07 OCT/2015

「妻のキャリアアップに全てを懸けた」 専業主夫歴18年の男性が思う、これからの夫婦が“兼業主婦・夫”を目指すべき理由

「妻のキャリアアップに全てを懸けた」 専業主夫歴18年の男性が思う、これからの夫婦が“兼業主婦・夫”を目指すべき理由
「妻のキャリアアップに全てを懸けた」 専業主夫歴18年の男性が思う、これからの夫婦が“兼業主婦・夫”を目指すべき理由

佐久間 修一さん

1967年、東京都生まれ。24歳で大手コンピューター会社に就職。以降、いくつかの転職を経て、30歳で8歳下のグラフィックデザイナーの妻と結婚。結婚直後、病気が判明し退職。以降は“専業主夫”として働く妻を支えている。2012年、長男が誕生
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近年、結婚・出産を経ても働き続けるという選択肢は、女性にとってごく自然なものになりつつある。けれど一方で、2012年の博報堂生活総合研究所の調査によると、20代女性の3人に1人が専業主婦になりたいと望んでいるという。

家計の不安さえなければ仕事は辞めて家庭に入りたいというのが、女性の見えざる本心なのだろうか。女性にとっての仕事は、結婚までの「つなぎ」なのだろうか。

女性が働き続ける理由を見つめるべく、「定年まで働き続けるのが当たり前」とされる男性の身で“専業主夫”という生き方を選択した佐久間修一さんに話を聞いた。18年間、家庭を支えることに全身全霊を捧げた佐久間さんだから言える「働くこと」の意味とは。

仕事人間から一転、「ごくつぶし」と呼ばれた専業主夫ライフへ

佐久間さんの20代は仕事一色だった。敏腕システムエンジニアとして一部上場企業を渡り歩き、重要なプロジェクトをいくつも手掛けた。30歳の節目で結婚を決意。管理職にも昇格し、順風満帆なキャリアが開けていくはずだった。ところが、結婚直後、サルコイドーシスという原因不明の難病が発覚。全身のあらゆる臓器に異常が表れ、呼吸困難をはじめ、さまざまな症状に苦しめられた。

「仕事を辞めざるを得なくなり、妻には離婚を申し出ました。彼女はまだ23歳。そんな若い女の子に働くこともできない病気を抱えた夫の一生を背負わせるなんてできませんから」

だが、そんな佐久間さんの申し出を、妻は一刀両断。「私が稼いでくる。だからあなたは家事をしてくれ」と宣言した。だが、時は1990年代後半、まだダイバーシティは浸透しておらず、イクメンという言葉もない時代だ。そんな男女逆転のスタイルに世間の目は厳しかった。

「近所の人に『主夫なんです』と言ったら『ごくつぶし』と言われたことも。初めのころは周りの目が気になって、買い物に行くときはもちろん、家で洗い物をしているときでさえスーツを着ていました(笑)」

金髪にこめられた決意「妻のキャリアアップに全てを懸ける」

妻におんぶに抱っこではいられない。何とか自分でも収入を得ようと自作のコンピュータゲームを販売していた時期もあった。しかし、体調は芳しくなく、週に3日は寝込むような日々。大黒柱として家計を支えるには、あまりに厳しい状況だった。

一方、妻の仕事は順調そのもの。結婚を機にフリーのグラフィックデザイナーとして活動を開始した妻は毎年着実に年収を上げ続けた。そんな妻の活躍をそばで見守ってきた佐久間さんは、結婚3年目、大きな決断をする。

「これからは専業主夫として家を守り、妻をサポートすることに徹しようと心に決めたんです。その証として、髪を金髪に染めました。それまではずっとどこかで社会に戻りたいという気持ちがあったんです。でもそこまですればもう戻れないでしょう。要は開き直ったわけです。金髪になった自分を鏡で見て、心の中で『自分は主夫なんだ!』と宣言しました」

その日から仕事を尋ねられても「主夫です」と胸を張った。順調にキャリアアップを果たしていく同世代の仕事ぶりも一切気にならなくなった。組織のしがらみから離れ、利害がなくなれば、付き合いは自然と途絶えた。わずらわしい人間関係を気に病む必要は一切ない。常に考えるのは、自分の健康と妻のことだけ。一番の自慢は、この18年、妻が大きな病気をしなかったこと。働く妻をおいしい料理で迎え、家計のやりくりに頭をフル回転させた。

「一番うれしいのは、毎年の確定申告。奥さんの年収が毎年どんどんアップしていくのが喜びでした」

結婚15年目、待望の長男が誕生した。きっかけは、持病の快癒。もともと子ども好きだった佐久間さんは、出産に対して消極的だった妻を2年掛けて説得し、3カ月の妊活を経て子宝を授かった。子育ては、もちろん佐久間さんが引き受ける。フリーランスである妻は、産前産後は仕事ができない。2カ月で職場復帰できるよう、女性の体のメカニズムについて徹底的に調べ上げ、万全のサポートを果たした。

専業主婦は逃げ道にはならない

そんな今時珍しい「内助の功」を地でいくような佐久間さん。だが、「仕事がつらいから、会社を辞めて専業主婦になりたい」という安易な願望には警鐘を鳴らす。

「専業主婦(主夫)になったら、今度は家庭での仕事が始まります。1日平均18時間労働で、残業代も出ない。まさにブラック企業です」
そして「専業主婦(主夫)という生き方は、きっと今後淘汰されていく」と前置きした上で、佐久間さんは「パートナーと自分の“ライフパズル”を話し合うことが大事」と続ける。

「決められた枠の中でピースをはめるパズルのように、仕事や家事、育児、趣味や地域活動など、いろいろなピースを自分の人生という枠の中に当てはめていく。そして、それぞれのピースの大きさを共有し、仕事や家事をどのくらいやりたいのかを話し合って、お金を稼ぐ仕事と家庭の仕事を夫婦2人で担う、家庭に“兼業主婦(主夫)”が2人いる状態を目指すべきです。

男は『女性が家事をやって当たり前』『子どもを産んで当たり前』と思っている生き物ですから、伝えなければいつまで経っても働く女性の負担は大きいまま。女性の皆さんにはぜひ意思表示をしてほしいと思います」

実際に佐久間さんの家庭でも、家事の2割は妻が担当。佐久間さんも今では積極的に講演活動を行い、実質的には兼業主夫として社会との関わりを持っている。

「ピースの大きさは人それぞれ。仕事が50%という人もいれば、20%という人もいる。そして2人とも仕事をしていれば、その割合はその時々で変えることができます。仕事をゼロにしないことで、選択肢は広がるんです。

僕は専業主夫の道を選ばざるを得なかった身なので、『もしも妻が働けなくなってしまったら……』というリスクとは常に隣合わせ。パートナーが不調のときは自分が頑張って、自分がつらいときは相手に支えてもらう。そんな夫婦の関係を成立させるためにも、働くことから逃げてはいけないんだと思います」

取材・文/横川良明 撮影/柴田ひろあき