【最上もが】HSPは生まれ持った才能? 人の感情や顔色を「気にしすぎる自分」だからこそできること
人気アイドルグループ『でんぱ組.inc』の元メンバーで、現在は映画、ドラマ、バラエティー、ファッション誌などを舞台に幅広く活動するタレントの最上もがさん。

2023年4月に出版された彼女のフォトエッセー『も学』(KADOKAWA)では、HSP(Highly Sensitive Person)の気質を持つ彼女が、仕事や人生の中で感じてきた生きづらさが赤裸々につづられている。
HSPとは、視覚や聴覚などの感覚が敏感で刺激を受けやすく、神経が細やかな気質を持つ人を指す言葉だ。
「繊細さん」のような言葉で表現されることもあり、HSPについて耳にする機会が増えてきた。
34年の人生をかけて最上さんがたどり着いた、簡単には代え難い自分の気質を受け入れて、健やかに仕事を続けていくための考え方について聞いた。
HSPもうつ病も、知ることができて「正直ほっとした」
自分がHSPだと知ったのは、アイドル活動中に心身のバランスを崩したことがきっかけだった。
「年間で休日は数えるほどしかなかった」という過酷なスケジュールをこなし、周囲の期待に必死に応えようと奮闘する中で、少しずつ心のバランスは崩れ始めていた。
常に頭の中は仕事のことでいっぱいで、自分の心や体を休ませる方法が分からなくなっていました。あまりの忙しさに、体調が悪くても走り続けるしかなかったんです。
そうやって自分の心と体の悲鳴に気付かないふりをしているうちに、これまで当たり前にできていたことができなくなっていきました。
アイドルとして大勢のファンの前で笑わなくちゃいけないのに、うまく笑顔がつくれない。
今まで楽しめていたことも楽しさが分からなくなり、急に涙が出てくることも。
それでも、これは私の甘えなんだ、だから頑張らなきゃと自分を追い込んでいました。
精神的に不安定な状態が続き、命と仕事を天秤にかけるほどに追い詰められていった最上さんは、やむなく所属していた『でんぱ組.inc』を脱退することに。
アイドルの仕事を辞めることは苦渋の決断だったが、ようやく自分と向き合う時間が生まれた瞬間だった。
最初は何もする気力が起きなかったのですが、次第になぜこうなってしまったんだろうと考え始めて。
私の中にずっとある生きづらさの正体が分かれば元気になれるかもしれないと考えて、SNSを見たり本を読んだりしているうちに、「HSP」という言葉と出会いました。
HSPに関連する書籍を購入してめくってみると、チェックリストは「すべて当てはまる」ほどに自分の特性を言い表していた。それを機に心療内科を受診したところ、当時出ていた症状などから「うつ病」の診断も下された。
HSPの特性を知り、医師から「うつ病」と診断された当時の心境を、「正直ほっとした」と最上さんは振り返る。
ああ、だからか、って妙に納得した自分がいました。
これまで人から「考えすぎ」「気にしなければいい」と言われるたびに、なんで自分は他の人みたいにうまくできないんだろうと自己嫌悪に陥っていたし、繊細さは私の欠点なんだと思っていました。
でも、「気にしすぎ」が自分の特性ならそれを認めて付き合っていく方法を考えればいいし、「うつ」は病気だからちゃんと治療すれば良くなるはず。
自分の「甘え」とかそういうものじゃないって分かったのと、それぞれ対処する方法があると知ることができたので、何だかすっきりしたんですよね。
HSP、うつ病の公表は「自己満足だった」けれど……

自身のYouTubeチャンネルでうつ病やHSPを公表したのは、グループ脱退から3年がたった、2020年のこと。公表したのは「正直、自己満足です」と語る。
突然グループを抜けてしまったので、「仲間割れしたんじゃないか」とか「もがはでんぱ組.incを踏み台にした」とか、さまざまな臆測が飛び交って……。
実際は全くそんなことはないんですけど、脱退した当時は何かを説明する気力もなくて、ちゃんと誤解を解くことができなかった。
それで、今ならできるなと思った時に、お話しさせてもらいました。
あくまで「自分のため」だったという告白には、多くのファンや、同じように生きづらさを抱える人々から応援や共感、励ましのコメントが届いた。
中には、「もがさんの発信を見て自分がHSPだと知った」という声もあったそうだ。
私がそうだったように、何らかの心の問題を抱えながら、SOSを出せずに頑張り続けてしまう人は多いはず。
そういう人たちに「自分だけじゃなかったんだ」と思ってもらえて、少しでも自分自身の特性や現状を理解する手助けになったならうれしいですね。
「HSPという才能」を授かったからこそできること

あらゆる感覚が過敏なHSPは、他人の気分やささいな環境の変化に左右されやすく、日常生活でストレスを受ける場面が多いとされている。
実際、それによって仕事に支障が出ることもあり、HSPにネガティブなイメージを持っている人も多いはずだ。
私も以前はそうだったんですけど、HSPは「生まれ持った才能なんだ」って考えるようにしたら、ポジティブな面にも目を向けられるようになりました。
気にしすぎな性格は、裏を返せば他者への共感力の高さにもつながる。実際、最上さんには「人の疲れや感情の変化が、痛いほどよく分かる」のだという。
例えば、長丁場の撮影現場では、役者の皆さんが疲れていたり、体調が悪そうなスタッフさんがいたり、ちょっと重い空気になっちゃうことってあるんですよね。
でも、せっかくならみんなが楽しめる現場がいいと思っていたので、いろいろな方とコミュニケーションをとることを意識していました。
また、最上さんの共感力はアイドル時代から現在に至るまで、ファンとの関係性づくりにも生かされている。
私のSNSには、「もう生きていたくない」「消えたい」みたいな、切実なメッセージが届くことがあるんです。
そういうとき、「生きてたらいいことあるよ、元気だして」なんて声を掛ける人もいるかもしれないけれど……私はポジティブだけじゃない感情で答えたりします。
本当に追い詰められている人にポジティブなだけの言葉は全く届かないって、私自身が一番よく知っていたので。
こうして相手の立場に寄り添ったり、周りのSOSに気づけたりするのは、「HSPだからこそだと思うんです」と最上さんは言う。
人に共感しすぎてしんどくなることもあるけど、人の痛みに寄り添える人間でいられるなら、この気質を受け入れて生きていくのもいいかなって思えるようになりました。
HSPの気質は時として、つらさや苦しみを生むことがある。しかし、他者の痛みに寄り添い、共感の涙を流せるとしたら……それは「弱さ」でも「短所」でもない。
最上さんのように、自分の特性への理解を深め、物ごとの両面に目を向けることができれば、長く働き続けていくための自信が湧いてくるはずだ。
最上もが(もがみ・もが)さん
書籍紹介

『も学 34年もがいて辿り着いた最上の人生』(KADOKAWA)
34歳、元アイドル、シングルマザー、元でんぱ組.inc最上もが初のフォトエッセー。 “不器用でもいい” 生きづらい日々を変えるため、自分と向き合う1冊。
取材・文/安心院 彩 企画・編集/栗原千明(編集部)