社会人2年目女性が“一時的に仕事を辞める”キャリアブレイクを経験して気付いたこと「大切だと思っていたことは、どうでもいいことだった」
新しいことを始める以上に、ずっと続けてきたことを辞めることは難しい。仕事、習慣、思考のクセ……何かを辞めて手放すことで「自分らしく働く」を見つけた女性たちの軌跡と変化を紹介します!
会社に入って仕事をしていると、1週間のうち大部分は働くのが当たり前になる。
では、その「当たり前」を辞めたら?
最近では、キャリアの一時的な中断を肯定的に捉える「キャリアブレイク」という考え方が注目されつつあるが、それによって個人にはどのような変化が生じるのだろう。
社会人2年目に新卒入社した会社を退職し、約半年間のキャリアブレイクを経験した清水さんに、体験談を聞いた。
何をしたいか分からず、まずは「仕事を辞める」を選んだ
私は新卒で人材系のベンチャー企業に入社し、約1年半、転職エージェントの仕事をしていました。
採用をしたい企業に対する営業と、求職者へのキャリアドバイザーの両面を担当し、数字の目標を追いながら、求職者の転職支援を行うのが当時の私の役割です。
仕事はとても濃密で、やりがいもあって充実していました。ただその一方で、2年目になった頃から「この生活がいつまで続くんだろう」と思うようにもなって。
土日も含めて忙しく過ごしていて、とにかく余裕がなかったんです。そんな現状と、なんとなく描いている自分の人生が、つながらない感じがしていました。
理想の人生のイメージが明確にあったわけではないけれど、「このまま続けるのは違う」という漠然とした違和感があったんです。
そうやってモヤモヤを抱えながら働き続ける中、具体的な出来事があったわけではないのですが、ある日「今だ」というタイミングが降りてきて。
それまでは仕事が大変だから辞めたいのかなって思っていたけれど、その時は「次に進みたい」と思ったんですよね。当時の仕事で得たかったことが、ある程度満たされたというか。
自分の中で腑に落ちた感覚があって、今なら会社を辞める決断ができるなって思えた。それで、次の転職先も決めずに会社を辞めました。
キャリアアドバイザーとしては「転職先を決めてから退職した方がいい」とアドバイスしていたけれど、当時の私は気持ち的に、仕事を続けながら転職活動をすることができそうになかったんです。
それに、自分が何をしたいかも分からなくて。だから、まずは「仕事を辞める」ことを選びました。
「これだ!」と思った、キャリアブレイクとの出会い
退職直後は「何かやらなければダメだ」という気持ちもあって、すぐに女性向けキャリアスクール『SHElikes』に入りました。
そこでキャリアブレイクを提唱している『おかゆホテル』を運営する北野さんのアーカイブ動画を見て、「これだ!」って。
キャリアブレイクは、離職期間を肯定的に捉える考え方。そういう概念があり、かつ無職やフリーターではなく「キャリアブレイク」という名前があることを知って、自分の状況に安心できたんです。
そこで早速おかゆホテルのイベントに参加したら、同じくキャリアブレイク中の人が5人ほどいて。
3時間ほど話すだけなんですけど、働きたくないといった後ろ向きな考えではなく、「自分の人生を良くしていきたいから辞めた」というポジティブな思いをそれぞれが持っていたことで、なんだか元気になりました。
私も休みたいというよりは、むしろいろいろやってみたい思いがあったんです。
だからキャリアブレイク中は、ゲストハウスで住み込みのスタッフをやりながら、夜はバーのアルバイトをしていました。どちらも1回やってみたかったけど、やっていなかったことです。
そうやって週3〜4日、失業保険をもらえる範囲内で働いて、他の時間はスキルアップ系の講座を受けたり、趣味のカメラを生かしてイベントのカメラマンをやってみたり。
あとは、おかゆホテルで知り合った人から紹介してもらい、休職中の人たちとチャイを開発するプロジェクトに参加したり、ゲストハウスで出会った人とおにぎり屋さんを間借り営業したりもしました。
キャリアブレイク中の私が特にやってみたかったのが、人と一緒に何かをつくること。
前職では個人の目標を追っていたので、みんなで話し合って一つのことをつくり上げる経験はしたことがなかったんです。
これまでを振り返っても、私は一人行動が好きなタイプ。その反動もあって、次は仲間と感動を共有してみたいと考えるようになったのかなと思います。
情報に惑わされて、自分の本心が見えなくなっていた
今振り返ると、キャリアブレイクの前半は「何かやらなきゃ」っていう焦りがあったなと思います。
昔からの友達は正社員で働いているので、仕事を辞めたことを引け目に感じてしまっていたところもあって。
それに、当時はやりたいことをやっているつもりだったけど、世の中で良しとされていることをしようとしてしまっていた部分もあったと思います。
社会人になると、目的意識を持つことが求められるじゃないですか。「安定したキャリアを歩むために、このスキルを身に付けよう」みたいな情報がたくさんある。
「デザインを学べば、旅をしながら仕事ができるんじゃないか」と思ったけど、冷静に考えたらデザインの仕事がしたいわけでも、旅をする生活をしたいわけでもない、みたいな。
そうやって世の中で良しとされていることに踊らされて、自分が本当にやりたいことに気付けていなかったんです。
途中、「正社員の頃の方が気持ち的には楽だったかもしれない」と思ったこともありました。
会社では与えられた仕事をやっていればある程度充実感や成長実感が得られたけど、キャリアブレイク中はそうじゃない。
定期収入がなくなったことでお金についても考えなければいけないし、メンタル的につらい時期もありました。
でも、みんなでアイデアを出しながらチャイを作るなど、遊び感覚でやりたいことを小さくかたちにした瞬間が本当に楽しくて。
そういうことを一つ一つやりながら自分の心を見つめる中で、徐々に自分の本心に気付けるようになっていったように思います。
そこで改めて「本当にやりたいことをしよう」と考えた時に、学生時代に行った原付旅を思い出しました。私にとって心が踊ることの一つだったんです。
そのまま「何かしよう」なんて思わず、のんびり気の向くまま、1週間一人で四国を回りました。
旅に出る時のワクワク感や、美しい景色に触れる感動。心から湧き上がる感情にたくさん出会いました。
ただ、後半になるにつれ、原付で移動しながら思ったんです。「よし、働こう」って。
多分、今はのんびりしたいのではなくて、もっと頑張りたい、何かに夢中になりたい、って思ったんでしょうね。
じゃあどんな仕事がしたいのかを考えた時に、最初に頭に浮かんだのが、サービスや商品作りに携わりたいということ。
前職ではプレイヤーとして個人で売上げ目標を追う仕事だったけど、キャリアブレイク中にアイデアを形にすることや、チームで一つのものをつくる楽しさを知りました。
また、キャリアブレイク中に働いていたゲストハウスとバーは、サードプレイスのような場所。
常連さんがいたり、近所の人や海外の人たちが集まったりしていて、そこに身を置くことで自分自身が豊かになったのを感じていたんです。
だから、いつかは自分もそういう居場所をつくってみたいな、という思いも出てきました。
あとは、キャリアブレイク中にいろいろな人と接する中で、私はやっぱり人に興味があるんだなと再確認しましたね。
そうやって「サービスづくり」「場」「人」という、三つの軸に自分の興味が集約されていきました。
何がしたいか全く分からなかった頃と比べたら、方向性が絞れただけでも大きな前進です。
これまで大切だと考えていたことが、どうでもよくなった
今はカフェやレンタルスペースなどを運営する会社で、店舗にお客さんを増やすための戦略を立てるなど、まさに場づくりやサービスづくりの仕事をしています。
今振り返って思うのは、前職では自分が望む仕事と暮らしのバランスが合わなかったのだということ。
前職は稼ぎたいという意思を持った人が多い会社で、目標を達成した時の対価も大きかったのですが、成果にコミットする分、自分のことを考えるゆとりが私は持てなかった。
やりがいは感じていたし、濃くて良い時間を過ごせましたが、継続性が見えなくなってしまったのでしょうね。
今回の転職でお給料は下がったけれど、心に余裕を持てているのを感じます。
それに、半年の離職期間を経験したことで、自分が生活するのにいくら必要なのかが分かりました。そして、それが思ったほど高くないことも。
お金に関してはそのラインさえ守れればいいし、収入も1箇所だけではなく、複数から得られるようになりたいと思うようになりましたね。
というのも、どうやら私は一つのことに集中するより、複数の軸を持っていたいタイプみたいなんです。
今も本業の他に、カメラの副業をやったり、キャリアブレイク中に出会った仲間と「旅」のメディアを立ち上げたりしています。
カメラでやってみたいことも見つかったので、今は友達と実現に向けて企画しているところ。
それによってお金を稼ぐというよりは、引き続きアイデアをかたちにすることをやっていきたいと思っています。
以前よりは自分がいいなと思える人生に近づいた感じはするけど、まだまだ自分にとってベストな働き方や仕事は模索中。
そのためにも、今はいろいろなことができる余裕が欲しいのでしょうね。
理想の人生も、少しだけはっきりしてきました。それは、周りが良しとしていることにとらわれずに生きていくこと。
前職ではキャリアアップの転職をサポートしていて、それはそれで素晴らしいけれど、私にはもっと迷う時間と、自身の本当の心の声に耳を傾ける時間が必要なんだと気付きました。
それに、きれいなキャリアが全てではないんですよね。
キャリアブレイク中、同じような仕事を離れている人や、フリーターをしながら夢を追いかけている人など、会社では出会わなかったような人とたくさん接したことで、世界が広がった気がします。
その結果、これまで大切だと考えていたことが、どうでもよくなった。
この先も「こうあるべき」にとらわれなければ、仕事がうまくいかないことがあったとしても、「選択肢はいっぱいあるやん」って思える気がします。
そして、長く頑張るためには、頑張りすぎるだけじゃだめなんだと知りました。
東京や大阪などの大都市にいると、みんなが急いでいて、あっという間に日々が過ぎていくというか。
ガッと頑張って、そのまま燃え尽きてしまう人も多いように思っていて。
だからこそ、小休止の必要性と、その効果の絶大さを感じます。
会社辞めるといった大きいことでなくとも、意思を持って週末を怠惰に過ごすなど、小さなブレイクはできる。
仕事を頑張るためにも、仕事を離れる時間を大切にしたいですね。
取材・文・編集/天野夏海 写真/ご本人提供
『働く女の辞めドキ』の過去記事一覧はこちら
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