19 FEB/2015

育児や介護の制約で労働市場から抜け落ちてしまう女性たちを救いたい/株式会社Waris

「妊活休暇」の申請は年間約200件!“障害の排除”が人事が果たすべき使命/株式会社サイバーエージェント

世界の先進国と比べ、“女性が働きにくい国”と言われることも少なくない日本。しかし、そんな現状を変えようと、奮闘している経営者たちがいる。彼らは今、どんな問題意識を持ち、どんな働き方改革を進めているのだろうか。そして、その改革を推進する背景にある、人が働くということへの想いとは――?
1人目に紹介するのは、株式会社Waris 代表取締役の田中美和さん。約11年にわたって女性誌の記者を務め、3万人を超える働く女性たちの本音に触れてきた田中さん。自ら起業をして、業務委託などのフレキシブルに働ける仕事をワーキングマザーに紹介する事業を友人たちと立ち上げ、日本の女性たちの働き方改革を推進しようと奮闘している。

「両立不安」を感じる女性たちの存在がキャリアチェンジのきっかけに

Waris

株式会社Waris 代表取締役/Co-Founder 米国CCE,Inc.認定GCDF-Japan キャリアカウンセラー 田中美和さん

1978年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、2001年に日経ホーム出版社(現 日経BP社)入社。女性が自分らしく前向きに働き続けるためのサポートを行うべく12年退職。フリーランスのライター・キャリアカウンセラーとしての活動を経て13年株式会社Waris設立。著書に『普通の会社員がフリーランスで稼ぐ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある

日本はまだまだ働く女性が生きにくい社会だ――それが、田中さんが記者時代に痛感した現実だった。連日連夜、働く女性たちの迷いや不安に耳を傾ける日々。多くの女性たちが家庭と仕事の両立に悩んでいた。時間や場所という制約の前に働く意欲と可能性を阻まれている女性たちをもっと直接サポートできたら。そんな想いに突き動かされ、記者として働きながらキャリアカウンセラーの資格を取得。一念発起し、会社を辞めてフリーランスに転じた。

「フリーランスのころは、企業と業務委託契約を結んで執筆やカウンセリングの仕事をしていました。とはいえ、ライターと違ってキャリアカウンセラーは未経験の仕事。なかなかお仕事をいただくチャンスもなく苦戦していたんです」

そこで実感したのが“プラットフォーム”の重要性だった。たとえ人脈はなくとも、優秀な能力を持ったフリーランスの人材に仕事を紹介する場があれば、働き方はもっと自由になる。その確信が、田中さんにWaris立ち上げのヒントを与えた。

「フリーランスをやってみて思ったのは、フリーランスって女性にピッタリの働き方だということ。時間も場所も自由度が高いから、育児や介護を抱えていて、ある程度時間や場所に制限のある方でも、スキルと意欲さえあれば力を発揮できるチャンスがある。記者時代に私がずっと見聞きしていた働く女性たちの課題を解決する糸口が見えた気がしたんです」

今の時代に必要なのは「サステナブルな働き方」

そこで、田中さんは二人の共同経営者と共に、起業を決意。自分らしくイキイキと働き続けたいワーキングマザーと、優秀な人材を効果的に活用したい企業のマッチングサービスを開始した。ITエンジニアやクリエーターなどの専門職だけでなく、営業や広報、マーケティング・人事など文系総合職に広げることで、ハイキャリアの女性たちに多様な選択肢を提供している。

「起業した当初は、『働きたいけど働けない』女性たちに活躍の場を紹介したいという想いだけがすごく強かったんです。でも、蓋を開けてみると、世の中にはそういう女性たちと出会いたい企業が数多く存在しているということも分かってきました」

また、事業を始めて1年が経ったころには、仕事に復帰した女性たちから「また働くことができて、人生が変わった」という声をダイレクトにもらえる機会も増えていた。

「私が目指したい世界は、どのようなライフステージであっても一人一人が能力を活かして働き続けられる社会。たとえ優秀でも時間や場所の制約が生まれることで労働市場から抜け落ちてしまう方がいるのが今の現実です。そこでまず時間や場所に縛られない自由なワークスタイルを広めていきたいと思っています。

年金支給開始年齢が引き上げられ、70歳ぐらいまで働き続けなければいけない可能性があると言われるこの時代。重要なのは、サステナブル(持続可能)な働き方の実現です。育児や介護を抱えて無理して働いて、体を壊してしまうなんて悲しいですよね。だから、人生の各フェーズごとに最適なワークスタイルを選び取れる社会をつくっていくために、私は当社の事業をもっと大きくしていきたいと考えています」

仕事をすることは、生きることそのもの

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経営者として自らサービスを育てることは、「働く意味」を見つめ直すきっかけにもなった。

「より自分の生きがいと仕事が強くクロスするようになった感覚はありますね。仕事を探している女性たちも、働く目的って必ずしもお金だけじゃないんです。お金はもちろん重要なんですけど、より自分らしく生きたいとか、働くことで社会に貢献したいとか、あるいは働く自分の姿を娘に見せたいとか。皆さん、そういうことをおっしゃるんです」

田中さん自身も「働くとは何か」と問われれば「生きること」と、まっすぐ前を見据える。

「生きる喜びにつながっていますよね。人から感謝をされるとうれしいし、感謝されればされるほどそれにお応えしたいという想いが強くなる。この、仕事を通じて得られる前向きな原動力が自分から無くなってしまったら、生きがいそのものがなくなってしまうように感じます」

田中さんは「働きたいけど、制約があって働けない」という女性たちと向き合いながら、日々働く意味を追求し、サービスを進化させていく。

国土交通省の調査によると、在宅型テレワーカーの割合は労働者人口のうち11.1%。この数値をもっと引き上げるべく、“制約人材”のフレキシブルな働き方を受け入れる企業を増やしてくことが、田中さんのこれからの使命だ。

「技術的な問題だけで言えば、世の中の仕事の多くは場所も時間も問わずできるようになっています。実際、弊社にも営業やアシスタント、経理などがいますが、基本的にはみんなリモート。出社は必須ではありません。もっと働き方にフレキシビティーが加われば、活躍できる人も増えるし、企業も優秀な人材にリーチしやすくなります。女性たちが、生涯を通じて働く喜びを感じられる世の中を、ここからつくっていきたいと思います」

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太