【医師監修】ずっと仕事のことを考えてしまう人のための「心と体」をバランスよく休ませる方法

特集:働く女の休み方改革

長く働き続けるためには、頑張るだけじゃなく、心とカラダをしっかり休める時間を持つことも大切。この特集では、ヘルシーなワークライフをつくる“いい休み方”を新提案。明日の元気な自分をつくる「休み方改革」を始めよう!

休めない

待ちに待ったゴールデンウィーク。テレビや雑誌で旅行などの特集が多く組まれる一方、「とにかく休んで疲れをとりたい」と願っている人も多いかもしれない。

ただ、家でごろ寝しているだけでは癒えない疲れもあるので要注意。

フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所の代表統括産業医・精神科医である石井りな先生は、「心と体の両方をバランスよく休ませることが大切です」と呼び掛ける。

肉体疲労と心の疲労を日頃からためこまず、休日を使ってうまく解消するためにはどんなふうに休むことが効果的なのだろうか。「いい休み方」について、石井先生に教えてもらった。

「頭の中が仕事でいっぱい」家にいても休めない女性たち

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──石井先生は産業医として20~30代女性の健康相談に応じていますよね。忙しく働く人も多い世代ですが、「休み方」について課題を感じることはありますか?

そうですね。特に20代後半~30代の女性たちは職場でもチームリーダーや、プレイングマネジャーのような立場にいることが多く、心理的なプレッシャーを抱えがちな世代だと思います。

また、プライベートでもライフステージの変化を迎えるなど将来に対する不安感も強い。「心が疲れている」状態にあるのに、ちゃんと心を休ませることができていない人も多いです。

さらに、コロナ禍でリモート勤務が定着するなど業務のオンライン化が進んだことで、「頭が休まらない」とおっしゃる方が増えました。いつどこでも仕事ができるようになって便利な分、オンとオフの境があいまいになっているんだと思います。

会社の外にいても仕事ができてしまうから、つい寝る直前までメールやチャットを見てしまったり、Slackに連絡がくればすぐ返信してしまったり……。

家でじっとしていたとしても、「頭の中はいつも仕事でいっぱい」「結果的に、長時間労働をしている」という方も見受けられます。

ーーそもそも心が疲れやすい年代だし、仕事のオンライン化が進んでいることで「常に仕事モード」な人も目立つようになったと。

はい。「デジタル疲れ」「つながり疲れ」などさまざまな言葉が生まれていますが、家にいて体は休めているようでも、心や頭は休まっていない人は多いですね。

ただ、20~30代は基本的には若くて元気な人たちなので、疲労を甘く見て放置しがちです。すると、気付いた時には心も体もボロボロになっていた……なんてことも。

健康状態に悪影響が及ぶ前に、心と体の疲労をケアしていくことが大切です。

──「疲れがたまっている」初期のサインは、女性の場合どのように体に表れることが多いのでしょうか?

最初によく表れるのは、睡眠にまつわる異変です。

例えば、仕事が忙しくて疲れているはずなのによく眠れない、夜寝付けない……そうした変化は危険信号。産業医面談でも最初に聞くのが睡眠の状態です。

あとは、疲労は自律神経やホルモンバランスにも影響を与えるため、生理周期のずれやPMS症状の悪化、感情の浮き沈みなどを引き起こすことも。

その他、粘膜が荒れて口内炎ができやすくなったり肌が荒れたりすることもありますし、心の疲れが悪化すれば睡眠障害やうつ病などの兆候が現れることもあります。

ただ、人によってどういうサインがあらわれやすいかは異なるので、疲れたとき出やすいサインは何なのか記録をとるなどして、自分の傾向を知っておくようにするといいですね。

心の休ませ方は人それぞれ。自分だけの「元気になることリスト」を作ってみよう

心を休ませる

──心身の疲労回復のためには「心と体の両方をバランスよく休ませることが大切」とのことですが、具体的にはどうすれば?

まずは、良質な睡眠をとることと、栄養バランスのいい食事をとること、適度に運動すること。よく聞くことかもしれませんが、これは万人に共通する「いい休み方」の基本です。

体を元気にするためには、十分な睡眠と食事が欠かせないというのは多くの人がイメージしやすいですよね。忙しいとつい睡眠時間を削りかぎですが、毎日7時間程度の睡眠時間は確保したいところ。

食事に関しては、肉・魚・たまご・大豆などタンパク質を多く取ることを意識する他、朝ごはんをなるべく食べるようにしてほしいと思います。

もし朝から重いものを食べられないようなら、バナナ、ヨーグルトなど、血糖値を上げてくれるものだけでも食べられるといいですね。

また、「運動すると余計に疲れる」と思う人もいるかもしれませんが、むしろその逆。適度な運動は酸素や栄養を体の隅々までいきわたらせる効果がありますから、疲労回復につながるのです。

──心の疲労をとるためには、どんなふうに休むことが有効なのでしょうか?

心の疲れ解消は、人によっていろいろな方法があります。

例えば、家でゲームやウェブ制作に没頭することで癒やされる方もいらっしゃれば、スポーツや旅行を楽しむことでリフレッシュできる方もいますよね。

「楽しい」「気持ちいい」と感じられる時間を過ごすことが心の疲れの解消につながるので、一人一人が自分にとってそれがどういう行動・時間なのか普段から意識しておくことが大切です。

というのも、本当に疲れているときは思考力が落ちてしまっている状態なので、「何か楽しいことを」と思っても何も思いつかなくなってしまうんですよ。

ですから、そこまで疲れ切ってしまう前に「疲れを感じたらやることリスト」を作っておいて、見返すようにするのをおすすめします。

長く仕事を続けていくためには、自分の心身の健康状態をセルフコントロールするスキルがとても大切です。

心と体を元気にするリストは常に中身をアップデートしていきながら、自分のお守りとして持っておく。そうすることで、はやめに自分をケアすることができるようになりますよ。

身の回りを整理整頓して頭も整理。「休むこと」に集中できる環境づくりを

休めない

──もうすぐゴールデンウィークですが、連休を使って心と体を元気にするいい休み方はありますか?

基本的には、生活リズムを崩さず過ごすことをおすすめします。

連休期間中、思い切り寝るのもいいと思いますが、起きる時間が遅くなりすぎると、自律神経が乱れたり、体調を崩したりするきっかけになります。

また、先ほどお話ししたように、体を休めようとただごろごろし続けていても心の疲労が回復しないこともありますし、心のリフレッシュに振り切りすぎても体の疲労が回復しない場合もある。

1週間近くお休みがある人は、その中で心と体をバランスよく休ませて過ごすことが大切ですね。

ーー連休中も「仕事のことが不安になる」人もいそうですが、そういう人におすすめの休み方はありますか?

いろいろなことを考えてしまって頭の中がざわざわしてしまう人は、身の回りを整理整頓してみるといいですよ。

ーーそれはなぜですか?

皆さんも会社のデスクを片付けたら、何だか仕事に集中できるようになったというような経験はありませんか? それと同じで、自分の周辺が散らかっていたり、物があふれかえっていたりすると、人間は気が散ってしまうものなんですよ。

ですから、「休むこと」に集中するために、まずは自分の気が散ってしまうような環境を整えてみる。掃除をしたり、身の回りを整理したりしていると、意外と「思考が整理される」人も多いんです。

ーー部屋もきれいになって、何だか一石二鳥ですね。

そう思います。何となく仕事をしてしまう、何となくスマホを見続けてしまう……いろいろな情報を頭に入れ続けてしまう私たちだからこそ、まずは自分の頭を落ち着けて、ゆっくりできる環境をつくってみましょう。

せっかくの連休ですから、「休むこと」に頭を切り替えて、しっかり寝る・食べる・動くを意識しつつ、心がワクワクするような「楽しみなこと」にも取り組めるといいですね。

普段の生活の中でも、そのバランスを意識してみてほしいなと思います。

石井りな

フェミナス産業医・労働衛生コンサルタント事務所
代表統括産業医・精神科医
石井りなさん

独立行政法人東京医療センター(目黒区)にて内科・外科・救命救急を中心に初期研修後、同病院精神科にて研さんを積む。その後、医療法人高仁会戸田病院、川口クリニック、大石記念病院等で、軽症から重症までの精神疾患診療に従事しながらリワーク外来などを担当。並行して、精神分析・力動的精神療法、認知行動療法の精神療法を学び日々の診療に取り入れている。 2010年より産業医として活動し、フェミナス産業医事務所を設立。医療と職場双方の視点から多数の難しいケースを復職・就労定着へと導く。 16年、働く人のヘルスケアを行う「九段下駅前ココクリニック」に参画。 順天堂大学大学院衛生学にて、衛生学全般の他、主治医と産業医の連携、仕事と疾病治療の両立支援を研究。 作業環境の評価や産業保健法務についても学ぶ。現在は、企業から頼りにされるプロフェッショナル産業医の育成、産業医間の互助連携などに取り組む。自らの管理職経験も、産業医活動へ活かしている
>>フェミナス産業医事務所

取材・文/まゆ イラスト/石山好宏