広瀬アリス「逃げ道はあっていい」自分と向き合う時間を過ごして気付いた“心の余裕”の大切さ
日々の暮らしの中で、ちょっとしたチャレンジをすること。それが、Woman typeが提案する「Another Action」。今をときめく女性たちへのインタビューから、挑戦の種を見つけよう!

完璧にできなくても、その経験は必ず次の仕事に生きるはず。
背筋を伸ばし、落ち着いた声で広瀬アリスさんは語る。少女と大人の女性の間で揺れ動いていた時期を抜け、28歳になった彼女。
周囲を照らす無邪気な笑顔はそのままに、経験を重ねた大人ならではの揺るぎなさもしっかり感じさせる。
そんな広瀬さんは、2023年7月21日に公開される『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』で、前作に引き続きホワイト・ウィドウ役の日本語版吹替に挑戦。
前作の公開から5年、俳優として着実に実績を重ねる彼女だが、今回の続投には、前作とは違うプレッシャーがあったという。今回の挑戦をどのように乗り越えたのだろうか。
「今度こそ」吐息の一つまで役を研究、大人の女性を演じきる

トム・クルーズ主演で1996年に第1作が公開されたアメリカのアクション・スパイ映画『ミッション:インポッシブル』シリーズ。
全世界に熱烈なファンを持つ同シリーズは、今作『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』で7作目を迎える。
前作『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』でミステリアスな武器仲買人ホワイト・ウィドウの吹き替えを演じた広瀬アリスさん。5年ぶりの新作では、同じ役の吹き替えに挑戦した。

同じ役を演じられることは光栄だと語る一方、「プレッシャーは並大抵ではなかった」と表情を引き締める。
5年ぶりに同じ役を演じるからには、前作からの成長を見せなければと、何度も練習を重ねて収録に臨みました。
世界中から愛される偉大な作品での続投なので、プレッシャーも大きかったですね。
5年前にホワイト・ウィドウの吹き替えに挑戦した時はまだ23歳と若く、「大人の女性を演じきることが難しかった」と当時を振り返る。

スタッフさんから「もっと大人っぽく」って言われて、何度も撮り直しました。
ただ、当時は自分自身も若くて、吹き替えの経験もほとんどなくて、なかなか満足いく出来にはならなかったんですよね。
だから、今度こそーー。広瀬さんは収録前から何度も練習を重ねたという。
映像を見て、ウィドウがどこで息を吸っているのか、何秒から話し始めて何秒で終わるのかを台本にとにかく書き込んでいきました。
台本と映像を見比べながら、声の出し方や演じ方を事前に考えて。
自分より年上の女性を演じるうえで、声の質や話すスピードなども研究しましたね。
吐息一つ一つ、コンマ何秒の繊細な表現。ウィドウ役のヴァネッサ・カービーと呼吸を合わせ、同化するように神経を研ぎ澄ませた。

改めて、声だけで演技をする難しさを思い知りました。
もちろん十分ではないけれど、前作を観た方には成長を感じていただきたいし、初めて観る方には、いっそ「広瀬アリス」だって分からないくらいがちょうどいい。
エンドロールで「あ、ホワイト・ウィドウの声は広瀬アリスだったんだ」って初めて分かるくらいが理想です。
もっといい仕事をするために「後ろは振り向かない」

前作で吹き替えを演じた時には、自分のふがいなさに落ち込むことも多かったと明かす広瀬さん。今回もプレッシャーは感じたものの、前回とは仕事に対する向き合い方が変わったという。
いい仕事をするためには、後ろを振り向かないこと。開き直りも大切ですよね。
俳優の仕事に限った話ではないですが、仕事ってどうしても人からの評価が付きまとうものだと思うんです。
それで人から低い評価を受けて「恥ずかしい」っていう気持ちにとらわれるよりは、開き直って、自分が今出せる全力を出す方がいい。
そして、全力を出したら後ろはもう振り返らない。
人からの評価よりも、「自分の気付き」を大切にして、同じ失敗を繰り返さないことが大事かなって思うんです。
そう考えるようになってからはだいぶ気持ちが楽になりましたし、一つ一つの仕事に真っすぐ向き合えるようになりました。

かつては仕事に対してストイックで、寝食を忘れて没頭していた広瀬さん。自分にブレーキをかけたことで、仕事や自分自身の生き方に対する考え方にも変化があった。
いろいろな仕事をさせていただくうちに、自然と新しいものを吸収できていることに気付きました。だから、変に焦る必要はないんですよね。
うまくいっても、失敗しても、何かを学んでちゃんと次の現場で生かす。
それを続けていれば、その先の新しい自分になれる。今はそう感じられるようになりました。
以前は人からの評価に落ち込み、「あの時、もっとこうすればよかったのに」と後悔することも多かった。
しかし、立ち止まって自分を見つめ直した1年間が、彼女らしさを取り戻すきっかけになった。
高い目標を掲げて無理してそこに向かっていくよりも、今目の前にある仕事を一つ一つ楽しんで、自分らしく成長できたらいい。
そういう考え方の方が自分に合っていると気付きました。
他の人からの評価を気にしすぎたり、キャリアに焦ったりすることを辞めたら、だいぶ毎日を楽しみながら仕事ができるようになりましたね。
「心の余裕」が新しいチャレンジを生む

人生の節目を迎え、焦りを感じる女性も多い20代後半を、広瀬さんは「最も心地の良い年代」だと語る。
20代後半というと、自分の成長が鈍化しているような感覚に陥ってしまう方も多いのではないでしょうか。
でも私は、仕事でもプライベートでも自分のペースやルーティンができて、一番心地良くなる年代だと思うんです。
以前は仕事に夢中で、「努力と根性で自分を追い込んでいた」と振り返る。
今、仕事を続けていくうえで大切にしていることを改めて聞くと、意外な答えが返ってきた。
いつでも辞めていいんだって、思うことかな。私自身、この仕事がすべてじゃないって思えたら、心がすっと楽になりました。
逃げることは悪いことじゃない。忍耐なんかいらない。
自分で「逃げ道」をつくっておくことで心の余裕が生まれんです。

08年のデビューから15年、広瀬さんは今でも新しいことにチャレンジするのは苦手だと語る。
それでも一歩踏み出すために「頑張りすぎる自分」を手放すことで、挑戦するための余裕を生み出した。
なりたい自分を描きすぎると、現実とのギャップにストレスを感じてしまう。
だから、自分に対する過度な期待をいい意味で捨てて、毎日を楽しむこと、自分の気持ちを大切にすることを優先しています。
そうすると自然に心に余裕ができて、仕事も頑張れるし、挑戦しようと思えるようになりました。
頑張りすぎないこと、完璧を求めすぎないこと。仕事100%で走り続けた日々を経て、時には周囲の人に自分のペースを理解してもらう「図々しさ」も必要だと気付いた。
私は飲み込みが遅いので、新しいことにチャレンジすると、人より時間がかかってしまうんです。
でも、そんなときは「頑張って覚えるから、ちょっと待っていてくださいね」って言って、自分のペースをちゃんと伝えればいいんですよね。
常に眉をしかめて、「完璧な作品にしなければ」「もっと高みを目指さなければ」と自分を追い込んでいた。
「それが結果的に、自分の視野を狭めて新しい挑戦に対して二の足を踏ませる原因となっていたと思う」と広瀬さんは言う。
理想の自分を手放した今、彼女の声は以前より柔らかく、表現も豊かだ。
新しいことに挑戦して、最初から完璧にできる人なんていませんよね。
でも、チャレンジした経験はいつかまた別の現場で生きるはず。
経験値って、上がることはあっても下がることは絶対にありませんから。

作品情報
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』2023年7月21日全国公開
監督・脚本:クリストファー・マッカリー(『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』、『~/フォールアウト』)
出演:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴァネッサ・カービー、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフ、 ヘンリー・ツェーニー
配給:東和ピクチャーズ
©2023 PARAMOUNT PICTURES.
文/宮崎まきこ 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)取材・構成/栗原千明(編集部)
『Another Action Starter』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/anotheraction/をクリック