02 JUN/2023

日本の女性役員比率はOECD最低レベル。役員経験者へのアンケート調査で分かった女性リーダーを増やすカギとは?

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「2030年までに女性役員30%以上目標」ーー2023年4月、岸田首相は日本を代表する企業(東京証券取引所の最上位「プライム市場」に上場する企業)の女性役員比率を2030年までに30%以上にする目標を示し、大きな話題となりました。

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役員とは、取締役、会計参与、そして監査役などの企業経営を担うポジション。

会社の経営方針を立て、方針に合わせた組織をつくり、実際の業務を実行する責任を負います。

昨今の報道によると、岸田首相は「女性活躍の推進を通じて多様性を確保し、イノベーションにつなげることは『新しい資本主義』や包摂的な社会の実現に向けて大変重要」と述べたそうです。

背景には、組織を代表する意思決定層になかなか女性が増えない実情が挙げられます。

内閣府男女共同参画局の資料によれば、上場企業の女性役員数は2012年以降の10年間で5.8倍に増加していますが、2022年時点で役員全体に占める女性割合は9.1%にとどまっています(下図)。

内閣府男女共同参画局資料

内閣府男女共同参画局資料より)

また、下記の図からも分かる通り、他の先進国の女性役員割合に目を向けると30~40%台が一般的で、日本の女性役員比率は諸外国の中でも極めて低いと言わざるを得ません。

内閣府男女共同参画局資料

内閣府男女共同参画局資料より)

そんななか私が共同経営するWaris(ワリス)で「女性役員の実態調査」を企画・実施しました。

調査には80名が回答し、うち60名以上が役員経験者(現役を含む)でした。女性役員当事者のアンケート調査は非常に珍しいと思います。調査からは女性役員登用の課題が見えてきました。

役員への打診「一度は断った」など2割以上

はじめに「役員の打診を受けたとき、ご自身としてはどのような反応をしましたか?」と聞いてみると、「快諾」が75%が最多という結果に。

一方で「しぶしぶ受諾」「一度は断った」「検討した」などの迷いながら決断したという声も20%以上ありました(下図)。

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役員を初めて引き受ける際にネックになったこと、不安に感じたことについては「責任の増加」が45.3%、次いで「能力・経験が不足していると感じた」が28.1%で上位を占めました(複数回答)。

役員を初めて引き受ける際にネックになったこと

役員として苦労や不満に感じている点については、「フィードバック・評価が受けにくい(37.5%)」、次いで「役員周辺業務に関する学びの場が少ない(32.8%)」といった回答をされる方が多かったです(複数回答)。

役員を初めて引き受ける際にネックになったこと

続いて、「女性役員を増やすために効果的だと感じること」についても聞いてみました。女性役員自身が必要だと思っていることなので、言葉に説得力がありますね。

「社内外の女性役員・管理職とのネットワーキングの機会」が50%、次いで「業務経験の男女格差是正(新規プロジェクトの企画提案、共同プロジェクトのマネジメント、事業戦略全体の策定業務など)」が46.3%、「柔軟な働き方の実現(フレックスタイム・テレワークなど)」が43.8%、「経営層による働きかけ」「役員の類似経験を積むこと」が42.5%となりました(複数回答)。

役員を初めて引き受ける際にネックになったこと

上記の課題が改善されていくと、女性役員やリーダーが増えていく可能性がありますね。

「いつか役員を目指したい」女性が今から準備したいこと三つ

また、Woman type読者の皆さんにとっては、周囲を見渡しても女性役員がほとんどおらず、管理職だって少ない中で、「自分が役員になる」ことまで具体的にイメージできる人はきっと少ないと思います。

ただ今後、社会全体で「女性役員を増やそう」という動きは活発になっていくはずなので、チャンスがめぐってくるのであれば、ぜひ挑戦してみてほしいところ。

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そこでここからは、アンケート調査の結果や、私自身の実体験などを踏まえて役員(企業の経営層)にチャレンジしてみたい気持ちが少しでもある女性たちに向けて、今のうちから心掛けてみてほしいことをお伝えします。

【1】女性同士の横のつながりを大事にする

今回、「女性役員を増やすために効果的だと感じること」について尋ねたところ、女性役員の約半数の人が「社内外の女性役員・管理職とのネットワーキングの機会」を挙げていました。

実際、「スキルや知識だけでなくネットワークづくりも非常に重要(50代・取締役)」といった回答者からのコメントも寄せられています。

女性自身がネットワークをつくることによってお互いに情報交換ができたりサポートが得られたりするだけでなく、ロールモデルを見つけられるのもメリットです。

女性管理職や役員の数がまだ少ないからこそ、ネットワークづくりをすることでおのおのの経験や知識を共有し助け合うことにつながります

社内にそうした女性のコミュニティーがすでにあれば参加をお薦めしますし、ないようであれば自分でつくってしまうのも一つの手です。

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また、できる限り多様なロールモデルにふれるのがポイントなので、社内にかぎらず社外のコミュニティーにも積極的に参加したいものですね。

「ロールモデルがいない」という声をよく聞きますが、誰か一人の完璧なロールモデルを探してしまってはいませんか?

私はロールモデルは「いいとこ取り」でいいと思っています。

すべてのお手本を一人に求めるのではなく、「◯◯さんのコミュニケーションスキルがすばらしいな」「ワークライフバランスの取り方は△△さんがすてきだな」など、ぜひ多様な事例にふれて、少しずつ「お手本にしたいところ」を取り入れていってみましょう。

【2】リーダーシップについて学ぶ

もう一つおすすめしたいのがリーダーシップについて、「学びの機会を得る」ことです。

「役員として苦労や不満に感じている点」について聞いたところ、「学びの機会の少なさ」についてあげる声が多く聞かれました。機会が少ないからこそ、自身で積極的にその機会をつくっていくことが大事です。

リーダーシップに関する書籍などで学ぶのも手ですし、会社が提供してくれる研修に積極的に参加するのもいいですね。

また、「学び」と言ったときに書籍や研修によるものだけではなく、業務を通じたリアルな学びも大切にしたいものです。

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【3】修羅場体験で「判断力・行動力・巻き込み力・やり切る力」を磨く

皆さんは「修羅場体験」という言葉を聞いたことはありますか?

ちょっと怖そうな響きの言葉ですが……「修羅場体験」とは、困難で苦しい状況に直面し、その中で自分の力で乗り越える経験のことです。

リーダーとして成長するためには、修羅場体験が非常に重要だと言われています。

なぜなら、修羅場体験を通して、私たちは困難に直面したときの判断力や行動力、やり切る力、周囲を巻き込み物事を推し進める力などを学ぶことができるからです。

修羅場体験ができる仕事は、業界や職種によってさまざまですが、一般的には新規プロジェクトの立ち上げや社内外を巻き込むような横断プロジェクトのマネジメント、大規模なシステム開発、事業戦略全体の策定業務などがこれにあたります。

これまでさまざまな研究結果から、配属や異動において男女差があることが知られています。だからこそ、この壁を乗り越えて多様な業務経験を積めるように私たち自身も意識していきたいですね。

田中美和

【この記事を書いた人】
Waris共同代表・国家資格キャリアコンサルタント
田中美和

大学卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現日経BP社)入社。編集記者として働く女性向け情報誌『日経ウーマン』を担当。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て2013年多様な生き方・働き方を実現する人材エージェントWarisを共同創業。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。一般社団法人「プロフェッショナル&パラレルキャリア フリーランス協会」理事