ……?

満倉さん

そう。「私はハッピーでいる」とまずは自分で決めるんです

何事も「自分はどうしたいのか?」に沿って選択していけば、自分で決めているからどんな状態であれ満足できます。

一方、自分で選択しないまま流されていくと、何かあったときに他人のせいにしてしまったりする。

それに、常に「自分はどうしたいのか」を考えていけば、「今の自分はどうなのかな」と省みることもできますよね。だから、まずは「ハッピーでいる」ことを自分で宣言しましょう。

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編集部

ハッピーになれる、なれないではなく?

満倉さん

違う違う。「ハッピーに生きるんだ」と最初に自分で決めるんです。

そもそも、それがないのはめっちゃ他力本願じゃないですか。

受け身で「ハッピーになる」のを待っていても、そんなの無理ですよ。だって、幸福は主観的なものだから。あなた以外の誰があなたをハッピーにしてくれるんですか?って話です

編集部

受け身な姿勢でいる限り、幸せにはなれない?

満倉さん

もちろんです。同じ状況にいたって、その状況を悲観的にとらえる人もいれば、楽観的にとらえる人もいる。

物事の受け取り方次第なので、「私はいつだってハッピーである」と自分が決めてしまえば、その通りになるんですよ。

編集部

そうか……そうでなければ、「お金がないから自分は不幸だ」「彼氏がいない自分はかわいそうだ」みたいなことって、いくらでもでてきてしまいますよね。

満倉さん

そう。ハッピーに生きると決められていない人は、そうやって自分に足りないピースばかり探してしまうんです。

でも、はっきりと「私はハッピーに生きる」と決めたらそうはならなくなりますよ。

人生はプラマイゼロ。マイナスがたまれば、次は絶対良いことが起こる

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満倉さん

それに、ハッピーでいることを宣言すれば、自分が不機嫌になるようなこともしなくなるはずです。

編集部

そうか。いつもハッピーでいるって決めてしまえば、ご機嫌じゃないことなんてやるわけないですね。

満倉さん

そういうことです。

それは私の恩師の一人でもある坪田一男先生が常に言っていることでもあります。『「ごきげん」だから、うまくいく!』という本を書いている方ですが、まさにその通り

編集部

ただ、仕事をしていれば、どうしても「嫌だな」と思うこともやらざるを得ない場面はあるじゃないですか。そういうときはどうすれば?

満倉さん

その場合は1個嫌なことをやったら3個、自分がご機嫌になることをしましょう。数で勝てば相殺できます。

編集部

なるほど。

満倉さん

そう決めちゃえば、嫌なことがあっても「ご機嫌なことを3個やればクリアだな」ってなるから、結果ハッピーを維持できます。

もし嫌なことが慢性的に続くのであれば、なるべくそれがない場所に働く環境を変えたっていい。そうやって考えていくと、絶対にハッピーですよ。いつもご機嫌でいられます。

編集部

ハッピーな人の周りにはハッピーな人が集まる印象がありますが、それはなぜだと思いますか?

満倉さん

ハッピーな人を見ていると、何となく楽しくなるじゃないですか。それは脳波というよりは、表現系として伝わるんじゃないかなと思います。

赤ちゃんの笑顔を見て怒る人がいないのと一緒ですね。

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編集部

「笑顔でいましょう」ってよく言われますけど、そういうことなんですね。

満倉さん

そうです。笑顔でいないとだめですよ。

私は挫折もたくさん知ってるけど、それでもハッピーなんです。なぜなら、人生はプラマイゼロだから。

マイナスな出来事も貯金していって、貯金箱がたまれば絶対良いことが起こる。

だからめっちゃ嫌なことがあっても、「これも貯金だな。たまればすごいことが起こるぞ」と思いながらやり過ごしています。

編集部

そうやって考えを切り替えていけばいいんですね。

満倉さん

常にハッピーでいるなんて「満倉さんだからできるんでしょう?」って言われることもありますけど、「自分にはできない」って思った時点でできなくなりますからね。

無理にやる必要はないし強要するつもりもないですが、いいなって興味持ってくれた人は試してみていただけるとうれしいですね。

編集部

少なくとも「ハッピーでいる」と決めること自体は誰にでもできますもんね。

満倉さん

そうそう。決めるだけならお金もかかりませんからね。フキハラをしないためにも、フキハラをはね返すためにも、ご機嫌に生きていきましょう。

<プロフィール>
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授/慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授/電通サイエンスジャム取締役CTO/株式会社イーライフ取締役CTO
満倉靖恵さん
生体信号処理、脳波解析などをキーワードに、脳神経メカニズム・感情・睡眠・うつ病・認知症などに関する研究に従事。特に医工連携型研究に注力。電通サイエンスジャムと共同で、世界初の脳波によるリアルタイム感情認識ツール「感性アナライザ」を開発。リサーチ、商品開発など世界中で活用されている。心拍のみを用いた自律神経の動きに注目した睡眠の5段階解析、非侵襲ホルモン解析などの専門家

書籍紹介

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『フキハラの正体 なぜ、あの人の不機嫌に振り回されるのか?』(満倉靖恵著/ディスカヴァー・トゥエンティワン)

職場で・家庭で・学校で……あなたは大丈夫? 「フキハラ(=不機嫌ハラスメント)」の被害を受けたり、自分が周囲に与えたりしないために。最新の脳波研究で分かったフキハラのメカニズムと対策を紹介する一冊
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取材・文/天野夏海