“ゆるホワイト企業”から脱出すべき? 転職に迷ったら確認したい「20代の働く力を奪う会社」五つの特長【森本 千賀子】
長く働き続けるために、新卒の就活では「安定」や「ワークライフバランス」を重視して会社を選んだ。
実際、残業もないし、リモートワークもできるし、人間関係だって悪くない。けれど、やりがいや成長は感じられない。
このままここで働き続けていいのかーー。
そんな不安の声が、働き方はホワイトだけど仕事がゆるい“ゆるホワイト企業”で働く20代女性を中心に、ささやかれるようになった。
人材紹介事業を手掛ける株式会社morich代表取締役の森本千賀子さんに話を聞くと、「コロナ禍以降は特に、大手企業で働く20代が『将来への不安』を感じやすくなった。特に、“キャリアの前倒し”を意識している女性たちの危機感は大きい」という。
その理由は何なのか。
“ゆるホワイト”な会社を出て転職すべきか? と悩む女性に向けて、若手の「働く力」を奪う会社にありがちな五つの特長と、成長できる環境の選び方を森本さんに聞いた。
リモートで失う成長チャンス、年功序列が阻む女性の「前倒しキャリア」
ーーコロナ禍以降、大手企業で働いている20代が「将来への不安」を抱きやすくなったと森本さんはおっしゃっていますが、その理由はなぜなのでしょうか?
コロナ禍に広がったリモートワークが一つの要因になっていると思います。
例えば、通勤がなくなり自由に使える時間が増えたのはいいけれど、社内の情報が耳に入ってきづらくなったり、仕事のできる先輩や上司の様子を直接目にする機会が減ったりして、職場で「成長のチャンス」を失ってしまう若手が増えました。
また、転職相談に訪れる大手勤務の20代女性の中には、「リモートで働いていて、午前中には仕事が終わってしまう」という人も。
要は、労働環境はホワイトだけど、仕事がゆるいというわけです。
ただこれも、オフィスにいて若手が暇そうにしていれば周囲が気付いて「これやってみる?」と声を掛けてくれるかもしれませんが、リモートではそうはいきません。自分で声を上げなければ、状況は何も変わらない。
そういう職場で感じる物足りなさも、キャリア不安を覚える要因になっていますね。
ーー“ゆるホワイト”な大手企業で働く「女性の危機感が特に強い」というのは?
女性は出産や育児によって一時的に職場を離れることがあるので、産休育休に入る前に自分のポジションを確立しておきたいと考える人が多いんですよね。
だからこそ、「早く評価されなきゃ」「早く肩書をつけなきゃ」と男性以上に焦っている。
私も20代女性には「キャリアの前倒し」をお薦めしているのですが、年功序列が残っている会社だと、そう簡単には前倒しができません。
10年、20年と働いてようやく管理職になれる、いつまでたっても裁量や責任のあるポジションを任せてもらえない……。
そんな環境にいて、「このままでいいのか」と危機感を募らせる女性の声は、転職・キャリア相談の場でもよく耳にしますね。
ーーベンチャーやスタートアップなどで働いている20代女性は、同じようなキャリア不安を感じにくいのでしょうか?
将来への不安を感じている人はもちろんいると思いますが、大手勤務の女性たちと比べると「成長実感がない」ことに悩む人は少ない印象ですね。
というのも、会社規模が小さいベンチャー企業やスタートアップでは、20代であっても立派な即戦力。
年次や性別に関係なく幅広い仕事を任されますし、若手のうちから管理職に挑戦することも珍しくありませんから、「仕事がゆるい」ことはまれです。
また、経営者のそばで働くケースも多く、仕事に意欲的に取り組む仲間も多い。
周囲から刺激を受けて成長しやすい環境にあるんですよね。
20代の「働く力」を奪う“ゆるホワイト企業”五つの特長
ーーとはいえ、給料も待遇も良いホワイトな大手企業をいざ離れようと思うと勇気がいりますよね。 転職すべきかどうか迷ったときは、何を決め手にするといいのでしょうか?
もしも、キャリアを前倒ししていち早く成長したいと思っているなら、今の会社にいてそれがかなうのかどうかがポイントになりますよね。
労働環境はホワイトだけど、仕事がゆるくて若手の「働く力」を奪ってしまうような企業なら、今すぐ出ていいと思います。
ーー若手の「働く力」を奪う“ゆるホワイト企業”には、どんな特長がありますか?
若手の挑戦機会が少ないことですね。特に、下記の五つの特長がある企業は要注意です。
【1】事業戦略が保守的
今いる会社が、新規事業の立ち上げや新規プロジェクトの発足など「攻め」の戦略を一切とらず、コストダウンや現状維持の「守り」ばかりに取り組んでいるなら要注意。
仕事がルーティン作業になりやすいので楽かもしれませんが、新たなポジションが生まれないので、若手が新しいことに挑戦したり、責任ある仕事を任されたりする機会は少なくなります。
【2】人事評価が完全年功序列型
人事評価が年功序列でなおかつ離職率が低い会社では、組織が硬直化してしまうもの。勤続年数の長い人が要職に就いていて辞めないので、なかなかポジションに空きが出ません。
待てども待てども、裁量のある仕事や責任あるポジションに挑戦する機会が若手に巡ってこない、自分の能力をストレッチさせる仕事に恵まれない……そんな状況に陥る可能性が高いです。
【3】柔軟にメリハリをつけて働けない
会社が社員の残業時間をきちんと管理することは大切なことです。しかし、柔軟な働き方の推進をうたっておきながら、「絶対に残業はさせない」「リモートは毎週〇曜日に限る」など、融通の利かないルールを敷いてしまう会社もありますよね。
「今は頑張り時」と腹を決めて思いっきり働く経験も20代の時期には大切。
それなのに、状況に応じて判断できない場合、思い切った挑戦ができず成長が阻害されやすくなります。
【4】社内にロールモデルがいない
社内に「こうはなりたくないな」と思う人しかいないと、そこで「頑張って挑戦してみよう」という気持ちにはなりにくいもの。
ロールモデルは女性に限る必要はないですが、チャレンジ意欲をくすぐるような人や「この人のようになりたい」と思える人が身近にいると、自然と成長意欲が湧いてくるはずです。
【5】副業が禁止されている
今いる会社でチャレンジができなくても、副業ができれば転職せずとも会社の外で新しいことに取り組んだり、やりたいことに挑戦したり、スキルアップをかなえることができます。
ただ、副業禁止の場合はそれすらできなくなってしまうので、成長のチャンスを失うことになってしまいます。
20代での年収ダウンは将来への投資。成長のチャンスをつかむべし
ーー今回ご紹介いただいた五つの特長に自分の会社が当てはまる場合、何から始めるといいと思いますか?
まずは転職活動を始めてみましょう。
今すぐに転職したいと考えていなくても、転職サイトなどで求人を見てみたり、スカウトサービスに登録してみたりして、自分の市場価値を理解することから始めればOK。
最近はカジュアル面接をしてくれる会社も多くありますから、他社の人と話してみて、自分の視野を広げることも有効です。
その中で、「成長したい」「働く力を伸ばしたい」という自分の願いがかないそうな会社を選ぶといいと思いますよ。
ーーベンチャーやスタートアップの方が大手に比べて成長機会が豊富にある印象ですが、年収は下がってしまうケースが多いですよね?
そうかもしれませんが、最近はベンチャー企業の給与水準も上がってきているので、これまでの経験を生かした転職ができれば年収アップもかなえられますよ。
ただ、未経験の職種で転職する他、今までゆるホワイト企業の中で十分な職業経験を積んでこなかった場合は、レベルに合わせて年収は下がるはずです。
でも、この時点での年収ダウンは気にしなくていいと思いますよ。
ーーそれはなぜですか?
20代の転職だと、よほど前職の給与がいい場合を除けば、年収の変化はほとんどないと思います。どんなに下がっても100万円くらいでしょうか。
それくらいの金額であれば、転職後にマネジメントに挑戦したり、新規事業のリーダーをやったり、ポジションアップできればすぐに回収することができますし、新しい環境で身につけたスキルを使ってもっと稼げる人になれる可能性もあります。
ですから、年収については長期的な目線で考えた方がいい。将来への投資だと考えて、「やりがい」「成長」重視の転職をしても問題ないと思います。
30代になると「家族のために稼がなければ」など、背負うものが増えてしまう人もいますよね。
自分のために思い切って挑戦できるのは、20代の特権とも言えますよ。
ーーだからこそ、20代で成長実感とやりがいを持って働ける環境に出会うのがカギなのですね。
はい。それでも、転職して環境を変えることに二の足を踏んでしまう人もいるかもしれません。
その人たちにも、成長のチャンスを自発的につかみにいく大切さをぜひ伝えたいですね。
日頃からアンテナを立てて情報収集して、勉強会やビジネススクールの体験会などに参加してみるのもおすすめですよ。
自分に刺激を与えてくれるような、成長意欲の高い仲間と知り合えるきっかけにもなります。
最近は「キャリア自律」という言葉がよく使われるようになりましたが、自分自身の成長やキャリア開発は会社ではなく、個人が行うべきという時代を迎えています。
成長できる環境に自ら飛び込んで、ビジネスパーソンとしてのスキルを磨くことで、どこでも活躍できる人材になる。
それが、これから先も長く働き続けていきたい女性たちの「キャリア不安」の解消にもつながると思います。
取材/栗原千明 文/柴田捺美(ともに編集部)